表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

踊れない

作者: よしき
掲載日:2007/05/16


それが社交ダンスと呼ばれている事はネットに接続すればすぐに判った。


フロアを滑るように踊るその2人は輝き、私の中に何かをスパークさせる。


…もしも。


私が踊ることが出来たら、あの方は私と踊ってくださるのでしょうか?


私は自分自身が規格外の故障品だと気づき始めていた。






眠りにつくあの方の枕もとに小さな機械の箱が置いてあった。


最近宣伝し始めた商品で、夢を自在に操ることが出来るというドリームプラス。


私は何も問わなかったけど、あの方は精神安定剤みたいなもんだ、と笑って仰った。







もしも、このコネクターを繋げば私にも夢を見る事が出来るのでしょうか?


また私の中に不可解なスパークが走る。


私は自分の中に理由も見出せないまま、衝動的にコネクターを差し、接続を開始した。








狭い仮想空間の中、あの方はすぐに見つかった。


TVで見た女性の動きをデーターの中からトレースしながら、もっともらしく駆け寄る。


驚いた顔をするあの方傍へ近寄り手を取る。


データーを瞬時に書き換え、出来る限り本物らしいスーツとドレスとダンスフロアーを出現させた。






颯爽と私の手を取り、あの方のリードに合わせて足が滑り出す。


右へ。


左へ。






蓄積されたデーターは完璧で、私がしくじる事は無かった。


光り輝く硝子の大きな照明や、様々な手法で奏でられる音階に何も感じる事は無い。


私は元々そう出来ているから。






でも。


あの方の手が触れた先から。


あの方の笑顔が。






私の中に大きな混乱を招き起こす。


まるでどこかショートした時のような、それでいて不快でない感覚。


それは私の中に今まで存在しなかったデーターだった。







時が過ぎ、夜明け前に接続を中断した。


電圧の低下。


充電が必要だ。


パワーステーションへと向かいながら、さっきのデーターを呼び起こしてみる。


何度リピートしても理解できず、その都度スパークが発生する。


もう一度それを体験したくなり、私の足はステップを刻もうとする。


しかし各関節の曲がり角度が足らず私は転倒してしまう。


現実世界でそうなる事は十分想定内だったはずなのに。




電圧がドンドン下がってゆく。




消えてしまう前にデーターのバックアップを始める。




その中にいくつも必要のない不思議なデーターが見つかる。





私はそれを排除する事が出来なかった。






理解不能。







私が私を理解不能。







電圧が…。








プツン。
















Akatuki Engin Start



再起動中……。



Shinonome Co.



介助アンドロイド「Yuria2.18」起動








「おっ、目が覚めたね。びっくりしたよ、瑠璃が倒れてるなんてさ…。」


あの方が私を覗き込んでいる。


充電切れを起こした所まではデーターに入っていた。


「申し訳ございません。ご主人様。」


データーベースがもっともらしい文章をピックアップし音声で伝える。


あの方は大きくため息をつくと、何故か私の頭を撫でた。


「それより今日は休んでおいで。いい子にしてるんだ。」


どのみちあと5時間は充電で何も出来ない計算だ。


私の音声発生装置はまたも「申し訳ございません。」と告げた。


「じゃぁ行ってくるよ、瑠璃。」


「はい、行ってらっしゃいませご主人様。」


何故か。


あの方の触れていた部分から熱が冷めてゆくほどに。


理由も無くあの方のデーターを激しく検索していた。










ホームセキュリティーに接続する。


家の内外の映像と音声を監視することが出来る。


キッチンから冷蔵設備の音。


外からは車の音や、どこかの家のエアコンの音。


あの方の部屋の電脳が稼動している音も聞こえる。


それを聞くと私は普通の状態に戻れる。


何の変哲も無い、平らかな私になる。









私には音楽が理解できない。


私には踊ることができない。


私にはあの方の言葉が時々理解できない。


それは私にその機能がないからだ。




何故私に音楽を、踊りを、言葉を理解する機能を付けてくれなかったのだろうか?


何故私はこのような疑問を持っているのだろうか?


データーを見ればそれは理解できる。


私は壊れてしまった可能性がある。








でも。




あの方ともう一度。




踊りたい。




あの方と踊りたい。




踊りたい。




踊りたい。




でも私は…。






…私は踊れない。








<終>







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ