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荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。  作者: しばたろう


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19/28

19過失再起(かしつさいき)

翌日。

俺たちは、バンジの病室に集まっていた。


アヤメがむくれ顔でぷいっとそっぽを向く。


「アレクス様……昨日はひどいです。

 全然、釈明してくださらないなんて……!」


「ああ、すまん。」

俺は頭をかく。


「だが、一晩考えたんだ。

 その結果…… 『訂正する必要は特にないのではないか』 という結論に至った」


「どういう結論よ!?」

オルフィナが噛みつくように言う。

「まさか……父君の前で正式にプロポーズとか!?」


「えっっ!!!!」


アヤメが勢いよく跳ね上がる。

顔は真っ赤、両手はぶんぶん振り回し、挙動不審フルスロットル。


「アレクス様!? ちょっと、その……あの……ま、まってくださいっ!

 わ、わたし心の準備が……!」


「いや、違う」


「ちがうんかい!!」

オルフィナの鋭いツッコミが炸裂する。


「からかわないでくださいもうっ!!」

アヤメがぷくーっと頬をふくらませる。


そんな一同の騒ぎを、バンジは静かに見守っていた。


そして、ふっと表情を引き締める。


「アレクス様のご様子……

 決してふざけて申されているわけではないとお見受けました。

 大切なお話があるのでしょう。どうぞ、お聞かせください」


その一言で、病室の空気が一気に引き締まった。


俺はゆっくりと口を開く。


「……アヤメには言っていなかったが。

 俺は以前、仲間を一人――パーティから追放している。

 お前と同じ、レンジャーだった」


オルフィナの顔が、はっと曇る。


「リオは優秀だった。

 陰で支えてくれた、本当に頼れる仲間だった。

 ……だが当時の俺は、その価値に気づかなかった」


脳裏に、リオの背中が浮かぶ。


「俺はあいつを無能扱いし、利己的な理由で追放した。

 今でも後悔している。

 ――心から、傷つけたことを」


言葉にすると胸が痛む。

あの日から抱え続けた後悔が、また鋭く刺さる。


「だから――俺は、リオを探しに旅に出たい」


エリオットが確認するように言った。


「リオを連れ戻して、パーティに戻ってもらう……ってこと?」


「いや、違う」


俺は首を振る。


「俺たちはもう、リオに頼ってはいけない。

 それが今なら、はっきり分かる。

 もし再び向かい入れるときが来るとしても……

 それは俺が“リオと肩を並べた時”だ」


オルフィナが静かに頷く。


「ただ、一度……会って、謝りたい。それだけだ」


俺はふたりを見る。


「だから――オルフィナ、エリオット。

 一緒に、リオを探してほしい」


「もちろんだ」

「いいよ」

ふたりの返事は迷いがなかった。


そして――俺はバンジへと向き直る。


「もうひとつ……大事な話がある。

 アヤメを――あなたの娘さんを、正式に俺たちのパーティに迎えたい。

 手伝いでも見習いでもない。“ひとりの冒険者”としてだ」


その瞬間。

アヤメは両手で顔を覆い、ぽろぽろ涙をこぼした。


オルフィナは、そっと頷く。


そしてバンジは――静かに深く息をついた。


「アレクス様にそこまで申していただけるとは……

 アヤメも幸せ者でございます。

 親としては異論ございません。

 アヤメの判断に任せたいと思います」


アヤメは涙でぐしゃぐしゃの顔で、精一杯叫んだ。


「わ、わたしなんかでよければ……よろしくおねがいしまっすぅ!!」


「ありがとう。

 アヤメ。これから、よろしく頼む」


 ひと時の後、

 ようやく涙が止まったアヤメが、もじもじと手を上げる。


「……あ、あの、アレクス様。ひとつだけ」


「ん?」


「やはり、パーティ加入と……プロポーズは……

 全くの別物でございます!!」


「ほんとこれだから男というやつは……」

オルフィナがため息をつく。


病室に、あたたかくて、少しだけ賑やかな笑いが広がった。



 数日の滞在を経て――

 俺たちはついに、リオを探す旅へと出発することになった。


 村の入り口には、見送りのために集まった大勢の村人たち。

 その中には、杖をつきながらもわざわざ外へ出てきたバンジの姿もあった。


 アヤメが俺たちの正式な仲間となり、

 Sランクパーティと共に旅に出る――。


 その事実だけで、村は完全にお祭り状態だった。



 アヤメとバンジは手を取り合い、静かに向き合った。


「父さん……行ってきます」


「ああ、アヤメ。頑張るんだぞ。

 お前なら大丈夫だ。胸を張れ」


 ほんの短い言葉のやりとり。

 だがそこには、積み重ねた日々と、確かな絆が込められていた。


 そしてバンジは俺たちへ深く頭を下げる。


「皆様……ふつつかな娘ですが、どうぞよろしくお願いします」


 俺は胸に手を当て、しっかりと応えた。


「ああ、バンジ殿。

 娘さんは俺たちが預かる。

 命に代えてでも守る」


 アヤメがうつむき、そっと目元を指で拭っていた。



 森へ向かって歩き出す俺たち。

 その背中に、村人たちの声援が降り注ぐ。


「アヤメちゃーん!風邪ひかないでねー!」

「アレクス様、お元気でー!」


 村を離れ、森へ入る。

 澄んだ風が頬を撫で、乾いた落ち葉の匂いが秋を告げていた。


 アヤメがそっと俺の横に並ぶ。


「アレクス様……これからも、よろしくお願いします」


「ああ。こちらこそ頼む、アヤメ」


 その言葉は、これまでの旅の続きではなく、

 新しい旅路の始まりを告げるものだった。


 冷たい秋風。

 しかし、不思議と胸の奥はあたたかかった。


 こうして俺たちは――

 リオを探すための、本当の冒険へと踏み出したのだった。

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