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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT1

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第9話 さすがに壇ノ浦といえども、未だビームを出すにはいたっておらん

「なんだかいたたまれない……」


 篠崎綾香との遭遇後、夜霧と知千佳は王城へと帰ってきた。

 城門を抜けて、王城敷地内にある屋敷へと向かっているのだが、知千佳は暗い顔になっている。


「確かになんとも言いがたいね」


 知千佳が気にしているのは、城の門番が凄まじい形相で睨み付けてきたことだろう。

 先日から続いている事件が、夜霧たち賢者候補に関わるものだと知っているらしく、憤りを隠そうともしていなかったのだ。

 街と城が被った被害は甚大だ。それをやったのが、賢者候補の一員だと知り、けれど何の手出しもできない。平静ではいられなかったのだろう。


 ――篠崎だったか。始末しておいたほうがよかったのか?


 夜霧はそうも考えるが、直接自分に関わりのない件に力を使いはじめればキリがない。


「夜霧くんは自分の好きなように力を使えばいいんだよ。それこそ、こいつ気に入らない、ぶっ殺す! でもいいんだと思う。けれど、誰かの考えた、さも合理的で賢い考え方にのっかるのだけはやめてほしいかな。ありきたりな正義や思想信条にとらわれることなく、使いどころは全部自分で考えてほしい」


 いつだったか、育ての親である高遠朝霞(あさか)が言っていたことを思い出す。

 悪者が街の人を大勢殺しました。それはいけないことです。悪者を成敗しなくてはなりません。

 それは確かに正義なのかもしれないが、そこに夜霧の感情はなく、ただそうするべきだという義務的な考えにすぎない。

 結局のところ、見知らぬ街の人がたくさん死んだところで夜霧の心はそれほど揺れていないのだ。


「無関係の街の人を巻き込むのは、やっぱり復讐としてはどうかと思うんだけど」

「クラスの奴らなら死んでもいいの?」

「あー、それもなー、死んでもいいとまでは思わないんだけど、やっぱりクラスの子たちのしたことはひどかったってのもあるし……」


 折り合いがつかないのか、知千佳は悩んでいるようだ。

 夜霧としてはクラスの奴らについてはどうでもいいと思っていた。

 あの状況で囮として置いていくのは殺人と同義だろうし、ならばやり返されて文句を言える筋合いなどないと思うからだ。

 だが、最近関わりの増えた、諒子やキャロルが殺されるとなるとどうか。

 やはり、見過ごすことはできないだろう。別に冷酷を気取っているわけでも、中立を保とうとしているわけでもない。親しくなれば肩入れもしたくなるというだけだ。


「ま、目の前でクラスの奴らを殺そうとしたら、止めるかな。さすがに放っておけないし」

「だよね!」


 知千佳もそう思っていたのか、満足げに同意した。


『しかし、あれはかなりの強者であったぞ? 小僧なら問題ないかもしれんが、お主では太刀打ちできんかもしれんな』

「極太ビーム出す相手に太刀打ちとか最初から考えてないよ!?」

『さすがに壇ノ浦といえども、未だビームを出すにはいたっておらんからな……』

「ビームを出そうとしたことがあることに驚くよ!」


 そんなことを言いながら歩くうちに、拠点である屋敷に辿り着く。

 すると、タイミングよく扉が開き、中から女生徒が出てきた。

おっとりとした雰囲気の、小柄な女の子だ。


「あ、ともちー! 探しにいこうかと思ってたんだよー」


 女生徒は、城ヶ崎ろみ子だと夜霧は思い出した。

 知千佳と、ろみ子は普段から仲がよく、観光バスでは隣同士に座っていた。


「みこち、なにかあったの?」


 親しい者は知千佳のことを「ともちー」と呼ぶ。ろみ子はなぜか「みこち」と呼ばれていた。


「秋野さんが、クラスのみんなを集めて話をするって言ってるの」

「全員ってのは珍しいな」


 これまではそんなことはやっていなかった。各グループのリーダーによる合議で方針等は決められ、決定事項もリーダーがメンバーに伝えていたのだ。


「早く行ったほうがいいと思うよー。秋野さんぴりぴりした感じだったし」


 そう言われるとあまりのんびりもしていられない。

 夜霧たちは会議室へと向かった。


  *****


 賢者候補たちに与えられた屋敷の会議室。

 ここに、生き残っている全ての生徒たちが集められていた。

 大きな長机があり、その前に全員が着席している。


「さて。あまり時間もありませんが、まずは現状の説明から始めたいと思います」


 口火を切ったのは秋野蒼空(そら)。現状、この集団を率いている女生徒だ。

 なんでも元の世界ではアイドルをやっていたらしいのだが、夜霧は芸能人には疎いので、この世界に来て知千佳に説明されるまで知らなかった。

「当初、我々は二十六名でこの王都にやってきました」

 元々は二十四名でそこに夜霧と知千佳が加わったが、そのあたりの事情は無視しているらしい。

「ですが、現状十八名となっています。篠崎綾香の手によって八名が亡くなりました」

 蒼空が亡くなった者たちの名を読み上げる。

 夜霧が覚えていた名は、同室だったことのある泉田ぐらいのものだった。


「いつの間にか、エロゲ三貴族が全滅してる……」

『お主、そんなことしか気にならんのか?』


 知千佳の驚きように、もこもこが呆れたように言った。

 クラスの者たちも、ここまで減っていると気付いていなかったのか、驚きを隠せない様子だった。


「誰も篠崎を倒せなかったのかよ!」

「そうだよ、俺たちは強いはずだろ? 相手は一人なんだろうが!」


 男子生徒の誰かが強い口調で言う。俺ならやれたと言わんばかりだ。


「戦闘に秀でた方は魔界攻略に出ていたというのもあるのですが、一人のところを狙われたのが被害が拡大した主因かと思います。単独行動は控えるようにとお知らせはしたはずなんですが」


 だが、自信過剰な彼らは、自分だけは大丈夫だと思い込んでいたのだろう。


「棟方と矢立がやられたのはどうなんだ? あいつらは牛尾がやられるところを見ていて、止められなかったと聞いている。脅威は十分にわかっていたはずだ」


 将軍(ジェネラル)の矢崎が言う。単独行動をするはずがないと思ったのだろう。

 牛尾と棟方と矢立。エロゲ三貴族と呼ばれて連んでいた者たちで、牛尾は綾香による最初の被害者だ。生き残った棟方と矢立が、綾香を軽んじて単独行動するとは知千佳も思えなかった。


「彼らは自室で殺されていました。この館の警備の隙をついて忍び込むのは容易いようですね」


 ざわめきが広がった。それでは気の休まる暇もないだろう。

 これが、じわりと恐怖を与えるためだというなら、成功しているようだった。


「現状については以上です。今後についてなのですが、即刻の退去を国から求められています」

「退去とはどういうことだ? 賢者の口利きで我々はここにいるのだろう?」


 矢崎が再び問う。

 支配域において賢者の権力は絶大だ。一国の王とてその意向に逆らうことはできないはずだった。


「はい。このままでは国が滅ぶと判断されたようですね。実際、篠崎綾香による被害は甚大なものとなっているので、賢者に従い続ける意味がなくなったのでしょう」


 本日中の国外退去。それが、マニー王国の要求だった。

 無茶な話というわけでもない。国王すらが篠崎綾香に殺されているのだ。これでも穏便と言えるかもしれなかった。


「さすがに国と事を構えるのは得策ではありません。ですので、我々は全員で魔界に挑もうと思います。目的は二つ。これまでどおり攻略を進めて、魔神を討伐する。もう一つは追ってくる篠崎綾香を返り討ちにすることです」


 意見を求めているわけではなく、それは決定事項のようだった。


  *****


 城ヶ崎ろみ子は、目立つことと、面倒なことが嫌いだった。

 ぼんやりとした性格を演出しているのはそのためだ。

 人の話を聞いていないふりで面倒なことをスルーするのは楽だし、したくない用事を忘れたことにしても許される空気になる。しかし、それは目立ちたくないという信条とは多少反することにもなった。変わった人物だと思われると、それだけで人目を引いてしまうからだ。

 これに関して、ろみ子はやむをえないと考えていた。目立つことよりも、面倒なことをするほうがより嫌だったからだ。大体、六対四の割合で面倒を回避するほうに力を傾けている。

 そんなろみ子なので、異世界にやってきておかしな力を身に付けたとしても、正直に申告するわけがなかった。

 戦える能力を持っているとなれば前線に借り出されるだろう。そんなのまっぴらご免だ。

 なので、ろみ子は力を得てすぐに自分の能力について考えた。

 降霊者(ネクロマンサー)。死者の霊を操るクラスだ。

 これならば、そのまま申告して、死者の声が聞けるだけだと言い張ってもいいのかもしれない。

 だが、実際には死体を操ることもできるし、自らの身に死者の霊を宿してその力を借りることもできる。戦う術はいくらでもあるのだ。

 だが、このクラスの実態を知る者がいるかもしれないし、能力の詳細を知る術があるのかもしれない。ただごまかすというのは下策だ。

 そこで、ろみ子はすぐさま召霊術(コーリング)を使用した。

 バスの中、混乱しているクラスメイトの中にあっては、おそらく最速での能力使用だっただろう。

 周囲を漂う霊魂を検索し、できるだけ弱そうな、戦いに向いていない者を探す。

 なんの力も無い、ただの一般人ではだめだ。曲がりなりにも賢者によって力を与えられた者なのだからなにか特別な力を持っている必要がある。

 特別で、しかも役に立たない。そんな都合のいい者がいるかといえば、それはすぐに見つかった。

 計数者(カウンター)

 召霊検索時には、その者の持つ能力も知ることができるのだが、計数者(カウンター)の使える能力は計数(カウント)だ。これはただ数を数えることができるというもので、およそ戦闘の役には立たないものだろう。

 早速、召霊術(コーリング)を行い憑依させる。

 これで、表面的には計数者(カウンター)となるので、能力を探られたとしても本来の能力はわからないはずだ。このような偽装を看破する能力の持ち主もいるかもしれないが、そこまで心配しても仕方がない。その時はその時だ。

 こうして、ろみ子は役に立たない人物として最低評価に甘んじることになった。

 目立たないためなら、そこそこの能力のほうがいいのかもしれないが、中途半端に戦いに借り出されるよりは、役立たずとして放置されるほうがよほどましだ。


 ――けど、ちょっと面倒なことになったな。


 だが、ここに来て全員での魔界攻略などという話になった。

 実に面倒だった。

 どんな所かは話にしか聞いていないが、薄暗くて汚くてじめじめとした所なのだろう。

 そんな所に行きたくはないし、ましてや魔物と戦うなど御免被りたいところだ。


 ――面倒くさがらずに、篠崎綾香を始末しといたほうがよかったかな……。


 使役している霊を周囲に放ち、ろみ子は周辺の監視を行っている。

 なので、これまでに綾香が近くまでやってきたことも把握しているし、クラスメイトの殺害が行われているのもわかっていた。

 面倒なので放置していたが、大事になる前に誰かがなんとかするだろうとそう思っていたのだ。

 さっさと始末しておくべきだったのだろうが、それは後の祭りというものだろう。

 魔界には皆と行くことになる。だが方針は変わらない。ギリギリまで無能のふりをして過ごす。

 本気を出すのは、それこそ自分以外の全員が死に絶えてからだろう。

 ろみ子はそう考えていた。


  *****


 ――悠吾くんも、力を隠してたのかな。それとも急に目覚めたとか。


 真相はわからない。ただ、泉田悠吾が篠崎綾香に戦いを挑みにいったことだけはわかっていた。

 なぜなら愛原幸正の読む本にそう書かれているからだ。

 幸正のクラスは読書家(リーダー)ということになっている。

 その能力は、どんな言語で書かれた本でも読解する能力。表向きにはそういうことになっていた。

 だが事実は異なる。

 彼の真の能力は、自らを中心とした周辺事象の未来を、小説として読むことができる能力だった。

 彼が常に手にしている文庫本が、その能力を具現化したものなのだ。

 基本的には、愛原幸正を主人公とした一人称小説なのだが、関連する人物については三人称のサイドストーリーとして読むこともできる。

 それによれば悠吾の能力は、料理人(コック)という平凡なクラス名からはかけ離れたものだった。

 料理に関連することならば無類の力を発揮する能力なのだ。

 食材発見能力を使えば食材と見做した敵がどこにいるかがわかるし、食材知識を使えば敵の特徴などがすぐにわかる。食材解体を使えば、どんな敵でも包丁で刻むことができた。

 同時調理能力を使えば分身して調理を効率よく進めることができるし、炒める、揚げるなどの能力を使えば高熱を操ることもできる。中には時間を操って発酵させるなどの能力もあるようだった。

 かなりの能力ではある。

 だが、守勢に回ると弱かった。料理人(コック)に防御能力などあるわけがなかったのだ。


 ――だから、一人で無双するって感じの能力でもないんだけどね。


 防御をこなせる者とコンビを組めば弱点を補強できる。それこそ何を相手にしても勝てる可能性があったのだ。

 そのような助言をすればあるいはなんとかなったのかもしれない。

 だが、幸正は何もしなかった。ただ、傍観を決め込んだのだ。


 ――でも、僕みたいな奴は何人もいるんだと思う。


 これ見よがしに力をひけらかしている奴らなど馬鹿丸出しだ。本当に生き残りたいと思っているのならその力は隠すはずで、先頭を切って戦うなどするはずがないのだ。

 なので、真の強者は幸正のように偽装を施しているはずだった。

 幸正の偽装は簡単だった。幸正が手にしている文庫本にそう書き入れて、現実を改竄すればいい。

 自分の正体といった、他者と関連のない内容であればそれで隠蔽できる。


 ――ま、最終的には誰かが「やれやれ」とか言ってあっさり魔神を倒したりするんじゃないかな。


 自分はやりたくないと思いつつ、幸正は状況を楽観視していた。

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