覚醒されても尚
「うあぁああぁあぁあぁーーーーー!
気が付くと僕は、絶命して変わり果てたアリスを抱き締めているこの現状とこれに到った経緯を呑み込めもせずに、絶望的な悲鳴を上げていた。
そして、涙で滲んで霞んでいた視界がそこで前触れも無く切り替わる。
視点もよく定まらず霧隠れの中の様に機能しない不鮮明な視覚と思考の中で、切り替わった景色の周囲を僕は必死に認識しようとした。
其処は、闇の色彩に包まれたアンティーク調の室内で、暗黒をまるであやすような柔らかくも重々とした時計の秒針の音が響き渡っている。
見慣れた部屋。
ーーーーーーー【僕の部屋】
耳馴れた音。
ーー今は亡き父親が製作した壁掛け時計の秒針の【音色】
・・・また、夢か。
覚醒しても尚、悪夢の余韻で二日酔いみたいに回らない頭を冷やす為、僕はブラックコーヒーをいれようと汗ばんだ体を倦怠的にベッドから起き上げてダイニングキッチンへと向かう。
深夜の静まり返った居間では、寒気を感じさせる程の冷気に包まれていたが、たっぷり含んで湿った寝着により殊更その寒気に拍車を与えていた。
僕は、鳥肌を立て身震いをしながら小型タイルで装飾されたフロアキャビネットからカップソーサー取り出しコーヒー豆と熱湯を注いでダイニングテーブルへと運ぶ。
そして、背の高いダイニングチェアに鈍より腰を下ろすと何時にも増して苦味を覚えるコーヒーを口に含んだ。
ふと、霧がかった小雨を映し出す格子窓の景色へと視線を落とす。
何時も夢に出てくるアリスという女は一体誰なのだろうか?
支離滅裂で不可解な夢のシナリオになんて意味を見出だすものでは無いのだろうが・・・。
どうしても、脳裏からこの女の存在が悪夢の惨劇から解放されても消えなかった。