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致死率100%の事故物件に住んでみた【えっ! この部屋で一週間過ごすだけで〇〇万円!? 女子高生心霊バイト】  作者: 日原夏至


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第30話 7日目

7日目。月曜日。


 怜司が帰った後、乃亜は午前6時までファミレスで過ごしてからマンションに戻った。怜司に言われて、自分でも薄々感じていた事が現実味を持ってのしかかった。


 私は、既に呪われているのかもしれない。


 604号室に入ると、それはほぼ確信に変わった。

 リビングのドアを開けると、男が立っていた。長い髪を垂らし、俯いている。ボロボロに破けた服、痩せこけた土色の皮膚、白く濁った目……おまけに顔の半分は獣に食いちぎられて、歯茎が剥き出しになっていた。この状態で普通に生きている方が驚きだ。


 部屋の中は爽やかな深緑の香りと腐臭が混じった、微妙な……いや、腐臭が圧倒的に勝った不快な匂いがしていた。


 乃亜は驚かなかった訳ではない。しかし、男の霊は立っているだけで、動く様子もなかったので、乃亜は横を通り過ぎると和室まで行って着替を済ませた。部屋の真ん中の畳がズレて重なっている。昨日、男の目がのぞいていた場所だ。

 乃亜は、思い切って畳をひっくり返した。畳の下はフローリングの床になっていて、中央に黒いシミが出来ていた。昨日の斧を持った男と、バラバラになった女が頭に浮かぶ。

 きっと、ここで起きた事件を隠すために、和室に模様替えしたのだろう。廊下に出ると、寝室のドアに貼られた札が破れかけていた。周いの札も黒ずんで剥がれかけている。乃亜は溜め息をついた。



 学校の最寄駅で電車を降り、改札を出ると小春の後ろ姿が見えた。

「おはよう! 昨日は楽しかったよ」

 肩をポン、と叩くと小春はゆっくり振り返った。


「……おはよう、乃亜」

 明らかに顔色が悪い。目の下に大きなクマができている。

「どうしたの? 具合悪い?」

 

「体調はそうでもないんだけど……眠れなくて」

「え? いつも8時間は寝てるって言ってたじゃん」

「うん。でも昨日は、寝ると怖い夢を見ちゃって。何度も目が覚めて、寝直してもやっぱり同じ様な夢を見るの」

「夢……?」

「うん。どこかの森の中で、人が死んで……。その、死んだ人が歩いている夢」


 乃亜は予想外の話に耳を疑った。

「それで、最後はその死んだ人が私の家に向かってくるの。はじめは、家の外から見ているだけなんだけど、私が眠るたびに少しずつ近づいて来ていて。玄関のドアを開けて、階段を登って、私の部屋の前まで……」


「でもそれって、夢なんでしょ?」

 乃亜は願望を込めて言うが、小春は首を振った。

「わからない。すごくリアルだったし、チョビ助も吠えてたの」

 チョビ助は、小春の家で飼っているチワワだ。


「何だかとても気持ち悪くて。今日は学校を休もうかと思ったんだけど、家にいるのも怖かったから……」

 乃亜は息を呑んだ。なぜ、小春まで自分と同じ夢を見るのか?


「大丈夫だよ、辛かったら保健室で休ませてもらうから……」

 小春は、背中を丸めてとぼとぼと歩いて行く。

 視線を感じてビルとビルの間を見ると、朝、マンションで見たボロボロの服を着た男が立っていた。


 乃亜は小春の手を掴み、急いで学校に向かった。

 


 1時間目の授業が終わると同時に、杏奈が教室に入って来た。

「杏奈! 体は大丈夫?」

 乃亜は3日ぶりに会った杏奈に声を掛けた。少し頬が痩けている。


「近付かないで!」

 乃亜の姿を認めると、杏奈は突然怒りの表情を浮かべた。


「……私、何かした?」

 杏奈は、今まで見たこともない敵意に満ちた目で乃亜を睨んだ。

「今、確信に変わったよ。あんたにはすごく邪悪な霊が憑いてる。このままだと死ぬよ?」

 剣呑な言葉に、周囲の注目が集まった。


「それだけじゃない。そいつは、もっと悪いものを呼び寄せてる。私が金曜日に熱出して病院から帰ってきたとき、たまたま母さんの店に来てたお客さんに言われたんだ。『杏奈ちゃん、悪い霊に当てられてるよ』って。その人、霊感があって何とか助けてもらったんだけど……乃亜が原因だったなんてね」


「ちょっと待って。杏奈は、どうして私に悪霊がついているなんてわかるの? 何か見える?」

 杏奈を責めるつもりはない。ただ純粋に、自分の置かれた状況が知りたかった。

「ううん、私は霊を見る事はできない。でも、鼻は良いんだよ」

 杏奈は鼻の穴を動かした。

「先週は少し変な臭いがするぐらいだったけど、今は耐えられないぐらい臭う。これ……死体の臭いだよ。周りにも広がってる」

 杏奈は鼻を手で押さえた。

「お願いだから、そんなヤバいものを連れて来ないで!」


「そんなつもりは……」

「あんたが教室にいるのなら、私が帰る。とても、同じ教室になんていられないよ!」

 杏奈は踵を返すと教室から出て行った。乃亜が杏奈の背中を目で追うと、教室の後ろの隅に、顎が落ちて長い舌が飛び出した、血走った目の女が立っていた。



 2時間目の授業中、小春は体調が悪いと言って保健室に行った。次の休み時間に保健室へ向かうと、小春はベッドで眠っていた。


「小春、大丈夫?」

 小さな声で呼びかけると、うなされる様に首を振った。

 小春の足の側のカーテンが揺れる。

 視線を移すと、カーテンの影に灰色のパーカーを来た骸骨が立ち、小春を見下ろしていた。


 乃亜は、そばに置いてあった花瓶を思い切り投げつけた。しかし、花瓶は骸骨をすり抜け、床に落ちる。がしゃん、と音を立てて花瓶は砕けた。


「どうしたの!?」

 保健室の先生が慌てて覗いてきた。

「……すみません。花瓶の水を換えようとしたら転んでしまって」

「怪我は無い?」

 心配そうに乃亜を見つめる。

「怪我は大丈夫ですけど……気分が悪くなってきたので、私もこれを片付けたら早退します」

 暑くもないのに、顔中から汗が流れる。

「そう? 確かに顔色が悪いわね……。花瓶はいいわ、私がやるから。担任の先生にも連絡しておくわね」


 乃亜は校門を出ると、早足で駅に向かった。

 駅のホームやトイレ、電車の中にまで、先回りするように死霊が現れた。そいつらは、乃亜を自分たちの住む世界へ誘っている様に見えた。乃亜はなるべく周りを見ない様にして、家路を急いだ。


 家に帰ると、気休めに過ぎないかもしれないと思いながらも、玄関で塩を撒いた。

「あれ、お姉ちゃん? 学校はどうしたの? サボリ?」

 沙羅が呑気に声を掛ける。

「……ちょっと具合悪いから、早退したんだよ」

 嘘ではない。実際、しばらく前から頭痛と耳鳴りがしている。

「え? お姉ちゃん、いつも身体は丈夫なのに……。まさか夏風邪?」

「人を馬鹿みたいに言わないでよ! 普通に風邪だって引くし。とにかく、少し寝るから……。夕方になっても寝てたら、起こしてくれる?」


「え? まさかその状態でバイトに行くの?」

「今日が最終日だから……何が何でも行かなくちゃ」

「具合悪いんでしょ? それにさ、実は昨日……」

「ごめん、何かあるなら後で聞くから。お願い、今は寝かせて……」

 心配そうな目で見つめる沙羅を尻目に、乃亜は自分の布団に潜り込んだ。怜司にもメッセージを送ったが、既読は付かなかった。


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