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フラッシュバック  作者: 水谷一志
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第1章 フラッシュバック

これは、この世界の本当の姿を知った、ごく普通の大学生が、この世界を良くするため、戦いを挑む物語です。

フラッシュバック 

                                水谷 一志        

   第1章 フラッシュバック

名古屋市昭和区。一志の通う大学から、歩いて15分くらいの所に、一志行きつけのラーメン屋があった。このラーメン屋は、安いがおいしいことで有名で、学生たちの溜まり場になっている。ちなみに一志の通う大学は、名古屋市内にある、某国立大学である。一志は高校時代、必死に勉強し、何とか大学に行くことができたが、これといった特技もなく、見た目もかっこいいとはいえない、ごく普通の大学生だ。ちなみに一志の地元は兵庫県の市川町という所で、「播州弁」という、関西弁の中でも特にきたないとされている方言を話す地域である。一志自体は温和な性格で、見た目もおっとりしているのだが、時折出る播州弁が、見た目と違い、ギャップがあっていいと、友達から言われたことがある。

 「ヘイ、らっしゃい。」

午後6時頃、いつものように一志が店に入ると、店主のおじさんが出迎えてくれた。

「カレーチャーハンと、塩ラーメン定食1つお願いします。」

一志はいつも通り、お決まりのメニューを頼んだ。今日は金曜日で、一志の頭の中は、週末の予定をどうするかでいっぱいだ。そんな中、席につき、新聞を広げると、北京オリンピックに関する記事が目に付いた。そういえば今月は6月、2ヶ月後の2008年8月には、北京オリンピックがあるなと思い、一志は記事を読み始めた。

 「いつもありがとね。ところでオリンピックなんだけど、誰を応援する?」

その様子を見た店主のおじさんが、料理を作る合間に、一志に向かって話しかけてきた。このおじさんは、気さくな人柄で、学生の間でも人気のある人である。

「そうですね~。やっぱり、競泳の北島康介ですかね~。」

「なるほどね。ヘイお待ち。ラーメンとチャーハンのセットね。」

一志は出された料理を食べながら、おじさんと他愛もない会話を楽しみ、店を出た。

 一志の現在住んでいる名古屋は、夏、暑くなることで有名で、この日ももうすぐ日が暮れるというのに、アスファルトから、熱気がじわじわと体に伝わってくる。そういえば一志は、6月でこんなに暑いのだったら、8月はどうなるんだろうねと、大学1年の時に、一志と同じく、田舎から初めて名古屋に出てきた友達と話をしたことがある。そのまま下宿先へ帰る気分でなかった一志は、近くのコンビニに立ち寄った。

 「130円です。」

一志は、コンビニで、いつもの冷たいコーヒーを買い、店を出た。名古屋の街を歩きながら飲むコーヒーは、格別の味だ。元々田舎出身ではあるが、都会志向の強い一志は、こういった、些細なことにも喜びを感じる。

 そして数分がたち、一志は下宿先についた。

一志の部屋は、下宿先の2階にある。部屋の中は、建物の構造上熱気が溜まりやすいのか、さらに暑く、エアコンなしでは生活ができないほどである。この日も鍵を開け、中に入った瞬間、まるでサウナに入ったかのようになり、汗が吹き出してきた。

「あ~。疲れた~。」

一志は癖になっている独り言をつぶやき、ベッドに飛びこんだ。今日は疲れているので、服を着替えず、一旦そのまま寝ようと思い、タオルケットをお腹にかけた。


次の瞬間、一志の目は大きく見開かれ、そして、一志は不思議なものを見た。それは夢のようで夢ではなく、かといって現実世界のこととも思えない。いわゆるフラッシュバックとは、このようなことを言うのだろうか。とにかく不思議な映像が、一志の頭の中を駆け巡った。この、フラッシュバックのような、「映像」なるものが、後の一志の運命を、大きく変えていくことになるのだが、この時の一志は、まだそのことを知らない。


2008年1月13日、未明。この季節の、太陽が出る直前のこの時間帯は、寒さで体がどうにかなってしまいそうである。一志はちょうど成人式の2次会で、地元、市川町に近い姫路市内のカラオケハウスにいた。特に仲のいいグループで固まり、騒いだ後、友達の車に乗って帰ろうとした時、同級生で、他のグループの宏弥から、ふいに呼び止められた。

「ちょっと待て。一志。こっちは話があるんや!」

宏弥が、いわゆる「播州弁」を使い、ものすごい剣幕で話しかけてきた。宏弥はいわゆるヤンキータイプで、背が高く、メッシュを入れた髪型に、ピアスを開けた耳など、派手な見た目である。噂によると、どこかの暴走族に入っているということであったが、真偽の程は確かめていない。とにかく、ファッションはキレイめ路線で、真面目なタイプの一志とは、外見も中身も合わないので、一志は宏弥とあまり話をしたことがない。

「いったいどうしたん?」

一志が、こちらも播州弁で答えた。

「ええもん持ってきたぞ。これで勝負や!」

宏弥は、その手にナイフを2本持っていた。そして、そのうちの1本を、一志に向かって放り投げた。一志は無意識に、それを受け取ってしまった。

「ちょっと待ってよ!こんな怖いもん、使えるわけないやんか。自分、暴走族に入っとるらしいからええかしらんけど、一般人を巻き込まんといてくれる?」

一志は気が動転して、少し早口めに、声を張り上げた。前を見ると、宏弥が、今にも襲ってきそうな形相でこちらを睨みつけている。

すると、それまで普通に立っていた一志の首が傾き、肩の力が抜け、目に力が宿り始めた。こういう状態のことを、世間一般では、「覚醒」と呼ぶのだろうか。

「やっと本性を現したな。一志、さあ来い!」

一志は覚悟を決め、ナイフの刃を出し、ファイティングポーズをとった。

「ひっかかった。そんな格好でナイフを出してバグ処理できる?ナイフは暴走族のもの。お前みたいな見た目の奴が持つものじゃない。」

今までの剣幕が嘘であるかのように、冷静に宏弥が答えた。そして、今までの剣幕に戻り、宏弥が吐き捨てた。

「力だけで勝とうとしてもあかん。失敗や!これで何もかも振り出しや!女は家。思い知れ!」

宏弥は、勝ち誇った表情である。話を聞いていると、一志の力が強いことを前提としてしゃべっているようだ。また、「女は家」とは、どういうことなのだろうか。この謎は後に解けるのだが、今の状態の一志は、まだこの秘密を知らない。

 「アラーム鳴ってないぞ!」

一志の近くにいた康樹が、大きな声で宏弥に向かって言った。康樹と一志は幼なじみの親友で、小さい頃からよく遊び、今でも一志が帰省する度に会って話をする仲である。ちなみに、背は一志より高いが、ファッションは一志と同じ路線である。

康樹が宏弥に答えたことを見ると、この一件には康樹も絡んでいるのだろうか。今の一志には、この状況がいまいち飲み込めない。

 「そんなん関係あるか!どう考えてもバグ処理できん。こっちの勝ちや!」

宏弥が言った。康樹は少し不安そうだが、一志を全面的に信頼しているようである。

 「一志、この状況分かるか?一志みたいな見た目で、ナイフを振り回しとる…。そんな人、誰か知らんか?いや、人じゃなくてもええんや。この状況を、一言で表せんか?」

康樹が訊いた。一志は、少しの間、考えた。

 「あっ、千原ジュニア!」

一志は答えた。以前、テレビ番組で、千原ジュニアが若い頃にナイフを持っていたという話を聞いたことがある。千原ジュニアのような、一見素朴な見た目で、ナイフを持っているという状況は、今の状況と、違和感なく合致するのではないか。

 「千原ジュニアやと?かっこいい。」

宏弥が言った。どうやら、「千原ジュニア」なるものを認めなければならないようである。

「さすが一志。この状況をうまく利用したな。」

一志は康樹にそう言われ、笑顔になった。

 「八百長や!気ぃ抜いたらあかん。地の利や!こんな奴、叩き潰したるわ!」

宏弥がやけになってこう言った。

「おい、卑怯やぞ!」

康樹がそれに答えた。ただ、この展開は予想できたようで、そんなに困惑はしていない様子だ。新しく生まれたこの状況を何とかしようと、康樹は思案していた。そして、一志に語りかけた。

「一志、気ぃ抜いてなかったか?抜いてないみたいやな。さあ、これからどうする?…まさか、そのポーズは、危険やぞ!」

ここまで状況が切羽詰まってくると、一志もさらに覚醒するようだ。一志は、宏弥に向かって、げんこつをしろと手招きした。一志はこの時点で、もう1段階上の覚醒状態になり、全ての状況を把握していた。

「ふん。アホやなあ一志。じゃあ、お言葉に甘えて…。」

宏弥が勝ち誇った表情で、一志にげんこつをした。

「これでボディーガードもおしまいや。HP減ったな。お前もこれから、ザコと同じや!俺はよう勝てんが、これで誰でも勝てるようになるぞ!」

「21354×56981は…。」

一志は宏樹に吐き捨てられた後、得意の複雑な暗算を披露した。康樹は、安堵の表情で、一志を見ている。

「ゼロ戦やな。かっこいい。」

このような計算ができる頭のことを、「ゼロ戦」と呼ぶらしい。もちろん今の状態の一志は、そのことを把握している。

 「あれ、おかしいぞ?しまっとけるか…。かっこいい!これを見せられると…。動けんわ。勝負は次回に持ち越しや!覚えとけよ!」

そう捨て台詞を吐きながら、宏弥は自分たちの車に退散していった。

 「また一志のあれが見れたな。ありがとうな。一志は俺らの希望の星や。」

 康樹はこう言って、一志を讃えた。


 次の瞬間、一志は目を覚まし、正気に戻った。さっきまでの、夢とは思えない、あまりにもリアルな映像のせいで、一志のベッドは、汗でぐっしょりと濡れている。部屋の中はいつもと変わらず、静まり返っており、もう辺りは完全に暗くなっていた。一志は、今しがた見た映像が、本当のことなのかどうか、その区別すらも、今の時点ではつけることができなかった。


僕の処女作品です。これから少しずつ、連載していきたいと思います。

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