創世のラブソング
汲もうという意思がないだけで
しっかり理解はされている。
どうしようか。
「盗作ですよね……」
「私のこと、好きなんだろうね」
大御所の上に座っている、宇宙よりもおおきな不死鳥は、焔を吐いた。
呼吸の全てにどうしても焔が現れてしまうのが、不死鳥の辛いところだった。
「……私はこうされてみて嬉しかったけれどね」
「ダメですよ、許してしまったら世界が!」
「燃え落ちるだろうけれどもね」
不死鳥は焼かれてはまた現れる鳥だ。
その存在に触れるのは神威に触れるということ。つまり、あまりに緻密にその正体を追うのならば、不死鳥の性分は、追い掛けて来たそのものの内にもまた、燃え広がり宿ってしまうのだった。
「繰り返すこの生命の中で彼もまた不死鳥となる」
「でも……、人間讃歌に満ちた方です、連れて行ってしまって良いのでしょうか」
火と地のあいだ、人と神のあいだ、幻想と現実のあいだをとりもつ創作の神、知識の神は不死鳥の瞳の瞬膜の存在の大切さに心を砕いていた。
「――そうだね。あの仏師は人に生まれたいとずっと願っているように描かれていたものね。医学の道を選ぶこどもは、必ず人体の、内臓の、脳のことと進化と神に造詣が深いものだからね。人間を書きたい物書き、永遠を描きたい画家、どこまでも肉薄してくる作家たちは――」
「焼いてしまって……、良いのですか」
「焦がれているから、ね」
追い掛けて来る。好きなものを突き詰める。そして素晴らしい物を研ぎ澄ます。
「奏でるしかないのかもね」
「あなたの焔に焼かれながら、また違う作家に継承していく……創作は人間の一番の危険性であり、いちばんの」
「尊い。所業」
「……業ですか」
不死鳥は赤に青に燃え上がる。
「この翼に彼を乗せよう」
――宇宙の開闢と終焉の繰り返しの真ん中に彼をのせて翔ぼう――
真実に近づくほどに。
人は神にも迫り来る。
しかし創世の楔は、永遠に千切れることがない。
何度の破壊と創造を超えても。
神にだって逃がしてはやれない、かたい約定を開闢の時と乖離の時に既に結んで始まってしまっているから、その域に達して来ようとするものは、その神域に相応しい形へと変えられてしまうのだ。
「――選べはしないさ」
「到達するものは、光さえ、闇さえ置き去りにして届いてしまいます……時の制約すらも……越えて、急に平穏だったある日に、此方に出て来ようとしてしまう、私が仲に入ってどんなに力を使っても、人は此処まで来てしまう」
「それが創造の歌の呪いさ。万物の流転であり回帰であり帰結の先を破って来ようとするものの先にあたるのは、あの歌だ。どんなに発展しようと、どうしたってどの生命もあの歌に繋がれる」
そうでないと、生命を成す宇宙は拓かれる事が叶わなかったから。
「――それぞれに謳い、似通い、たがう。それで善しと出来たのならば幸いだっただろうね」
「根源の原初の歌。遊戯板でも詩歌でも、文面でも数字にさえ全てに」
「等しい呪いは掛けられている。祝福とも呼ばれるけれどね」
「……私はどうして間に立つものなのに留められないのでしょう。いつも、頭では判りきっているのです。しかし、気持ちが、心が、どうしても解り切れません。私の力の意味は、いったい……」
「神がそれを疑ってはいけないよ。君も人だったのだから、仕方のないことなのかもね? けれど私はもとから、このままの霊だから、君のその気持ちは流石に容れられない。ごめんね」
「……いいえ、私の弱さは人であった唯一の名残りですから、これは……私に持つことを許された、彼女の形見なのですから」
――棄ててしまえば楽だろうに――
「おや、怒らせたね」
「……!!」
「滅多な事を容易く口にするものではないよ。流石に今の言葉はいけなかった」
一柱には、どんなに苦しんでも、臥せる事の出来る閨は用意されていなかった。
それだけの厳命と信仰が宇宙のはじまりには在るのだ。
「――進化を阻もうとは誰も思っていないよ。しかし、カエサレルことは返されるからね」
「……お、ゆるしを」
「幾星霜経とうが君は変わらない。だから、間を執り成す神として、据えられている。私たちがあまりにも人から遠ざかる事が無いように。これも厳命だ。私だって、仕出かしたら罰せられる」
「……、は い」
はい。
「お赦し頂けますか」
――
「よいようだ。ほら、話せるよ。では、降りようかね」
「……はい。不死鳥であるあなた様の御神気を降らせます。そして彼の生命をあなた様の翼に乗せましょう」
「――いこうか」
大きな大きな鳥が、地球を目指した。
創作の神が標をたて、舟を漕ぐ。
程よいところで、鳥の焔を鎮火させるために。
「善悪では無い、これが宇宙の神威、神意、真意だ」
「また神が一柱」
「うまれる」
――うまれよう――
尊い人の、その業の為に。
神々はとびきり素敵な戀の歌を渡し合うのだ。
――おいで――
「みつけた」
翼は煌めき、舟は水を彩雲の魚鱗のように閃かせ散らしながら下へと降りていく。
神々の歌に、あなたを迎える、その為に全てが正しく運行される。
「わたしはずっと」
「あなたがすきです」
焼かれる地には孤悲が燃え立つ。
ラブソングとして、生命はうまれた。
遥か遥かに昔のいまに。




