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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT1

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第11話 そこでなんですけど、覚醒イベントが欲しいところなんですよね

 魔界中心部を覆う壁を通り抜けると、そこは森だった。

 そこからしばらく森を進んでいくと、唐突に虚無とも思える空間があらわれる。

 そこが魔界の中心にある穴のはずだった。

 近づいて見れば穴は真円ではなく、複雑に入りくんだ断崖になっている。穴の推定サイズは直径二十キロメートル。向かい側は霞んでいて見通すことはできない。

 この時点で陽が落ちはじめていたので、休息することになった。

 魔界の天候変化を信じきることはできないのだが、今のところは地上と同じペースで太陽のようなものは動いているようだ。いくら自分たちの力に自信があったとしても、視界が著しく制限される夜間に活動すべきではないとの判断だった。

 賢者候補たちは森の中に戻り、そこに拠点を構築した。

 大工(カーペンター)クラスを持つ者が、森を消して空き地を作り、そこに砦を建てたのだ。

 念のために周辺を偵察して安全を確認し、その日の活動は終わりということになった。

 そして、夜。砦内にある大食堂では一堂会しての食事会が行われていた。

 いくつものテーブルに用意されている豪勢な食事は、料理の得意な女子が調理したものだ。材料は、魔界にいくつかある拠点に備蓄してあったのだ。


「こんなにはしゃいでていーんだろうか……」

「いーんじゃないの?」


 知千佳がぼやくと、ろみ子が答えた。


「ま、ここまで楽勝だったしなー」


 そう言うのは四條樹菜。三人は同じテーブルについていた。

 六層の端まで難なく辿り着き、明日には七層に到達する。最初のうちこそ慣れない環境にとまどうこともあったが、今ではすっかり適応したのだろう。

 食堂内はゆるみきった雰囲気になっていた。

 ちなみに現状では女子のほうが多いので、男子は肩身が狭い思いをしているのかもしれない。


「見張りとか立てとかなくていいの? ここっていわば敵地のど真ん中だよね?」

「王都に来るまでは交代で見張りとかやってたの。けど、有馬くんの力がパワーアップして、今じゃ周囲の状況は全部わかるみたいー」


 有馬理。大工(カーペンター)クラスのギフトを持つ少年のことだ。

 最初のうちは掘っ立て小屋を一軒建てるのが精一杯という力だったが、今ではこの砦のような巨大建築物も楽々作ることができるようになっている。

 そして、大工(カーペンター)クラスには、自らが建築した建物内のことを把握する力があった。

 砦の周囲にも柵が巡らしてあり、柵内にもその力は及ぶ。つまり、この砦周辺の広域にわたって索敵が可能とのことだった。


「え? それってまずくないの? エロゲ三貴族って嫌われまくってたじゃん」


 寝泊まりする建物の内部を把握されるなら、嫌悪感を覚える者も多いだろうと知千佳は思う。


「あー、有馬くんは人気者だから特に問題にはならなかったね。けど、有馬くんは自分から申し出て、秋野さんの誓願を受けてたし。そのあたりの誠実さも人気の秘訣なんじゃない?」


 樹菜が答える。エロゲ三貴族は渋々受け入れたらしいので、そのあたりからして違うのだろう。


「理不尽だ……」

「建築家志望の優等生でルックスもいけてて紳士的ってモテ要素ばっかじゃん? 知千佳は有馬くんみたいなの嫌なん?」

「嫌ってことはないけどさー」


 と、考えてみれば、これまで男子のことをそういった目線で見たことがなかったことに気付く。


「ともちーは、高遠くんみたいなのがいーの?」

「な、なんでそこで高遠くんの名前が出てくんの?」

「ずっと一緒だったじゃん。それで意識してないっておかしくない?」

「いや、別にそういうんじゃ――あれ? 高遠くんいないような」


 知千佳は思わず夜霧を探してしまい、食堂内にいないことに気が付いた。


「んー、ほんとだねー」


 ろみ子も一緒になってきょろきょろと探す。人を見失うほどに広い食堂でもないので出ていったのだろう。


「ぼっち気質だから、いづらくなったんじゃない?」

「それ、ひどくない?」


 文句を言いつつも、そんなことだろうと知千佳も思っていた。


  *****


 夜霧は、森の中にぽっかりと開いた空間の端に座り、月明かりが照らし出す石造りの砦を見つめていた。

 この砦は大工(カーペンター)クラスの持ち主が作りあげたのだ。森を消し、次々と現れるブロックを積み上げて、またたくまに巨大な建造物を作りあげる様は、まるでゲームのようだった。

 その砦からは、賑やかな声が聞こえてきている。

 皆が食事をしているのだが、夜霧は早々に切り上げて外に出てきたのだった。


 ――ちょっとだけ、昔住んでたとこに似てるかな。


 夜霧は過去に住んでいた屋敷のことを思い出した。そこも地下でありながら、地下とは思わせない空間だったのだ。

 住んでいたのは鎮守の森の中にある屋敷なので、こうして木々に囲まれた空間に建物があると似ていると思ってしまう。ここが箱庭のようなものだとすれば、ここにいる魔神というのは、昔の夜霧と似たような境遇にあるのかもしれない。

 そんなことを夜霧はぼんやりと考えていた。

 外に出てきたことにたいした意味はない。ただ、なんとなく、人が多い所は落ち着かないと思っただけのことだ。

 出てきたところで特にすることもなく、夜霧は制服のポケットから携帯ゲーム機を取り出した。

 ハンティングゲームでモンスターを倒し素材を集める。

 シングルプレイ用のクエストはほぼクリアしてしまったので、後はマルチプレイ用の上位クエストに挑戦することになる。上位クエストをソロでクリアすることは可能だし、実際上級者は易々とクリアするらしい。けれど、夜霧はそれほどゲームがうまいわけではない。


 ――ソロだともうめんどくさいな。ますます帰りたくなってきた。


 どうにか帰る方法はないかと考えを巡らせていると、誰かが砦からやってくることに気付いた。

 デイヴィッドだ。

 ふらふらと夜霧のいるほうへと歩いてくる。

 なにか用なのかと思っていると、デイヴィッドは夜霧と目も合わせずに、通り過ぎてしまった。


「酔ってんの?」


 聞いてみたが返事はない。そのまま、おぼつかない足取りで森の中へと入ってしまった。

 様子がおかしいので放っておくわけにもいかず、夜霧はデイヴィッドの後を追った。

 どうしたものかと迷っているうちに森を抜ける。

 そちらにあるのは断崖絶壁。魔界の中心部にある奈落だった。


「おーい」


 さすがにまずいと思い、夜霧はデイヴィッドの肩を掴もうとした。

 だが、デイヴィッドは夜霧の手を軽く払いのけ、夜霧はバランスを崩して尻餅をついてしまった。

 そうしているうちにも、デイヴィッドは身体を揺らしながら、崖へと歩いていく。

 何が原因かはさっぱりわからないが、この先どうなるのかは簡単にわかる。

 デイヴィッドはそのまま崖から落ちようとしているのだ。

 そして、夜霧は死の気配を感じた。

 確実なものではない。だが、デイヴィッドの向かう先にはぼんやりと、黒い靄のようなものが見えているのだ。これは、デイヴィッドの死の危険を表しているのではない。そこに行けば、自分が危ういことを示している。

 だが夜霧は、まっすぐデイヴィッドに向かって駆けだした。

 腰のあたりを抱き抱えるようにして、前のめりに押し倒す。

 これには対応できなかったのか、デイヴットは素直に倒れてくれた。

 引き起こして顔を見る。


「もしもーし……だめだな、これ」


 デイヴットの目は虚ろだった。

 夜霧を見ていないし、意識もはっきりとはしていないようだった。


「こんなことなら、壇ノ浦さんに人の運び方を習っておけばよかったな」


 意識のない人間を運ぶのは慣れていない者には難しい。

 ぼやきつつも、夜霧はデイヴィッドの足を掴んでひきずっていくことにした。擦り傷程度はできるかもしれないが、こんなところに放置しておけない。

 ぴしり。

 四苦八苦していると、何かが砕けるようなかすかな音が聞こえた。

 黒い靄が色濃くなり、死の兆候が増していく。その変化は劇的で、何をする余裕もなかった。

 二人を乗せた岩盤が、奈落へと崩れはじめたのだ。


  *****


 鳳春人は、食堂から窓の外を見た。

 誰も気付いていないようだが、庭の木に梟が止まっている。

 春人が使役している梟で、それは成功の合図だった。コンサルタントの能力ではリアルタイムに夜霧の状態を知ることができないため、別の手段が必要だったのだ。


「春人くん、どうしたの? なんだかうれしそう」


 テーブルの向かいに座る大谷柚衣に言われ、春人は自分がかすかに笑みを浮かべていることを自覚した。


「そうかな」


 食堂での食事会はずいぶんと盛り上がっている。

 ここで自分が楽しそうにしていたところでそれほど違和感はないだろう。

 それは偶然に偶然を重ねた、計画とも言えない計画だった。

 そもそも、最初から成功することを期待していない。失敗を前提とする策の一つだ。

 基本は単純だ。

 夜霧に自分の意思で危地に行かせる。これなら事前に危機を察知されようと関係がないからだ。

 ではどのようにそう仕向けるか。

 これも単純ではあるが情に訴えかけることにした。

 春人がこれまで見てきた夜霧という少年は、他人に関心がないようでありながらもそれほど突き放しているわけでもない。親しい者が危険な目に遭えば助けにいくはずだ。

 そのような目論見の元に考案されたの策の一つが、デイヴィッドを囮に使うものだった。

 囮作戦なら、最も親しいであろう壇ノ浦知千佳を使うという手もあるが、これは案外難しい。知千佳は抜けているように見えて隙が少ないし、夜霧も彼女が狙われるのは想定しているだろうからだ。つまり、知千佳へのアプローチは、夜霧本人に何かしかけるのとそう変わらない可能性がある。

 では、ここ最近親しそうにしている、二宮諒子や、キャロル・S・レーンを使うという手はどうかというと、この二人は戦力として重要なので失ってしまうには惜しい。

 それに、クラスメイトは賢者のギフトで強化されている。薬物や呪いが効かない可能性があった。

 となると、使えそうなのはデイヴィッドということになる。それなりに親しくはしているようだし、王族らしいが賢者候補ほど強いわけでもない。第一、夜霧もデイヴィッドが狙われるなど考えもしないだろう。

 デイヴィッドに王都で入手した薬を盛り、暗示をかけて崖に向かうように仕向ける。

 崖にはあらかじめ亀裂を入れておいて、崩れやすくしておいた。

 これは、夜霧の弱点が、強制的な移動にあると考えてのものだ。

 たとえば、ある地点に行けば矢が飛んでくるとか、巨岩が落ちてくるというものではダメだろう。脅威の対象が殺される可能性が高い。

 だが、崖が崩れて落ちていくとなるとどうか。この場合、落ちていくのは自分なので、何を殺そうと落下を止めることはできない。

 そもそも、夜霧はこの異世界に連れてこられてしまっている。強制移動を回避できていないのだ。

 とはいっても、うまくいくかどうかはほぼ運任せの計画だった。

 食事会を開催して、いづらくなった夜霧が一人になる。

 デイヴィッドをうまく操ることができる。

 夜霧が崖に向かうデイヴィッドに気付く。

 デイヴィッドが亀裂のある崖に向かう。

 落ちようとするデイヴィッドを夜霧が止める。

 二人が乗ったことで亀裂の入っていた崖が崩れる。

 どれも確実とは言えない。ちょっとしたことで、この連鎖は崩れて計画は瓦解する。

 だが、それでよかったのだ。確実を期せば、それを夜霧に気づかれる可能性が高まる。

 確実とは言えない仕掛けを施して、後はただ運命に任せた。

 そこに殺意はなく、いくつもの偶然が死を現出させる。

 それが、春人の作戦だった。


「まあ、全てが順調にいっているからかな。ここまで特に苦労もなく来られているだろう?」

「だよね。明日も大丈夫だよね」

「七層に行ってみるまでわからないけどね。けど、僕たちの力を合わせればどうにかなると思うよ」

「その苦労もなく、うまくいっているというのが問題なんですよね」


 その声は、食事会の喧騒の中、朗々と響き渡った。

 それは耳を傾けざるをえないほど蠱惑的で、聞き逃すわけにはいかないと本能に訴えかけてくる。

 いつのまにか、食堂の真ん中に白いドレスの女が立っていた。

 賢者シオン。

 ほとんどの者にとってはバスで出会って以来であり、ここで出会うとは思っていなかった女だ。

 喧騒はぴたりとおさまり、全員の目がシオンに集中する。


「何かご用ですか? 例の件ならうまくいったところですが?」


 春人は、夜霧を始末する件について確認しにきたのかと思ったのだ。先ほど計画が成功したところなので、出てくるタイミングとしてはおかしくない。


「ああ、それはそれで進めておいてくださいね。今回はそれとは別の話です。さて、先ほども言いましたように、試練としてはちょっと易しすぎるんじゃないかと思ったのですよ。このままでは魔神を倒せたとしても賢者は生まれない可能性が高いように思えます」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! それは話が違うだろう! 偉業を達成すれば賢者になれるんじゃなかったのか!」


 矢崎が声を荒らげた。


「そんなわけはないでしょう? 偉業を達成する過程で賢者となれるだけの実力を身に付けるなり、目覚めるなりすればと思ってがんばっていただいているわけです。けれど、みなさん特に苦労をされてないようですし、こんなことをだらだらとやられても困るんですよ。そこでなんですけど、覚醒イベントが欲しいところなんですよね。どうしようもない敵にギリギリまで追い詰められるとか、親しいお友達が亡くなって限界を超えた力を発揮するとか」


 不吉な、嫌な予感が増していく。

 今の今まで楽しくやっていたというのに、それは唐突に反転しようとしている。


「そこで。みなさんで殺し合っていただこうかと思います。そろそろ自分の力には十分慣れた頃合いですよね? それらを駆使して最後の一人になるまで殺し合うというのはどうでしょう?」


 誰も声を上げることができず、ただ呆然となるだけだった。


  *****


 シオンの衝撃的な提案にクラスメイトたちが固まる。

 だが、その中にあって一人だけ、シオンの言葉などどうでもいいと言わんばかりの者がいた。

 二宮諒子だ。

 その目はシオンなど見ておらず、ただ手の中で震えるスマートフォンを凝視し続けている。

 スマートフォンの画面は激しく明滅し、あからさまな警告を発していた。


「……ちょっと……なんで第二門が……」


 そう口にする彼女は、まるで世界が終わったかのような顔をしていた。


  *****


 崖が崩れ、夜霧とデイヴィッドが奈落の底へと落ちていく。

 完全に身体は投げ出され、掴まる場所もない。あとは、重力に引かれて落ち続けるだけだ。

 春人は確信しただろう。

 高遠夜霧の能力は、殺意の感知と、即死能力だけであり、肉体的にはただの人間にすぎない。高所から落下すればなす術もなく死ぬだけだと。

 だが、高遠夜霧を知る者なら思うだろう。

 この程度のことを思いつかなかったわけがない。

 この程度のことを試さなかったわけがない。

 この程度のことで始末できたわけがない。

 この程度のことで高遠夜霧が死ぬのなら、とうの昔に世界は救われているはずだと。

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