第五話
やっと旅がはじまりました。
「なあキース、お前亜空間から剣を出しとかなくていいのか?」
「だいじょぶだいじょーぶ! ここら辺あんまり魔物出ないらしいし! それに! これから僕はキースじゃなくて、ギルベルト! 兄さんだってこれからアルベルトなんだからね!?」
「わ、分かったってば、ギル……」
現在、俺たちは目的地であるバイアブランカ王国へ行くために港へ向かっているところである。
確かに魔物の出現率は低い。そういう道を選んだのだし。
「でも、だからといって絶対出ない訳じゃないだろ。腰にくらい差しておけ……」
「ん? どうしたの兄さ……ってえええ!?」
目の前から駆けてきたのはなんとゴブリンである。それも、複数。
初めての魔物との遭遇にテンパりながらもなんとか戦闘準備をする。キース、じゃなくてギルも慌てて亜空間から剣を取り出している。剣術を教えてた師匠に貰ったものらしい。
って、考え事してる場合じゃないっ!! ヤバい!!ヤバいよ、この状態!?
「“テリーノ・プンニョ”!」
土の拳骨が、ゴブリン1匹を殴り飛ばす。しかし、なんかドンドン数が増えていってる!? なんで!? 逃げようにも数が多過ぎて逃げられそうにない。
万事休す。そんな時、目の前を黒い疾風が駆け抜けた。
「てやあああっ!!!」
「はああああっ!!!」
可愛らしい声音にも関わらず、凄い気迫でゴブリンの大群に突っ込んで行ったのは二人の少女。
まだ俺たちと同じほどの女の子が、ゴブリンの大群を相手取っているのだ。
俺は思わず見蕩れてしまった。武器はなんだか見慣れないものだけど、まるで踊っているかのように綺麗なのだ。
あっという間に彼女たちの戦闘は終わってしまう。武器を仕舞い、ひと段落ついたところで俺は礼をするために話しかけた。
「あ、あの、助けてくださってありがとうございました!」
「……へ?」
何故だかその少女はきょとんとした表情をした。もう一人の子は無表情だけど。
改めて見るとかなりの美少女である。
声を出した方の少女は、艶やかな黒髪を肩につかない高さで切りそろえていて、漆黒の大きな瞳を丸くしている。東洋人なのか、バター色の肌は俺たちみたいな白より温かみを感じさせる。俺よりも小柄な身体を部分的ではあるが鎧に包み、槍に似て非なる武器を背負っている。
もう一人の少女は、俺たちと同じ双子かと思うほど隣の少女とそっくりだった。しかし、雰囲気は全く違う。姉妹であるだろう少女より、なんというか色気が溢れている。黒い髪は男性に見えないギリギリの長さなのだが、身体つきは完全に大人びていた。身長はそんなにないしむしろ小柄で細いのに、とつい目をやってしまう。瞳は、赤みを帯びた黒。腰には片刃の剣を差している。
と、短髪の少女が口を開く。
「……別に、助けた訳ではないのですが」
「え……」
「それでもありがとうございました! おかげで命拾いしました!!」
驚いて次の言葉が出てこなかった俺に代わり、ギルが礼を言った。
「じゃ、私たちはもう行くので」
さっさとこの場を去ろうとする彼女たちをギルは慌てて呼び止める。
何の用かと嫌そうな顔をする短髪の少女に構わず、言葉を紡ぐ。
「これからどこへ行くつもりなの?」
敬語ではなくなったギルに、髪を肩につかない高さで切りそろえている少女が眉をひそめる。というか、こちらもいつの間にか無表情だ。
「……バイアブランカですけれど」
「…! そうなの!? 実は僕たちもなんだ。ここで会ったのも何かの縁だし、一緒に行こうよ」
「遠慮します」
「う……。そっそうだ、僕まだ剣の腕前はまだまだなんだ。さっきの君の剣さばき凄かったし、バイアブランカに着くまででいいから教えてくれない? お願いっ!」
なんか知らないけどすごく必死……。可愛い女の子に会ったから簡単に別れたくないのか?
「姉様、この方引き下がりそうにないですし仕方がないのではないでしょうか」
「……そうですね。はあ。そこのあなた。仕方がないのでバイアブランカに着くまで付き合って差し上げます。感謝しなさい」
あれ? この子、丁寧な口調だけど高飛車だな……。ああゆうの、ギル嫌いそうだけど。
「うん、ありがとうっ!」
え、すごい嬉しそう。幻の犬の耳と尻尾が見える。尻尾ぶんぶん振ってる。こんな嬉しそうなの久しぶりに見た……。
「とりあえず自己紹介ねっ! 僕はギルベルト! ギルでいいよ」
「あっ、えっと、アルベルト。弟がなんかすみません」
機嫌が良さそうに自己紹介を始めるギル。こんがらがる脳内を一旦放り出して、俺もギルがやらかしたことの謝罪も含めて自己紹介する。
「今回は隣の少年が謝ったので良しとしますが、次不愉快なことをしたら即置いて行きます。私はユズリハと申します。二十歳です。こちらは私の妹のナノハです」
「ナノハと申します。十八歳です。バイアブランカまでですが、よろしくお願い致します」
彼女たちの告げた年齢に俺たちは顔を見合わせる。
「「ええええええ!?」」
ヒロイン(予定)の登場です!一応恋愛要素のつもり、です!