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荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。  作者: しばたろう


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37名声独歩(めいせいどっぽ)

 海賊騒動から一夜明けて、

 〈蒼鯨そうげいの翼〉号は、

 西方の大陸都市〈グラン=メナス〉へと入港した。


 港に降り立つと、

 俺たちはマリナチーフや料理長、そして《碧潮へきちょうの灯》の

 スタッフたちに別れを告げた。

 マリナチーフからは、改めて海賊から食堂を守ったことへの礼を述べられ、

 今度はぜひ、落ち着いて食事をごちそうしたい、とまで言われた。


 再会の約束を交わし、船を後にする。


 食堂スタッフとして働いた数日間は、

 俺にとっても、皆にとっても、かけがえのない経験になった。


 俺たちは、捕縛ほばくした海賊たちを引っ張りながら、

 〈グラン=メナス〉の大門をくぐった。


 オルビアとは比べものにならないほど巨大な都市。

 人の波、建物の密度、街に満ちる活気――

 どれを取っても圧倒的だ。


 俺たちは思わず周囲をきょろきょろ。

 完全に、田舎から出てきたお上りさんだ。


 もっとも、

 イノシシを引きずりながら街に入った経験は何度もあるが、

 海賊を引っ張りながら、というのはさすがに今回が初めてだ。



 海賊たちを街の警備隊へ引き渡した後、

 俺たちは冒険者ギルドを訪れた。


 目的は二つ。

 ひとつは、フィーナとリオの消息についての聞き込み。

 そしてもうひとつは、今回の海賊討伐についての正式な報告だ。


 通されたギルド長室で、

 俺たちはギルド長本人の出迎えを受けた。


 話を聞く限り、

 首謀者のドロンドは以前からの賞金首だったらしく、

 今回の一件で、俺たちには賞金が支払われるという。


 思いもよらぬ臨時収入に、

 俺は内心、ホクホクしていた。


「それにしても、」


 ギルド長は目を輝かせ、身を乗り出す。


「ドロンド一味の襲撃を事前に読み切り、

 船内スタッフに扮して潜伏した上で、完璧な返り討ち……

 さすがはSランクパーティーですな」


「……うん?」


 思わず、きょとんとする。

 この人、なにか大きな勘違いをしていないだろうか。


 だが、俺の内心などお構いなしに、ギルド長は続けた。


「しかも、

 かの〈ヴァルナ神殿〉聖堂騎士団の団長様まで

 討伐メンバーに引き込みなさるとは!

 なんという人望、なんという戦略でしょう!」


「ドロンドは、我々も長年追っていた大物。

 策士と呼ばれる男を、逆に策で打ち負かすとは……まことにお見事!」


「ああ、まあ……な」


 ギルド長の怒涛の称賛に対し、そう返すのが精一杯だった。


「策士策に溺れる、というやつだな」


 オルフィナが得意げな顔で頷きながら言う。


「そうだったの? アレクス」


 エリオットは、ギルド長の話を、すっかり信じ込んだ様子だ。


 アヤメに至っては、


「今回も、ご指導ありがとうございました」


 などと言い出す始末。


 レグナスはというと、

 そんな俺たちの様子を、どこか楽しげに眺めていた。


 ――どうやら、

 この勘違いを正すタイミングは、

 完全に失われてしまったらしい。

 

 

「ところで、ギルド長。こちらからも、伺いたいことがあるのだが」


 この妙に居心地の悪い空気に耐えきれなくなった俺は、

 そそくさと次の話題を切り出した。


「聖騎士フィーナ、またはSランクレンジャーのリオという人物を探している。

 なにか心当たりはないだろうか?」


 ギルド長は、わずかに眉を動かし、

 一瞬、何かを思い出すように視線を宙へ泳がせた。


「フィーナという名かどうかは定かではありませんが……

 1年ほど前になりましょうか。

 聖騎士がドラゴンを討伐した、という話があります」


 俺たちは、思わず身を乗り出した。


「『女聖騎士のドラゴン退治』として、この辺りでは有名な逸話ですぞ」


「詳しく、聞かせていただけるだろうか?」


「よろしいとも」


 ギルド長は頷き、語り始める。


「当時、近隣の街がドラゴンに襲われましてな。

 しかも、三匹同時に、です。

 ギルドは急ぎ討伐隊を編成し、対応に向かいました」


 その声は、次第に重くなる。


「しかし、相手はあまりに凶暴で……

 討伐隊は返り討ちに遭い、全滅寸前まで追い詰められました」


 俺は、思わず息を呑む。


「生き残った者たちの証言によれば――

 そこに、女聖騎士殿が突如現れ、

 たった一人で、ドラゴン三匹を、いとも簡単に討ち倒したそうです」


 その場に、沈黙が落ちた。


「その戦いぶりは、まさに神々しく、

 武神の顕現けんげんかと思われたほどだった、と」


 ギルド長は、静かに続ける。


「討伐後、女聖騎士殿は生き残った討伐隊を治療し、

 名も告げぬまま、どこかへ去っていった……

 そう記録されています」


「……その後の行方は?」


「捜索は行いました。

 しかし、結局、見つけることは叶いませんでした」


「間違いないな。フィーナ殿だ」


 俺は、確信をもってレグナスに告げる。


「信じられん……

 ドラゴン三匹を、たった一人で、だと?」


 レグナスは、唖然とした様子で呟いた。


「だが……肝心の消息が分からないとなると、手の打ちようがないな」


 そう言った俺の言葉を受け、

 レグナスが、ふと何かを思いついたように顔を上げた。


「ギルド長。

 ここ最近で、名のある人物、あるいは高位の人物が、突然姿を消した……

 そのような話は聞いたことがないだろうか?」


 俺は、その質問の意図がつかめず、首をかしげる。


 ギルド長は、しばし顎に手を当て、

 記憶を探るように目を伏せた。

 

「この街の北の丘に、神殿〈セイクリオン大聖殿〉がありましてな」


 ギルド長は、声を潜めるように言った。


「そこの大司祭、リアナ様が、ある日突然、旅に出てしまったのです。

 街中、大騒ぎになりました」


 俺は、思わず息を止めた。


「時期は……そうですな。

 例のドラゴン退治の騒ぎから、さほど経っていなかったはずです」


「リアナ様は、聖女とも称されるお方でしてな。

 大変お美しく、信仰もあつく……

 それはもう、噂でもちきりでしたぞ」


「……やはり、か」


 レグナスは、低く呟いた。


 そこでようやく、

 俺にも、彼の質問の意図が見えてきた。


 フィーナと、同じ構図。

 名のある存在が、突如として姿を消す。


 そして、その背後に――リオ。


 胸の奥に、言いようのない違和感が広がる。


「詳しい話を聞きたい。

 〈セイクリオン大聖殿〉との伝手つては、ないだろうか?」


「よろしいでしょう」


 ギルド長は、力強く頷いた。


「ギルドから大聖殿へ使いを出します。

 しばらくお待ちください。

 追って、結果をお知らせいたしましょう」


 俺たちは、深く礼を述べ、ギルドを後にした。


 大聖殿からの返事は、

 俺たちが滞在する宿へ届けられる手筈となった。


 ――リオに、また一歩、近づいた。

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