第7話 四人の王
直径およそ四キロメートルの巨大な円形の天ヶ崎学園。
北エリアでは武学科、西エリアでは聖学科、東エリアでは賢学科、南エリアでは普通科が活動しており、それぞれのエリアに王と称される統治者が存在する。
そして学園の中心にそびえ立つ、高さ五百メートル程の真っ白の塔。
七階にぐるりと輪上に広がる豪華なテラスがあるだけで、他には大した特徴もない。
学園内の有力者は全てこの中で暮らしており、関係者以外は容易には入ることができない。
天ヶ崎の全ての機能を掌握するその塔の名は、
空の都。
今、サイレンが鳴り止み、空の都のテラスに四人の王が現れた。
——北エリア 武学科 第二校舎グラウンド
テラスに出てきた人物が見えると、真生はほっとした気持ちで呟いた。
「……父上」
藍色と水色のみで仕立てられた華やかな着物。
左腰に携えている一本の刀。
見る者を圧倒する貫禄を持った白髪の老翁が手を挙げると、アナウンスが流れた。
『この時をもって入学試験及び学科判定を終了し、計九百名の天ヶ崎学園への入学を許可します。それではただ今より、天ヶ崎学園入学式を始めます。最初に、四人の学長による挨拶です』
真生の周囲には戸惑っている人もいたが、少しでもこの学園の仕組みを知っている者にとっては何も驚くようなことではない。
この学園の入学試験ではギフトに恵まれない大多数の人間は南エリアに入学し、恵まれた少数の人間は適性を見てそれ以外のエリアに振り分けられる。
要するに、全員合格。
『聖学科学長、白詰冬美と申します。みなさん、ご入学おめでとうございます。本学園には……』
「……ね、ねぇ凌汰、これ……」
「あぁ、だろうな……」
真生と凌汰は、西を向いて話しているのであろう聖学科の王の声に耳を傾ける。
『この時代において、聖学に長けた者こそがこの国の統治者にふさわしいのです。私と共に、この国を作り変えていきましょう!』
——オオォォォォォ!!
西側から雄叫びが聞こえてくる。
「冬美さん……」
真生は雪乃の母親の言葉に驚きを隠せない。
冬美の話が終わると、次に真生の父親が話し始めた。
『武学科学長の早乙女霊元だ。……力の無いものに用はない! 以上だ』
「……えっ……それだけ!?」
真生は思わず声をあげ、周りの人が真生のほうに振り返る。
「あ、あはは……」
照れ臭そうに頭をかく仕草がこの世のものとは思えないほど可愛かったためであろうか、真生を見た者たちの顔が赤く染まる。
「ふん、童貞どもが」
真生の後ろに立つ凌汰がぼそりと呟いた。
『賢学科の学長やってるライラック・シルバっていうネ、みんなよろしくネ』
東エリアの王は片言の日本語で話していた。
が、姿は見えず、アナウンスで声だけが聞こえてくるため、どうも賢そうとは思えない。
「ライラック・シルバ……どっかで聞いたことあるような……」
凌汰が記憶を辿っていると、四人目の王が話し始めた。
「普通科学長、黒羽銑十郎だ。若き新入生に問う。君たちの夢は何だ? 」
その瞬間、真生と凌汰の体に戦慄が走った。
——こいつ、あの時の……
黒羽銑十郎と名乗る男の声は、二人に三年前の記憶を呼び起こさせた。
優斗を殺し、闇に消えた男。
脅威の前にただ立ち尽くすしかなかったあの夜。
あの時Sと名乗った男は、普通科の教師だと言っていた。
三年経った今、王になっていることにも納得がいく。
——見つけたぞ。
真生と凌汰は黒羽の姿を隠している真っ白な空の都をにらみつけた。