最終章1 リオの苦悩
俺の力で人を助けたい。
そう思い立ったのは、ごく自然な流れだった。
フィーナも、リアナも、ヴァレンティナも、
俺の考えに迷いなく頷いてくれた。
(より多くの人を助けたい)
その想いを胸に、
俺たちは活動拠点を西方の貿易都市〈アルバトロッサ〉に定めた。
初めて、この街の冒険者ギルドの門をくぐった日のことは、
今でもよく覚えている。
白銀の聖騎士装――聖騎士フィーナ。
純白の法衣――聖女リアナ。
漆黒の魔導衣――大魔導士ヴァレンティナ。
いずれも、どこへ出しても一騎当千。
しかも美貌が過ぎる。
深黒の賢者衣をまとった俺は、
その三人に囲まれるように、悠々とギルド内を闊歩した。
驚愕、ざわめき、圧倒。
ギルド中の視線が一斉にこちらへ向けられた。
ちなみに、この俺の黒衣についてだが――
元はといえば、俺の地味なレンジャー服を見た三人が、
「もっと華やかにすべきです」
「いいえ、清廉な白こそ相応しいです」
「何を言う、黒一択だろう」
……という、どうでもいい論争を始めたのが原因だ。
最終的には、
「どれだけ早くドラゴンを倒せるか」
という、これまたどうでもいい勝負でヴァレンティナが勝利し、
その希望とやらでこの黒衣が誂えられた。
くだらない理由だが――まあ、悪くはない。
余興だ。
気に入っているのは事実だしな。
それに、注目を浴びるというのも……悪い気はしないものだ。
そして、俺たちが“最難関クエスト”を申し出たときの受付嬢の反応――
あの、見事なまでに口の開いた顔。
今思い返しても、つい口元が緩む。
◇
俺たちは、困難とされるクエストを次々と成し遂げていった。
その名声が広く知れ渡るまでに、さほど時間はかからなかった。
やがて、人々は俺を――
「大賢者リオ」と呼ぶようになった。
人に感謝され、名を知られるというのは、
思っていた以上に心地の良いものだった。
フィーナも、リアナも、ヴァレンティナも、そして俺自身も、
これまでにない達成感と充実感に、確かに満たされていた。
俺たちの噂を聞きつけ、王族、貴族、豪商、寺院、軍。
――力と権威を持つ者たちから、
次々とクエストが舞い込むようになった。
それらをこなしていくうちに、
気づけば、一生遊んで暮らせるほどの財を手にしていた。
そんな折、丘の上の古城を買わないかという話が持ち上がった。
かつて王族が居を構えていたという、歴史と気品を今なお残す城らしい。
城か。
フィーナたちも喜ぶのではないだろうか。
悪くない話だ。
◇
名のある依頼者から依頼されるクエストの多くに
“私利私欲”が紛れていることに、
最近、気づき始めた。
褒め言葉の裏に潜む打算。
敬意を装いながら、欲望や権力の思惑ばかりを押しつけてくる者たち。
先日の軍からの依頼は、特にひどかった。
敵対勢力の“殲滅”。
破格の報酬。
だが――。
どれほど大義名分を並べられても、
敵とはいえ同じ人間を手にかけるという行為は、
俺にとって、やはり、胸の底に重い澱となって沈んだままだった。
(……あれほど後味の悪い思いをしたのは、初めてだ)
人とは、結局、利己的な存在なのだろう。
そう思わざるを得なかった。
◇
それでも、クエスト依頼は相変わらず殺到している。
だが俺は、もう誰の依頼であろうと、
“余程の案件”でなければ受け付けなくなっていた。
ギルドの受付は、依頼書を抱えて毎日のように城へ来るが、
その多くは門前払いだ。
気がつけば、城の中には静寂が満ちていた。
気分が滅入る。
最近、少し疲れているのかもしれない。




