第十四話
めちゃくちゃ遅れての投稿……。一応続きますので見捨てないでください……。
「「おええええええぇぇぇぇ」」
俺とギルは、今絶賛船酔い中である。もう腹の中には何もないけれど、まだ吐き気がするよ……。
まだ船旅は始まったばかりなのに……こんなのでバイアブランカまで耐えることが出来るのか心配だ……。
「まさか……船がダメだとは……うぷっ」
「ねぇ兄さん……、回復魔法効いてないよ〜……」
「そんなの……個人差だろ」
「……確かにユズリハとナノハは効いてるみたいだけど〜……うっ」
手すりに寄りかかり、ため息を一つ。そこに第三者の声が響いた。
「でも、もうちょっとでえんげすていこくにつくよ。おにいちゃんたち」
舌っ足らずの、幼い声。
振り返ると、四、五歳ほどの幼女がそこに立っていた。肩より少し長めな茶褐色の髪を二つ結びにして、水色の瞳はどこまでも澄んでいる。
「そういえば、エンゲス経由だったけ……この船」
ぽつりとギルが呟く。グリンダヴィークランドからエンゲスまでは近いんだな、着くのが随分と早いことくらい分かる。幼女はギルの言葉に反応して、答えを返した。
「そうだよ、おにいちゃん。えんげすていこくについたら、ふねからおりられるよ」
「……君、お父さんとお母さんは?」
周りに大人どころか人っ子ひとり居ないのに、彼女だけなのが気になって、俺は問うた。
「はなれちゃだめっていわれたけど、いろんなひとがいてたのしくてでてきちゃったの」
でもちゃんとへやにもどれるよ、と幼女は胸を張った。
なんか心配だし、彼女が満足したら親のところに連れていこう。船に乗っている幼女なんてこの子くらいだろうし、クルーにでも聞けばわかるかな。
「確かに、いろんな髪の毛のひとがいるね」
「そうじゃないよ」
彼女にあわせて言葉を紡ぐと、そんな返事がきた。彼女は話を続ける。
「みんなおなじにみえるけど、みたらちがうの。おとこかおんなかも、なんさいかも、おしごとも、しゅぞくっていうのも、ちがうの」
その言葉は衝撃をもたらした。この幼女が言っているのは、【性別】【年齢】【職業】【種族】のことだろう。
そんな個人情報、どこかのギルドに所属しないと自分自身ですら可視できない代物だと、ユズリハとナノハに聞いた。
それを、この子は、『みたらちがう』と言ったのだ。ギルの性別だって男だと見抜いた。
「おにいちゃんたちは【おとこ】で【じゅうごさい】、【むらびと】だね。みじかいかみのおにいちゃんは【みずまほうれべるよん】と【つちまほうれべるに】、ながいかみのおにいちゃんは【けんじゅつれべるご】と【そうじゅつれべるに】に【きゅうじゅつれべるに】。おにいちゃんたちすごいいっぱい【すきる】もってるね!!」
幼女は無邪気に笑って、こう続けた。
「それに、【ゔぁんぴゅれとひととのくぉーたー】なんてしゅぞくはじめてみたよ」
その言葉に頭が真っ白になる。今、この子は何と言った……!?
「何……? その、ヴァンピュレとのクォーター? って……?」
「ゔぁんぴゅれは、しゅぞくのなまえだとおもうよ。どんなしゅぞくなのかなっておもうけど、まだえみりあわかんない」
ギルの呟きに幼女ーーーーエミリアという名らしいーーーーが答えたことでヴァンピュレとやらは種族名であることが分かった。クォーターは、確か四分の一、祖父か祖母が違う種族に当たるって意味だったと思う。
俺たち双子は、主に世界で一般的に使われているエンゲス語を常に話し、住んでいたグリンダウィーク王国の公用語であるグリンダウィーク語、魔法や種族名によく使用されるモンツァンバーノ語に、そしてこれから行くバイアブランカ王国の公用語であるバイアブランカ語を理解し、少しならば話すこともできるように教育された。孤児院育ちだというのに……、こう考えるとつくづくカルナさんは謎が多い。
で。目の前のエミリアという子は俺たちと同じグリンダウィーク王国からやってきている。と、くればこの子が話す言葉がグリンダウィーク語であることも分かるわけで。
吸血族。響きが似ているので同じ意味と考えていいだろう。
ここまで思考を巡らせ、それが示す事実は…………。
「えええええええええ!?」
読んでくださりありがとうございます。