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神殺しの解放者《リベレイター》  作者: 炎の人
一章・叛逆の物語《プレリュード》
10/27

異常は突然に~内に潜む欲望~

 フロアボスのいる部屋からゴブリンを駆除しながら帰っていると不意に池田の叫ぶ声が聞こえてきたので走ってそちらへ向かった。すると今にもゴブリンの腕に蹂躙されそうな神山の姿が見えた。俺は溜め息を吐きながら仕方なく、己の手札を切ることにした。人の死を目の前で見ていられる玉でもないのだ。


兵装解放アーマメント・リベレイト


 静かに淡々と己の固有スキルを解放する宣言をする。異空間が目の前に開き、その中に手をつっこむ。俺が異空間引き出したのは魔鋼拳銃ジャッジメントだ。

 鋼色だけで構成された重厚な拳銃を持った俺はすぐさま狙いを付けて二発打ち込んだ。ドカンと銃特有の音を立てながら一発目でゴブリンの左足を打ち抜いてから後方に転倒させ、続いて二発目でゴブリンの脳天を貫いた。

 兵装解放アーマメント・リベレイトを覚えてからその手に持つ武器の使い方が何となく分かるようになっている。固有スキルの恩恵の一つなのだろう。そのおかげで高度な武器の使い方もできるようになっている。今やった銃で相手を転倒させるのもテクニックの一つな訳だ。

 銃を異空間へ格納した後、四人の前へと出る。四人は俺の姿を見てへたり込んだ。そんなゴブリン一匹に苦戦している四人の姿を見て俺は思わず言葉を零す。


「何やってんだお前ら?」

「お前には関係ないだろ」


 池田はそう答え、そっぽを向く。よほど俺を敵視しているようだがここまで露骨だと笑いたくなってくる。そろそろ始末してもいいかなと思わせる態度に俺はうんざりする。邪魔をするなら排除する。俺はいつまでも不確定要素を生かしておく程甘くはない。

 素っ気なくあしらうような言葉にイラッときた俺は文句を言いつけてやろうと口を開こうとしたがそれに被せるように神山が言葉を放つ。


「おま」

「ねぇ秋花くん。さっきのは銃撃だったの?」


 神山を睨み付けてから神山の意図を察して俺は池田に文句を言うのをやめて、渋々説明してやることにした。こいつが相手に感情をむき出しにするのはやめておいた方がいいと思ったからだ。


「……まぁな。わざわざ手の内を見せてやる必要もなかったんだが目の前で人が死ぬのはごめんだからな」

「それは……ありがとう」


 分かっているよ的な表情を浮かべる神山にもイラッときたがまぁあえて何も言うまい。あの顔は俺が優しい人などと勘違いをしている奴の顔だ。

 俺は決して優しい訳ではない。利用できるものは利用するし、そうしないと生きれないなら容赦なく使い捨てにする。この世界に来てから日本で持っていた道徳心など捨てた。いや、なくなったのだ。それはきっと固有スキルが関係している。妙に悟りがいいのも固有スキルをもらったせいだろうか。クラスのおかげというのもあるかもしれない。


「まぁあれだ。せっかく助かった命だ。大事に使えよ」


 俺の言葉に四人は打ちひしがれる。そんな姿を見てこれが正常な反応なのだなとそんな事を思った。

 命は一つしかない。それはどの世界でも同じであり、一つしかない命をやりくりしている。そのたった一つしかない命をどのように使うかも己で決めるしかない。たった数人しかいない世界で有効に活用しようと思うなら子供を産んで育てて数の力を利用するのが正しい。膨大な年月が掛かってしまうがその方が早い。あるいはここで死を待つのもまたいいだろう。

 四人がどのように命を使うのかはそれぞれの勝手だ。俺は何も言わないし、また目の前に死にかけたら助けるだろう。しかし、自分の命の使いどころを定めたと思ったなら放っておくことにする。

 俺も大したことは言えるほど経験を積んでいる訳ではない。むしろ未熟そのものだ。けれど、一つだけ言えることがある。俺は異常だ。そして、桜もまた異常だ。死を目の前に戦えるだけの心が備わっている。この世界に来てから植え受けられたのか、はたまた元から持っていたものなのかは分からないがそれは戦闘において如実に戦果の違いを強調させる。

 そういう意味を含めて彼らは正常であるのだ。戦闘に耐えられなくて引き籠もったとしても何も言わない。喘ぎ苦しみながら立ち上がっても軽蔑はしない。むしろ尊敬をするだろう。俺にはない普通を持っている彼らに敬意を抱くはずだ。いや、今も持っているし、羨ましい。

 願わくば彼ら彼女らが生き残れる選択をしてくれることを祈る。

 最下層フロアへ向かうと途中で不意にそんな言葉が頭に浮かんで苦笑する。


「俺らしくない、か」

「どうかしたの桐生?」

「いや、桜は可愛いなと思ってな」

「お、ようやく気付いた?」

「馬鹿、最初から気付いてるよ」

「ふふ、桐生は意外とお茶目さん?」

「勝手に言ってろ」


 たわいないやり取りができている間はまだ俺にも普通があるのだと実感することができる。それも桜がいなければ感じることすらなく、磨り減って消えてしまっていたはずだ。

 俺にも少しだけ残っている正常さを感じさせてくれる桜にいつかお礼をしよう。そんな事を思った。


 昨日の晩飯はパン一つであったが今日は定食一つへと成り変わっていた。巨大なゴブリンもといハイゴブリンというらしい魔物の魔石はギリギリオーガに匹敵するものであったらしい。具の貧しいスープ、パンに牛乳とランクアップしたようである。それでも現代日本の食事に比べれば赤子も同然であり、まだまだ満足ができない。

 食堂の机に並んで座った俺と桜はその具の貧しいスープを飲みながら言った。


「美味しくないな」

「美味しくないね」


 俺達は互いに見つめ合ってから深い溜め息を吐いた。パンもスープもうまくなく、唯一牛乳だけがまともな気がしてくる。上に行けば行くほどに食糧事情は改善していくのだろうがそれにしたって酷すぎるものだ。強さが頭打ちになれば、それ以上の食事は食べられないと宣告されているようなものなのだから。


「まぁ食べられないよりマシだけどな。この後、素材部屋ってのに行くか?」

「それは明日でいいよ。今日は疲れたし、寝よう」

「桜がいいならそれでいいけど。風呂入って寝るか」

「そうだね。風呂は個室にあるから順番だね」

「桜が俺の部屋で当たり前に暮らそうとしている件について」

「そう言えばそうかも。でも、桐生が問題ないんだし、いいよね?」


 平然と俺の部屋を占領する宣言をする桜。別にいいっちゃいいんだが俺の理性ががががががが……。

 おっと、危うく気絶しそうになった。昨日、今日で理性の制御が難しくなりすぎだ。今もそう桜の裸を思い描いて危うく昇天し掛けてしまった。わりかし、マジで俺はもうダメかもしれない。真面目な話、ガタが来ている。

 そんな俺の判断は間違っていなかった事が証明されるのは直ぐのことだった。

 部屋へと戻り、ベッドへと座った俺は桜が隣に座ったのを感じてそちらを向いた。人形のように美しい美貌が俺の心を射止め、そのくりっとした目が俺の目を離さず、女の子の甘い香りが俺の心を揺さぶった。ホムンクルスの癖にそういうところはちゃんとしているから困る。整いすぎている美貌は見る人からすると恐怖を感じさせるものがある。だが、俺にとっては愛らしく、愛おしい美貌であるが他人様にはそうは思われないかもしれない。

 不意に心の内側から何かに浸食される気配を確かに感じながら桜の瞳に吸い寄せられるように釘付けになる。


「桜……?」

「桐生はやっぱりかっこいいかも」


 そんな一言を聞いて俺は疑問符を浮かべた。俺は至って普通の男だ。それは顔もそうだし、勉学も、知識もそうだ。唯一何でもそれなりにできる器用さがあるだけの普通の男なのだ。この強さも与えられた物でしかない。本当の意味で強いとは言えない。

 桜の言葉には疑問符を上げざるを得ない。その様で女一人好きになるなんてのは面白い話だがそんな事は些細なことだ。そんな事よりも今は……オカシタイ。


「あ、れ?」

「桐生?」


 確かな異常を感じて俺は愕然とする。そして、その異常が俺の心の中を支配していく感覚に襲われていく。


 今、俺は何を思った? 


 ━━オンナヲ、オカシタイ


 俺は今、誰の前にいるんだ?


 ━━ヨクボウノ、ママニ、ウゴケ


 ダメだ。頭が朦朧とする。


 ━━ソウダ。ジュウリン、シテヤレ。ソレガ、オマエノ、イヤ、オレのシタイコトダ!


 俺の中に生まれた新しい何かが一気に俺の内側を浸食していく。

 ソレは徐々に大きくなる内なる欲望。俺の中に肥大する浅はかで、あまりにも愚かで、考えることすらおぞましい欲望が膨れ上がっていく。段々と体の制御が難しくなり、右腕が動かなくなった。いや、勝手に動いていく。その右手で桜をベッドへと押し倒してしまう。

 俺は頬から涙を流しながらそれに抵抗するが何もできないでいた。俺の低俗な感情が溢れ出して下劣で、下品で、最低な部分が剥き出しになっていく。こんなのは俺ではない。


「桐生?」

「あ、あ、ああ」


 下半身が何かに奪われ、続いて上半身もほとんど制御を奪われてしまう。涙が零れ落ちる。悲しい。俺はこんな事はしたくない。そんな想いを嘲笑うかのように俺の手は桜の服を容赦なく破り去った。


「!? き、りゅう? どうしたの?」


 羞恥に染まる桜を見て俺は怒りを膨らませる。こんな事がしたい訳じゃない。これは俺の意志ではない。だが、止められない。止まらない。もはや感情が制御はできなくなっていた。急激に効果が増大していく固有スキルである異性魅了の前に俺は意識が飲まれる前にどうにか声を張り上げた。


「にげ、ろ! 桜!」

「!?」


 その言葉に合わせて俺の体がナニかによって完全に支配される。しかし、桜は俺の鳩尾を殴り、俺を押しのけてベッドから起き上がる。意識が朦朧とする中、はっきりとした声が聞こえてくる。


「何か分からないけど、待ってて! 直ぐに助けに行くから!」


 桜が部屋を出た後、俺は部屋を出ようとする体をどうにか抵抗して押さえつける。やがて、意識が闇に落ちていくのと同時にどさりと高い熱を発しながら俺は自分の中へと入り込んでいく感覚に支配された。


 

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