第5話 雷の聖霊
――東エリア
「拓海、ここから第二校舎までは少し遠い。……それに時間がない」
「……お前が桜の木なんかに登ってたからな!」
やっとのことで試験官を見つけ、ギフトカードの提出を終わらせた拓海とユイ。
二人のカードは共に赤色に輝いていた。
ユイは東エリアの第三校舎の校庭でしゃがみ込み、目をつぶった。
「拓海、《ラン》は使える?」
「もちろん」
拓海は右足を後ろに下げ、つま先にギフトを集中させる。
「よーしユイ、競争だ。負けたらアイス奢りってことで」
右足で地面を蹴った瞬間、拓海を囲うように風が激しく吹き荒れる。
「そんじゃ、お先っ!」
拓海はユイを残して目にも見えないような速さで校庭から遠ざかっていった。
「詠唱なしかぁ、やるじゃん。てゆーか『よーいどん』とかないわけ? ま、私の方が先に着くけど。」
ユイは歩いて校庭の端に植えてあった木の陰に隠れると、小さく呟いた。
――《ライトニングサモン》
詠唱した瞬間、金色に光る大きな円形の結界が地面に刻まれ、目が霞むようなフラッシュが起こった。
「ユイ様、お久しぶりです。」
そう言って輝いた結界の中から現れたのは、どこかの国の貴族を思わせるような立派な燕尾服を着た金髪の青年。
「どうしましたか?」
ユイの背に合わせて体をかがめる姿はまるで執事のようだ。
「ルーキス、この学園の北エリアにある第二校舎のグラウンドまで急いで移動したいの」
「了解いたしました」
ルーキスと呼ばれた好青年は右手でユイの左手を握り、雲ひとつない空を見上げた。
「では、行きますよ」
ルーキスが左手を空に掲げると、目元まで伸びていた金髪が雷を帯び、少し逆立つ。
左手が少しビリッとしたが大したことではない。
次の瞬間、ユイは全身に風を受け、視界が真っ白になった。
数秒後、気がつくとユイとルーキスはグラウンドの隅っこに立っていた。
さっきまでいた東エリアの校庭よりも遥かに大きいので、目的地に着いたことはすぐに分かった。
グラウンドの中央では八十人ほどの人間がこちらに背を向けて整列している。
「感謝するわ、雷の聖霊さん」
「感謝とはとんでもない、お役に立てて何よりです、それでは」
雷の聖霊・ルーキスは笑顔のまま、眩い輝きに包まれて消え去った。
「さーて、拓海はもう着いてるかしら、先に並んでてもいいかな」
ユイは左端の列の一番後ろで周りを見渡したが、拓海らしき姿はない。
何やってんのよあいつ、そろそろ始まるわよ……。
拓海の到着を待ち、チラチラ左側を見ていると、反対側の方から二人ほど猛ダッシュで近づいてくる音が聞こえた。
「ん、拓海?」
ユイは少し列から外れ、息を切らしてグラウンドに到着した二人の姿を眺めた。
周りに並んでいる受験生たちの大半も同じ方向を見ている。
が、ユイはそちらに目を向けたことをすぐに後悔した。
「……リア充かよ、爆発しろ」
小声で毒を吐くユイの気など知らず、到着した二人は楽しそうに話しながら列のほうへ歩いてくる。
「はぁ、はぁ、やっと着いたねぇ凌汰」
息切れしながらも笑顔で話しかける黒髪の美少女。
「はぁ、敷地広すぎ、俺もう疲れた」
体は細めだが背は高く頭の良さそうな茶髪の少年。
二人が右端の列の最後尾に並び、列が再び静まると、校舎の後ろにそびえ立つ巨大な真っ白い塔からサイレンが鳴り響いた。
――ウウゥゥゥゥゥゥーー
ユイは少しだけ不安そうに左側を向く。
「拓海、あんた今どこにいるのよ……」