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荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。  作者: しばたろう


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最終話 再会

 翌日。

 俺たちは再びギルドを訪れた。


 受付で名を告げると、すぐにドラゴが姿を見せた。


「お待ちしておりました。

 返事が来ております。……本日、夕刻にお越しくださいと。

 “一緒に食事でも”との伝言も預かっております」


「……え?」


 拍子抜けするほど、あっさりと面会が許可された。

 胸の奥の重たい不安が、一瞬だけふわりと軽くなる。


「昔のよしみってやつだろうか?」

 オルフィナが肩をすくめる。


「ほらね! やっぱりリオは昔のままだよ!」

 エリオットがぱぁっと明るい声を上げた。


 その横で、アヤメも胸に手を当て、ほっと安堵の息をこぼしている。


(……そうだと、いいんだが)

 


 夕刻。

 俺たちは長い坂道を上り、丘の上にそびえるリオの古城へと向かった。


 眼前に現れたその建物は――あまりに大きく、あまりに立派だった。


(こんな場所に住んでいるのか……まるで、王の城だ)


 俺たちは思わず目を丸くした。


 城門の前には、メイド服の女性が静かに立っていた。


「お待ちしておりました、アレクス様。

 リオ様がお待ちです。どうぞこちらへ」


「あ、はい――」


 あまりに丁寧な待遇に、俺は反射的に返事をしてしまう。

 旅装束の自分たちが場違いに思えて、胸がざわついた。


 玄関に入ると、そこは重厚な装飾と温かな光に満ちていた。

 荘厳でありながら、どこか厳粛な雰囲気が漂っている。


 さらに複数のメイドが出迎え、深々と頭を下げた。


「食堂にてリオ様がお待ちです。どうぞご案内いたします」



 大扉が開く。


 天井の高い広い食堂。

 中央の長いテーブルには、美しく盛られた料理がずらりと並び、

 まばゆい光を放っていた。

 その両脇にはメイドたちが整列している。


 そして、正面。


 白銀の聖騎士装――聖騎士フィーナ。

 純白の法衣――聖女リアナ。

 漆黒の魔導衣――大魔導士ヴァレンティナ。


 いずれも女神の化身かと錯覚するほどの存在感。

 遠目にもわかる、圧倒的な“格”。


 そして――


 その中央に、リオがいた。


 深黒の賢者衣をまとい、わずかに背が伸びていた。

 懐かしさと同時に、胸がざわつく。


(……威厳がある? いや、それだけじゃない)


 表情は自信に満ち、目は鋭く冷たい。


 俺が知る、あの穏やかな少年の気配が――どこにもない。


 オルフィナも、エリオットも、息を呑んだまま固まっている。


「久しぶりだな。アレクス。……オルフィナ、エリオット」


 声そのものは確かにリオだ。

 だが声色はまるで、別人のように重く、冷たい。


「あ、ああ……久しぶりだな」


「再会を祝して、心ばかりのもてなしを用意した。

 さあ、席に座ってくれ」


 俺たちは促され、リオの対面に座る。

 長いテーブルが、彼との距離を思い知らせる。


 ワインが注がれる。


「再会に――かんぱい」


「か、かんぱい……」


 グラスをかかげながらも、胸の中はざわついたままだ。



「ところで――」


 リオの声がひときわ低く落ちる。


「今日の訪問の目的は何かな? アレクス」


 視線が刺さる。

 フィーナも、リアナも、ヴァレンティナも、無表情でこちらを見ている。


「……俺の力のこと、気づいたようだな」


 リオは続ける。


「そんなことにも気づかず、いずれ自滅するかと心配していたが……。

 まあ、気づいただけでも及第点だ。


 それで?

 パーティに戻ってきてほしい、というわけか?

 また俺の力で、いい思いがしたいと?」


 その声は冷たく、微塵も笑っていなかった。


 胸が締めつけられる。

 ああ、リオは、俺たちを――そんなふうに見ていたのか。

 

 仕方のないことではあるが。


 反論したい。

 訂正したい。

 だが、喉がひりつき、言葉が出ない。


 場に重苦しい沈黙が落ちた、その瞬間――


 バタン!


 隣で椅子が倒れた。


 アヤメが立ち上がっていた。

 顔を真っ赤にし、涙をぼろぼろこぼしながら。


「ア、アレクス様は……!

 そんなこと、望んでなんかいません!」


 声が震えている。

 怒りと、悲しみと、悔しさが混じった声だ。


「あなたにしてしまったこと……

 どれほど悔やまれていたか……!

 アレクス様が、どれだけ苦しんでいたか……!

 なのに……なのに、どうしてそのようなことを……!」


 涙を流しながら叫ぶ姿に、胸が熱くなる。


(……この小さな弟子は、俺を守ろうとしてくれているのか)


 その瞬間、霞が晴れるように、頭の中が静まった。


 俺は静かに立ち上がり、リオへ向き直った。


「リオ」


 ゆっくりと言葉をつむぐ。


「俺は……お前に謝りたかっただけだ。そのために来た」


 リオの眉がわずかに動いた。


「お前が俺たちを支えてくれていたことに、気づけなかった。

 お前を傷つけ、追い出してしまった。

 取り返しのつかないことをしたと、本気で思っている。

 ……心から、申し訳なかった」


 深く頭を下げる。


 すぐ隣で、オルフィナとエリオットも片膝をつき、頭を垂れた。


「すまなかった……」

「反省している……」


 俺は顔を上げ、リオを見る。


 彼は――驚いたような目をしていた。


 そして、俺はきびすを返した。


「リオ、元気で」


「会えてよかった」


「……どうか、幸せに」


 オルフィナ、エリオット、アヤメも続いて歩き出す。


 食堂の扉へ向かった、その時――


「待ってくれ!」


 振り返る。

 聞き覚えのある、あの優しいトーンだった。


 リオが立ち上がり、こちらを見ている。


「……これだけの料理を残したら、メイドたちにすごく怒られるんだ」


 少し照れたように、笑っていた。


「よかったら……一緒に食べてくれないかな?」


 その表情は――

 俺たちの知る、あの“あどけない少年のリオ”だった。

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