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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT1

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第10話 あの、ちょっと意味がよくわからなかったんでござるが?

 魔界六層。

 そこは、賢者候補たちが到達した、前人未踏の領域だった。

 魔界は階層ごとに環境が異なっている。夜霧も行ったことのある一層は自然洞窟のような印象の場所だったが、ここには地上と見まがうような世界が広がっていたのだ。

 上空には青空が広がり、薄い雲が流れ、太陽が輝いている。

 大地があり、森があり、草原があり、川があり、小さな山があり、崖がある。ここが地下であることなどつい忘れてしまうような世界が展開されていた。

 賢者候補十八名。それに王国から派遣された監視役一名が、六層に下りてすぐにある森の中を歩いている。

 人などいるはずもないこの世界だったがなぜか道があり、彼らはそこを辿っていた。

 誘導されている感はあるが、その道がまっすぐに中心部へと向かっていることには変わりない。

 それに、この魔界は挑む者に配慮している節があるのだ。こういった大筋部分に罠がしかけられていることはこれまでなかったらしい。


「貧乏くじを引いたんじゃない?」


 夜霧は隣を歩くデイヴィッドに聞いた。

 今夜霧たちは二列縦隊の隊形を取っている。十八名なので、九人が二列。夜霧と知千佳は最後尾に並んでいて、デイヴィッドは隊形とは関係なく自由に歩いていた。

 国外退去に応じる形で、賢者候補たちは全員で魔界に移動することになり、マニー王国はそれを了承した。ただ、それだけではスキルを使ってあっさりと王都へ戻ってくる可能性がある。

 そこでお目付役として付いてきたのがデイヴィッドだった。


「まさか。志願したんだよ。この機会を逃せば六層にやってこられることなんてまずないからね。どんな所か見てみたかったんだ。それに王族による封印の力は君たちの役にもたつだろう?」


 賢者候補たちを監視したところでほぼ意味はないはずだ。

 デイヴィッドには賢者候補たちを制圧できるほどの武力はないし、ここで何が起ころうとすぐに地上と連絡を取る手段もない。

 夜霧はそう疑問に思っていたが、どうやら同行したのは本人の希望だったらしい。


「あんたがいいならいいけどさ。でも、無理せずに帰れるタイミングで帰ったほうがいいと思うよ」


 夜霧はデイヴィッドに剣術の稽古をつけてもらっていたので、多少の親しみは持っていた。


「帰ると言ってもね。君たちの協力なしに戻るのは無理な話だよ。なに、君たちが魔神と復讐者を倒せばいいのさ。全てが丸く収まるとは言わないけれど、大抵の問題はそれでどうとでもなる」

「魔神か……正直な話、なんでこんなことやってんだろ、って思うこともあるけど」


 魔界だとか魔神だとか、夜霧にとってはどうでもいい話だった。魔神を倒して偉業を達成したところで、賢者になれるだけのことであり、それで元の世界に帰れるわけではないからだ。

 今のところ元の世界に帰る確実な方法はわからないが、賢者シオンが知っている可能性は高く、会って話を聞くのは有力な手段だ。

 クラスメイトと一緒に行動していればそのうち姿をあらわすかと思っていたが、今のところその兆候はない。やはり、シオンと確実に会うには魔神を倒す必要があるのだろう。


「ねえ。その、魔神ってここから倒せないの?」


 小声で知千佳が聞いてくる。


「俺、その魔神がなんなのか全然知らないからね。直接俺を殺そうとしてくるわけでもないし。それに倒したとしても証明しようがないだろ」


 塔の魔神をうっかり殺してしまったのは、魔神が放つ瘴気に反応してしまったからだ。

 だが、この魔界には夜霧を害そうとする直接的な気配は存在していない。いるかどうかもわからない魔神を殺すことはできないのだ。


「まあ、最下層まで行けばどうにかなるんじゃないかな」


 会えさえすればこっそり殺せるだろう。魔神に恨みはないが、賢者に会うにはそうするしかない。


「てか、こんなことになってみんなびびってるかと思ったらなんだか余裕あるよね……」


 最後尾から全てが見えるわけではないが、隊列にはそれほどの緊張感はない。

 彼らは王都に来るまでも、皆で旅をしてきている。その体験に裏付けられた自信があるのだろう。

 森を抜け、山を登り、川を越え、草原を歩いていく。

 多少の起伏はあるが見通しはそれほど悪くはない。魔物に襲われることもなく順調に進んでいた。

 そして、小高い丘を登ったところで、それが見えた。

 どこまでも高い壁が、見渡す限り続いているのだ。壁は湾曲しているので、魔界の中心部を囲むように設置されているらしい。

 城門らしき扉が壁に備わっていて、見える範囲にある入り口はそれのみだった。


「どうする?」

「迂回できないの?」

「しかし、いかにも入ってくださいと言わんばかりなのが怪しいな……」


 小休止し、賢者候補たちが顔を見合わせて話し合う。

 だが、そんなことをしているうちに、甲高い音が響き渡った。

 それが合図だったのか、城門からぞろぞろと魔物どもがあらわれはじめる。

 どんどんと魔物は増えていき、そのうち数え切れないほどになった。


「えーと、五千九十七体だねー」

「そんなに!?」


 城ヶ崎ろみ子の言葉に、知千佳は驚いた。

 彼女のクラスは計数者(カウンター)であり、数を数えるスキルを持っていた。

 一目でわからないほどの数でも瞬時に把握できるのだが、役に立つ場面はそれほどない。今回は、その数少ない活躍できる機会だろう。


「どうやら見つかってしまったようだな」


 鎧を纏った少年、将軍(ジェネラル)の矢崎が言う。

 それは明らかに、賢者候補たちに対応した動きだった。魔物の種類は様々だが、それらは隊列を組もうとしている。このまま手をこまねいていては数に押しつぶされることになるだろう。


「だが、こちらにも数がいる。この程度は蹴散らしてくれよう」


 矢崎が人員を召集する。

 今回戦うのは、将軍(ジェネラル)の矢崎卓、死神の深井聖一、サムライの二宮諒子、ニンジャのキャロル・S・レーン、聖女の花宮(はなみや)(めい)、ガンスリンガーの竹倉季世子の六名ということになった。

 戦闘系のクラスを集めたのだろう。


「六人って、こんな人数で大丈夫なの?」


 心配になって知千佳は聞いた。

 馬鹿馬鹿しいほどの数の差であり、どれだけ個々が強いといっても戦いを挑めるような人数とはとても思えなかったのだ。


「大丈夫だ。俺のスキルがあれば」


 そう言って自信満々に矢崎は飛び出し、丘を駆け降りていく。五人が遅れて後に続いた。


「うぉおお! 包囲掃滅陣!」

「包囲してから言えよ!」


 矢崎が剣を掲げ、吠えながら魔物の群れに突っ込んでいく。

 そこからの戦いは一方的なものだった。

 将軍(ジェネラル)が剣を振るえばその一撃で魔物の数十体が吹き飛ぶ。ニンジャの投げるクナイは魔物を一直線に貫通していき、サムライの刀は何体もの魔物をまとめて両断した。死神に見られたものはバタバタと倒れていき、ガンスリンガーの二丁拳銃は魔物共を次々に蜂の巣にし、聖女の拳に触れた魔物は光となって消滅していく。

 ほんの少しの間に、五千体以上いた魔物たちがあっさりと全滅していた。


「結局包囲してないよ!?」


 そのスキルには確かに大群を圧倒するだけの力があったが、結局は正面から突撃しただけだ。

 勝ったのはめでたいが、なんだか納得がいかない知千佳だった。


  *****


 魔神マナを封じる、最も強固な封印の前にリュートと花川は立っていた。

 マナは封印の中にある豪華な寝台に横たわっていて、封印が解けるのを待ち構えている。

 花川の手には封印の鍵があり、目の前には鍵穴のついた台座が鎮座していた。

 つまり、どうするかは花川の手に委ねられているのだ。


「結構適当な拙者ですけども、さすがにこの人を自由にするのはまずいんじゃ、って気がするんでござるよね!」


 軽口を叩いてみるも、リュートは緊張感をたたえて押し黙ったままだった。


「いや、その、あんまり深刻な感じになられると、拙者ちょっと辛いんでござるが……」

「マナ様。お伝えしなければならないことがあります」


 覚悟を決めたのかリュートが口を開いた。


「あら、なにかしら?」

「……その、主様、魔神アルバガルマ様ですが……お亡くなりに……なられました……」


 その瞬間、一気に気温が下がったかのように花川には感じられた。

 何が変わったわけではない。だが、確実に今までとは空気が違ってしまったのだと感じたのだ。


「そう。いったい何があったの?」


 マナは冷静だった。微笑みすら浮かべて、諭すように問いかける。


「とても、とても信じがたいことなのですが……」


 リュートは自分の知る限りのことを洗いざらい話した。

 女神ヴァハナトによる魔神復活計画について。

 全てはうまくいったかに思えたが、なぜかアルバガルマは死んでいたこと。

 そして、それをやったのが高遠夜霧という人間であるらしいこと。


「そう……あの女が……」


 女神に対しては思うところがあるのか、その口調に多少熱がこもる。だが、マナは今のところ冷静であり、花川は若干拍子抜けしていた。


「リュート殿……なんだか、思ったより全然ましなような気がしないでござるか? 拙者、激昂なさるとか、取り乱されるとか、死んだことを信じていただけないとか、もっとヤンデレじみたとんでもないことになるのではと冷や冷やしていたのでござるが」

「信じますよ。お兄様の(しもべ)が私に嘘偽りなど言うわけがありませんものね?」

「はい、嘘など言うわけがありません」

「私はね、お兄様のことをたいへんお慕い申し上げているんですけれども、だからと言って、何があっても死ぬことがないとまで盲信しているわけではないのです。実際、お兄様の位階は私よりも下ですし、上位の神々を相手にした場合、お兄様では対抗しきれないであろうということは以前から心配していたのです」

「あれ? 病み系かと思いきや、すごく普通のことをおっしゃっていますな」

「はい、考えたくもないことですが、愛しきお兄様が亡くなってしまう可能性は常にあったのです。ですので、お兄様が亡くなったと伝えられても、残念だとは思いますが、その現実は受け入れざるをえません」

「と、その、でしたら、復讐はどうなんでござろう? リュート殿は、マナ様の力を借りて復讐をと考えておられたんでござるが」

「復讐、ですか。それは当然しなければならないでしょう」

「おお! リュート殿! やりましたな!」


 とりあえず当初の計画どおりにはいったようで、花川は胸をなでおろした。

 魔神側に感情移入するのもどうかとは思うが、夜霧を始末してくれるなら喜ばしいことだ。


「ですが、その前にやらなくてはならないことがあります」

「ほほう、復讐よりも優先すべきこととはなんでござるか?」

「お兄様を産みます」

「……ん? あの、ちょっと意味がよくわからなかったんでござるが?」

「悲しいことですが、お兄様が亡くなる可能性は常にありました。その際の対策を私が考えていないわけがあるでしょうか? 死んだなら、あらたに生まれればいいのです!」

「あー、くそっ! やっぱりマジモンでござるよ! この方!」

「さて。さすがに今の状況ですと行動に制限がありますから、封印は解いてもらいたいのですが」

「その、封印を解くとどうなるので?」

「少々死んでも大丈夫なぐらいお兄様を産んで、地上を埋めつくそうと思います。それから何者にも負けない究極のお兄様を創り出して、お兄様と私の子供たちで地上を埋めつくそうと思います」

「あ、結局埋めつくすんでござるな……って! さすがにそれはどうかと思うのですが! 高遠が死ねばそれだけでいいかと思うのですが!」


 花川は思わず後退った。

 こいつを解き放てばとてもまずいことになる。考えるまでもなくそれがわかる。


「うわああああああああ!」


 リュートが突然叫びだし、花川はそちらを見た。

 リュートの両腕がない。肘から先が綺麗さっぱりなくなっているのだ。

 まさかと思い、マナを見れば腕はそこにあった。どうやったのかはさっぱりわからないが、マナはリュートの腕を軽々と奪い取ったのだ。


「これ、お兄様の因子が付着していますね。一応もらっておきますね。お兄様を再現する手がかりになりますし」


 花川はぞっとして、手に持っている鍵を見た。

 この鍵はアルバガルマが身に付けていたものだ。当然、因子とやらは付着しているだろう。


「あ……その……拙者……」


 逃げ出したくなった。逃げるべきなのだろう。しかし、足が動かない。


「さて、鍵をお持ちのあなたはお兄様の意思の代弁者。封印を解くかどうかは持ち主にお任せすることになるのですが……どうやったら封印を解いてくださるのでしょう?」


 花川はいつものような軽口を叩く気もなくなっていた。

 口八丁が通じる手合いではないとわかってしまっているのだ。

 封印を解いてはいけない。

 そうすれば世界が終わる。マナの眷属で地が満ちる。それは人が生きていける世界ではないだろう。たとえ生き残れたとしても、人の世界でなくなったのなら花川にとってなんの意味もない。


「固まってしまわれると困りましたね。そうですね。ではとりあえず、そこの僕の脳もいただいておきましょうか。お兄様のお姿を覚えているでしょうし」

「ま、待ってくださらんか! その、リュート殿は助けていただけないでござるか! せ、せっかく生き残った、お兄様の部下でしょう!?」


 自分さえ生き残れればと思っていたはずの花川だが、咄嗟にそう口にしていた。

 リュートが妙なフラグを立てるから、それに絆されたのかもしれなかった。


「いいでしょう。助けますから封印を解いてくださいな」


 花川は台座に近づいた。

 震える手で鍵を差し込み、回す。


管理者(アドミニストレーター)権限を確認。全機能へのアクセスを許可』


 そんな声が脳裏に聞こえてきた。同時に使用方法も瞬時に把握できている。スキルを扱うのと同じ要領で、それは行うことができた。

 花川は、封印を解き放った。

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