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荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。  作者: しばたろう


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18/28

18弓巫凱旋(きゅうふがいせん)

 俺たちはついに――バンジの待つ村へと帰ってきた。


 アヤメと二人で旅立ってから、ひとつ季節が巡り、

 森の葉はすっかり秋色に染まっていた。


 村の入口に足を踏み入れた瞬間――


「アヤメちゃんだ!」「帰ってきたぞー!」


 人々が一斉に駆け寄ってくる。

 アヤメはぱっと笑顔を向けて、元気よく手を振った。


「皆さん、ただいま帰りましたー!」


 だが、アヤメの後ろに並ぶのは――


 美しく誇り高き魔法使い(※見た目は女神)

 重厚な威厳をまとった僧侶(※見た目だけだが)

 巨大イノシシをずるずる引きずる戦士(※俺)


 村人の視線が、一瞬で点となり、次にギョッと見開かれる。


「ア、アヤメちゃんの……凱旋だぁぁ!」

「ひ、一回りどころか十回り成長しておる……!」

「Sランク連れてきた……本当に連れてきた……!」


 アヤメは「えへへ」と照れ笑いを浮かべ、

 村中が勝手に盛り上がっていく。

 ……すごいな、田舎の情報拡散速度。



 俺たちはそのまま、バンジが療養している施設へ向かった。


 扉を開けると、ベッドに起き上がったバンジがこちらを見た。


「アヤメ……よく帰ってきたな。元気だったか」


「うん! 父さん、体調どう?」


「ああ、ずいぶん良くなってきた。

 アレクス殿、この度は本当に……お疲れ様でした。

 アヤメは……少しはお役に立てましたでしょうか?」


 少しどころじゃない。

 むしろ俺の方が助けられっぱなしだ。


「ああ。とても頼もしかった。こちらこそ礼を言わせてほしい」


 かしこまって言うと、バンジは逆に恐縮してしまい――


「そう言っていただけるとは……冒険者冥利に尽きます……!」


 と、涙ぐんでいた。



 そこへ――誇り高き魔術師、オルフィナが一歩前へ。


「初めまして、アヤメの父上。

 私は、この世の理を司る魔道を探求する者――

 オルフィナと申す。以後、お見知りおきを」


 言い回しが完全に中二である。


 バンジは、美女の圧に完全に飲まれた。


「は、は、はいっ!! よろしくお願いします、オルフィナ様!」


 その返事は、もはや村長に向けるそれだった。


 続いてエリオットがひょいと前に出る。


「どうも、エリオットです。お父さん、怪我はどう?

 ちょっと回復呪文、かけておきますね」


「お、おお……助かる……!」


 気さくすぎる僧侶の登場に、

 バンジはようやく呼吸を取り戻すことができた。


 アヤメはそんな父の姿を見て、胸の前で手をぎゅっと握る。

 その横顔には――どこか誇らしい光が宿っていた。

 

「積もる話もあるだろう。

 あとは、親子でゆっくりされるのが良い」


 そう言って一歩下がろうとした俺は、ふと「ああ、そうだ」と思い出した。


「これを渡しておく」


 腰袋から、小さな布袋を取り出し、バンジに手渡す。


 袋の中で、金属が澄んだ音を立てた。


「こ、これは……金貨……?」


「アヤメの戦利品だ。

 しばらくの入院費と生活費に使ってくれ」


 バンジは完全に固まった。


 一方で――


「いけません、アレクス様! これは受け取れません!」


 アヤメが慌てて手を伸ばす。


「これは、お前が“身を挺して勝ち取った”正当な戦利品だ。

 お前のものだよ」


「……っ」


 アヤメのまつげが震えた。

 感動しているのか、混乱しているのか、たぶん両方だ。


 そして俺は、調子づいて余計な一言を添えてしまった。


「それに――この程度、俺にとってははした金にすぎない」


 もちろん、盛大なハッタリである。


 横でオルフィナが、

 “その見栄、あとでツケが回るぞ”

 という顔でこちらを見ていた。

 エリオットは「すげぇ……!」と本気で信じている。

 

 アヤメはと言えば――


「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて頂戴いたします」


 深々と頭を下げ、そっとバンジに寄り添った。


 その一部始終を、村人たちが遠巻きに見ていた。


 そして次の瞬間――


「い、今の見たか!?

 アレクス殿が……アヤメちゃんの父親に……金貨を渡したぞ!」


「ま、まさか――

 アレクス殿……アヤメちゃんへの“結納金”……!?」


「アヤメちゃん……!

 Sランクの婿を連れて帰ってきたぁぁぁ!!」


 噂は瞬く間に爆発し――

 尾びれ、背びれ、ヒレですらない謎のパーツがつきながら、

 村を光の速度で駆け巡っていった。

 

 

 その夜――

 村では大げさすぎるほどの“俺たちの帰還祝い”が開かれた。


 広場に大きな囲炉裏が組まれ、

 料理が並び、

 酒樽がいくつも開けられ、

 村人総出の大宴会である。


 気づけば俺たちは、なぜか上座に鎮座していた。


「ささ、婿殿、いっぱいどうぞ!」


 村の長老が満面の笑みで酒を注いでくる。


「いや、あの……婿では……」

 と言いかけたが、もう諦めた。


「ああ、うん、ありがとう、ありがとう。ぐびぐびぐび」


 完全に流れに身を任せた。


「アレクス様も、ちゃんと否定してください!

 ああ、もうぅぅ~~~!!」


 アヤメが村人の間をちょこまか走りながら、必死に訂正して回っている。

 その慌てっぷりが、まあ……かわいい。


 俺を見つめて

「アレクス様ぁぁ……!」

 と涙目で訴えてくる姿が、さらにかわいい。


(……いやもう、知らん……今日は飲む……)



 一方、オルフィナとエリオットはというと――


「オルフィナ様!こちらの焼き魚をぜひ!」

「オルフィナ様!彼氏いますか?」


「エリオット殿、あなたの呪文、見事でしたぞ!」

「さあさあ、飲んでください!!」


 二人とも村人に囲まれ、超・厚遇を受けていた。


 酔いのまわったオルフィナが、こちらを見ながら言う。


「お前は、ほんと“わきが甘い”んだ。

 だから、いつもこういう勘違いをされるんだぞ……」


 呆れ顔だが、声はどこか優しい。


 一方エリオットは――


「ええ!? いつのまに!?

 言ってよ!おめでとうアレクス!!」


 村人と一緒になって誤解していた。



 けれど――


 賑やかな声に包まれながら、ふっと心が軽くなるのを感じた。


 達成感。

 安心感。

 そして……ようやく肩の力が抜ける、この感覚。


 リオを追いやってしまってから、ずっと、必死で生きてきた。

 何をしても満たされず、泥の中をもがくような日々だった。


 けれど――


 仲間を見つけた。

 アヤメを無事に連れ帰れた。

 オルフィナも、エリオットも、こうして笑っている。


 “目的を果たした”という実感が、胸を静かに温めていく。


 今後のことは、正直まだ何もわからない。

 視界は真っ暗で、足元すらはっきりしない。

 それでも。


 ――今夜だけは。


 この暖かいざわめきに、身を預けていたかった。


(……まあ、いいか。今日は飲む日だ)


 杯を掲げると、村人たちがどっと沸いた。


 アヤメが、遠くからじーっとこちらを見つめている。


(……かわいいな、ほんと)


 そんなことを思いながら、俺は静かに笑った。

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