最終章2 別れあれば、また道あり
翌日。
朝靄の残る街道で、レグナスは俺たちに別れを告げ、
〈ヴァルナ神殿〉へとひとり旅立った。
レグナスには、本当に世話になった。
旅の仲間であり、戦友であり、そして――師でもあった。
あのような男に出会えたことを、俺は心から幸運だと思っている。
出会いと別れ。
それを繰り返しながら、人は少しずつ変わっていく。
旅とは、きっとそういうものなのだろう。
レグナスは振り返らなかった。
〈ヴァルナ神殿〉へと続く道を、ただ一人、静かに歩いていく。
――ありがとう。また、いつか。
そう心の中で告げ、俺は深く一礼した。
そして、俺たちは進路を西へ取った。
リオたちを追い、貿易都市〈アルバトロッサ〉へ。
別れの余韻を胸に残したまま、
目指すべき再会に向けた旅が、始まった。
◇
俺たちは、高原を進んでいる。
日差しはやや強いが、吹き抜ける風がちょうど心地よい。
先頭を歩くのは、オルフィナとエリオットだ。
オルフィナは杖を振り回しながら、
相変わらず中二めいた口上を謳っている。
それにエリオットが妙にノリ良く同調し、
二人ともご機嫌そのものだ。
「いざ往かん、栄光の都へ!」
「おお! 冒険者の未来は我らの前に!」
……聞いているだけで、少し恥ずかしい。
その後ろを歩きながら、俺はふと、隣のアヤメに目を向けた。
出会った頃より、少し背が伸びた気がする。
成人したとはいえ、まだあどけなさは残っているが――
最近、
ときおり見せる落ち着いた横顔には、確かに“大人”の気配があった。
正直、どきりとする瞬間もある。
俺の視線に気づいたのか、
「どうかされました?」
アヤメが怪訝な顔をするので、
「いや、なに、アヤメもきれいになったな、と思ってな」
自然と、そんな言葉が口をついて出る。
……。
………。
(あれ? 俺、今、何て言った?)
次の瞬間、アヤメの顔が、みるみるうちに赤く染まった。
「ア、アレクス様!
からかわないでください!」
そう言い残し、ぷいっとそっぽを向かれてしまう。
「いや、今のは、その……」
前を歩いていたはずのオルフィナとエリオットが、
いつの間にか振り返っている。
「なに、師弟でいちゃついているのだ?」
「ほんと、仲がいいよね?」
二人は、にやりと笑う。
「ち、違う!
……いや、違わないのだが……」
語るに落ちる、とはまさにこのことだろう。
挙動不審の俺をよそに、
旅路は何事もなかったかのように先へと続いていった。
◇
〈アルバトロッサ〉に近づくにつれ、
街道の様子は目に見えて変わっていった。
道は丁寧に整備され、
行き交う旅人や行商人、馬車や騎馬の数も増えていく。
道沿いには宿場町が点在し、
即席の露店や簡易市が開かれているのも見える。
香ばしい焼き物の匂い、異国の香辛料の刺激的な香り。
人の声と、金属の触れ合う音が、途切れることなく流れていた。
いやがおうにも、気分は高揚してくる。
「さすが、西方最大の貿易都市だな」
俺がそう呟くと、エリオットが振り返って目を輝かせた。
「な! この雰囲気……もう、胸が躍ってくるよ」
オルフィナも満足そうに腕を組む。
「ふむ。物資も情報も、人材も集まる。
嫌いじゃないな、こういう街は」
アヤメは、小さく息を呑みながら前方を見つめていた。
そして――
青々と輝く、広大な小麦畑。
その向こうに、巨大な高い城壁が、ゆっくりと姿を現した。
陽光を受けて白く輝く石の壁。
遠目にも分かる、圧倒的なスケール。
「……あれが……」
アヤメが、思わず声を漏らす。
貿易都市〈アルバトロッサ〉。
リオたちがいる街。
俺は無意識のうちに、拳を握りしめていた。
(――いよいよ、だな)
胸の奥に、期待と不安が入り混じった感情が渦を巻く。
だが、立ち止まる理由はない。
「行こう」
そう告げて、俺たちは城壁へと続く街道へと、歩を進めた。




