第十六話
ようこについて聞いたところ、長命種の一種らしい。本来の姿だと、今の容姿に狐の耳と尾が生える形になるそうだ。何故その姿のままでいないのか尋ねるとこんな答えが帰ってきた。
「何故わざわざ人目を引く格好しなければならないのです? 不愉快ですからそんなことするわけないでしょう」
「狐の獣人とも間違えられがちですし、長命種であることを主張しなくてもいいと思いまして……」
ようこーーーー妖狐の寿命はおよそ千五百年で、なんとユズリハは二百歳、ナノハは百七十歳だという!! つまり、二十歳、十七歳と言っていたのは嘘だったというのである。
俺たち双子より年下に見えるのにずぅっと年上のひとだったとは、世の中とは分からないものである。
閑話休題。
「やっと、やっと着いた……!」
「懐かしの陸の上……!」
俺たち双子とユズリハ、ナノハの四人はエンゲス帝国に到着した。
「私と姉様は船の中で待っていますけれど、お二人はどうしますか?」
とナノハが聞いてきたが、船に居る気なんてさらさらない。出来るだけ、陸上で過ごしていたい。
二人で市場とか見て回ってくると伝え、俺たち双子は、まず人の多いところに向かうことにした。賑やかで楽しそうな様子に好奇心が刺激されたのだ。
しかし……。
「その結果がこれだよ……」
ただ今絶賛迷子中である。とりあえず同じ色彩に同じ顔だ。見かけていないかすれ違う人々に聞き込みしているのだが、一向にそれらしい情報は入ってこない。
さまよっているうちに、いつの間にか人気のない場所に出た。どこなのかさっぱり見当もつかない。
周りを見渡し、困り果てていると何やら争っている物音が聞こえてきた。
「はなしてくださいまし!! いっていることがきこえませんの!?」
「だーれが離すかよ」
「いいとこの嬢ちゃんが一人でいるのが悪いんだよ!」
「っ!! それはっ!!」
そっと覗いて見ると、エミリアちゃんと同じくらいの女の子が男三人に囲まれていた。髪留めを奪われたのか、頭はぐしゃぐしゃになってしまっている。
「かえしてっ!! かえしてくださいまし!!!」
「そんなにコレが大事かァ? 返してなんかやらねえよ、コレは売っぱらってやる」
「その間チビはここにでも入ってろ」
「……ぐっ!!」
男たちは女の子を廃工場の中に蹴り飛ばし、重そうな扉を閉めた。あの扉を開けるのは幼女には不可能に見える。
去っていく背中に無属性魔法をこっそりかける。
「印をつけよ」
男たちが小さくなっていき、見えなくなったのを確認して、俺は物陰から出る。
俺でも軽々とは開けられない扉を、開くと、先程の女の子が腹部を押さえて蹲っていた。
「大丈夫? レクーベロ」
俺は声をかけるとともに、幼女に回復魔法をかけた。ぽうっと腹部が光る。魔法がきちんと発動した証拠だ。
「……? いたく、なくなりました……」
女の子は、不思議そうにお腹をさすった。
改めて彼女を見てみると、くすんだ腰まである金髪、新緑の瞳に白い肌。上質そうな衣類を身につけているが、蹴られたせいで少し汚れている。
「回復魔法をかけたから多分、もう痛くないと思うよ。……立てる?」
「……は、はい!」
差し伸べた手に掴まって、女の子が立ち上がる。彼女の乱れに乱れてしまった髪を手櫛で軽く整えて、俺も立ち上がった。
「あ……ありがとうございます、あの……」
「ん? どうした?」
「かみかざりを、とられてしまったのです。あれは、ゆいいつのおかあさまからのおくりものでだいじなのです……ひっく、うっうあああああん!!」
女の子は泣き出してしまった。
俺は、なんとか必死で慰めようとする。取り返すこともできない今、俺にできるのはこんなことくらいだ。俺は女の子の背をさすり、なだめ続けた。
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