嵐の中の訪問者
真夜中に鳴り響く時計の音色の中、
煩悩の過去の断片との手探りの夜だった。
真相への唯一の頼みの綱である古い絵画に意識を集中し凝視しながらも、無慈悲な時は、刻一刻と過ぎて行く。
やはり、何時と同様に何の収穫も無かった事に溜め息を漏らし、己の情けなさに消沈すると、絵画をナイトテーブルの引き出しに戻し、項垂れるようにしてベッドに身体を凭れた。
静寂を嫌う嵐の晩に、僕は睡魔に誘われるようにして重い瞼を閉じる。
ザザザザーーーーーーーーー…。
豪雨が微かに耳に聞こえる。
意識が現実から離れて夢へと紡ぎを初めていた時であった。
コン…コン………。
…………………………………??
猛風吹と雨音の中で、遠くから金属製のドアの扉を何者かが叩いている音が僅かに聞こえて来たのだ。
金属製の扉と云えば、玄関のアルミ製扉より他は無い。
まさか、 こんな嵐の夜に満潮で孤立した孤島で訪問者などが来る筈は……やはり、無に等い…。
僕は、単なる空耳なのだろうと思い再び深い眠りの森へと迷走した。
コンコン…コン。
…………………………コンコン!コンコンコンコン!!
一層激しさを増すその音が、緊迫感を連れていた。
やはり、誰かがこの館の玄関扉の前で僕を呼んでいる。
僕はベッドから飛び起きてガウンを羽織うと、 ランタンを片手に持ち玄関へと向かった。
幻影の月明かりに包まれた廊下を再び歩き、玄関へと向かうまるで長い闇の道程を歩く。
長い廊下のウォールナットの床材と漆喰の壁面は、ランタンの蝋燭の灯火と月光の危うく揺れ蠢く姿を従順に写し出していた。まるで、鬱屈で繊細な僕の心情を投影でもしてるかのように………。
(僕は、あの心境が何時だって嫌いだっただ…………。だから………。)
闇を背負い、不安と共に足を急ぐ。
アルミ製の玄関扉の前にとうとう辿り着くと、その扉板が見知らぬ客人が拳で叩き僕の不安を誘発する根元だと確信した。
この嵐の夜にこの時計館を訪れて、僕に玄関扉を開かせる事を望んでる人間が居る。
単調だったノックの音は、今では強風と豪雨より忙しなく煩くなり、僕の孤独で頑なな都に訪れた招かざる客人と対面しなければならない時が間近に迫っていることを自覚すると気が重くなった。
もし、この小さな僕の唯一の「世界」を脅かしに来ようものなら、僕は この衰弱の中で震える心と甲で客人を拒絶する権利が有る。
─────僕は覚悟を決めて、開錠し重厚な玄関扉を開いた。