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荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。  作者: しばたろう


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30/46

30冬路を越えてオルビアへ

 篝村を後にした俺たちは、数日後、タルミアに到着した。

 タルミアは、港町オルビアへ続く《バーレント商路》の要衝として知られる、

 小さくも活気に満ちた商業の街だ。


 街道沿いには馬車宿や荷馬車置き場が並び、

 商人たちが声を張り上げ、荷の取引や値段交渉に明け暮れている。

 通りを歩けば、香辛料の匂い、干し肉の匂い、馬車の油の匂いが入り混じり、

 旅の者と商売人が絶えず行き交っていた。


 規模は小さいが冒険者ギルドの支部もあり、

 護衛依頼や荷運び、商隊の道先案内など、軽めの依頼が多く出されている。

 オルビアへ向かう旅人の大半は、一度この街で補給を済ませていくという。


 冬の静けさに慣れていた俺たちには、この喧騒がむしろ心地よかった。

 

 俺たちは、街の中心にある冒険者ギルドへ向かった。

 せっかくタルミアまで来たのだ、

 護衛依頼を受けてオルビアまで同行できれば、一石二鳥だ。


 ギルドの扉を押し開けると、

 依頼書を掲げる商人や旅人、荷物を抱えた冒険者たちが忙しなく出入りしていた。



 まずは、ジルドからの報せが届いていないか受付に尋ねた。

 だが――残念ながら、何も来ていなかった。


 胸が少しだけ重くなる。

 だが、待ってばかりもいられない。


「……仕方ない。依頼を探すか」


 掲示板には、荷運び・護衛・商隊同行などの軽い依頼がずらりと並んでいる。

 冬場は野獣の活性が低いぶん、商路の盗賊が増えるらしい。


「アレクス様、ここなどはいかがでしょう?」

「お、オルビア行きの護衛依頼か」


 アヤメが指した依頼書には、

 『タルミア → オルビア間 馬車護衛』 とあった。


 この商人が使う道は、崖と森に挟まれた細い小道で、

 確かに最短ルートではあるが、そのぶん危険も多い。


 依頼書を受付嬢へ渡すと、

 彼女はぱちりと瞬きをして、思わず姿勢を正した。


「Sランクの皆さまが、この依頼を……?

 依頼主が泣いて喜びますよ!」


 そんなにか、と苦笑しつつ、受付嬢に案内され、依頼主との顔合わせとなった。


 依頼主は気のいい商人で、俺たちが受けたと知るや恐縮しきりだった。


「おおっ……! 本当にSランクの!

 いやぁ、こんな安い依頼料で引き受けていただいて……申し訳ない!」


 恐縮されると、こちらも妙に気まずくなる。

 どうにもこういうやり取りには慣れない。


「明日の早朝に出立いたします。どうぞよろしくお願いします!」


 商人が深々と頭を下げ、顔合わせは終了した。



 その後は、タルミアの市場をゆっくり歩くことにした。


 香辛料の山、乾物の屋台、手織り布の露店――

 狩人の村とは比べものにならないほどの賑わいだ。


「こんなにぎやかな市場、はじめてです!」

 アヤメが目を輝かせる。

 冬の静かな村とはまるで別世界だ。


 久々に肩の力を抜いて歩ける、貴重なひとときだった。



 翌日。

 依頼主の馬車に乗り込み、俺たちはタルミアを後にした。


「うわぁ……馬車って、こんなふうに揺れるんですね!」

 アヤメは目を輝かせ、座席の窓にへばりつくように景色を眺めている。


 冬の森を抜け、ようやく落ち着いた旅路だ。

 こういう小さな体験にも新鮮さがあるのだろう。


 旅は順調に進む。


 そんな中、

 俺は盗賊との戦い方について、大学時代の講義を思い出しながら

 アヤメたちに説明しておいた。

 

 ついでに――

 かつて“英雄アレクス一行”が山賊を撃退したという古い逸話も交えながら。



 やがて夜が訪れ、月明かりさえ届かない細道へ差しかかった。

 崖と森に挟まれた危険区間――

 本来なら、夜通し駆け抜けるのが定石だ。


 馬車の中に、じわりと緊張が広がり始めた、その時。


 ヒュッ――ッ!


 一本の矢が、馬車の行く手に突き刺さった。


「っ……!」


 馬車の前方からざわりと物音。

 木陰から、数人の人影が浮かび上がる。


 見るからに山賊だった。


「出たか……!」


「殺されたくなかったら、荷物を置いて立ち去るんだな!」

 頭領らしき男が、殺気混じりの声を張り上げる。


 剣や槍を構える者、弓を引く者――典型的な山賊の編成だ。


「先生、お願いします!」


 依頼主の商人が、事前に打ち合わせていた台詞を震えながら口にする。


「うむ」


 俺は、馬車の中からゆっくり降り立った。

 わざと“威厳たっぷり”に。


 弓兵が一斉にこちらへ照準を合わせる。


 ――その刹那。


 ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!

 

 馬車の暗闇から矢が飛び出し、

 弓を構えていた山賊たちを次々と射抜いた。


「この俺を――Sランクのアレクスと知っての狼藉か!」


 俺の啖呵に、山賊たちの視線が集中する。


「Sランク……!?」「まさか、本物か……?」


 怯えの声が上がりかけたが、頭領が怒鳴る。


「はったりだ! かかれ!」


 ――まあ、確かにはったりなんだが。


 しかし、山賊相手に遅れを取るつもりはない。


 俺は剣を抜き、前へ出る。


 馬車の中には弓兵――手前には俺。

 山賊たちは不利を悟ったのか、じりじりと後退し始めた。


「たいしたことありませんね」


 アヤメが矢をつがえながら馬車から姿を現した。


 その時だった。



 ガサッ――!


 崖の上に、多くの人影が現れた。


 同時に――


 天から矢の雨が降り注ぐ。


 目の前の連中はおとりだった!


 矢は俺たちを串刺しに・・・・・・・

 

 

 そのはずだったのだろう。

 

 ――しかし


 ぱきんッ!


 軽快な破砕音が頭上で弾けた。


 エリオットが事前に張っていた《魔法障壁》が、

 降り注ぐ矢をすべて弾き返したのだ。


 エリオットとオルフィナが、勢いよく、馬車から飛び出す。


「《中域照明ミッドエリア・ルミナス》!」


 エリオットの詠唱で、崖上が白光に照らされる。

 潜んでいた大量の山賊が一斉に姿を現した。


「えいいいいいいいいいぃっ!」


 オルフィナが杖を頭上に掲げ、全身の力を振り絞って魔力を解き放つ。


 崖上で《特大爆発エクスプロージョン》が炸裂した。


 轟音。

 爆炎。

 山賊たちは悲鳴を上げて吹き飛んだ。


「ひ、ひぃ……」

 目の前で固まる“おとり役”の山賊。

『だまし討ちのつもりが、返り討ちにあった。』

 その状況を理解するより早く、俺の斬撃が終わっていた。



「アレクス様。想定通りですね。さすがです!」


「ああ。長居は無用だ。すぐ出発するぞ」


 馬車は加速し、そのまま危険地帯を抜けていく。



 そして――

 数日後。


 俺たちはついに、港町オルビアへ到着した。


 冷えた風の中に、潮の香りが混じり、

 その奥にほんのわずか――春の匂いがした。


 冬を越える旅路も、ようやく終わりが見え始めていた。

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