第十七話
だいぶ前回の投稿から月日が経ってしまいましたがまだ続きます。よろしければお付き合いください。
泣きやんで落ち着いて話せるようになった頃、女の子はポツポツと話し始めた。
アナスタシアと名乗った彼女は、お嬢様言葉で話し、この年齢にしては聡いため、身分は明かせないがかなり高い位の貴族の娘であると予測をつけた。
奪われた髪飾りは、自分に関心を向けない母親が五歳の誕生日にくれた唯一の贈り物なのだという。父親は可愛がってくれるが忙しく、会える日は限られているらしい。母親は長命種とのハーフであるそうで、その血を濃く受け継いだアナスタシアは使用人たちにあまりよく思われていないようだ。というより、怖がられている感じがすると悲しそうに言う。
彼女より十も年上の俺やギルも長命種であることに戸惑ったし、正直辛かった。まだ幼いこの子は既に自分がどんな存在であるかを知っていて、それを受け入れている。俺たち双子は人間だと信じ込んでいたからまだいい。この子はそう思うことも許されなかった。相当辛かっただろうと思う。
「……そっか。辛かったね」
つい、抱きしめて頭を撫でてしまう。彼女のくすんだ金髪は真っ直ぐで癖がなく、するすると指先をすり抜けていく。
アナスタシアがまたしゃくり上げるので、背中を優しくさする。
この子には、頼れる大人はいなかったのだろうか。心の中の鬱憤を吐き出せる相手はいなかったのだろうか。
*****
いつしか泣き疲れたのか眠ってしまったアナスタシアを背負い、俺は立ち上がった。
アナスタシアの髪飾りを手にしている男には無属性魔法で印をつけてある。それを辿れば、男の元まで行って髪飾りを奪い返すことだって可能だろう。
無属性魔法は、魔力を持ってさえいれば誰だって使える魔法である。亜空間だって、今から使う身体強化の魔法だって、無属性魔法の一種なのだ。
しかし、流石に五歳児を背負って男を追うのは無理だ。俺は武器が使えない魔法特化型だし……。
「身体強化」
身体中に魔力を巡らせ、流す。俺は付けた印の魔力の残滓を辿るように、男たちを追跡していった。裏路地を通り抜け、再び賑々しい市場へと出る。
「まずいな……」
人が多ければ多いほど魔力の感知は難しく、追跡するのも困難になる。
アナスタシアの着ているフードをより深く被らせ、人の波をかき分けながら、なんとか追跡する。
視界から何度も消えそうになる標的を死にものぐるいで追いかけていると、ふと彼らが止まった。
「あんだよ姉ちゃん、オレらに用でもあんのかよ?」
「え、いや……なんとなく……」
標的を足止めしているのは、なんとギルだ。さすがだ片割れ! ナイスタイミング!!
「ギルっ!!」
ギルがこちらに視線を向ける。そして、俺のそれと交わった。
「りょーかい」
男たちを引きずって目立たないところに移動していく。
……にしても相変わらずの怪力である。男三人を余裕で引きずるとは……。
「何すんだっ、この怪力女!!」
「くそ、離しやがれっ!!」
「頼まれたから連れてきただけだけど、何か?」
「うるせぇッ、女のくせに!!」
とりあえず目の届くところに意識のないアナスタシアを座らせ、彼らに近づく。
「あのさ」
男の一人がアナスタシアの髪飾りらしきモノを握っているのを視認しながら、俺は彼らに声をかける。睨んでくるし何か言ってるみたいだけど、そんなの興味無いよ。
「それ、返してあげて欲しいんだよね」
全部、見てたんだから。
そう続けると、男たちは慌てだした。逃げようってのかなぁ、できるわけないじゃん。
「兄さん、いつの間にか居なくなったと思ったら何やってんのさ……」
どう見てもギルが捕まえていて、逃げれるような強者じゃないよね。
「ちょっとした人助け。乗りかかった船だ、見捨てるのは後味悪い」
「ふぅん? じゃ、没収ねー」
アッサリ髪飾りらしきそれをもぎ取り、こちらに放るので慌ててキャッチ。まったく、危ない奴だ。
「そいつら何処か置いてきて、逆恨みされてもめんどくさい」
「もう手遅れだと思うけど……えいっ!」
ギルに殴られ、男三人衆は呆気なく倒れた。そういや、ギルのこと女と勘違いしたままだったな……。どうでもいいけど。
「さぁて」
ジト目でこちらを睨む俺と同じ瞳から目を逸らす。しかし、無理やり彼の方に顔を向けさせられる。
「どーゆーことか、説明してくれるよね?」
読んでくださりありがとうございます。