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フラッシュバック  作者: 水谷一志
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第4章 55年体制

第4章 55年体制

一志は、下宿先の近くのスーパーにいた。大学の帰りには、いつもこのスーパーで買い物をして帰る。自炊に使う野菜や肉などももちろん買うが、最近は冷凍食品を買うことも増えてきたなと、一志はふと思った。

 そして、一志は買い物を終え、下宿先に着き、アパートのドアを開けた。次の瞬間、またもやフラッシュバックが、一志の頭の中を支配した。


 2004年12月17日。高校生の一志は、窓の近くにある、自分の席に座っていた。もうすぐクリスマスであるが、一志は、彼女がいるわけでもなく、好きな人もいない。それよりも一志は、冬休み、友達と何をして遊ぶかを考えながら、残り少なくなった2004年を過ごしていた。2階の席からは、枯れてしまった銀杏の木が見える。今はちょうどチャイムが鳴り、授業が終わった所だ。一志は10分間という短い休み時間を、次の時間の英語の単語テストの勉強をしようか、はたまたテストは諦めて、友達の所に話しかけに行こうかと迷っていた。そうやって迷って動けずにいると、友達の田畑が、一志の席の前の椅子に座り、話しかけてきた。田畑は、一志のクラスメイトで、剣道部に所属している、少し体育会系の、真面目ないい奴だ。

 「さぁ一志、大事な話しよか。」

そう田畑が話しかけると、一志の首が徐々に傾き、一志は戦闘モードに入った。

 「今日は友達としてではなく、ゼータの使い手として話しに来た。『55年体制』について説明したいと思う。55年体制って分かる?」

田畑が、ただでさえ大きい体を乗りだして、一志に質問した。

「田畑もゼータの使い手なん?信じられん。みんなそんな人ばっかりやん。」

一志は、親友の田畑までもが、ゼータの使い手であるということを聞き、ショックを受けた。同時に、大好きな親友に、裏切られた気持ちになり、一志は悲しくなった。そして、悲しみに浸る間もないうちに、田畑がある質問をした。

 「ところで、一志はゼータについてはどうやって知った?」

「それは前に大学から帰省した時、おばあちゃんに…。あれ?おかしいな。大学って未来のことやのに…。」

「やっぱりその状態になると、記憶が『クラインの壺』みたいにねじれるらしい。どういう風にねじれるか…。フラッシュバックで思い出した順やね。こっちもそれ相応の対策をせなあかん。」

一志の身の回りに、また不思議な出来事が起こった。どうして、未来であるはずの大学の記憶が、高校生の自分の頭の中に入っているのだろうか?一志は現在高校2年生で、志望大学もまだ決めていないのだ。そのことについて考えているうちに、田畑が次の言葉を発した。

 「記憶に関する不思議なことについては、また説明があると思う。それで、今日は55年体制の説明から。」

「55年体制って、自民党の?」

「それもそういう形で出されてるだけ。本当の意味は別にある。出される、について前にあずさおばちゃんから聞いたと思うけど、先にもうちょっと詳しく説明する。セントラルパークについては覚えとる?」

「あずさのおばちゃんに聞いたよ。これも不思議なことやけど、大学時代の記憶みたい。」

田畑の説明は続いた。

 「出される、なんやけど、セントラルパークで考えられたことは、形を変えて、比喩的に世の中に出すんやね。例えば、ゴルフのバンカーショット。これは、種明かしされた後の挽回の策を、分かりやすいように別のゲーム、この場合はゴルフで表したもの。ゴルフは、その挽回の策を表すために作られた。もちろんそのためだけに、ゴルフがあるわけではないけどな。要するに、世の中にある全てのものは、比喩的に何かを表してるというわけ。それで、本当の意味は別にある。55年体制もその1つ。」

「じゃあ、55年体制の、本当の意味は何なん?」

「55年体制は、ゼータの使い手が支配するこの世界の現状を表したもの。ゼータの使い手が、政界での自民党の一党優位の体制のように、この世界を、派閥として支配していることを指して、55年体制というわけ。まあそういう風に出されとるんやけどね。今の世界で、フェミニストは弱者。女は家。特に、ゼータを持っているグループは、完全にこの世界を支配している。これは日本だけでなく、他の先進国でも同じ。セントラルパークの中では、フェミニストは何もできない。途上国では活躍してるんやけど…。これは、持ちつ持たれつ。何でこんな体制が続いとるか分かる?」

「前にも少し聞いたけど、寂しいから?」

「それは大きな要素。でも、それだけやったらゼータの使い手が支配している理由にはなってない。実際に、ファインダーは好きやけど、ゼータは正直どうかなと思っている人は、少なからずいる。」

「じゃあ、何でそんなんに支配されとるん?僕には信じられん。」

一志は、「みんながゼータを支持しているわけではない。」という田畑の一言を聞いて少し安心し、それと同時に激しい憤りを感じ、こう答えた。そして、田畑の説明は続いた。

「1番の理由は、『スポーツマンシップ』。スポーツマンシップの前に、『スポーツ』って分かる?これは、セックスを表して出されたもの。それに関連させて、スポーツマンシップなんやけど、どういうことかと言うと、1回見たら何されてもいい。これは、セントラルパークの合言葉やけど、ゼータの使い手はホンマに何されてもいい。火あぶりにされても、拷問を受けても、ゼータで見とったら耐えられる。それに、殺されてもいい、実際、自分一人だけずっと生きとっても、寂しい。こんな、ちょっと無茶苦茶な精神が、スポーツマンシップ。こんなパワーがあるから、55年体制が維持できる。55年体制は鉄板。これを打ち破るには…。『トレーナーカード』使うしかない。」


一志は、フラッシュバックから覚めた。親友であるはずだった田畑からも裏切られ、ショックを隠せない様子だ。今は一歩も動けない気分で、そのまま布団に潜り込み、一志はしばらくの時間を過ごそうとした。そのうちに、また別のフラッシュバックが、一志を襲った。


2007年8月16日。一志は現在大学生だ。一志の目の前には、前の時と同じく、祖母の一子が立っている。

「今さっき、高校生の頃のことを思い出したみたいやな。このやり方…。分かってはいるんやけど、やっぱり不思議やな。」

「このやり方ってどういうこと?」

「その説明の前に、今日は一志、自分の置かれとる立場というか、ポジションについて説明しとかなあかん。セントラルパークと、55年体制については覚えとるか?」

「先進国のシステムやんな?」

「そう、その通りや。簡単におさらいしておくと、セントラルパークは、ものを『考える』ことに重きを置いた、そういうことを楽しむ大多数の人のためのシステムや。もちろん、ファインダーとも関わりがあるわな。あと、ゼータとも関わりがある。ちなみに、ニューヨークのセントラルパークは、このシステムを表して出されとるんや。ただ、セントラルパークに賛成し、女が家って思っとる人が、みんなゼータに賛成やないで。そういう人は、おいおい一志の前に出てくるわ。それで、55年体制は、ゼータの使い手が支配する、今の体制のことやな。」

「それを聞くと、なんか絶望的な気分になるわ。」

一志は、改めてこの世界の現状を一子から知らされ、こう言った。一子の説明は続いた。

 「一志やったらそう思うわな。前の田畑君の説明にもあったけど、55年体制は、鉄板、つまり動かすことができんって言われとる。そのことについてもうちょっと説明するわな。まず、55年体制は、スポーツマンシップに支えられとる。スポーツマンシップは、『1回見たら何されてもいい』がキーワードや。これはホンマに何されても良くて、極端に言えば、殺されてもいい、っていうのは田畑君から聞いたな。それで、このスポーツマンシップを使って、ゼータの使い手側が何をするかというと、いわゆる『八百長』をするんや。特に先進国ではそうなんやけど、ゼータの使い手は、フェミニストを潰すために、例えば相手が正論を言っても、『八百長!』って叫んで、その案を潰したりすることもある。これは、一志が成人式を迎えた時に経験したことがあるはずや。それ以外には、例えば相手が寝ている時に、襲いかかることもある。とは言っても、セントラルパークの住人はいきなり実力行使はせえへん。セントラルパークの住人は、考えることに重きを置いて、考えなしに行動することは邪道やと思っとるから、いきなり暴行を加えたりはせえへんで。あくまで寝起きの頭で変な案を出させて、いわゆるボギーを出させるんや。それで、こういった八百長はスポーツマンシップの、『1回見たら何されてもいい』と引きかえに行われとる。殺されてもいいから、自分たちは何をしてもいい、って考えやな。でも、フェミニストの側は、そんな相手と正々堂々と戦わなあかん。もし汚いプレーをすると、『汚い!』って言ってフェミニストの意見を無効にしてしまうんや。それで、何かあったら『1回見たら何されてもいい?』って訊く。その気持ちがなかったら、汚いプレーはできんってことやな。もちろん、フェミニストにスポーツマンシップはないから、こういうことはできん。

その他には、『先進国の地の利』、『多数決』っていう方向で、話を持っていこうとする。先進国の地の利、っていうのは、途上国と違って、ここは自分たちの先進国やから、自分たちの好きなように、ルールを決めていい、って考え方や。もちろん、何でもかんでもそういうわけにはいかんけどな。多数決は、言うまでもなく、数の論理、つまり数の多い、ゼータ側に合うようにルールがあるべきや、って考え方や。

こういう、無茶苦茶なシステムのおかげで、55年体制は成り立っとるんや。それで、この体制を覆すんは難しいから、55体制は鉄板って言われとる。」

「それを聞くとホンマに信じられんのやけど、それが現状みたいやね。でも、僕は何としても、その、55年体制を打破したい!女の人が虐げられる今の世の中は、間違ってると思う!」

「そうか。そうやな。一志やったらそう思うと思っとったで。それで、55年体制を打破するには、1つだけ方法がある。それは、『トレーナーカード』を使うことや。」

「前に田畑から聞いたけど、トレーナーカードって何なん?ポケモンカードで聞いたことはあるけど、それも何かを表しとるん?」

「その通りや。セントラルパークで出されとるものは、基本的に何かを表しとるからな。トレーナーカードっていうのは、セントラルパークの大多数の人間を、『かっこいい』とうならせるアイデアのことや。それをカードになぞらえて、トレーナーカードって言うとるんや。セントラルパークの人間は、アイデアに弱い。こんなアイデアを出せる人間の言うことやったら、聞くしかない。じゃあゼータも止めて、明日からフェミニスト、ってなるんや。」

一志は、一子の言葉を聞き、少しだけではあるが希望を持った。

「みんなをうならせるアイデアか…。難しそうやけど、僕がんばって考えるわ。何としてでも、フェミニストに貢献したい!」

「一志は真面目やな。でも、ちょっと自分を過小評価しとるみたいやな。まあ、無理もないか…。今から話すこと、よう聞きよ。」

そう言った一子の目が、ギラリと光った。一志は、一子の言葉を、一言一句漏らすまいと、真剣に聴いた。

 「一般的に、ゼータの使い手は多数派で、フェミニストは少数派って言われとる。ただ、フェミニスト側は数は少ないけど、かっこいいアイデアを出せる人が多いんや。おばあちゃんも何人もフェミニストの人を知っとるけど、みんなかっこええわな。それで、多くのゼータの使い手は、さすがフェミニスト、って気持ちも同時に持っとるんや。」

「それを聞いてちょっと救われたわ。」

「話続けるわな。そんなフェミニストの中でも、特に名家、サラブレッドって言われとる家がある。おばあちゃんみたいなゼータの使い手は、家柄なんか気にせえへんけど、特に『ロミオ』系のフェミニストは、家柄を気にするんや。」

また聞き慣れない言葉が、一子の口から出てきた。

 「ロミオ系って何?僕も家柄なんか気にしたことないけど、そういうフェミニストもいるんやね。」

「一志は『タクシー』系のフェミニストやからな。『ロミオ』と『タクシー』については、後で別の人が説明してくれるわ。それで、その家は日本にあって、『高浜家』って言うんや。

ここからが大事やで一志。よう聞きよ。一志自身が、その、高浜家の血をひいとる人間なんや。」

「えっ!?どういうこと?僕は水谷家の人間と違うん?」

「もちろん水谷家なんやけど、『スライディング』って言って、高浜家の血をひきながら、別の家で生まれた人間なんや。一応、言葉の意味は、高浜家からスライディングで滑って、水谷家に来た、っていうことや。過去には、秀吉なんかも、高浜家の血をひきながら、木下家で生まれた人間やった。」

一子の話によると、家柄を気にするわけではないが、一志は、フェミニストたちにとって、とても重要な人物である、ということになる。突然の一子の言葉に、一志は驚きを隠せなかった。

 「でもそんなん、どうやって分かるん?」

「今はDNA鑑定もあるから、確実に分かるけど、そんなことせんでも、個人の能力を見てみたら分かることや。高浜家の人間は、特徴的やからな。」

「そうなん…。ちょっと信じられんし、そんな自覚全然ないけど、要は自分がフェミニストにとっての重要人物ってことなんやな。」

最初は驚いてばかりだった一志も、少し落ち着きを取り戻していた。

 「その通りや。ちなみに、高浜家の血をひいた人間は、男女問わず世界中におるんや。つまり、一志の親戚が世界中におるってことやな。」

「そっか…。みんなフェミニストのためにがんばっとるんやな。僕もがんばって、アイデア出さなあかんな。」

 「それについて、今から説明せなあかんことがある。大事なことやから、よう聞きよ。」

「分かった。」

一志は、気を引き締めた。

 

次の瞬間、一志は目が覚めた。どうやら、自分の頭の中で流れる世界にも、希望があるようだ。そう思って安心した一志は、とりあえず部屋着に着替え、夜が来るまで、時間潰しにテレビを見た。今日の名古屋も、扇風機かエアコンなしでは寝られない、暑い夜であった。一志はその後、眠りについた。そして、また例の世界が、一志の前に現れた。それは半分、夢のようであった。


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