19過失再起(かしつさいき)
翌日。
俺たちは、バンジの病室に集まっていた。
アヤメがむくれ顔でぷいっとそっぽを向く。
「アレクス様……昨日はひどいです。
全然、釈明してくださらないなんて……!」
「ああ、すまん。」
俺は頭をかく。
「だが、一晩考えたんだ。
その結果…… 『訂正する必要は特にないのではないか』 という結論に至った」
「どういう結論よ!?」
オルフィナが噛みつくように言う。
「まさか……父君の前で正式にプロポーズとか!?」
「えっっ!!!!」
アヤメが勢いよく跳ね上がる。
顔は真っ赤、両手はぶんぶん振り回し、挙動不審フルスロットル。
「アレクス様!? ちょっと、その……あの……ま、まってくださいっ!
わ、わたし心の準備が……!」
「いや、違う」
「ちがうんかい!!」
オルフィナの鋭いツッコミが炸裂する。
「からかわないでくださいもうっ!!」
アヤメがぷくーっと頬をふくらませる。
そんな一同の騒ぎを、バンジは静かに見守っていた。
そして、ふっと表情を引き締める。
「アレクス様のご様子……
決してふざけて申されているわけではないとお見受けました。
大切なお話があるのでしょう。どうぞ、お聞かせください」
その一言で、病室の空気が一気に引き締まった。
俺はゆっくりと口を開く。
「……アヤメには言っていなかったが。
俺は以前、仲間を一人――パーティから追放している。
お前と同じ、レンジャーだった」
オルフィナの顔が、はっと曇る。
「リオは優秀だった。
陰で支えてくれた、本当に頼れる仲間だった。
……だが当時の俺は、その価値に気づかなかった」
脳裏に、リオの背中が浮かぶ。
「俺はあいつを無能扱いし、利己的な理由で追放した。
今でも後悔している。
――心から、傷つけたことを」
言葉にすると胸が痛む。
あの日から抱え続けた後悔が、また鋭く刺さる。
「だから――俺は、リオを探しに旅に出たい」
エリオットが確認するように言った。
「リオを連れ戻して、パーティに戻ってもらう……ってこと?」
「いや、違う」
俺は首を振る。
「俺たちはもう、リオに頼ってはいけない。
それが今なら、はっきり分かる。
もし再び向かい入れるときが来るとしても……
それは俺が“リオと肩を並べた時”だ」
オルフィナが静かに頷く。
「ただ、一度……会って、謝りたい。それだけだ」
俺はふたりを見る。
「だから――オルフィナ、エリオット。
一緒に、リオを探してほしい」
「もちろんだ」
「いいよ」
ふたりの返事は迷いがなかった。
そして――俺はバンジへと向き直る。
「もうひとつ……大事な話がある。
アヤメを――あなたの娘さんを、正式に俺たちのパーティに迎えたい。
手伝いでも見習いでもない。“ひとりの冒険者”としてだ」
その瞬間。
アヤメは両手で顔を覆い、ぽろぽろ涙をこぼした。
オルフィナは、そっと頷く。
そしてバンジは――静かに深く息をついた。
「アレクス様にそこまで申していただけるとは……
アヤメも幸せ者でございます。
親としては異論ございません。
アヤメの判断に任せたいと思います」
アヤメは涙でぐしゃぐしゃの顔で、精一杯叫んだ。
「わ、わたしなんかでよければ……よろしくおねがいしまっすぅ!!」
「ありがとう。
アヤメ。これから、よろしく頼む」
ひと時の後、
ようやく涙が止まったアヤメが、もじもじと手を上げる。
「……あ、あの、アレクス様。ひとつだけ」
「ん?」
「やはり、パーティ加入と……プロポーズは……
全くの別物でございます!!」
「ほんとこれだから男というやつは……」
オルフィナがため息をつく。
病室に、あたたかくて、少しだけ賑やかな笑いが広がった。
◇
数日の滞在を経て――
俺たちはついに、リオを探す旅へと出発することになった。
村の入り口には、見送りのために集まった大勢の村人たち。
その中には、杖をつきながらもわざわざ外へ出てきたバンジの姿もあった。
アヤメが俺たちの正式な仲間となり、
Sランクパーティと共に旅に出る――。
その事実だけで、村は完全にお祭り状態だった。
◇
アヤメとバンジは手を取り合い、静かに向き合った。
「父さん……行ってきます」
「ああ、アヤメ。頑張るんだぞ。
お前なら大丈夫だ。胸を張れ」
ほんの短い言葉のやりとり。
だがそこには、積み重ねた日々と、確かな絆が込められていた。
そしてバンジは俺たちへ深く頭を下げる。
「皆様……ふつつかな娘ですが、どうぞよろしくお願いします」
俺は胸に手を当て、しっかりと応えた。
「ああ、バンジ殿。
娘さんは俺たちが預かる。
命に代えてでも守る」
アヤメがうつむき、そっと目元を指で拭っていた。
◇
森へ向かって歩き出す俺たち。
その背中に、村人たちの声援が降り注ぐ。
「アヤメちゃーん!風邪ひかないでねー!」
「アレクス様、お元気でー!」
村を離れ、森へ入る。
澄んだ風が頬を撫で、乾いた落ち葉の匂いが秋を告げていた。
アヤメがそっと俺の横に並ぶ。
「アレクス様……これからも、よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ頼む、アヤメ」
その言葉は、これまでの旅の続きではなく、
新しい旅路の始まりを告げるものだった。
冷たい秋風。
しかし、不思議と胸の奥はあたたかかった。
こうして俺たちは――
リオを探すための、本当の冒険へと踏み出したのだった。




