第2話 学園到着
——西暦二一二〇年四月一日 天ヶ崎学園正門前
「いっちばーん!!」
「わかった、わかった真生、お前が一番だから少しは自分の荷物を持ってくれないか。」
「……たっくん、大好きっ」
「っっっ、仕方ねーな、入試始まるまでだからな」
「やったぁ、さっすがたっくん!」
俺、音切拓海は可愛い子を愛している。
可愛いは正義だ。可愛ければ全て許されるし許してあげちゃう。
そして目の前で俺に笑顔を見せてくれる超絶美少女、早乙女真生。
どうして君はそんなにも可愛いんだ。
そんなこっちを見ないでくれ、ニヤけちゃうだろ。
あぁ、君は僕の天使だ。いつか結婚して幸せな家庭を築こう。
「……きめぇ」
二人の後ろから聞こえる冷え切った声。
声の主は鬼灯凌汰。いつもクールで頭も良い。運動もできるし女の子にもモテる。
でも俺的に言わせてもらうと、こいつはダメだ。てんで話にならない。
何がかと言うと、こいつ、女の子に全く興味がない。人生半分損してる。
こんなクズ野郎、こいつの他にいるのだろうか。
俺なんて女の子がこの世にいなかったら一日も生きていけない自信があるのに。
「おい凌、ならばマイスウィートハニーまおたんの可愛さを教えてやろうか」
「……いやいい。もう100回は聞いた」
すると真顔で答える凌汰の右手を真生がつかんだ。
「ねぇ、ねぇねぇ凌」
「なんだクソビッチ」
「雪乃がトイレ行くから待っててってさー」
「ん、分かった」
——ごおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ
二人分のリュックサックを背負った拓海の体が赤い炎に包まれた。
「雪乃が俺を呼んでいる、今行くぞ!」
凌汰と真生が止める間もなく、拓海はどこかに消えてしまった。
「……おいメスゴリラ、そろそろ手を離してくれ」
「あ、ごめっ。 ……ごめっくす」
二人が見つめ合う。
「……水タイプ」
「おぉー!やるじゃん!あたりっ!」
「……手」
「んもぅっ、シャイな男の子はモテないよっ」
「別にいい。」
「ホントにー?そんなんじゃ雪乃も振り向いてくれないぞー?」
「……別にいい」
「もうっ、ウソばっかり、でもその時はあたしが振り向いてあげるよっ」
「……ビッチ乙」
——その時、二人のズレた会話を止めるべく銀髪の天使が現れる。
「ごめーん、お待たせ〜」
「あぁっ雪乃ー、凌汰があたしにね、ビッチ乙とか言ってくるのー」
「……んーー、真生、多分それはね、凌ちゃんの愛情表現だと思うよ?」
雪乃の笑顔に真生の目が涙ぐむ。
「……愛情、表現?」
「うん、だから気にしない気にしない」
「わぁ〜、ありがと雪乃ーっ」
——トイレから戻ってきた可愛すぎる天使は、天然だった。
「どいつもこいつも……。つーかあのエロ猿、雪乃のとこ行ったんじゃねーのかよ」
凌汰が二人の美少女の意味不明な会話に呆れ、近くにいる受験生たちを観察していると、学園の中央に立つ真っ白な塔から年老いた女性のアナウンスが流れた。
『入学を希望するすべてのものに連絡します。ただいまより天ヶ崎学園入学試験を開始します。近くに立っている入試運営役員からギフトカードを一枚受け取り、各自でシンクロしたものを役員に提出し、入学先の学科判定を受けなさい。その後、役員から告げられた所定の場所へ行き、待機していなさい。くれぐれも不正行為のないように速やかに行動しなさい』
——ウゥゥゥゥゥゥーー
試験開始のサイレンが鳴り、すべての受験生が動き始めた。