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神殺しの解放者《リベレイター》  作者: 炎の人
一章・叛逆の物語《プレリュード》
15/27

VS秩序の神スケール

「さぁ死んでください」


 黒い鎌が文字通り黒光りを放ちながら放たれる。リーチの長い武器を前に俺はバックステップしながらのスウェーで何とか回避に成功する。その体勢のままに跳びずさりながら銃を構えて連射した。しかし、そのどれもが鎌の柄で全て弾かれ、いなされてしまう。俺は驚きのあまり声を荒げる。


「なっ!? どんな動体視力してんだよ」

「甘い甘い甘いよ桐生。それじゃあ僕は愚か他の神も倒せないよ?」


 耳元で囁かれる声、迫り来る死神の鎌。どっと溢れ出す冷や汗を感じながらどうにか割り込ませる事ができた剣で受け止める。


 ギィィィィィィィン!


 そんな甲高い音がなり、俺の姿勢が横へと回転するように崩れる。次の瞬間には逆側から鎌の一撃が来ていた。それもまた剣で防ぐも、またも体勢を崩されてしまう。後ろへと飛ばされながら俺は嘲笑を浮かべるスケールへと銃撃を放つも悉くが防がれてしまう。圧倒的。そんな言葉が頭に過ぎり、俺の精神を焦がしていく。


「そろそろ出番だよ夜影」

「っ! ぐわぁぁあ!」


 スケールの言葉が発せられた瞬間、左腕が切り落とされてしまった。落ちる左腕を端に収めながら左側を見るとそこには黒い影の猫がいた。俺を見つめる瞳すらも真っ黒なその猫はスケールの足元へと行ったかと思うとすりすりと体を擦り付けていた。


「猫なんか飼ってやがったのか」

「今さっき生み出したものさ。ここは精神世界だよ? 何でも生み出す事ができる」

「へぇ~。そりゃあいいこと聞いた。じゃあこういうこともできるよな?」


 俺の言葉に反応してこちらを見るスケールの前で俺は落ちた左腕を操り、元にあった場所へとくっつける事に成功する。一か八かの賭けだったがどうにでもなるものだ。思わず溜め息が漏れるのも仕方がないというものだ。

 目を見開いて驚くスケールに嫌みたっぷりに唇を釣り上げ、更に追加の手品マジックを見せてやる事にする。何でもありなら日本人の方が手が多いことを証明してやる。


「さぁ始まりの音を鳴り響かせろ。ジャッジメント」


 俺の精神世界は俺が一番有利な場所だ。レベルの差は関係なく、ただ俺に有利に左右するようにできている。俺の世界であるのであれば俺の思い通りにできるのは必然であった。だが、スケールは予想していなかったのだろう。神の御技に近しい創造を行えるなど思い至ってなかったのだ。日本人の妄想力を舐めた結果が目の前に現れる。

 無数に宙に浮く魔鋼拳銃ジャッジメント。無骨な鋼色はイカしていて俺は気に入っている。俺はスケールへと銃口を合わせると言う。


「蜂の巣穴になってみるのも楽しいと思うぜ?」

「君では僕には勝てない。何故なら君はまだレベルが25だからだ。それに対して僕のレベルは999。ステータスも4桁を越えて1万代へと至っている。僕が負ける道理はないんだよ桐生」

「御託は俺の首を取ってからにしろ」


 引き金を引いた。

 宙に浮く魔鋼拳銃ジャッジメントもそれに合わせて引き金が引かれる。百を越える銃を前に余裕綽々と立つスケールが苛立たしい。そんな思いも一つも通らない弾薬を前にして弾け飛んでしまう。やはり、効かないのだ。ここに来てレベル差が如実に力の上下を決める枷になるとは思わなかった。俺は苦汁をなめたような顔になっている事だろう。それを見たスケールが嗤う。


「アッハハハハハハ! いいよ、いいねぇ! その表情。僕は人間が絶望する様が好きなんだ。でも、これでも秩序を司ってるから迂闊なことができなくて困っていたんだ。君は迷惑だったけど、感謝しているんだよ? 僕の玩具になってくれて。アッハハハハハハ!」

「てめぇ」


 剣と銃を交互に使いながら攻めるもスケールは足一歩すら動かない。貧弱なステータスに縛られた俺はスケールには勝てない。その事実が俺の中で現実化していく。対抗手段がないのだ。

 そんな俺の心情を知ってかスケールは鎌での突撃を敢行する。鎌捌きは華麗に、流麗に行われながら俺の首を刈り取るコースを進んでいく。それを地面に倒れることで避けることができたが上から降る猫にまでは対応しきれなかった。鳩尾に舞い降りる猫。重力も相まって空気が肺から押し出されていく。肋骨が折れ、肺が破れた。


「がっは!」

「フィナーレだ桐生」


 苛立つほどに綺麗な太刀筋を持って俺の首を刈り取るコースを再び巡る。走馬燈のようにそれらが見える時間が遅くなっていく。自分の死が長引く現状に不満を持ちながらでも俺はどこかで諦めてなかった。

 まだだ。まだ俺はやり残したことがある。それをやり終えるまでは死にたくない。

 そんな想いを胸に抱きながら強くたった一人の存在を想った。


(桜……!)


「なっ! これは一体!」


 だからなのかは知らないが奇跡が舞い降りた。突如として俺の体から溢れ出す光。その光を警戒して下がったスケールは鎌を油断なく構えながら様子を伺っている。俺は自らに宿る白い光の正体に驚きながらも立ち上がる。そこには純粋な想いが宿っていた。他でもない桜の想いが。

 俺のことを心配し、好きだと、愛しているという気持ちが奇跡を起こさせた。俺の体は戦う前の状態に戻り、更に身体能力が大幅に増した。全能感が体を支配し、心を満たしてくれる。桜が新たな固有スキルに進化させた。それはその証である。そう、俺の心に桜の言葉が響いてくる。


『桐生を絶対に助ける!』


 その想いの籠もった言葉と共に俺に力を与えたのだ。この光を見てスケールは狼狽し、声を荒げる。まるでお化けが怖い子供のように顔を蒼白に染め、体を振るわせている。俺は治った体に鞭を打ち、立ち上がる。いくら治っても精神的には辛いのに変わりはない。だが、今はこの力がここにある。桜の想いがある限り倒れるわけにはいかない。


「何なんだその光は!」

「さぁ限界を超える時が来た。限界の解放(リミット・リベレイト)!」


 更に力が増していく感覚に俺は笑みを浮かべる。俺に齎されたのは万全な体だけではない。桜の能力値の全てだ。レベル278の能力値が俺に神をも越える力を与えてくれた。その力を俺自身のスキルで更に二倍へと増やし、押し上げる。もうこれで俺は負けることはない。桜の想いを受け取ったのだ。負けることなど許されるはずもない。今ならば世界を相手にしても負ける気がしない。


「馬鹿な! あり得ん! 能力値全てが10万越えだと!? 一体どこからそんな力が」

「なぁスケール。いい加減その芝居やめたらどうだ? 俺は知ってるぞ」


 ここは俺の精神世界だ。ここにいる者のことなら何でも分かる。それが例え、異物で異分子と言われる存在のことであってもだ。例えば、スケールが善意の固まりの現人神であることとか、これが計画の内の一つだとか。

 俺の言葉に苦笑を浮かべるスケールは次の瞬間、晴れやかな笑みを浮かべる。それは使命から解放された人の姿であった。


「何だバレていたのか。何だか拍子抜けだなぁ。いつからバレてたんだい?」

「ついさっきだ馬鹿野郎。死にたがり目が。そんなに死にたいならもっと早く俺の前に現れていたら良かったんだ。わざわざ回りくどい敵役まで引き受けやがって」

「ははは。でも、これで神の力がいかに強力か分かっただろ? 他の三人は僕よりもずっと強い。外に出るならこの経験は役に立つはずだ」

「ああ、分かってる。神を殺せばいいんだな? 後は任せろスケール」

「うん。後は頼んだよ、桐生。君は本当の最後の勇者(ラスト・ブレイブ)になれる男だ。神を倒して世界に平和を齎してくれ。それだけが僕の願い。人は元々自分達だけで生きていける生き物だ。僕達神はただ見守るだけでいい。それが本来の神在り方なのだから」


 スケールは望んで神になった訳ではなかった。成り行き上仕方なく、神になり、数百年の間中ずっと抗う為に準備を続けてきた。それは塔の破壊であり、それを為すための塔の軛となっている自らの死である。神になり、不老の体を得たスケールは簡単には死ねない。死ぬには俺のような存在であるこの世界に現れる勇者イレギュラーの存在が必要であった。

 長い時を経て、準備は整った。この塔を壊せば神は動かざるを得なくなる。世界各地に魔物が現れるのだ。いくら力を振るって支配者として君臨していたとしても、人の信仰を糧に生きる他の神達にとって人々は守らなければならない存在。何故なら自分の力の源のなのだから。

 スケールは塔の破壊と共に人が自らの手で生き抜いていくことを願った。下手をすれば絶滅も有り得た。だが、スケールは絶滅しない方に賭けた。異世界から来る勇者という存在が世界の魔物を倒してくれる駒として動いてくれることを願って。

 そして、今日それが果たされる。他ならぬ俺の手によって未来が切り開かれる。俺が切り開く未来が明るくなるも、暗くなるも俺次第の大博打。この世を支配する神を退けるお仕事を押し付ける気なのだ。この死にたがりは。

 スケールはその身を捧げて実行する。自らの死を計画の要に発動する。愚かなる人が愚かな神へと反逆する物語プレリュード。これは神々へ反逆するための第一矢となる。


「終わりだ」

「さよなら」


 言葉はもういらなかった。全て俺が読みとったから。そして、スケールは全て俺に託して逝った。

 スケールの死と共に精神世界が崩壊していく。俺の意識が浮上した為に一時的に崩れ去っているのだ。俺は浮上する意識に身を任せて眠りに付くことにした。桜への想いを募らせながら。


『サプライズを用意したから受け取ってくれたまえ、桐生』


 眠りに落ちる途中に誰かの声がしたが眠りには抗うことはできなかった。

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