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13再会に花咲き、砦に騒ぎ起こる

 俺たちはついに――

 北方の要塞、《霧牙(むが)の砦》へとたどり着いた。


 砦を守る門番たちは、俺たちを見るなり目を丸くしたが、

 すぐに態度が変わった。


 Sランク冒険者が二人、Aランクが一人。

 無碍(むげ)に扱われるわけがない。むしろ、歓迎ムードだ。


 ……いや、それどころではなかった。


 突如現れた美女三人

 (オルフィナ、スズナ、アヤメ)に、男ばかりの砦は――


 完全にお祭り騒ぎとなった。


「なあ、見たか?」

「金髪の子すごく綺麗じゃないか」

「いや黒髪の子もだろ」

「弓の娘も可愛いぞ!」


 ささやき声はもう隠す気配すらない。


 そんな喧騒の中で――


「アレクスなのか!!」


 涙目で駆け寄ってきた男がいた。

 エリオットだ。


 元気そうで、本当に……よかった。


「エリオット!」

「生きてたんだな……! 本当に……!」


 感動の再会――

 のはずだったのだが。


「って……ええぇーー!?」

 エリオットの視線が俺と三人を行ったり来たり。


 ……まあ、驚くよな。


 離れ離れになった仲間が、

 突然美女三人を引き連れてやってきたら、誰だって動揺する。



 俺たちは、砦の奥にある小屋――隊長レンジの執務室に通された。


「このたびは、仲間のエリオットを助けていただき、感謝します」


 俺が頭を下げると、隊長レンジは豪快に笑った。


「はっはっは! 気にするな!

 北の森で彷徨(さまよ)ってたところを拾っただけよ。

 腕の立つ男だ、兵の仕事も手伝ってくれた。

 助かっていたのはこちらのほうだ」

 

 エリオットは静かに語り始めた。


 ――北の森で道に迷い、ひとりで何日も彷徨(さまよ)ったこと。

 ――不安と恐怖で、何度も心が折れかけたこと。

 ――兵士たちに救われ、砦で働きながら今日まで過ごしていたこと。


「……ほんとうに、つらかった……」


 エリオットの目から涙がこぼれる。


 俺はそっと、その肩に手を置いた。


「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」


 部屋に、静かな空気が流れる――


 はずだった。


「おい、どれが好みだ?」

「三人ともあの戦士の彼女らしいぞ」

「嘘つけ、正室はどの人なんだ?」

「いやいや、むしろ三人とも……」


 ドア、窓、天井裏。

 あらゆる隙間から兵士の顔がのぞいていた。


 全員、三人に夢中である。


「おまえらーーッ!! 持ち場に戻れ!!」


 隊長が怒鳴ると、一瞬だけ散っていくが、

 数秒後、またぞろぞろと戻ってくる。


 本気で収拾がつかない。



「まあ、今日はゆっくり休んでくれ」

 隊長レンジが苦笑しながら言った。


 その夜――


 開かれたのは、俺たちの歓迎会……という名の、

 三人を囲む大宴会だった。


「アヤメちゃん、かわいい!」

「スズナさん、美しすぎる……」

「オルフィナ殿……天使……?」


 兵士たちが三人を中心に輪を作り、

 酒と歓声が入り乱れている。


(おいおい……あまり調子に乗ると痛い目見るぞ……)


 そんな心配をしつつ、

 エリオットとふたり、少し離れた席に腰をおろした。

 

 エリオットは、俺たちとおなじ、アレクス勇技総合大学の同期。

 俺たちと同じ経緯で、リオとパーティを組んだ。


 杯を口に運んでいたエリオットが、ふっと真顔になる。


「なあ、アレクス……最近のおれ、ちょっと調子が悪いんだよね。

 ……スランプってやつだ」


「スランプ?」

 聞き返すと、エリオットは頭をがりがりとかいた。


「ちょうど、リオがいなくなったあたりからかな。

 なんかこう……本来の力が出ないっていうか……」


 しみじみした顔で言うが――


(……こいつ、自覚ゼロなのか!)


 俺は心の中で大きくため息をついた。


 エリオット、おまえ……気づいてない。


 おまえが強かったのは“リオが後ろで支えてくれていたから”なんだよ。


(鈍いやつだとは思ってたが……ここまでとは)


 でも――まあ、いい。


 本人が気づくのは、もっと後でいい。


「……まあ、そんなスランプの話は置いといてだね」

 エリオットは気を取り直し、こちらを向いた。


「これから、どうするかなんだけど――」

 その目はまっすぐで、迷いが消えていた。


「もちろん、おれは……おまえのパーティに戻りたい。

 あっ、別にだな! その、かわいい子が増えたからとか、

 そういう理由じゃ全然ないからな!?

 ほんとに違うからな!?」


 必死すぎて逆に怪しい。


「でもな、この砦のみんなには世話になった。

 命まで助けてもらったんだ。

 恩義がある」


 その言葉には、エリオットらしい誠実さが込められていた。


「だから――最後の仕事を手伝いたいんだ。

 砦の任務をやり遂げてから、正式に今後のことを考えたい」


 しっかりとした決意が、その瞳に宿っていた。


「……そうだな」

 俺は頷く。


「それがいい。お前は筋の通ったやつだ。

 終わらせるべきことを終わらせてから戻ってこい」


 エリオットは――ほんの少し、安心した顔を見せた。


 砦の奥では、三人の美女を中心に兵士たちの歓声が響いている。


 その喧騒の中で、エリオットは静かに言った。


「アレクス……また一緒に冒険できるの、嬉しいよ」


「おう。こちらこそだ」


 杯が静かに触れ合った。

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