午後の迷走
殺風景な午後だった。
温かな午後を象るあらゆる要因には欠落が無かっ
たが、私の心境が何とも質素で感情的で無かった
故に殺風景さを覚えた。
それは、私の心境というレンズが写し出した一つ
のフォルムだ。
柔らかな日溜まりと木漏れ日、小鳥の囀ずり、ベ
ルガモットの紅茶の上品な薫りに部屋が包まれる
と大抵の人間なら殺風景な午後なんていう
表現はしないだろう。
その理由を疑問視する事も無く、今までは殺伐と
受け入れててきたがふと気になった。
私は街行く群生を形成する人々とは恐らく違う何
かを心で抱えているような気がしてならない。
それを、追及する術を思い付かなかっただけでは
無く、そうする事をタブーだとする拒絶願望を心
の奥深くで感じたからだ。
(これは、 開いては行けないパンドラの箱なのかもしれない )
そうやって私の中で眠る過去や真意に思考が触れ
かかれば恐れの様な切迫した緊張を呼び起こすの
だった。
私の心には、何かの理由によってぽっかりと穴が
空いている。
まるで、探索すれば私自身を丸々呑み込んでしま
う程に深い暗黒が。
正午の木漏れ日を落とす窓硝子の格子を指で擦る
と溜め息を洩らした。
ベルガモットの薫りが何時に無く鼻に付く。
窓際の椅子に腰を落として目を閉じた。
再び悪夢に魘されない事を願いつつ。
ジリーーーーーージリーーーーーージリー
リーーーーーー。
玄関の向こうでけたたましいベルの音が響く。
そして私は 、穏やかな眠りを妨害しようとする現
実の悪夢そのものと対峙する事を悟り、重い腰を
上げた。