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神殺しの解放者《リベレイター》  作者: 炎の人
一章・叛逆の物語《プレリュード》
13/27

秋花桐生の思い出

 桐生にはマリア・アーキスという女の子の学友がいた。モデルのようにすらりと伸びた背に引き締まった体。更に出るとこは出て、引っ込む所は引っ込んでいる。パーフェクトスタイルとはまさにこのことだ。金髪を長く伸ばしたそれはとても綺麗で誰もが褒め称える。それがマリア・アーキスという女の子だった。

 同じ学年の同級生で学校に舞い降りた天使と呼ばれる彼女はまさに天使の名に相応しい笑顔をもって周りを魅了していた。男も女も虜にする天性の魅力は天真爛漫な笑みを浮かべるマリアにとって当たり前の世界であった。

 そんな世界をぶち壊したのが桐生だった。最初にあった時は挨拶をしただけであった。その事に大層驚いたマリアは桐生に話し掛けた。たわいもない話題をふっかけてただ話をする。桐生はいい迷惑だと思いながらも仕方なく、付き合ってやっていた。断れば、周りの目がきつくなるのは目に見えていたからだ。学校に舞い降りた天使の二つ名は伊達ではない。最も話しているだけでも目はきつくなるのだがそれはもう諦めるしかなかった。

 そんな奇妙な関係が三ヶ月続いた頃のとある放課後、不意にマリアが聞いてきた。三ヶ月も経てば流石に名前で呼び合う仲にはなる。前々から疑問に思ってたんだけど、とマリアは言う。


「桐生はマリアのこと何とも思ってないの?」


 その疑問はマリアにとって重要なものであった。大抵の人は行為を向けてくれる。ただ笑顔でいれば皆が笑ってくれる。なのに、桐生ただ一人が挨拶を返してきただけで何も興味を示さなかった。その美貌に見惚れることも、その肢体に目を及ばすこともなかったのだ。だから、聞いてみた。それだけが知りたくて話しかけていたと言っても過言ではなかったから。

 しかし、帰ってきたのはマリアにとって至極不服な答えであった。


「思っていない。ただのクラスメイトだ。それ以外に何かあるのか?」


 この時桐生の心臓はばくばく言っていた。素っ気なく答えた桐生ではあったが実はマリアに一目惚れしている一人である。しかし、周りにはクラスメイトがいた事を慮ってそう無難に答えた。

 だが、桐生にはもう一つの答えがあった。綺麗な金髪を撫でたい、その柔らかそうな肉体を貪りたい、その心を自分だけのものにしたい。そんな子供のような浅はかな欲望に掻き立てられた自分を恥じたからだ。

 桐生は己の高鳴る心臓を悟られまいとしてその場で席を立ち、帰ることにした。


§§§


「なんだこれは? いや、俺の記憶なのか」


 そんな疑問符を上げて俺は何となく悟った。自分の過去を追憶しているのだと。その存在は夢の中でありながら、とてつもない存在感を示していた。

 長く綺麗な金髪は風に靡き、後ろへと流れていく。整った西洋人の顔は綺麗で笑うととても可愛い。スタイルもよく、いわゆるボンキュッボンの三拍子が揃った肢体は魅力的であった。


「綺麗。そう、綺麗だ。桜と同じくらいに」


 比較できない。今の俺はどちらが好きなのか分からない。いや、どうして好きを比べたんだ?


 ああ、また夢が始まる。さっきの続きかな?


§§§


 教室を出た桐生はカバンを持ったまま、自分が持った欲望について考えていた。青少年なら誰もが持つ真っ当な物ではなく、もっとどろどろとした情欲に溺れた感情に恐怖した。己の中に潜む欲望は何をするか分からないのだ。怖くて仕方なかった。だから、マリアと話す度に桐生はその恐怖と向き合わされる気持ちになり、とても辛かった。しかし、マリアと話すのはそれほど悪い気分ではなかった。好きな人と話すのが嫌いな人はいない。

 教室から出て下駄箱に来た桐生は靴を吐いて家に向かって歩いていく。いつも通りの時刻にバスに乗った桐生は終点まで時間があるために眠ることにした。


「ん、もう着いたのか」


 起きた時には既に終点に着いており、そこから降りて自分の家に向かう。毎回、終点に着くまで寝ては起こされていたのだが最終便であることもあって放置される様になった。

 家へと戻ると玄関には灯りが着いており、鍵を開けて中に入ると白色の女性の履き物があった。誰か来客でも来たのかと思いながら桐生はリビングへと向かう。ドアを開けて中に入るとそこには自分の母とマリア・アーキスが楽しく会話していた。


「でね、桐生ったら買い物に行かずに寝たのよ? 酷いでしょ?」

「まぁ酷い。あ、桐生お帰りなさい」

「あら、あんた帰ってきてたの。こんな可愛い子待たせるんじゃないよ。ほら、マリアちゃん、こいつの部屋に行きな」

「え? でも……」

「こう言うのは勢いが大事なんだよ。ほら」


 何だか不穏な気配を自分の母から感じつつも母に逆らえるほど偉くもなかった桐生は仕方なく、自分の部屋へとマリアを案内した。後ろから緊張しているマリアの気配が痛いほど伝わってくるのが妙にくすぐったかった。

 桐生の部屋はとても質素だ。本棚とベット、勉強机にクローゼット。たったこれだけしかない。そんな質素な部屋に入ってマリアを出迎えた桐生は早速マリアに問いただした。


「何でここにいるんだよ。俺の方が先に出たはずだろ?」

「それは乙女の秘密だよ、桐生」

「はぁ……もういいや。飽きたら帰れよ」

「嫌だよ。今日は桐生の家に泊まるって言ってきたから」

「はぁ!? 何というか決断早すぎないか?」

「でも、桐生が悪いんだよ? まだ聞きたいことあっのに先に帰っちゃうんだから」

「そりゃあ悪かったよ」


 そうぶっきらぼうに答えた桐生はベットに横になり、目を瞑る。


「悪い、疲れたから寝るわ」

「うん。お休み桐生」


 ばくばくと高鳴る心臓を前に俺は疲れた意識を闇へと落とした。


 次に桐生が起きた時には電気が消されており、真っ暗だった。自分の息遣いと誰かの息遣いが聞こえてくる。桐生はその息遣いの正体と目があってハッと息を飲んだ。

 綺麗で美しいマリアは今は妖艶でどこか艶めかしさを伴ったマリアへと変貌をしていた。その瞳はまっすぐに桐生を捉えており、逸らそうとしても逸らせない魔力が籠もっている気がした。

 桐生の枯れた声が紡がれる。


「何を、してる、んだ?」

「…………………………」


 マリアは答えず、ただひたすら熱い視線が送られてくるのみ。ほんの少し密着しているせいで形がよく分かる柔らかい胸を感じて俺の中にある欲望が跳ね上がった。

 浅はかで低俗で下劣な感情が湧き上がり、どうしても我慢ができなくなってきた。情欲に簡単に支配される己が情けなくて仕方なかった。そんな桐生の抵抗を決壊をさせるような言葉をマリアが呟いた。


「我慢しなくていいんだよ? マリアは桐生のこと、好きだから」


 熱い瞳で、やけに色っぽいその笑みで、そうマリアが言った。唇と唇が重なり、自分の体に熱が灯るのが分かった。己の中の火はいっそうに燃え上がり、勢いを増していく。マリアの熱い吐息が頬を掠める。とろんと蕩けるような瞳が桐生の情欲を更に刺激した。


「後悔するなよ」

「あんっ、んっ」


 桐生はマリアの唇を塞ぎ、胸を鷲掴みにして揉みしだいた。そこからはもう男と女の時間。桐生は狼に、マリアは女豹となった。お互いを激しく求め合い、そして愛し合った。そう、勢いに流され愛し合ってしまった。


§§§


「ふははは。これは、堪えるな。まさか、欲望に抗えなくなっている様なんかが今の俺そっくりだ」


 俺は欲望に抗えず、赴くままにマリアを犯した。いや同意していたとはいえ、あれはない。俺は盛りの付いた猿のように猛っていた。初体験は初恋の人とは運がいい。


「まぁこの後は見るまでもないな」


 この後は一週間後に急遽マリアが元の国に戻ったのだ。何故何も知らせずに戻ったのかは知らない。家の事情としか話されなかった。だが、あれだけ綺麗なマリアの事だ。きっと婚約とかそういったものに違いない。ならば、何故俺と性行為に至ったのかと問いただしたかったがその前に事故にあってお陀仏。気が付けばこの世界に来ていた、というわけだ。


「つくづく女泣かせな運命だな」


 そうマリアも桜も泣いていた。行為が終わった後、泣いていた。理由なんかは聞くことなく俺はそのまま眠りに就いた。桜は俺がおかしくなったことに泣いていた。他人を思いやれる優しい子だ。心が少し弱い子だが共にいてやればきっと立派な人間に育つはずだ。

 マリアに何も聞かなかった後悔と桜に襲い掛かった後悔。どちらも同じくらいに後悔していた。優劣はつけられない。


「って、マリアも桜も好きなのか俺。欲張りすぎだろ」


 己の気持ちに気付き、そして桜に申し訳ない気持ちになった。だが、どうしようもなく浅はかなこの想いは両者どちらかを選ぶことを拒否した。ならば、両者共に愛せばいい。そんな強欲な考えが浮かぶ。


 そんなじっくりと思考をしていた所に突如として視界が変わっていく。コロシアムのような世界に変わっていき、やがて中央にぽつりと一人の人がいた。黒いその影はまるで俺を待っていたかのようにじっと立ったままだ。俺は導かれるようにそいつの前に立ち、いつでも動けるように臨戦態勢を取った。


「待っていたよ。特異点イレギュラー。女を貪り喰らう夢は楽しかったかい?」


 淡々と告げる黒い影はそう言って唇を跳ね上げて嗤った。

 その笑みは悪意を感じさせる笑みであった。


 ズキリと頭が痛んだ気がした。


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