最終話 再会
翌日。
俺たちは再びギルドを訪れた。
受付で名を告げると、すぐにドラゴが姿を見せた。
「お待ちしておりました。
返事が来ております。……本日、夕刻にお越しくださいと。
“一緒に食事でも”との伝言も預かっております」
「……え?」
拍子抜けするほど、あっさりと面会が許可された。
胸の奥の重たい不安が、一瞬だけふわりと軽くなる。
「昔のよしみってやつだろうか?」
オルフィナが肩をすくめる。
「ほらね! やっぱりリオは昔のままだよ!」
エリオットがぱぁっと明るい声を上げた。
その横で、アヤメも胸に手を当て、ほっと安堵の息をこぼしている。
(……そうだと、いいんだが)
◇
夕刻。
俺たちは長い坂道を上り、丘の上にそびえるリオの古城へと向かった。
眼前に現れたその建物は――あまりに大きく、あまりに立派だった。
(こんな場所に住んでいるのか……まるで、王の城だ)
俺たちは思わず目を丸くした。
城門の前には、メイド服の女性が静かに立っていた。
「お待ちしておりました、アレクス様。
リオ様がお待ちです。どうぞこちらへ」
「あ、はい――」
あまりに丁寧な待遇に、俺は反射的に返事をしてしまう。
旅装束の自分たちが場違いに思えて、胸がざわついた。
玄関に入ると、そこは重厚な装飾と温かな光に満ちていた。
荘厳でありながら、どこか厳粛な雰囲気が漂っている。
さらに複数のメイドが出迎え、深々と頭を下げた。
「食堂にてリオ様がお待ちです。どうぞご案内いたします」
◇
大扉が開く。
天井の高い広い食堂。
中央の長いテーブルには、美しく盛られた料理がずらりと並び、
まばゆい光を放っていた。
その両脇にはメイドたちが整列している。
そして、正面。
白銀の聖騎士装――聖騎士フィーナ。
純白の法衣――聖女リアナ。
漆黒の魔導衣――大魔導士ヴァレンティナ。
いずれも女神の化身かと錯覚するほどの存在感。
遠目にもわかる、圧倒的な“格”。
そして――
その中央に、リオがいた。
深黒の賢者衣をまとい、わずかに背が伸びていた。
懐かしさと同時に、胸がざわつく。
(……威厳がある? いや、それだけじゃない)
表情は自信に満ち、目は鋭く冷たい。
俺が知る、あの穏やかな少年の気配が――どこにもない。
オルフィナも、エリオットも、息を呑んだまま固まっている。
「久しぶりだな。アレクス。……オルフィナ、エリオット」
声そのものは確かにリオだ。
だが声色はまるで、別人のように重く、冷たい。
「あ、ああ……久しぶりだな」
「再会を祝して、心ばかりのもてなしを用意した。
さあ、席に座ってくれ」
俺たちは促され、リオの対面に座る。
長いテーブルが、彼との距離を思い知らせる。
ワインが注がれる。
「再会に――かんぱい」
「か、かんぱい……」
グラスをかかげながらも、胸の中はざわついたままだ。
◇
「ところで――」
リオの声がひときわ低く落ちる。
「今日の訪問の目的は何かな? アレクス」
視線が刺さる。
フィーナも、リアナも、ヴァレンティナも、無表情でこちらを見ている。
「……俺の力のこと、気づいたようだな」
リオは続ける。
「そんなことにも気づかず、いずれ自滅するかと心配していたが……。
まあ、気づいただけでも及第点だ。
それで?
パーティに戻ってきてほしい、というわけか?
また俺の力で、いい思いがしたいと?」
その声は冷たく、微塵も笑っていなかった。
胸が締めつけられる。
ああ、リオは、俺たちを――そんなふうに見ていたのか。
仕方のないことではあるが。
反論したい。
訂正したい。
だが、喉がひりつき、言葉が出ない。
場に重苦しい沈黙が落ちた、その瞬間――
バタン!
隣で椅子が倒れた。
アヤメが立ち上がっていた。
顔を真っ赤にし、涙をぼろぼろこぼしながら。
「ア、アレクス様は……!
そんなこと、望んでなんかいません!」
声が震えている。
怒りと、悲しみと、悔しさが混じった声だ。
「あなたにしてしまったこと……
どれほど悔やまれていたか……!
アレクス様が、どれだけ苦しんでいたか……!
なのに……なのに、どうしてそのようなことを……!」
涙を流しながら叫ぶ姿に、胸が熱くなる。
(……この小さな弟子は、俺を守ろうとしてくれているのか)
その瞬間、霞が晴れるように、頭の中が静まった。
俺は静かに立ち上がり、リオへ向き直った。
「リオ」
ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「俺は……お前に謝りたかっただけだ。そのために来た」
リオの眉が僅かに動いた。
「お前が俺たちを支えてくれていたことに、気づけなかった。
お前を傷つけ、追い出してしまった。
取り返しのつかないことをしたと、本気で思っている。
……心から、申し訳なかった」
深く頭を下げる。
すぐ隣で、オルフィナとエリオットも片膝をつき、頭を垂れた。
「すまなかった……」
「反省している……」
俺は顔を上げ、リオを見る。
彼は――驚いたような目をしていた。
そして、俺は踵を返した。
「リオ、元気で」
「会えてよかった」
「……どうか、幸せに」
オルフィナ、エリオット、アヤメも続いて歩き出す。
食堂の扉へ向かった、その時――
「待ってくれ!」
振り返る。
聞き覚えのある、あの優しいトーンだった。
リオが立ち上がり、こちらを見ている。
「……これだけの料理を残したら、メイドたちにすごく怒られるんだ」
少し照れたように、笑っていた。
「よかったら……一緒に食べてくれないかな?」
その表情は――
俺たちの知る、あの“あどけない少年のリオ”だった。




