第8話 再会
第二校舎グラウンドを目の前に、拓海の足が止まった。
普通科学長・黒羽銑十郎。
あの日、優斗を殺した男。
あれから三年間、俺たちは復讐するために力をつけてきた。
握りしめた拳が震える。
……まだだ。まだ早い。
拓海は空の都に行きたい気持ちを抑えて第二校舎へ向かった。
『続きまして、生徒会長による挨拶です』
アナウンスが流れ、四人の王が塔の中に戻ると、それと入れ替えに一人の男が現れた。
「第五十九代生徒会長・鬼灯蓮だ!武学科三年、称号はファイター、イケメンだ!」
数秒ほど学園中が静かになった。
拓海はグラウンドの入り口で足を止め、頷く。
「……あいつ、俺と同じ匂いがする」
「自己紹介おわり! いいか、この学園の秩序を守りたい奴は生徒会に入れ! 活動場所は空の都一階だ! 入りたいものは昼休み、武学科の食堂へ来てくれ! 手続きがあるんでな! 以上だ!」
「な、何だあの熱血生徒会長は……俺はてっきり巨乳美少女かと……。しかも食堂に来いって、あいつがそこで飯食ってるだけじゃねーの……大丈夫か?」
拓海は自分よりも頭が弱そうな生徒会長に同情した。
『以上をもちまして、入学式を終了します。お疲れ様でした』
——ウウゥゥゥゥゥゥ
今日三度目のサイレンが鳴った。
「……ユイ!」
「あ、拓海! おっそ!」
入学式が終わると、武学科の生徒たちは北門へ向かい始めた。
正門は西エリアにあるが、どの方角の門の近くにも駅があるため、学科によって普段使う門が異なる。
その中で立ち止まってキョロキョロ辺りを見回しているユイを見つけるのはそう難しくはなかった。
「拓海、お前どこで何してたんだ?」
「あぁ、ちょっと友達に会ってさ」
「ふーん、まぁ何でもいいけどアイス」
拓海は冷や汗を垂らす。
「……ま、また明日で良くないか?」
「何個までオッケーだ?」
ユイは完全にこれから買いに行くモードだ。
「おい、スルーされる質問者ほど見ていて切ないものはないぞ」
「……拓海、私をなめてんのか?」
「えっ、いや、なめたいのは山々何ですが……」
——ブチッ
目の前で何かが燃え上がった。
「アイスなどもういらん。代わりにお前の命を貰おう」
「え、ちょ、タイムタイム! 切れんなよっ!」
「黙れ。《シャイニングアロー》!」
ユイの頭上に百本の光の矢が現れる。
「変態に用はない。死ね」
全ての矢が一斉に拓海をめがけて飛んできた。
しかし拓海もこんな所で死ぬわけにはいかない。
「っまじかよ……《燕飛》!」
拓海は大きく空中へ跳躍し、全ての矢を回避する。
「図に乗んなよヤリチンが! 《チェイス》!」
拓海のいた場所を通り過ぎた矢が空中に向きを変え、直進してくる。
「はぁっ?!お前武学科じゃねーの?!」
驚く拓海に矢が近づく。
「でもさ、俺ってぼっちじゃないから」
拓海がニヤリと笑うと突然、全ての矢が砕け散った。
「だ、誰っ……」
——バサリ。
地面にユイが倒れこむ。
その後ろには黒髪の美少女。
「知ったような口を聞くのね貧乳さん。たっくんはヤリチンじゃない、童貞よ」
そしてもう一人、美少女の後ろから歩いてくる無愛想な少年。
「童貞相手にムキになるとは、なんと愚かな」
「真生ぉ! 凌汰ぁ! やっと会えた!」
二人の声はあまりに小さく、童貞本人には届かなかったようだ。
拓海は夢中で二人のいる場所へ向かって降りていった。