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致死率100%の事故物件に住んでみた【えっ! この部屋で一週間過ごすだけで〇〇万円!? 女子高生心霊バイト】  作者: 日原夏至


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第1話


 目を開けると、遮光カーテンの隙間から朝日が差していた。爆音のアラームが鳴り響いている。


 嫌な夢だったな……。早霧乃亜さぎりのあはベッドの上で上半身を起こすと、ぼんやりと正面の勉強机の方を見た。カピバラのぬいぐるみが乗っている。

「お姉ちゃん、目覚まし時計止めて……」

 隣のベッドで、沙羅が布団を被り直しながら抗議した。

「この目覚まし、うるさすぎるよ」

 近所の商店街の福引きの景品(5等)でもらった強力目覚まし時計の音は、看板に偽りない仕事ぶりを見せていた。寝起きの気分は最悪だけど、目覚めの悪い乃亜は割と気に入っていた。空手チョップの要領で、真ん中のスイッチを押すとアラームは止んだ。

「あんたももう起きなよ。どうせ昨日も遅くまで起きてたんでしょ」

「しょうがないじゃない……もうちょっとしたら起きるから……」

 そう言いながらも寝る体勢に入った妹を見限って、乃亜はリビングのドアを開けた。

 リビングには、洗っていない洗濯物や乃亜の高校の通学鞄やらが置きっぱなしになっていた。

 乃亜は溜め息を吐く。

「お母さん、いつ帰って来るのかな……」

 夢が覚めても、良いことなんて無い。


 洗濯機に洗い物をいっぱいに詰めて回していると、沙羅が起きて来た。普段から癖のある長い髪が、寝癖で一層ひどくなっている。沙羅はあくびをしながら、冷凍庫からタッパーに入った凍ったご飯を取り出し、電子レンジに入れた。

「沙羅、今日舞子おばさんが10時に来るって」

「……うん」

 沙羅は、立ったままテレビのリモコンを操作した。テレビの中では、5人の戦隊が怪人と戦っていた。

「これからどうするか、大事な話するから、沙羅にも聞いて欲しいんだけど」

「私はいいよ。お姉ちゃん聞いておいて……」

 沙羅は少し声が震えていた。

「ん……まあ、しょうがないか」

 肩で切り揃えた髪をくしゃくしゃと掻きながら乃亜は言った。沙羅にも、良い話にはならないことはわかっているのだ。

「じゃあさ、部屋に入ってて良いけど、パジャマは着替えておきなよ。病人じゃ無いんだから。私だってとっくに着替えてるんだよ」

 乃亜は胸を張って言った。

「わかってるよ。……ところでお姉ちゃん、なんでジャージ着てるの?」

「ん?これ? 洗濯物溜まってたから、今着られるの中学のジャージしか無かったんよ」

 乃亜は緑色のジャージの襟を摘んで得意げに言った。胸には”南中”の刺繍が入っている。

「お姉ちゃんが良いなら良いんだけど……恥ずかしく無い?」

「いや、全然。サイズも余裕でしょ」

「中学校から全然身長伸びてないじゃない」

「……うるさいな。まだあんたよりは大きいんだからね」

 そう言って沙羅の前に立つが、もうほとんど身長差は無かった。

「もうすぐ追い越すよ。お姉ちゃん、お母さんに似て小さいもん」

「小さくねーよ。これでもクラスの半分よりは大きいんだからね」

 沙羅は面倒くさそうに姉の横をすり抜けるとご飯を食べ始めた。体ばかり大きくなりやがって、と乃亜は呟いた。少し前までは乃亜に付いて回る小さな子供だと思っていたのに。


予定より30分遅れて、叔母の舞子がやって来た。

「ごめんね、おばあちゃんがちょっと転んじゃって」

 部屋に入って来るなり謝った。

「え、おばあちゃん大丈夫なの?」

 最後に会ったのは、今年の正月だったか。

「多分ね。最近、一人で外に出ようとすることが増えちゃって……。玄関のドアが開けられなかったから良かったんだけど、後ろに倒れちゃったの」

「そうなんだ……。大変だね」

 舞子はリビングのダイニングテーブルに座ると、ハンカチで汗を拭った。乃亜は冷蔵庫から出した麦茶をガラスのコップに注いだ。

「仕方ないわね、もういい歳だから。お茶もらうわね」

 舞子は麦茶を一気に半分程飲み干す。目の下には隈ができている。あまり眠れていないのかもしれない。額の生え際からは、以前より白髪が増えていた。

「まだ6月なのに暑いわね。ところで、なんでジャージなの?」

「さっきまでトレーニングしてたんだよ。最近筋トレにハマっててさ。腹筋割りたいの」

 乃亜はそう言いながら舞子の対面に座った。

「また、乃亜ちゃんはそんなこと言って」

 舞子はそう言うと笑った。しかし、すぐ真面目な顔になる。

「あのね、涼子姉さんのことだけど。何か連絡はあったの?」

 乃亜は目を伏せた。

「……ううん、何も。相変わらず、母さんが何処に行ったのかわからないんだ」


 涼子が家を出て行って、もう2週間になる。日曜日の夕方に『遅くなるかもしれないから、先にご飯食べてて』と言い残して家を出た後、帰ってこなかった。月曜日になっても、火曜日になっても。何度も電話を掛けたし、メッセージも送ったけど何の連絡も無い。乃亜は、沙羅と2人で待ったけれど、涼子は一度も帰ってこなかった。


 警察に相談するのも考えたが、熟考した上でやめた。涼子が突然家を出ることは、実は今回が初めてではない。1年ほど前にも、休日一人で出掛けてそのまま1週間帰ってこなかったし、1日や2日家を留守にするのも珍しくなかった。

 その間、涼子が誰と何処へ行っていたのかはわからない。帰ってくる時も唐突に、何も無かったようにふらりと帰ってくるのだ。

 乃亜が高校生になった今、色んな可能性を思い付く。流石に直接聞きただす勇気が無くて現在に至っているが。


 そういえば乃亜が小学生の頃、涼子が知らない年配の男を連れて来たことがある。高そうなレストランでご飯を食べて、男が乃亜と沙羅にぬいぐるみをくれた。

 しかし、乃亜が早く帰りたい、と騒いだので涼子にこっぴどく叱られた。乃亜はあまり覚えていないが散々泣き喚いて食器を男に投げつけたらしい。引き攣った男の顔はうっすらと覚えている。別に、その男が気に入らなかったわけでは無い。出てきたグラタンが地獄のように熱かったのと、貰ったピンクのうさぎのキャラクターのぬいぐるみが好きでは無かっただけだ(乃亜は黒いうさぎの方が好きだった)。

 涼子はその後3日ぐらいは機嫌が悪かったが、あれもそう言う事だったのかも知れないと、今更ながらに思った。


「そう……。でも、悪い方に考えては駄目よ。姉さんは、昔から自由な人だから」

 舞子は励ますようにそう言った。

「うん、母さんはきっとまた、ふらりと帰って来るよ。いつになるかはわからないけど」

 乃亜は自分にそう言い聞かせると強引に笑顔を作った。

「おばちゃんも、手伝えることなら何でもするから。そうだ、今日は近所の人から分けてもらったキャベツを持ってきたから、後で食べて」

 涼子はそう言うとスーパーのビニール袋に入ったキャベツをテーブルに置いた。

「わぁ、助かる! 今日は、肉なし回鍋肉にするよ!」

 乃亜は目を輝かせた。

「お金の支援は出来ないけど……」

 舞子は困った笑顔で、申し訳なさそうにそう言った。

「あ、心配しないで! まだお母さんの預金残ってるし、私がバイトで何とかするから。お米と野菜もらえるだけで私たち、めっちゃ助かるよ」

「そう? でも、乃亜ちゃんが逞しい子で良かったわ。まだ高校1年生なのにねえ。沙羅ちゃんも、こんなお姉ちゃんがいて良かったわね」

 舞子はそう言うと寝室兼子供部屋の方を見た。

「……沙羅ちゃんは、最近はどうなの? 今年中学2年生だったわよね?」

 声をひそめて、顔を乃亜に近づける。

「まあまあ元気だよ。相変わらず、中学校には行けてないけど」

 乃亜は普通の調子でそう言った。

「ずっとパソコンとスマホで動画見てるかゲームばかりやってて、夜中ずっと起きてるんだ。私、アイマスクと耳栓しないと眠れなくて」

 乃亜が笑いながら話しているとガン!と、ドアに何かぶつかる音が聞こえた。沙羅が何か投げつけたのだろう。

「……学校、行けるようになると良いわね」

 舞子は困った顔でそう言った。



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