召喚
どうも炎の人です。それなりに数を書き上げたので投稿していきたいと思います。今回も異世界ものです。今回は転移ですね。キャラ作りが下手過ぎて難航してますがどうにか書いていきたいです。
作者のご都合が多分に含まれるためにご期待に添えない可能性がありますのでご注意下さい。では、どうぞ。
秋花桐生。それが俺の名前だ。名前に特別な意味はないと思う。いや、あっても大層なものではないだろう。俺はそう思っている。
そんな俺は目の前に広がる光景に唖然としていた。隣には四人の男女がいて、俺と同じように驚愕の表情をしたり、困惑の表情を浮かべていた。
白亜の壁、鈍色に光る床、地面には魔法陣のような模様。まるで神殿のような場所だ。その魔法陣のようなものはぐちゃぐちゃになっており、もし使えるものであったのであれば一目で使えないと分かるものとなっている。
そんな静謐な空間にいた誰かが呟いた。
「なんで、生きているんだ?」
そんな言葉と共に俺達は互いを見合わせた。俺を見知らぬ人と見定めると仲間内でこそこそと話し合いを始めた。俺はそれを見てからここから動こうと決めると歩き始める。
何が起こるから分からない不安は確かにあった。だが、動かなければ現状は変わらない。俺は俺自身しか信用できるものがない。だって、彼ら四人は既に完成されたコミュニティを持っているからだ。そこに俺は入れないし、入る気もない。
それは俺にとって脅威であり、彼らにとっても俺を仲間内に入れるメリットなどないのだ。排除してしまった方が安全だ。故に俺は自分自身しか信用しない。いや、できなかった。
「あ、おい。ちょっと待てよ」
後ろで誰かの声が聞こえるが俺は無視をしてゆっくりと歩く。
ここに来た経緯は分からない。だが、俺が死んだのは間違いない事実だ。何が起こって死んだのかは分からないがともかく、死んでここにいるのは間違いなく本当のことなのだ。
そして、何の手違いか生きている。あるいは、生き返った。ならば、ここで生きていくことを模索するしかない。それが現状に俺ができる最上の選択肢だ。
俺はそこまで思考を回すと足の歩を早めようと一歩踏み出した所で不意に声が聞こえた。その声はまるで天使のようでこちらの安心感を引き出すような声音であった。
「━━ようこそ、最後の勇者」
声と共に俺は止まり、彼らの声も止む。俺は声が聞こえた方に目をやるとそこには地球では有り得ない鮮やかな髪の色をした少女が一人いた。
水色の髪の色をしており、その髪は肩辺りで切り揃えている。髪と同じ水色の目はこちらをしっかりと見ており、強い意志を感じさせる。まるで物語の姫君のように美しい顔に思わず感嘆の息が誰からともなく漏れる。真っ赤なドレスを着て派手さを感じさせながらもその所作からは清楚さを感じさせる。程よく豊かな胸はドレスがしっかりと持ち上げて強調していた。腰のくびれはくいっとしており、背丈は女性としてはヒールを履いていないのにまずまずな高さを誇っている。
そんな完璧美少女とも言える女性は俺の前まで来ると一礼をしてから言葉を口にする。
「ようこそ、勇者様方。安寧なる死後の試練へ。私はこの塔に住まう最後の住人。皆様にはお願いがございます」
少女の外見とその声音に聞きいっていると少女は首を傾げて俺を上目遣いで見てきた。そこでハッとして我に返り、俺はようやく声を出すことができた。
「お願いとは、なんだ?」
ようやく絞り出せた言葉もかすれかすれなので聞こえたかどうか分からないが無事に聞こえたようで少女は言葉を続けた。
「この塔の攻略です。私を地上へと連れて行ってもらいたいのです。このお願いは強制ではありません。ですが、この塔で生きるためには戦いは強制であることはご理解ください」
「何故、戦いは強制なんだ?」
「戦うことでしかこの塔で生きるための糧、つまりは食べ物が手に入らないからです。なので、私のお願いはついで程度に考えてもらっても結構です」
少女はそう言うと黙り込み、俺達の質問を待った。
地上に連れて行ってもらいたいという少女の願い。
戦わなければ食糧は得られない。
この二つは大きな情報だ。一つ目の言葉からはここが塔の中で何らかの形で地下に埋め込まれており、地上に出るためには登り切らないといけない。但し、何らかの危険生物がおり、それらを排除しなければならない。
二つ目に戦うことでしか食糧を得られない点だ。これは戦えば自ずと分かるだろう何かを得て、それを対価に食糧を得るということなのだろう。そうすることでしかここでは食糧を得られないのかもしれない。
異世界らしいこの場所で生きる為には戦いが必須であり、また地上へと出るためにも戦いが必須である事が目の前の少女からは伺える。元の世界に戻るにせよ、何かをするにせよ、地上に出ないことには話にならない、か。
俺はそこまで思考を巡らせてついでなら構わないか、と思って返答をしようとした所で後ろから自信満々な声が聞こえてきた。
「任せてください! 俺があなたを地上へと連れて行きましょう」
そう言ったのは学生服の一人。名前は、分からない。如何にもモテそうなイケメンであり、何故か肌が紅潮している。もしかしなくてもこの少女に惚れたのだろうか。後ろの女子の一人が恨めしそうに男を睨み付けている。もう一人の男がやれやれといった感じで肩を竦めているのを見てこの声をあげた男が鈍感であるというのが理解できた。
「それはとても頼もしいですね」
「はい! 俺が必ずあなたを救ってみせましょう。だから、安心してください」
少女はただ淡々と述べるのに対して男は熱く答えた。
正直、ものすごく茶番でしかない。それを見ていて俺は吹き出しそうになったがどうにか耐えることができた。
現状を理解せず、ただ困っているから助ける。確かに男は勇者に相応しい存在であることを示している。だが、逆に言うとそれは現実を理解していないクソ野郎がする行いだ。俺には到底真似のできない愚かしい行為。反吐が出る。
俺は男の言葉を聞き流すと少女に向けて質問を重ねた。
「戦うために必要なものは?」
「申し訳ありませんがアーティファクトのみしか用意されていません。今までの勇者が持ち帰ってきてくれたものです。彼らは死んだか、あるいは地上に出たまま行方知れずです」
「じゃあ次にあんたは戦える?」
「はい。ある程度なら」
「次に、報酬はどうなっている? まさか対価もなしにやってもらえるとは思ってないよな?」
俺はそう言うと少女は一瞬身を強ばらせた。目を見開いて驚きを露わにしている少女は俺をまじまじ見つめ、何事かを考えている。俺はやれやれと言葉を続けようとした俺に後ろから先程の男が一歩前に出てきて絡んできた。
「おい、お前。何で対価なんて求めるんだよ。困ってるのなら助けるのが当たり前だろ!」
「それは日本での話だ。ここは日本ではない。それに俺達は命懸けで地上に出なければならないのに、こいつは何も用意しないなんてのは虫がよすぎる話だ。お前は見ず知らずの人のために命まで賭けれるのか? できもしないことを言うのはやめておけ」
俺の言葉に息を詰まらせる男に冷ややかな視線を送る。何も分かっていない男を相手にするほど馬鹿ではない。後ろの三人は分かっているのか何も言ってこない。この現状を正しく理解する能力があると見える。なのに、この男にはないのだ。ほとほと呆れる。これではどうぞ殺してくださいと言っているようなものだ。これほど操りやすい男も他にいないのであえて生かされる可能性もあるが今はそんな状況ではないので皆無だろう。
俺は改めて少女の方へと向けると覚悟を決めたのか顔をあげたて言った。
「では、私の純潔を捧げましょう。多少なりとも自分の身には自信があります」
「それじゃあ向こうの女子の対価にはならないぞ。それとも男だけに頼むつもりか?」
「……私にはこれしか価値はありませんから」
少女は目を伏せて懇願するように胸元に手を合わせた。それはまるで神に祈る聖女に見えたが果たして中身は本当にそうなのだろうか。そんな俺の思考を遮るように再び学生服の男が突っかかってきた。
「おい、いい加減しろよお前!」
「ああ、分かった。お前が望むなら地上へと連れて行ってもいい。命を懸けるほどの対価があることを祈っているよ」
「てめぇ!」
学生服の男の言葉を無視していたのがいけなかったのか、殴り掛かってきた。俺はそれを避けてカウンターでアッパーパンチを決め込む。俺の拳は偶然、男の顎にクリティカルヒットした。一発で脳震盪を起こせたのかがくりとその場に倒れ伏す。
流石に驚いたのかこちらへと駆け寄ってくる三人を一瞥してから俺は少女を見やる。
「これで、あんたの純潔を守りたいこの男は俺より先に塔を攻略しないといけなくなったな。まさかこれほどの馬鹿がいるとは思わなかったけど、好都合だ」
俺がそう言うと後ろの三人は息を飲み、少女はハッと俺の顔をのぞき込むように見る。
「そのためだけにあなたは悪者を演じたのですか?」
少女の問いに頷く。正直に言うとそこまで考えていない。しかし、はったりはいつだって唐突にそして大抵が嘘八百を並べるものだ。
だが、と俺は続ける。
「対価はちゃんともらうぞ。あんたが俺達に命を懸けさせる程の対価くらいは用意してくれ。内容は地上に出てからでもいい」
どんな取引にも対価は必要だ。友達同士ではないのだし、ましてや俺達は初対面で尚且つ赤の他人だ。対価無しで願いを叶えてもらおうなどと考えてもらっては困る。今後のためにもそうしておかなければならない。そうでなければ、ただで働いてもらえると勘違いされるからだ。そんなのはごめんだ。俺は善人でもなければ、ボランティアでもない。ただで働いてやるほどお人好しではないのだ。
俺の言葉に何か思うことがあったのかもう一人の男が質問をしてきた。
「なぁあんたは何でこんな事を言ったんだ? 別に宗太を焚き付ける必要なんてなかっただろ?」
俺はその言葉にどう応えるべきか迷った。今の俺はとても愉快に笑みを浮かべている事だろう。相手も若干引いているのが分かる。
何故だか分からないがここに来てからとても愉快な気分になるのだ。まるでこれから楽しい事が待っているという確信があるかのように。それは決して間違いでは無いだろう。だからこそ、俺は競い合う相手を作り出すことにした。そうでないと面白く無いからだ。と、いうのは今作り出した理由だ。
特別思うところがあるわけではない。ただこの男を焚き付けて俺より先に行くように仕向けただけだ。要するに罠避けのようなものだ。素直に説明してやる気はないので前述の理由を述べる。もっともらしい理由を述べてやれば納得するだろうから。最も、この男では俺の望む罠避けにはなれそうにないが。
「競い合う相手は必要だろ? 俺とあんた達四人の競争だ。俺は別にここで骨を埋めても問題はないんだ。ただそれだと詰まらない。だって、ここは日本じゃないんだ。娯楽は戦うか快楽に溺れるかしかない。まぁ要するに残りもんを選んだだけだ。乗るも乗らないもお前達次第だ」
「……お前は、異常だな。戦いを娯楽にするなんて」
「だろうな。けど、それでいい。そうでもしないとこの塔からは脱出できない。そうだろ水色少女?」
俺が少女の方へ視線を向けると少女は不満気に答えた。
「水色少女ではありません。シャリスティアです。確かにあなたの言うとおり戦いは過酷なものです。戦闘狂でもなければやっていられない程に辛いものですよ」
「だ、そうだ。どちらにせよ、兵糧が握られてるんだ。戦うしかない。言っとくが俺も命の掛け合いはごめんだぞ? けど、一度死んだ身だ。命懸けで生きてみるのもいいと思わないか?」
そうだ。それだ、と俺は思わず頷いて笑みを浮かべる。ワクワクしているのは命を懸けた戦いを本気でできるからだ。平和ボケした日本では決して味わうことができない最高の娯楽。それが戦いだ。やはり、俺は戦闘狂なのかもしれない。
俺の得体の知れなさに後退りする男達を見て肩を竦めると俺はシャリスティアへと向き直った。
「じゃあ案内してくれ。アーティファクトが見たい」
「分かりました。こちらです」
何か言いたげだったシャリスティアであったが何も言わず、案内をしてくれる。きっと俺に早死にしやすいタイプだとかそう言ったことを言いたかったのだろう。あいにくだが俺はそこまで馬鹿ではない。引き際は弁えているし、生きる為なら何でもする気でいる。一度死んだとはいえ、もう一度死にたいと願うほど酔狂ではない。
さきほど質問してきた男が俺に殴り掛かってきた男を背負い、少女達も後に続く。俺はそれを見てからその後ろを歩き、続いていく。
「ああ、そうだ。俺はここで楽しく生きるんだ。強くなってやる」
もはや曖昧な記憶しかない日本での出来事を置き去りにして俺は口角を釣り上げて笑う。これから起こる出来事に楽しみを覚えながらシャリスティアの後を追ったのであった。