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フラッシュバック  作者: 水谷一志
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第13章 ブルーマウンテン

第13章 ブルーマウンテン

 早いもので、もう9月だ。夏が好きな一志は、毎年この時期になると、少し寂しさを感じる。とは言っても、名古屋はまだ暑い。それに、一志の大学は、9月いっぱいまで夏休みだ。そこで一志は、夏が好きなこともあり、大学生になった時から、10月が始まるまでは、夏は続く、と思うようにしているのであった。しかし、朝晩の冷え込みなど、確実に、秋の気配が近づいている、今日この頃である。また、8月はギラギラ照りつけていた太陽が、9月は少し弱まったのを感じ、9月独特の日の光も、いいものだなと、高校時代は考えなかったことまで考え、一志は季節の移り変わりを楽しんでいた。

 そして、今年の夏で、この戦争は終わるのだろうか、でも、長い間続いてきたこの戦争が、そんな簡単に終わるはずもない、このままずるずると、泥仕合になっていき、もしかしたら一生かかっても、この戦争は終わらないのではないか、などの思いも、一志の脳裏をかすめるのであった。

 この日の一志は、サークルの夏合宿の終わりの会を、大学内のサークル室で行い、ちょうどそれが終わり、下宿先へと帰るところであった。一志は、家へと帰る途中、そういえば今年の合宿は、戦争に関して、いろいろなことがあったなと思い、例年との違いを、ひしひしと感じていた。

 そして、一志が下宿先のアパートに着いた瞬間、フラッシュバックが、一志を襲った。


 2008年9月1日、19時00分。一志が下宿先に戻ってくると、そこには、一子が立っていた。

 「一志がフラッシュバックを見だしてから、もう2ヶ月ちょっと立つわけか。月日が流れるのって、ホンマに速いな。おばあちゃんも、この、『クラインの壺』の時間の流れにも、だいぶん慣れてきたわ。

 それで、今日は一志にお願いがあるんや。今から、名古屋の風俗店に、行ってくれんか?…って、いきなり言われてもびっくりするわな。そらそうなんやけど、とりあえず、話は風俗店に行ってからや。机の上に、風俗店の名前と、地図を置いとくから、後で絶対に来てな。」


 一志は、フラッシュバックから覚めた。机の上には、一子が言った通り、『風俗店 令嬢サロン』という文字と、地図が置かれている。どうやら今日はここで、話があるらしい。

 一志は、今まで風俗店という所について、あまりいいイメージを持っていなかった。もちろん、男の子なので、少し興味のある時期もあったが、基本的に、この戦争に参加する前から、一志は性行為に関してそれほど興味はなく、お金を払ってそういうことをするのも、基本的には反対であった。それに、風俗店のような所は、暴力団などが経営している、というイメージがあり、一志は、こういう所に入ったら、法外な請求をされるなど、何をされるか分からない、というイメージを持っていた。

 そんな風俗店に、おばあちゃんはなぜ僕を呼び出したのだろうか?一志はいろいろ考えたが、答えは出なかった。また、風俗店という所は、性行為をする、という点では、ゼータ側に近いと見ることもできるが、もし暴力団関係が経営しているなら、ロミオということになり、一志の味方になる。一志は、この時点では、本当のところの風俗店が、敵か味方かさえも、判別がつけられずにいた。

 こうなってしまえば、とりあえず、地図に書いてある所に行くしかない、と一志は思い、初めての場所へ一歩踏み込もうとし、一志は、下宿先から電車で30分ほどの、名古屋の風俗店に、行くことにした。

 そして、30分後、一志は「風俗店 令嬢サロン」に着き、風俗店のドアを開けた。次の瞬間、本日2度目の、フラッシュバックが、一志を襲い始めた。


 2008年9月1日 20時30分。一志が着いた風俗店の中には、一子が立っていた。

 「よう来てくれたな、一志。今日も、一志に会わせたい人がおるんや。その人は、この風俗店で働いとる。それに、今日する話は、こういった場所でするんがぴったりやと思って、一志をここに呼んだわけや。じゃあ、利根川さん、自己紹介、お願いするわ。」

 紹介された、利根川という男が、一歩前に出た。体つきは大きく、ラグビー選手を思わせるような体格で、風俗店で働いているせいか、目つきも鋭いように、一志には感じられた。

 「一志さん、初めましてですね。利根川と言います。まずは、私の性格診断から、話しておきます。私は、東京無線です。つまり、一志さんと同じ、フェミニストです。私は、風俗店の店員で内定なのですが、こういう職業をしていても、根っからのフェミニストですよ。この件については、今日の本題になるので、後で説明します。そして、東京無線ということで、私は遅刻が苦手で、毎日同じ時間に出勤します。それ以外の行動パターンも、一般的な東京無線と変わらないので、説明しなくても大丈夫ですね。

 さて、本題に入るまでに、一志さんに質問です。この私の職業、一般的に見て、どう思います?もちろん、私がフェミニストということなど、関係なしですよ?」

一志は、利根川がフェミニストと聞いて安心し、質問に答えた。

 「あなたがフェミニストと聞いて安心しましたが、ここに来るまでは、『風俗店勤務の人は恐い』という印象を持っていました。」

「では、私のことを、『東京無線』と聞いて、どう思われました?」

「その恐さが、少しだけ和らいだ感じがします。」

「さすがは一志さん、分かってますね。まず、『風俗店勤務』についてですが、これは職業を聞くだけで、少し威圧感がありますよね。このことを、『パンチングマシーン』と言います。パンチングマシーンというのは、ご存知かとは思いますが、ゲームセンターにある、パンチの重さを比べるゲームのことですね。そのように、『自分の心をパンチされる』という意味合いで、『パンチングマシーン』と言います。これは、私の職業以外でも、例えばヤンキーを見て恐いと思ったり、見た目の派手な人を見て恐いと思ったりすることも含まれます。また、風俗店は暴力団と関わりがある、と思われているなら、前に説明のあった、肝試しも、感じるかもしれません。どちらにしろ、『恐い』という感情には変わりありませんね。

 ここまでは誰でも比較的、分かりやすいのですが、次の現象が比較的、分かりにくいです。これは、『揺り戻し』というのですが、私の職業を見て、『恐い』と思った気持ちが、私が『東京無線である。』と聞いた途端、少し和らぎます。この原因は、エレクトロニクスです。私も含め、東京無線は真面目な人間ではないですが、『エレクトロニクスを守る。』という習慣を持っているため、どうしても、少し『真面目』という気持ちで一瞬見てしまい、揺り戻しが起こるのです。そこで一志さん、こんな私と話す時には、どのように話せば良いですか?」

 一志は、少し考え、こう言った。

「あなたの職業を聞いて少しびっくりしましたが、冷静に、1人の人間として話すべきです。」

「さすが、模範解答です。これはロミオの『狙う』ですが、まず、パンチングマシーンを受けた以上、一旦背負って、へりくだらなければいけません。そして、その後、『東京無線』という揺り戻しが起こっても、それに惑わされてはダメです。『東京無線』というのは、建前の世界にはないですよね?それが原因で気を緩め、態度が大きくなったら即ボギーです。ここは冷静に、揺り戻しはなかったことにして、パンチングマシーンを受けた後、1人の人間として、冷静に接さなければいけません。一志さんなら、これくらいのことは、言われなくても大丈夫ですね。

 さて、本題に入りたいと思います。今日の本題は、ズバリ、『性行為について』です。」

一志は、利根川の言葉を聞き、少し身構えた。

 「僕は、女性を困らせるような性行為には、興味はありません。」

「一応、最後まで話を聞いて欲しいのですが…。もちろん性行為と言っても、ゼータのようなものではなく、あくまで自然なものについての話です。そして、これは言うまでもないですが、今から話すことは、男性にも女性にも当てはまることです。ちなみに、動物の間にも存在するので性周ではありません。今から私は、そのような性行為の種類について、語っていきたいと思います。」

一志は、利根川の言葉を聞き、少し安心した。

 「まずは、『ドランクモンキー』から説明します。ドランクモンキーは、主にロミオの人間が持っている、性行為についての考え方です。この考え方の基本ラインは、『いろんな子と性行為をして、気持ちよくなりたい。』というものです。」

一志は、その言葉を聞き、嫌悪感を抱いた。

「僕は、そのような考え方は好きではないですね。」

「そうですね。一志さんの考え方とは違うかもしれません。でも、これはゼータとは全く違います。まず、ゼータと違う1点目ですが、ゼータのように、女性に対する差別心は一切ありません。次に、2点目ですが、ゼータは女性ばかりを標的にしているのに対し、ドランクモンキーの場合、男性は女性を求めるのはもちろんですが、女性は男性を求めます。もちろん、一志さんの肌には合わないと思いますが、特にロミオを中心に、このような考え方の人がいることを、頭に入れておいてください。」

「そうですね…。」

 「次に、『MR・TAXIミスター・タクシー』です。これは、主にタクシーの人間が持っている、性行為についての考え方です。この考え方は、ドランクモンキーよりもさらに、一志さんには合わないかもしれません。基本ラインは、『あの子に手をつけたい。』、『あの子とエッチしてみたい。』というものです。ちょうど、男子中学生や高校生が、部活終了後に話をするような内容の、性行為についての考え方です。」

「そんな考え方は、さらに嫌ですね。」

「一志さんから見たら、やっぱりそうなりますね。ちなみに私は、この、ミスター・タクシーで、内定です。一応、この2つの考え方は、一般的なイメージの、『性行為』に近いです。ただ、この、ドランクモンキーとミスター・タクシーの2つは、フェミニストの間からも、『趣味悪い』と言われ、あまり人気がありません。もちろん、ゼータに対するフェミニストの感情とは、次元の違うものですが。」

一志は、その言葉を聞き、やはりそうかと納得した。

 「では次の説明行きますね、次は、『ポリネシアン』です。この考え方の基本ラインは、『夏になると開放的になる。』、『少しオトナの関係に…。』といったものです。これは、さっきの2つに比べたら、少しオシャレな感じがしますね。次は、『エロティック』です。これは、『大好きな人と、禁断の関係に…。』、『2人だけの、秘密の関係』といったものです。これも、どちらかというとオシャレな性行為についての考え方です。」

「なるほど。ドランクモンキーやミスター・タクシーに比べたら、女性にもとっつきやすく、いい考え方だと思います。」

 「そうですね。最後に、主にbluesや、一志さんのソリューションに見られる、『ブルーマウンテン』について説明しておきます。この考え方の基本ラインは、『~さん、助けて欲しい。』など、性行為で日常の嫌なこと、生きていて辛いことなどを紛らわす、といったもので、少しオトナな、そしてブルージーな内容のものになっています。」

「なるほど。本当に、オトナな内容ですね。まだ僕は若いのでよく分かりませんが、その考え方は、かっこいいと思います。」

「一応一志も、この、ブルーマウンテンで内定やで。あと、このブルーマウンテンは、ゼータ側の人間からも、人気が高いんや。そのことについて説明すると、まず、ドランクモンキーとミスター・タクシーは、ゼータ側の人間から見ても、『趣味悪い』って思われる。ゼータ側の人間は、性行為にそういったことは求めてへん。次に、ポリネシアン、エロティックは、確かにオシャレかもしれんけど、ゼータ側から見たら、全くの別世界や。そこで、ブルーマウンテンや。ゼータ側のみんなの考え方として、『ブルース』があるっていうのは、前に説明したやろ?それで、ブルーマウンテンは、横文字のbluesやけど、『blues+性行為』ってことで、ゼータ側の人間とも波長が合って、『かっこええ。』って思われるんや。ただし、これもマトリョーシカがあって、何も知らん人間は、フェミニストは性行為に興味がないか、あってもみんな、ロミオのドランクモンキーや、って思っとるけどな。」

「なるほどな。」

一子の説明が続き、一志は一子の言葉に納得した。

 「それでや一志、この、セントラルパークで戦っていくためには、『性行為』の要素も持っといた方がええ。ゼータと違って、ブルーマウンテンやったら、セントラルパーク側の人間も、フェミニストも納得してくれるやろ。そやから一志、これからは、ブルーマウンテンで、いろんな女の子と、定期的に、性行為をせえへんか?」

「それは、遠慮しとくわ。」

一志は一子の問いかけに即答し、きっぱりと「ノー」と言った。

 「やっぱり一志やな。そう言うと思った。ただ、『やせ我慢』やったら逆効果やで。セントラルパークの人間は、『同情はいらん。』が合言葉で、要は、自分の気持ちに反して、何かをすることを嫌うんや。」

「僕は、『やせ我慢』のつもりはないで。確かに僕は男やし、そういうことをしたい、っていう気持ちはないことはないけど、『この戦争に勝って、ゼータを止める。』って目的のためやったら、それくらいのことは犠牲にできる。僕は、いろんな女の子と、性行為をすることが、正しいことやとは思わへん。」

「さすが一志や。それは、『サクリファイス』やな。サクリファイスっていうのは、何かを犠牲にして、目的を達成するアイデアのことや。矛盾するような言い方をするけど、セントラルパークの人間は、『やせ我慢』は嫌うけど、『サクリファイス』はかっこええ、って思うんや。何でかっていうと、やせ我慢は、さっき言った理由やな。それで、サクリファイスやけど、これは『ある特定の目的のために、犠牲を払う。』っていう点で、やせ我慢と決定的に違うわけや。この、『特定の目的』っていうところが、ミソやな。それで、セントラルパークの人間は、『同情はいらん。』って言って、自分の欲を抑えることが苦手や。だから、サクリファイスを使える人間は、かっこええ、ってなるんや。もちろん、この、サクリファイスを使えば、性行為は必要ないで。ただ、その場合、『一志はアイデア重視で、人に興味ない。』って言われる。こういう言われ方をしたら、一志はどう対処する?」

 一志は、しばらくの間考えた。考えてみれば、『性行為がないと、人に興味ない。』という論理はおかしいが、それでも、なんとか対応しなければならない。

「『人に興味ない。』っていうのはおかしいと思う。僕は、性行為でのコミュニケーションやなしに、もっと本格的に、人と接することが好きや。」

「それだけでは一般論や。もっと具体的に、こういう状況でこうするとか、アイデア出して、それを態度で示さなあかん。一志、できるか?」

一志はそれを聞き、なんとか頭の中から、知恵を絞り出そうとした。

 「それやったら僕は、普段の状態の、人とのコミュニケーションも大切にしたいけど、特に有事の際の、コミュニケーションも大事にしたい。有事の時って、普段やったら隠れとるような、人間の本性が現れると思うんや。それで、自分自身は、そんな時でも、どんな状況下でも冷静に判断して、周りを動かせるような人になりたい。…どうやろ?このアイデアやったら、『人間の本性が現れる。』っていう点で、『アイデアだけ見とる。』っていうわけではないし、『どんな状況下でも冷静に判断できる。』っていうのもかっこいいし、この戦争で、このアイデアを使う機会もあるとは思うし、良くない?」

「その通り、それでええと思うで。理由も一志の言う通りや。あと、実はおばあちゃんがもう1つ心配しとったんが、『一志は人間のきれいな部分しか見てない、事なかれ主義や。』って言われることやったんや。それも、『人間の本性が現れる。』っていう点で、事なかれ主義ではないって、アピールできるからクリアや。

ちなみに、『有事の際に、どうするか?』っていう点を、主に、『その場でどう判断するか。』っていう点から見た考え方として、『バー』っていうもんがある。それで、実はこの、バーは、ソリューションの得意技や。もうちょっと詳しく説明すると、有事の際、例えば地震が来た時とか、その場でみんなで話し合って、『こういう風に逃げればいい。』とか、判断を下す場面があるやろ?その状況と、そういった考え方のことを、『バー』って言うんや。名前の由来は、高跳び系の陸上競技で、試技をせずにバーを上げるか、それとも試技をするか、判断せなあかん時があるやろ?その状況を引用して、『バー』って呼んどるんや。バーを上げるか、試技をするかを、瞬時に判断せなあかん、っていう意味合いやな。それで、この、バーは、迅速で正確な判断ができる、っていうことで、誰が見てもかっこいいアイデア、ってされとる。もちろん、セントラルパークの人間も含めてや。その要素が、『ロイヤルゼリー』のソリューションに、マッチするんやろな。だから、ソリューションを持った人間は、バーも持っとることが多いんや。」

「なるほど。」

一志は、自分の考えを褒められ、少し嬉しくなった。そして、利根川が再度、口を開いた。

 「ここで、少し話は変わりますが、説明しておきたいことがあります。1つ目は、フェミニストと、性格診断の相関についてです。よく言われるのが、例えばロミオの性格診断を、セントラルパーク側の、理解の少ない人間が聞いた時に、『それをフェミニストって言えるか?女は家。』と言われることについてです。なぜこういう風に言われるかというと、そういった、セントラルパーク側で、特にマトリョーシカの状態に陥っている人間は、フェミニストのことを、『女の子の、かわいらしい部分しか見ていない人間である。』という風に勘違いしているからです。確かに、一般的な女の子のイメージとして、『かわいらしい、かわいい。』というものはありますよね?マトリョーシカに陥っている人間は、その部分だけ見て、それ以外の、あらゆる性格診断を、『かわいくないから、女は家の側だ。』という風に、決めつけているのです。

 でも、実際は違いますよね?女の子だって、かわいいだけが全てではありません。怒ることもあるし、泣くこともあるし、それに、人間の汚い部分も持ち合わせています。だから、『かわいいからフェミニスト、かわいくないから女は家。』という形で、フェミニストかどうかを判別することは、根本的に間違いなのです。

 さらに、この考え方は、セントラルパークの人間の、『ブルース』ともつながってきます。セントラルパークの人間の大多数は、『ブルースは、かわいらしさがないから、『女は家』の考え方だ。』と考えています。しかし、実際はそうとは限りませんよね?先ほども言いました通り、女の子はかわいいだけがその要素ではありません。ですから、この考え方は間違いです。

 それではどうやって、フェミニストと、『女は家』とを見分けるか、という話になりますが、これには、一定の法則があります。それが、『フェミニン・スタイル』と呼ばれるものです。ちなみに、この、フェミニン・スタイルを、動物は全員持っています。

 この、フェミニン・スタイルは、とても難しい概念なので、すぐには理解できないかもしれません。とりあえず、簡単に説明しますね。この考え方の、最も大事な部分は、『地に足がついているかどうか。』という点です。

 分かりやすいように、まず、フェミニストでない、セントラルパーク側の人間から見ていきます。セントラルパーク側の人間は、フェミニン・スタイルの基準で言うと、地に足はついていません。なぜかというと、セントラルパーク側の人間は、『竹馬』という考え方で、生活しているからです。これは、観念的なものなのですが、セントラルパーク側の人間は、自分の本当の居場所は、地球上にあるのではなく、人工衛星のように、地球の外にある、と考えています。その理由は、セントラルパーク側の人間は、観念や人間の精神を重要視する考えを持っているので、地球上にある物質的なものを見ると、寂しく感じるからです。そしてこれは、セントラルパーク側の人間が、ファインダーを好む理由でもあります。要は、物質的なものではなく、精神の方を見ていたい、ということですね。そして、前に一子さんから説明のあった、ナブーも、この考え方に通じます。自分の居場所が宇宙にあるということで、動物にも親近感がわく、といったところでしょうか。

 しかし、セントラルパーク側の人間も、実際は、地球上で生活しています。そこで使われるのが、『竹馬』という考え方なのです。どういうことかというと、セントラルパーク側の人間は、地球上で生活する時、宇宙から竹馬を下ろしてきて、その竹馬に乗って生活している、という考え方をとるのです。つまり、『地に足はついていない。』ということですね。この竹馬も、観念上のもので、あくまで物質的なものを拒む点が、セントラルパーク側の特徴です。

 あと、リベリアも、この竹馬の考え方ですが、フェミニストです。ここは、場合分けですね。つまり、リベリアはフェミニン・スタイルを持っていませんが、フェミニスト、とうことになります。

 次に、フェミニン・スタイルを持っている側の人間の話をしますね。フェミニン・スタイルを持っている側の人間は、竹馬のような考え方はせず、精神だけでなく、物質も重要視します。そして、この考え方は、フェミニストのユートピアである、動物の世界に近いものです。地球上に本拠を置き、精神・物質を両方とも重要視し、地に足のついた生活を送る…これが、フェミニン・スタイルを持っている人間の生活スタイルです。もちろん、フェミニン・スタイルを持っている人間の中にも、性周の人はいます。その場合、どうやってフェミニン・スタイルを持っているかを見分けるかというと…やはり、竹馬を持っているかどうかですね。ちなみに、メン・イン・ブラック系の性格診断は、ナブーですが、竹馬は持っておらず、フェミニン・スタイルに含まれます。彼らは何といっても、物質を重要視しますからね。

 さらに言うなら、動物もそうですが、この、フェミニン・スタイルを持っている人は、女性の持つ、潜在能力を重要視します。例えば、PMの、デトロイトの場合は、『貞子』のイメージであると、前に説明がありましたね。このように、フェミニン・スタイルを持っている場合、きれいな部分、少し汚い部分も含めて、女性の持つセンスなり、力なりを重視します。これは、他の性格診断でも同様で、例えばタクシーの場合も、女性的な潜在能力を重要視します。つまり、タバコ1つとっても、女性が吸うタバコのイメージを、重要視する、ということになりますね。ちなみに、フェミニストの、bluesも、女性的な、暗さを重視しています。また、企業戦士にも、いわゆるキャリアウーマンのような、働く女性のイメージが当てはまります。

 さらに、ロミオなどの『狙う』ですが、これにもフェミニン・スタイルが深く関わっています。なぜなら、この、『狙う』は、地球上に本拠を置き、地に足のついている人が主に考えるアイデアだからです。実際に、クリアで物を見、物質も精神と同じように重要視している人間が考える『狙う』のアイデアと、竹馬の考えを持つ人間の『狙う』のアイデアとは、かなり違ってきます。他のアイデアもそうかもしれませんが、特に、『狙う』の場合は、動物のようなセンスが重要になってくるのです。この点で、基本的に、『狙う』を行うロミオやタクシーの性格診断は、フェミニン・スタイルを持った、フェミニストなのです。」

「なるほど。難しいですが、なんとなく分かりました。」

 「次はおばあちゃんからで、もう1つ説明したいことや。今回はこれで、最後にするからな。今から、一志らフェミニストの人間が主に持っとる、『アラーム』について話すわ。

 『アラーム』っていうのは、本能的に、自分が危険な状態にあるか、それともその危機的な状態から脱出できるかを、察知する能力や。これは元々、人間の原始時代に、自然の脅威から身を守る、っていう目的で、鍛えられた能力や。でも、文明化が進んだ今となっては、ロミオやタクシーでも、使う人はほとんどおらんようになったな。今でもフルに使っとるんは、それこそ、一志くらいやな。

 一志も、今まで、『アラーム鳴ってないぞ!』とか、言われたことあるやろ?その時に、アラームが鳴ったとしたら、はっきりと態度に出るから、すぐ分かるんや。例えば、アラームが鳴ったら、急に震えだす、とかな。そのアラームが鳴ってない、ってことは、その状況を、一志が自分の実力で何とかすることができる、ってことや。

 あっそうや、もう1つ追加で説明せなあかんことがあるわ。それは、一志を含めたフェミニストの、力の強さについてや。基本的に、フェミニストは、セントラルパークの人間に比べて、力が強い傾向にある。一志も、この戦争の1番最初の時に、宏弥君から、『力だけで勝とうとしてもあかん。』って、言われたことあるやろ?あの時の一志やったら、『明らかに宏弥の方が力が強そうやのに、何でそんなこと言うんやろう?』って、思ったかもしれん。でも、今やったら分かるやろ?実際に、宏弥みたいなゼータ側の人間より、一志みたいなフェミニストの方が、力が強いことが多いんや。ただ、ゼータを実際に使用すると、ゼータはものすごい力を出せるから、話は変わってくるけどな。ただ、この力の強さは、セントラルパークの人間だけやなく、フェミニスト側も、ほとんど気にしてないんや。『ないよりは、力の強さはあった方がいい。』程度に考えてもらったらそれでOKやと思うわ。

話が長くなったな。これでひとまず、今回は終了や。」


 一志は、フラッシュバックから覚めた。そして、自分が今いる場所に改めて気づき、すぐに風俗店を出た。周りの人間がどういう考え方であれ、自分は、不特定多数の人と性行為はしない。一志はそう、自分の中で誓った。店の外に出てみると、そこには快晴の、9月の夜空が広がっていた。


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