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僕の中に眠るジョーカー

僕は忙しなくイーゼルをたたみキャンパス

と画材道具を両脇に抱えて、デッキに隣接

したステンドグラス製のテラス窓へと足早

に向かった。


ーーーーーーーー雷が轟き稲妻が光る。


と同時に、雨で視界が遮られる程の大量の

雨粒が激しい音を立てて地面に弾けた。


室内に入り込みテラス窓を勢いよく閉めクレモンボルトを落とし、ほっと胸を撫で下ろす。


そして、画材道具とキャパスを床の一角に置いてから、 ダイニングに置かれた大時計の短針と長針に視線を向ける。


1時59分…………。


現時刻を認識した途端強い睡魔に自覚した僕は、創作で酷使した眼精疲労を緩和しようと眉間の下を指で押さえながら居間を後にし、寝室へ繋がる廊下をとぼとぼと歩いた。


廊下の石畳の床と漆喰壁は、一定間隔に設置されたはめ殺し窓から、荒れ狂う夕闇の中で揺れる僅かな月光を落としている。


挿絵(By みてみん)

僕はまるで異世界へと続く幻想のトンネルを通過している様な錯覚に陥っていた。


そのトンネルを抜け唐戸の前にたどり着くと、

ステンレス製のレバーハンドルを回す。



ギィーーーーーーーーーーーーーーーーイイ………。



唐戸の重量を一身に支える平丁番の軋む音が響く。


寝室に足を踏み入れると、右側の三路ス

イッチに手を伸ばして淡い白熱光源のシェ

ル状にデザインされたシーリングライトを

点灯した。


コルクタイルの床面を踏み締めながら壁面に備え付けられた紫壇の背の高いヘッドボードを持つクイーンベッドに腰を下ろし、ベッド横に備え付けられたナイトテーブル上のシェードランプを点灯してから全般照明を消灯する。


そして、いつものようにナイトテーブルの引き出しを開けて一枚の紙切れを引き出した。


黒地の画用紙に四人の顔が真っ赤に塗り潰された家族の絵。


忌まわしい絵画。

忌まわしい幼き頃の無力な僕の落書き。



これを、手に取る度、家族を失った暗い過去の

惨劇がフラッシュバックする。


震える手を片手で支えながらも凝視する。

忘れては成らない僕の一部を。

忘れては成らない、僕が亡霊と成った悪夢の日を。


(僕は、僕は、あの夜に一体何を目撃していたんだ?)



あの日 まさか僕の人生に、忌々しく淀んだプレゼントを贈呈してくれるなんてサプライズが想定内に有る余地も無かった無垢で幼い八歳の僕にとって、

この事件との遭遇はその後の僕の人生に暗く

無機質で歪な闇を形成させた。



例の事件以来、 当時の幼き僕はこの事件により家族が酷い死骸へと堕落するまでの経緯を一部始終目の当たりにしてしまった事がトラウマとなり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し重大な事件精細の記憶は断片的でかつ不鮮明なものへと変貌する。




よって八歳にして重要参考人で有りながら悪夢の惨劇の唯一の生存者でも有った未熟な僕は、記憶を失い精神も頑なに閉ざした事で事件解明の鍵となる証言も何も伝えられなかったのである。



その後、事件に関連する物や現象を目の当たりにすると、 事件に抱いた辛い心境が鮮明に甦り悲痛の発作を起こした。

又、 その元凶を招いた残忍な容疑者が今も尚何処かで息を潜めて生活しているという現実は僕の人生観を閉鎖的なものへと変える。


未だ真相が未解決である数年前に起こった、僕の一家の惨殺事件を、僕が蒸し返せば僕は僕のトラウマを抉り多大な苦痛を伴う事と成る事は自覚してはいるが、やはりあの出来事の真相の謎を解き放ち、それに直面し自ら向き合う事でしか、僕の人生の闇を 救う術も無いのだとも確信していた。


だから、月日を経過した今も尚、事件の真相解明の唯一の手掛かりと成る【記憶】を呼び覚ま為に、こうして事件に関連するこの絵を僕は眠りにつく前に凝視する必要性が有ったのである。



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