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荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。  作者: しばたろう


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27篝火守護(かがりびしゅご)

 かがり村に到着したのは、朝の空気が一段と冷え込む頃だった。

 白い吐息がすぐに溶けていく。

 久しぶりの人里だ。

 俺たちにとっては、しばしの休息と食料補給のための、

 貴重な立ち寄り先でもある。


 例によって、俺は大イノシシをずるずると引きずりながら村へ入った。

 村人たちの視線が一気に集まる。


 篝村という名前は、冬の夜に狼や熊が出没するため、

 “村の周囲に篝火を絶やさない”ことに由来しているという。

 村人たちは狩人の家系が多く、

 小さな見張り塔がぽつんと立っているのが印象的だった。

 ギルド支部は存在しないが、村長が冒険者受付を兼ねているらしい。


 見慣れない冒険者、しかもSランクパーティとあって、

 村人たちは興味津々だった。

 肩越しにひそひそ声が聞こえる。


「すげぇ……あのでかいイノシシ、一撃で倒したんだってよ」

「本物のSランクだぞ……。」


 通りを抜けると、市場が見えてきた。

 干し肉、木工品、冬野菜の露店が並び、思いのほか活気がある。

 焚き火の煙と香草の匂いが入り混じり、歩くだけで腹が鳴りそうだった。


「久しぶりに、うまいものが食べられるかもな!」

 俺が言うと、オルフィナが指をさした。


「アレクス、あっちの屋台……あれ、絶対おいしいやつだぞ!」

「オルフィナ様! わたしも気になります!」


 アヤメも目を輝かせていた。

 ――まあ、こういう時間も悪くない。



 俺たちは村長宅を訪れ、

 まずはジルドからリオに関する報せがないかを尋ねた。

 しかし村長は申し訳なさそうに首を横に振った。


「すまん、アレクスさん。残念だが、今のところ何の便りもない」


 胸の奥が少し冷える。

 だが、旅を続けるしかない。


 村長は表情を改め、咳払いをひとつした。


「ところで……ひとつ頼みがある。

 この時期、夜になると狼や熊が頻繁に出没しておってな。

 村の狩人だけでは手が足りん。

 数日だけで構わん、退治を手伝ってもらえぬか?」


「もちろんだ」と俺は即答した。

 困っている村があり、それを助けられる力があるなら迷う理由はない。


「では、案内人をつけよう。村を見て回っていただきたい。

 宿で昼食をとりながら、お待ちくだされ」



 村の宿は素朴だが清潔だった。

 俺たちは食堂で、久しぶりの“まともな食事”をいただいた。

 あたたかいスープと焼いた黒パンの香りが、

 冷えた身体にじんわり染み渡る。


 食後、ほっとひと息ついていると、宿の主人が声をかけてきた。


「アレクス様、案内人の方がお見えですよ」


 俺たちはロビーへ向かった。


 そこには、ひとりの男の子が立っていた。

 狩人の装束に身を包み、手を胸に当てて姿勢よく頭を下げる。


「アレクスさん。初めまして。ハヤテと言います。

 本日、村を案内させていただきます。」


 声は堂々としていて落ち着いている。


 年はアヤメと同じくらいだろう。

 幼さの残る顔立ちだが、瞳は勝気でまっすぐだ。

 “活発で素直、だが背伸びもしたい年頃”という言葉がそのまま当てはまる。



 早速、村を案内してもらうことになった。


 ハヤテは見張り塔の構造、周辺の獣道、

 そして村の外れにある“野獣の出没ポイント”を迷いなく説明していく。

 言葉に迷いがなく、息も弾んでいないあたり、

 普段から狩人見習いとして真面目に働いているのだとわかった。


 ――だが、その案内の最中。


 俺は、ハヤテの熱い視線を何度も感じた。

 少しでも視線を向ければ、慌てて目をそらす。

 それを繰り返す。


 ……まあ、理由は察していた。


「篝村では、成人を迎えたら“独り立ち”なんです」


 歩きながら、ハヤテが誇らしげに語る。


「俺も、来年には冒険者になります。

 レンジャーとして名を上げるつもりです!」


 胸を張る姿は、子どもというより“未来の冒険者”のそれだった。


「村には、せいぜいDかCランクくらいしか来ません。

 だから……アレクスさんのようなSランク冒険者は、

 本当に、すごい人たちなんだって……!」


 その眼差しは、もう完全に“少年の憧れ”だった。

 特に俺に対しては、会った瞬間から釘付けになっていたらしい。



 一方で――アヤメへの態度は、かなり雑だった。


「彼女は、アレクスさんたちの荷物持ちのお手伝い……ですよね?」


「いや、アヤメは正式なパーティメンバーだ。レンジャーだぞ」


「えっ、冗談ですよね? だって……」


 ハヤテはアヤメをちらりと見て、あからさまに首をかしげる。


「そんな感じに見えないというか……。

 お前もレンジャー志望なのか?

 まあ、わからないことがあれば俺がおしえてやるよ?」


 完全に“上から目線”だった。


 アヤメの眉がぴくりと吊り上がる。


「……アレクス様。

 彼、とても失礼なことを言っているように聞こえるのですが」

「まあまあ……」

「まあまあではありません!」


 背中から火花が出そうなほど怒っている。

 

「おやおや」

 オルフィナは面白そうに傍観している。


 ハヤテはその理由に気づかず、なおも得意げに胸を張った。


「安心しろよ。俺は来年には独り立ちする。

 篝村で一番の弓の腕だし――」


「……へぇ、そうなんだ?」


 アヤメの声は笑っているが、目はまったく笑っていない。

 村を吹き抜ける冬風より、その視線のほうが冷たかった。

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