22一卓結縁(いったくけつえん)
ギルドの食堂は、夕食時で賑わっていた。
長い旅を終えた冒険者たちの笑い声、湯気の立つ料理の匂い――
その中の一角に、ジルドたち三人が席を取って待っていた。
賢者ジルド。
女戦士バルド。
女レンジャーのスズナ。
そして、俺、オルフィナ、エリオット、アヤメ。
久しぶりの顔ぶれが、同じ卓を囲むことになった。
「まずは、礼を言わせてくれ、ジルド。
エリオットの件では、本当に世話になった」
俺が頭を下げると、ジルドは穏やかに手を振った。
「いえいえ。こちらも若干、思惑がございましたから。
お気になさらず」
そう言いながら、ジルドはアヤメへとワイングラスを掲げた。
アヤメは、ビクッとして、さっとオルフィナの背中に隠れる。
「アヤメ、久しぶりね」
スズナが笑って声をかける。
「はい。また会えてうれしいです、スズナ先輩」
ようやくアヤメも顔を出して、ぺこりと頭を下げた。
◆
「時に、アレクス殿。あなた方は、なぜこの街に?」
ジルドが静かに切り出す。
「ひとつは、ジルドにお礼を言うため。
もうひとつは――リオの行方の手がかりを探すためだ」
「私と入れ替わりに、アレクス殿のパーティを去った方ですね」
ジルドは少し思案し、グラスを置いた。
「よろしければ、その捜索……私もお手伝いいたしましょう。
冒険者の情報網もありますゆえ。
もちろん、今回はきっちり報酬はいただきますが」
「それはありがたい。ぜひお願いしたい」
「ただし――ひとつ、条件が」
ジルドが指を一本立てる。
またアヤメ絡みの要求か、と一瞬身構えたが、今回は違った。
「実は、今、クエストをひとつ抱えておりまして。
洞窟に棲むサラマンダー――火トカゲの征伐です」
サラマンダー。
ボス級モンスターだ。
俺たちでは太刀打ちできる相手ではないが、
Sランクのジルドなら問題なさそうに思えるが――。
「実は、我々は本日、その洞窟の奥まで“下見”に行ってきまして。
サラマンダーを実際に見てまいりました」
(危険を伴う偵察を、よくまあ散歩のついでみたいに言えるな……)
「サラマンダー自体は私ひとりで対処できます。
問題は――手下の大トカゲが大量におりまして、非常にうっとおしい」
「トカゲ……っ」
その言葉に、オルフィナが青ざめた。
「ああ、実際、気持ちの良いものではなかったな。」
バルナは顔をしかめる。
女冒険者に爬虫類系が苦手なのは珍しくない。
一方、アヤメは、
「トカゲ? 基本は丸焼きですね。珍味です」
食べる気だ。
◆
「つまり、ジルドがサラマンダーを相手している間、
大トカゲが邪魔しないよう抑えてほしい、ということだな」
「さすが察しが早い。まさにその通りです。
我々だけでは手が足りなくて」
「わかった。俺たちに任せてくれ」
俺は快諾した。
アヤメは洞窟クエスト自体が初めてらしく、興味津々だ。
「アレクス様。洞窟攻略の注意点などございますでしょうか?」
俺は、大学で習ったことを思い出しながら、順に説明していった。
「まず、洞窟は狭い。
だから剣も矢も“短めのもの”を用意する。
それから、接近戦が増えるから、防具も厚くな。」
「はいっ!」
アヤメが姿勢を正す。
「次に重要なのが火だ。松明は多めに持て。
洞窟では“光そのものが武器”になる。トカゲは光に弱い個体が多い」
「へえ……光で弱るんですね」
「覚えとけよ。で、大トカゲは三拍子そろってる。
“暗所に強い・素早い・噛む”。厄介だ。
まず、
狭い通路では敵の真正面に立つな。
トカゲは横に跳べない。斜めに位置取りすると攻撃しづらくなる」
「なるほど、真正面はダメ……斜め……メモします!」
「次。松明を奴らの顔に向けろ。
動きが止まった瞬間が“アヤメの矢の入りどころ”だ」
「光で動きを止めて、すぐ射る……ですね!」
「それから――天井を警戒しろ。
大トカゲは天井に張りついて真上から落ちてくる」
アヤメがびくっとして見上げる。
「ひぃっ……そ、そんなに上から……」
「常に上を見る癖をつけろ。洞窟の基本だ」
「はい! ずっと上を見ておきます!」
「最後に、アヤメ、お前の矢は精度が高い。
だからこそ、洞窟戦では“動きを止める”を優先しろ。
足を一本射抜けば、トカゲは一気に鈍る。
そこからは俺が前に出る」
アヤメは目を輝かせて深く頷いた。
「はい!ご教示ありがとうございました。」
◆
「意外と博学だな」
バルナが感心したように腕を組む。
「アヤメ、短剣の経験は?」とスズナ。
「ありません。狩猟用のものしか……」
「じゃあ後で少し教えてあげるわ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
アヤメの瞳がきらきらと輝いた。
◆
「では、明日は作戦会議と準備。
明後日、クエスト実行とまいりましょう」
ジルドの言葉に、俺たちは力強く頷いた。
その夜、俺たちは久しぶりの再会を噛みしめながら、
同じ卓を囲む温かさを胸に、静かに明日へ備えるのだった。




