007 『獣耳の少女』
「さて、何から話そうか?」
彼女の家だという繁華街近くの豪邸に案内された。その応接間らしき一室のソファで祐樹と霧香、そして風見が向かい合って座っている。
口火を切った彼女に問いたいことは山ほどある。だが、まずは、
「あれは俺が標的だった。それは間違いないよな?」
「そうだね。間違いない」
風見の首肯に祐樹は安堵する。霧香に危害が加えれらる可能性は口封じを除けば少なそうだ。それに、口封じならあの場で殺すのが最も手っ取り早い。それをしなかったということは、そうする必要性が少なかったから。
「二つ目、いいか?」
「ああ。なんでも聞いてくれ。知りたいというのなら教える。君には知る権利があるからね」
「権利?」
「ある意味、義務と言い換えてもいい。本来なら、物心ついた時には教えられていた事だろうから。そして、君の生まれを考えるなら、知らない方が異常でもあるからね。で、二つ目って?」
聞き捨てならない言葉を聞いた気もするが、それは追々訊いていこう。それよりも、
「俺の夢にあいつが出てきたことがある。オルカという名前もだ。ということは、俺の見ていた夢は現実にあったことなのか?」
「そうだね……その夢の詳しい内容を知らないから何とも言えないけど、あの二人がまともに出会ったのは戦争の最終局面。オルカ率いるシュベルティア王国軍がファレンスへ侵攻を果たした際だ。その夢だというならば、まさしく過去にあったことだよ。無論、この世界での出来事ではないけどね」
長いセリフを一息に言い切る。そのタイミングで、応接室に入ってきた人物がいた。
「風見様、お茶をお持ちしました」
ワゴンを押してそう風見に語りかけたのは、メイド服の少女。短い水色の髪に同色の瞳。しかし、最も目を引いたのは彼女の頭頂にあるものだった。
「獣……耳?」
そう呟いたのは霧香で、なんだか凄く嬉しそうだった。
「ええ、お客様。わたしはレイと申します。見ての通り、人間ではなく、獣人族の者です」
丁寧に一礼した少女に霧香は少し慌て、
「あ、これはどうも丁寧に。わたしは新城霧香。えーっと、学園で生徒会長してます」
「霧香様、とお呼びしても?」
その問いに霧香は強く首を横に振り、
「呼び捨てでいいから。それが気になるようなら、せめてさん付けにして」
「そうですか。では、霧香さんで。あっ、新城祐樹様については存じておりますので、自己紹介は結構ですよ」
「ん? ああ、雅からか?」
風見に自分のことを話していたなら、その付き人風のレイの耳に入っていても不思議はない。
「ええ、雅様から聞いておりますので。祐樹様とお呼びしてもよろしいですか?」
「俺もせめてさん付けがいいな。様はさすがに」
「そうですか……では、祐樹さんで」
少ししゅんとして、レイが頷く。
気を取り直した彼女はお茶の給仕をはじめ、その間は風見も黙っていた。
給仕が終わり、レイは一礼をして出て行く。彼女を手を振って見送った風見は、一度咳払いをしてから、
「では、話の続きをしようか」
そう、促した。祐樹もそれに同意する。
「結局、奴の狙いはなんなんだ?」
「それは……正直僕にも図りかねるけど……」
難しい顔になり、紅茶を一口すする。立ち上る湯気に目をやりながら、
「僕が君たちの会話を聞いた範囲では、オルカ自身に用があるようだったけど」
それでも結局のところはわからない、とそう言った。
しかし、オルカに用があると言われても、祐樹は祐樹だ。過去がどうあれ、そこは変えようがない。
「もしかしたら、過去の決着を付けたいという話かもしれないけど……それにしては動きが不穏なんだよね」
「不穏? なにか他にしてるのか?」
「確証はない。けど、彼だとしたら納得できる」
もう一口紅茶を飲み、ソーサーに戻してから足を組んで、
「ここ最近の行方不明者だよ」
そう、愁いを帯びた声で言った。そして、祐樹は数日前の新聞の地方欄を思い出す。
「確かに、ここ最近若者を中心とした行方不明が増えていたりするようだが……それがアーデルの仕業だと?」
「さっきも言ったけど、確証はない。第一、僕が彼の動きを掴めたのはつい先日で、まだ情報が乏しいんだ。だから、正直な話をすると、彼について答えられるのは過去についてを少しぐらいだよ」
「そう、か」
まあ、そうだろう。彼女だって今起こってる事象全てに精通している訳はない。当たり前の話だ。
「だから、僕は君にまつわる他の話を詳しくしたいと思う」
そう、風見は少し陰のある表情で言った。




