第十二話
「いい加減にしな!! まったく……ユズリハやそこの坊やの言う通りだよ! さあさ、こんなこと続けるんだったら出ていきな!!」
赤い長髪とユズリハに負けず劣らずの色気の滲み出る容姿をした女性が、男たちを追い払ってくれた。
「あのねえ、ユズリハ。あんたはもうちょっと愛想を覚えたらどうだい? 穏便にことを済ませるってのを意識した方がいい。まあ、アイツらなんてあんたにとってはガキンチョ同然なんだろうけど……」
「余計なお世話です。私に構うのを止めなさい」
「ほら、そういう高飛車なとこ……。止めろと言われてもできないんだよ、あんたも知ってるだろうに……」
「あのっ、少しまって下さい! ユズリハ、この人誰なの? 俺の実力を測る件は?」
俺は、突然の展開にしばらく呆然としていたけど、この人ほんとに誰!? さっきの男たちがそそくさと去っていったのは何故? ユズリハとの関係は? 分からないことだらけだ。
「あぁ、済まないね坊や。アタシはカルメラ、S-ランクの冒険者さ」
ほら、と白金で作られたバッジを見せられる。
冒険者の証であるバッジはランクによって違う素材で作られる。B+ランクのユズリハとナノハは白銀のバッジだし、さっきのDランクの男たちは純鉄のバッジだった。
「S-ランク……!」
あの、めったにいないっていう、Sランク……!? それなら、Dランクの男たちがすぐに退散していったのもうなずける。でも、何故そんな高ランクの冒険者がこんな田舎にいるんだろう?
「アタシがココにいるのは、このユズリハとナノハのパーティを監視する依頼を受けているからだよ。とある偉い方からの依頼でね、断れなかったんだ」
「東洋人だというだけで、差別を受ける時代なのです。非常に不愉快です」
アタシは差別なんて反対だけどね、とカルメラさんは肩をすくめる。
なるほど、それであのDランクの男たちの言動やカルメラさんがこんな場所にいる理由が分かった。
さっきの男たちは、ユズリハが整った容姿をしていて東洋人だから、自分たちのパーティに入れて好き勝手しようとしたのだろう。
「行きますよ、アルベルト」
「え、もう話をつけたの?」
「カルメラが話しておくので問題ありません。アレはS-ランクですから」
「ちょっと! ほんっと人使い荒いねあんた!」
「……いいの?」
「ええ」
少し戸惑ったけど、ユズリハに置いてかれないように俺は彼女の後をついて行った。
*****
ついて行った先は、ユズリハとナノハが言っていたランクを決めるための試験場だった。ただ、想像していたものとだいぶ違っていた。
まず、屋外かと思ったら屋内だった。魔法を使う人だって少なからずいるだろうにそれでいいのか、と心配になったがそれは結界を張ってあるから問題ないと言われた。じっと見つめてみると、ほんのりと淡い光を放つ壁が半円をつくるように存在しているのが確認できた。回復魔法と似たような感じなのが気になる。
「ーーーーで、ランクにあわせた魔物を放つからそれを倒していけばいい。魔物は特別な魔道具に閉じ込めて置いたやつを使っているし、危険だとこちらが判断したらすぐに対応するよ」
「わ、分かりました」
カルメラさんが試験官を担当する。そんなこともできるのか、と聞けば普段はギルドの受付嬢をやっているからいつもの仕事と大差ない、との回答が返ってきた。なら、もし危ない目にあっても大丈夫か、良かった。
結界の中に入り、深呼吸する。チラリとユズリハを見る。彼女には、使える魔法は水と回復としか言っていない。もうばらしてもいいような気がするけど……、一応水魔法だけ使おう。
前方にある扉を見据える。おそらくアレが特別な魔道具というやつだろう。
「準備はいいかい?」
「はい、お願いします」
そう答えると、扉からぷよぷよした魔物がたくさん出てきた。アレは……スライム、かな。
実際に魔物を見たのはこれで二回目。なんかドキドキしてくる。
「水の刃」
透けて見える核を壊せるように、狙って撃つ。スライムは真っ二つになって粉々の魔石のみを残して消滅した。……なんか凄い、爽☆快☆感! って感じ!!
「もっといくよ?」
精霊たちに呼びかけ、まだ残っているスライムを同じく水の刃で一掃する。
次から次へと出てくる魔物を水魔法で倒していく。
「水の槍」
魔物の腹に大穴を開け。
「水の連弾」
魔物を穴だらけにして。
なんかふわふわした、気分。高揚感が増していく。魔物が、俺によって惨い状態になるのが堪らなく快感。
そうだ、こんな魔法はどうだろう……!
「水の断罪」
読んでくださりありがとうございました。