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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT1

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第12話 まさかこんな所で会えるとは思ってませんでした

 ガルラ峡谷。

 蛇行するガルラ川を中心とした、乾いた土と岩で構成されている赤茶けた地域だ。

 そんな岩と崖で入りくんだ地形の中、薄汚れた外套を纏い、フードで顔を隠した女が歩いていた。

 半魔の女、テオディジアだ。

 彼女は、行方不明になった妹、エウフェミアを捜していた。

 行方不明といっても様々な状況があるだろうが、エウフェミアの失踪はテオディジアが考える限り最悪の形だった。

 旅から帰ってくると、里が壊滅していたのだ。

 テオディジアの家族を含め、ほとんどの者が死んでいたが、年若い女たちだけが姿を消していた。

 ならば連れ去られたのかもしれない。彼女は、一縷の望みにかけて妹を捜すことにしたのだ。

 そうして、テオディジアは妹を捜し求め、その途中で夜霧たちと出会った。

 その夜霧たちは、エウフェミアの名をどこかで聞いたことがあるらしい。

 夜霧たちは、竜の平原からクエンザの街へ。そこから列車でハナブサへと移動し、ハナブサから峡谷へと辿りついたとのことだった。

 なので、エウフェミアについて聞いたことがあるなら、ハナブサかクエンザでということになる。

 そこで、まずは最寄りのハナブサへと行くことにした。

 もっとも、ただ街に行っただけで妹が見つかる可能性はほとんどないだろう。

 では、ただ闇雲に捜すだけなのかといえば、テオディジアには多少の当てがあった。

 裏社会の情報網だ。

 テオディジアたちは半魔と呼ばれる種族で、その特徴は銀髪に褐色の肌。そして、膨大な魔力だ。

 その魔力を利用しようとする者は後を絶たず、半魔は高値で取引されていた。

 テオディジアが峡谷にやってきたのは、半魔が剣聖関係者に買い取られているという噂を聞いたからだった。

 剣聖がどこに居を構えているのかは謎だったが、聖王の騎士の選抜が時折行われていると聞いて、そこに紛れ込むことにしたのだ。

 そして、半魔が実際に囚われていることを突き止めたが、そこに妹はいなかった。

 手がかりは途切れたが、ハナブサかクエンザにいたかもしれないのなら、その近辺の裏社会の者たちから何か聞き出せるかもしれない。

 なので、とりあえずのテオディジアの目標はハナブサでの情報収集なのだが、前ほどうまくはいかないだろう。

 偽装が解けているからだ。

 以前は半魔とばれないように魔法で変装をしていたが、これは仲間にかけてもらったものであり、一度解除されてしまっては自分でかけなおすことができない。

 半魔とわかる姿で何も考えずに裏社会の者と接触するなど自殺行為だろう。なので、情報収集をするにしても、何かうまいやり方を考えなければならなかった。

 まだ具体的な方策は考えていないが、めぼしい情報が得られなければ一度原生林にある里に戻ることになるだろう。

 同胞が生きていて、自由に行動できるなら、戻ってくる可能性は高いからだ。


 ――しかし、少々不可解な部分はある。


 今になって考えると、里の壊滅に疑問を覚える点も出てくる。

 里は余人には知られぬような森深くにあり、さらに魔法で隠蔽されている。そう簡単に見つかることなどないはずなのだ。

 それに、同胞のほとんどが殺されるという状況もおかしかった。半魔の魔力を狙ってのことなら、大部分を殺すなどするわけがない。抵抗した者を多少殺すことはあっても、ほとんどを生け捕りにするはずだし、その準備をしてくることだろう。

 そして、年若い女だけがいなくなった。

 このことから考えると、半魔の魔力的な価値を知らぬ者が、たまたま里を発見し、絶世の美貌を誇る半魔の若い女をさらっていったということになる。


 ――これは、捜し方を変えたほうがいいのかもしれないな。


 これまでは、半魔が魔力的価値で取引されるような市場を中心に考えていたが、女を売買するような市場を捜すほうが見つかる可能性が高いかもしれない。

 ハナブサでは花街や、奴隷市場などを捜してみるのもいいだろう。

 そんなことを考えながら歩いていたテオディジアだったが、ふと人の気配に気付いた。少し先、入りくんだ地形の向こう側から誰かがやってきている。しかも複数人だ。

 この峡谷に人が訪れることは滅多にないはずだった。聖王の騎士選抜はごくまれな状況だ。

 テオディジアは、岩の上へと跳んだ。

 こんな所にわざわざやってくるような者は怪しい。避けるにこしたことはないだろう。だが、テオディジアが即座に反応したのは、その集団から同胞の気配を感じたからだった。

 岩の上に腹ばいになって隠れ、待ち構える。やってきたのは、武装した五人の男たちだった。

 馬に荷車を引かせ、その周囲を守るように展開している。

 テオディジアは怒りのあまり飛び出しそうになる自分をかろうじて抑えた。

 男たちは同胞ではない。ならば同胞は、荷車に乗っている四つの樽に押し込められているのだ。

 そして、テオディジアは、塔の地下で無惨な姿となっていた同胞を思い出した。

 あの塔では半魔が必要とされていた。剣聖たちは塔から動けないとのことだったので、他に供給者がいるはずだった。それがこいつらなのだ。

 彼らには、彼らなりの、世界を守るためだのというご大層な理由があったのだろう。

 だが、そんなものはテオディジアたちにはまったく関係のないことであり、ただ魔力があるというだけで、その身を狙われるなど理不尽という他はない。


 ――どうするか。


 相手は武装した男が五人。荷車の前方に二人。左右に一人ずつ。後方に一人。それぞれが、軽装の鎧を身に付け、剣を帯びている。

 単騎で突撃するのは無謀だろう。

 だが、見逃すことはできない。なんとしても同胞を取り戻す。

 テオディジアは中腰になり、剣を抜いた。

 逆手に持ち、腰だめにする。そして、力を込めた。

 腕から伸びた闇が剣に纏わり付いていく。剣が黒に染まりきったところで、テオディジアは溜めた力を解放し、男たちに向けて剣を振るった。

 もちろん、普通なら届かない。だが、剣から放たれた闇の斬閃は、容易く男たちを両断した。

 まずは二人。テオディジアの剣は、前方にいた二人を倒していた。

 テオディジアはまたもや力を溜める。敵が反撃してこないなら、一方的に攻撃し続ければいい。

 だが、そう簡単にはいかなかった。

 敵も同じように、剣撃を飛ばしてきたのだ。

 後方にいた男の剣が、テオディジアの足元の岩を切り飛ばす。

 テオディジアは、飛び降り、攻撃してきた男と対峙した。


「半魔か。そっちからやってくるとはな」

「なめてんのかよ。半魔狩りの前に一人でのこのこやってくるってよ」

「二人やられてんだ。油断すんじゃねぇ」


 荷車の左右にいた男たちもやってきて武器を構える。

 三対一。全員が同じ程度の実力なら厄介だ。一斉に剣圧を飛ばしてこられてはかわすのが難しい。


「前から気になっていたのだがな。我々が半魔なら、全魔とでも呼べるような存在がいるのか?」


 半魔は蔑称らしい。人間たちがどのように呼ぼうが、テオディジアからすればどうでもいい話ではあるのだが、なぜ半魔であるのかは前から気になっていた。


「そんなこと俺たちが――」


 テオディジアは剣を振るった。二撃目を放とうと溜めていた力は失われていなかったのだ。

 同胞たちに当たらぬように、男たちの足元へと闇の刃を放つ。

 だが、刃は男たちの直前でかき消えた。


「なに!?」


 攻撃を防がれたことについてはさほどの驚きはない。無敵の一撃というわけでもないし、防御手段はいくらでもあるだろう。

 テオディジアが驚いたのは、それを防いだのが同胞の魔力だったからだ。


「あぶねぇなぁ。話の途中で攻撃とは半魔らしい卑怯さだ」

「半魔を専門に狩る俺たちだ。対策がねぇわけないだろうが」


 そう言う男の手には杖があった。魔法を使うのだろう。その杖からはケーブルが伸びていて荷車へと繋がっていた。


「貴様!」


 怒りで腸が煮えくり返りそうになる。


「半魔ってのはよ。魔力はたくさん持ってるが、有効利用する術には長けてねぇ。それをうまく使ってやれるのが俺たちってわけだ」

「こっちにあるのは、半魔四匹分の魔力だ。一匹でどうにかなるとでも思ったか?」

「そうか」


 怒りを押し殺しながらも、テオディジアは力を込める。闇が再び剣を覆い、刀身が倍以上に伸びた。そして、無造作に剣を横薙ぎにした。

 にやつく男たちの直前で、剣が止まる。だが、テオディジアは再び力を込めた。さらなる力を剣に流し込む。

 鈍い、金属がひしゃげるような音が響いた。

 男たちはそれを、剣が歪んだ音とでも思ったのだろう。

 逃げることもせず、力を振り絞るテオディジアをあざ笑うように見つめている。

 そして、一人の男が両断された。


「な!」


 さすがに舐めきっていた男たちも慌てて飛び退がった。


「どういうことだよ!」

「私が、四人をまとめた以上に強いとは考えなかったのか?」


 踏み込む。

 狼狽える男を防壁ごと唐竹割りにすると、その隙に最後の一人は杖を放り出して逃げていた。斬撃を飛ばしてきた、この中で最も強いと思われる男だ。

 テオディジアは、逃げる男の背に向けて飛ぶ斬撃を放った。威力はさほど必要ない。どこに当たっても動きを止めることはできるだろう。

 だが、男も振り向きざまに斬撃を放った。

 威力が相殺される。

 男はそのまま全力で走っていった。かなわないと見るや即座に撤退するあたり、一角の戦士なのかもしれない。

 テオディジアは追わなかった。それよりも、仲間の安否を気遣うほうが先だろうと思ったのだ。

 荷車に上り、覚悟を決めて樽の蓋を開ける。

 テオディジアはほっとした。塔の地下で見たような、ひどい有様にはなっていなかったのだ。

 狭い樽に無理矢理押し込められてはいるが、五体満足の状態だ。

 残りの樽を開けていく。全員女だった。だが、テオディジアの里の者ではない。

 同胞を助けられたのは良かったが、若干の落胆は否めなかった。


「うわああああああ!」


 同胞たちを樽から出していると、悲鳴が聞こえてきた。

 そちらを見てみれば先ほど逃げていった男が何故かこちらへとやってくる。

 まさか戻ってくるとは思っていなかったテオディジアは少なからず混乱した。

 気配を消して襲いかかってくるのならわかるし、想定もしている。

 だが、騒ぎながらやってくるのは意味がわからない。

 そして、さらに意味のわからないことが立て続けに起こった。

 半魔の気配があらわれ、男の胸から腕が飛び出したのだ。つまり、背後からの手刀が男を貫いている。男がずるりと倒れ、背後にいる者の姿が見えた。

 エウフェミアだった。


「いや……そんなことができるなら生け捕りは余裕だったろう。そいつからはまだ話が聞けたのだ。妹の居場所について何か知って……」


 テオディジアは混乱してわけのわからないことを言っていた。妹を捜すもなにも、その妹が目の前にいるのだ。


「お前……エウフェミアか?」


 そんなことは一目見ればわかる。わかるはずなのだが、その気配はテオディジアが知るものからあまりにかけ離れていたのだ。

 それに先ほどの攻撃。エウフェミアは武に秀でているわけではない。手刀で敵を貫くなどできるはずがなかった。


「そうですよ、テオねえちゃん。まさかこんな所で会えるとは思ってませんでした」


 エウフェミアの背後からは、巨大な馬車がやってきていた。しかもそれが何台も連なってやってきている。


「いったい、何がどうなっているんだ!?」


 エウフェミアには何がなんだかさっぱりわからなかった。


  *****


 テオディジアはエウフェミアに招待されて、馬車へと乗り込んだ。

 中は豪華な居室のようになっていて、座席には年のころは十二歳程度の少女が座っていた。

 なんでもエウフェミアが仕える主ということらしい。

 テオディジアたち姉妹も座席に座り、そしてエウフェミアによりこれまでの経緯が語られた。


「つまり、吸血鬼になって感覚が鋭くなり、同胞の気配をより察知できるようになったのか」

「そういうことです」


 にわかには信じがたい話だった。

 異世界からやってきた少年、橘裕樹が里を襲い、女たちを連れていった。その女たちの中でも特に美しかったエウフェミアは裕樹の側に仕えることになった。

 裕樹は支配者(ドミネーター)のギフトを持っており、誰も逆らうことができなかったが、高遠夜霧を殺そうとして反撃されて死んだ。

 裕樹が死に自由になったエウフェミアだったが、次は賢者レインの支配下に置かれた。レインはオリジンブラッドと呼ばれる吸血鬼であり、エウファミアは血を吸われて眷属となったのだ。

 そのレインも高遠夜霧に殺され、エウフェミアはまたしても支配から逃れた。

 自由になったエウフェミアは里に戻ったが誰もおらず、そこで他の眷属と戦うこととなり、勝ってしまったところオリジンブラッドとなってしまったのだ。

 そして、ゆく当てのなかったエウフェミアは、レインの別荘へと向かい、そこでレインの関係者と思われる少女、リズリーと出会う。

 リズリーに畏敬の念を抱いたエウフェミアは彼女の旅に同行することになり、王都へと向かうことになったのだ。


「エウフェミアさんが、お仲間の気配を感じるとのことでしたので、それでしたら捜しながら行こうということになったわけなんです」


 リズリーが補足した。

 エウフェミアは、同胞の危機を見過ごしながら旅をするのも心苦しかったので、これ幸いとこの申し出を受け入れたらしい。


「事情は把握した」


 エウフェミアはいろいろとひどい目にあったのだろうし、吸血鬼などにされてしまったのでは素直に喜ぶことは難しい。だが、それでもこうして会うことができたのだ。まずは良かったと。そう思うべきなのだろう。


「私の現状の目的は同胞を救うことで、それにはエウフェミアの力が役に立ちそうだ。同行させてもらってもいいだろうか?」

「はい! 大歓迎ですよ!」


 リズリーは即答した。


「しかし、王都へ向かっているのか。この峡谷を通り抜けるのは大変だと思うが、その点は大丈夫なのか?」

「はい。オリジンブラッドとなった際に、先代の知識が一部転写されました。この周辺の地理でしたら詳細まで把握しています」

「それなら行けるのか。だが、とある事件のおかげでこの一帯の地形は大分変わってしまっている。その点は注意したほうがいいだろう」


 テオディジアも何がどうなったと説明をするのは難しいのだが、女神とやらが放った光線により、このあたりはかなり破壊されてしまっているのだ。


「ところで、王都へは何用だ? 差し支えなければ聞いておきたいのだが」

「はい! 夜霧さんに会いにいくんです! あ、そこにいるってわけじゃないんですけど、まず王都に行けって伝言があってですね」

「……王都で問題ない。高遠殿もそちらに向かうとのことだった」


 先ほどから何度も夜霧の名は出ていたが、目的が会いにいくことだとはテオディジアは思ってもいなかった。


「えぇ!? 会ったことがあるんですか!」

「少々込み入った話ではあるのだが」


 今度は、テオディジアが自分のことを語る番だった。

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