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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT1

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第7話 むかしのおんながあらわれた。ともちかはおどろきとまどっている

 一見風光明媚なものの、どこか歪な街の中を花川大門は歩いていた。

 ここは魔界最下層のはずだが、なぜか陽の光が燦々と降り注ぐ世界が広がっていて、人の暮らす街まである。しかし、だからと言って何も安心することはできなかった。

 その不穏な空気は、主に街の住人が醸し出しているのだろう。

 それはどこか、人形めいた人の群れだった。一人一人を見ればそれほどおかしくはないのだが、集まりとしてみれば異様な雰囲気になってくる。

 人々の間に交流がまるでないのだ。

 街を歩く者。店で呼び込みをする者。大道芸を披露する者。それぞれは自分の役を全うするのに夢中で、周囲の人々にはまるで興味がないように花川には思えた。

 そんな街中を先導するのは、妖しい雰囲気を放つ美しい女だ。この魔界に封じられている魔神のはずなのだが、なぜか自由に歩き回っている。

 魔神マナ。魔神アルバガルマの妹であり、花川の隣を歩くリュートが会いにきた相手だ。

 リュートは、花川と出会ったときには少年の姿をしていたが、今は少女の姿をとっている。見た目は自在とのことだった。

 そのリュートだが、目的の人物に会えたというのにどこか浮かない顔をしている。

 普段ならどうせ殺されることはないとおちょくりはじめる花川だが、今はリュートに輪をかけた沈んだ顔をしていた。

 これまではどんな状況にあってもそれほど深刻にはならず呑気にしていたが、さすがに今の状況が絶望的なものであると身に染みつつあったのだ。

 生きて帰れる気がまるでしない。逃げようにもここは魔界最下層で、どうやってここまでやってきたかを花川はわかっていないし、魔界などという空間についてもろくに知らないのだ。

 つまり、自力でここを脱出することは不可能ということになる。魔界には人間と見れば襲いかかるバケモノがひしめいているらしいので、適当に脱出路を探すというのも無謀だろう。今、花川が安全なのは、マナやリュートのそばにいるからなのだ。

 だが、これから先もずっと安全であるとはとても思えない。花川は進むにつれて、嫌な予感が強まっていくのを肌で感じているのだ。なので、ただ流されるのではなく、なんらかの打開策を見出さねばならないのだが、ろくなことを思いつかなかった。

 まず思いつくのはリュートに頼んでみるということだろう。

 だが、そのリュートは上の空だし、そもそも彼にはここを出ていく理由がない。

 では、マナに頼めばいいかというと、それはためらわれた。話が通じる気がまるでしないのだ。

 わけのわからない言動でけむに巻きつつ、強引に話を押し通すのが花川のやり口だが、マナは全裸になろうと脱糞しようと、まるで意に介さないのではないかと思えてくる。


 ――どうしてこんなことに……。


 魔界に入る前に逃げ出せばよかったのかと考えるも、どの時点だろうとリュートからは逃げられなかっただろう。

 リュートに出会う前は、アオイに連れ回されていて、彼女から逃げるのも不可能だった。

 その前は、魔獣の森の中でスローライフを気取っていたはぐれ賢者の奴隷扱いだ。

 遡って考えると、結局クラスメイトと別れて好き勝手しようとしたのが悪かったかと思いいたる。


 ――いや、それ自体は悪くなかったはずでござる。大体クラスの連中と一緒にいたところでハブられて、そのうち囮にでも使われるとかそんなオチに決まってたのでござる。


 問題は好き勝手しようとして、最初に出会った相手が最悪であったことにつきた。

 高遠夜霧。

 今、花川がここにいるのも、夜霧と関わってしまったがためだった。夜霧と敵対して生きている。それは、花川が想像する以上の価値を花川に与えているのだ。


「その、なんだ。悪かったね。こんな所まで連れてきて」


 花川があれこれと考え込んでいると、リュートがぽつりと言った。


「ん? 聞き間違いでござるか? リュート殿が殊勝なことを言ったような気がするのですが?」

「聞き間違いじゃない。悪かったって言ったんだよ」

「や、やめてもらえないでござるか!? ただでさえ不吉な予感がしているのに、これ以上死亡フラグを立てられても困るのですが!」

「なんだよ、それ?」

「いいでござるか! 悪人が改心するとか、ちょっといいところを見せるとか、そーゆーのは死の前兆なのですよ!」

「前兆ね。まあ、それは当たってると思うよ。僕はこの後マナ様に殺されるだろうし」

「な、なにゆえに!?」

「主様をむざむざと死なせてしまったんだ。それをマナ様が許すわけがない」

「え、でも、封印が解けたら死んでたんでござるよね? リュート殿は関係ないような……」

「そんな理屈があの方に通用すると思う?」


 リュートがちらりと前を行くマナに目を向け、花川もつられてマナを見た。

 兄に懸想するあまり、想像妊娠で勝手に兄の子供を産む異常な女。その心の内など花川には到底理解できるものではなかった。


「……まあ、あの人に話が通じる気はまるでしないでござるが……けれど! まだ魔神様が死んだことは伝えておりませんよね?」

「それでどうやって仇討ちに協力してもらうって言うんだよ。マナ様に嘘やごまかしが通じると思う? 主様に関することなら、ほぼ確実に看破するだろうね」

「ああ、そうでござった! そもそもの目的がそれでしたな!」

「これをやるよ」


 リュートはそう言って懐から何かを取り出した。金色に輝く複雑な形状をした細長い棒のような物。リュートが封印の鍵と呼んでいた物だ。


「え、でも、これって超重要アイテムですよね? それを捨てるなんてとんでもない、的な!」

「そうだよ。これを持っていれば、マナ様もさすがに殺しはしないはずだ。この鍵を持つ者は主様の意思を代弁する者だと判断されるはずだから」

「だったらリュート殿が持っていればいいのでは? あ、いや、拙者も死にたいわけではないのですけどね!」

「僕が持っててもどうせ殺されるからだよ。別にお前がどうなろうと知ったことじゃないよ。けど、僕が死ぬことが確定しているとしても、わざわざつき合わせる必要もないかと思ってさ」

「あの、仇討ちを見届けなくていいので? 高遠はもちろんのこと、あの塔にいた奴らを皆殺しにするってはりきってましたよね?」

「主様が死んだことをマナ様が知ったなら、それは確実に達成されるだろうね。主様の死に関わった連中を一人たりとも生かしておくわけがない」

「それって、拙者は含まれておりませんかね?」


 冗談めかして花川が言うと、リュートは黙り込んだ。


「いやいやいや! ちょっと待ってくださらんか! 拙者ほぼ関係なかったですよね? 賢者のアオイ殿に連れられて、ことが終わったころにやってきただけであって、魔神様やら何やらに全然関わってなかったですよね!?」

「……その理屈が通用すればいいけどね……」

「通用しない可能性があることにびっくりなのですが!?」

「とにかく、これはお前にやるよ。それでここでの安全は確保できるはずだ。僕の目的は主様のことをマナ様に伝えれば達成できるから」

「この鍵、意味あるんですかね……封印してるはずなのに、ほいほい外を出歩いてるんですが」


 リュートに押しつけられて、花川は渋々鍵を受け取った。


「結構さ。お前と旅してるのは、悪くなかったんだよ。こんな経験は初めてだったからね」

「やめてくださらんか! ますます死亡フラグっぽくなってるではありませんか!」


 先を行くマナは浮かれている様子で、花川達の会話の内容にまでは気を向けていないようだった。

 しばらく歩いていると、白い宮殿らしき建物が見えてきた。この街で一番大きな建物であり、そこが目的地なのだろう。

 中に入ると闇が広がっていて、その中にぼんやりと光る半球状の空間があることに気付く。

 マナはその半球の膜をかき分けて空間に入り、中にぽつんとおいてある豪華な寝台に寝そべった。


「あの、これって……」

「お兄様が作られた、最も強固な封印です。私を守るために愛を込めてお作りになったのです!」

「もう、これってただの寝室でござるよね……さっきも、すだれをかき分ける感覚で中に入ってたでござるよね」

「鍵穴はそちらです」


 マナが指差すほうを見れば、半球状の封印に接するように台座が配置されていて、そこには小さな穴が開いていた。ここに鍵を差し込んで回せば封印が解除できるようだ。


「もうほんと、この封印を解く意味がわからんでござるよね!」


 花川がどうしたものかと考えていると、隣にいるリュートの緊張が伝わってきた。

 どうやら、全てを伝えるつもりのようだった。


  *****


『むかしのおんながあらわれた。ともちかはおどろきとまどっている』


 その通りにいるのはごく少数の者たちだった。

 知千佳、夜霧、背後霊のもこもこ。それにおそらくは夜霧を狙っていた男だ。

 男は尻餅をついたまま、夜霧たちを呆然と見上げている。

 もこもこの電波受信という怪しげな力で、無線通信を傍受。首謀者らしき人物の居場所を特定して向かってみれば、その人物は飛行機で逃げ出そうとしていて、それを諒子が撃墜したのだ。

 脱出してきたので話しかけてみれば、何やら呼び出して襲いかかってきたので、まず間違いなくこの男が夜霧を狙っていた犯人のはずだった。


「いや……誰がどうとかじゃなくて普通は驚くよね?」


 実際、知千佳はなんだかよくわからないすごそうなのがあらわれて、次々に死んでいったこと自体にはたいして驚いていない。そんなことにはもう慣れてしまっているのだ。

 それよりも、夜霧が襲ってきた相手を殺さなかったことにより驚いている。

 相手はどうやら顔見知りらしく、しかも可愛らしい女の子で、動かなくなったところを優しく抱き抱えたりしたのだ。


『いやいや、なかなかに穏やかではいられなそうな様子ではないか?』

「そんなことより! まずはそこの人でしょ!」


 抵抗する気をなくしたのか、宮永良介と名乗った男は夜霧の質問に素直に答えていた。

 確かに夜霧を狙っていたのはこの男だった。良介は暗殺ギルドの首領であり、夜霧暗殺の依頼を受けたというのだ。

 だが、肝心の依頼者については何もわからなかった。良介は依頼者と会っていなかったのだ。


「もういいだろ! 知っていることは包み隠さずに話した! 今後あんたを狙うことはしない!」

「悪いけど死んでもらう」


 夜霧が淡々と言う。脅してさらなる情報を引き出そうというわけでもない。ただ事実を告げただけという様子だ。


「なぜだ!」


 知千佳は、良介以上に驚いていた。聞きたいことを聞いたなら見逃すかと思っていたのだ。

良介に逆らう気力はなさそうだし、切り札も出しつくしている。危険性はもうないはずだった。


「槐タイプをこれ以上起動させたくないんだよ。そっとしておきたいんだ。あんたが生きてる限りいくらでも複製を作れるってことなんだろ?」

「……お、俺だけじゃない! この世界にはチートじみた能力を持った奴なんていくらでもいる! 同じようなことをできる奴だってきっと――」


 良介の言葉は途切れ、仰向けに倒れた。


「かもしれないけど、これはただ、お前にむかついたからだよ」


 死んだのだ。知千佳はそれを黙って受け入れた。


「場所を移そう。今後のことを考える必要もあるし」


 街の人々は逃げ出していたが、あまりのんびりしていては捜査にやってくる者もいるだろう。

 二人は速やかにその場を離れた。


  *****


「って、なんで私がこの子運んでんの!? 高遠くんの知り合いなら自分で運んでくんないかな!」


 知千佳は、夜霧が槐タイプと呼んだ女の子を抱き抱えて運んでいた。肩に担ぎ上げているのだ。


「いや、だって女の子だし、女の子が運んだほうがいいような気がして」

「結構重いんだけど!」

『まあ、なんだかんだ言いながらも意識のない人体をあっさりと持ち運べるあたり、壇ノ浦流の面目躍如というやつだな』


 災害現場などから意識のない人を運び出すのに使う、ファイヤーマンズキャリーと呼ばれる技法だ。もっとも知千佳が使っているのは微妙に異なっている。どちらかと言えば柔道の肩車に近いものであり、担ぎ上げた相手を脳天から叩き落とすための前段階の状態なのだ。


『まあ、運ぶだけならバトルスーツの力を使えば造作もないことだったのだが』

「ああっ!」


 知千佳は、普段着に戻っていた。もう必要ないとばかり思っていたのだ。


『なに。女の一人程度運ぶぐらい自力でなんとでもなるだろうに』


 知千佳と夜霧は、王都にやってきてすぐに宿泊したホテルへとやってきていた。あれからも部屋は確保

し続けていたのだ。

 部屋に入った知千佳は、少女をベッドに横たえた。


「で、あとで話してくれるってことだったよね?」


 知千佳もベッドに腰掛けて話を促す。


「この子の名前は(すめらぎ)槐。小さいころに遊んだことのある友達だよ」


 そう言われてあらためて知千佳は槐を見た。

 年齢は知千佳たちよりも少し下ぐらいに見える。どこか貴族じみて見えるのは、身に付けているドレスと、赤い手袋のせいだろう。

 そしてとても整った顔をしていて、知千佳は少しばかりもやもやとした気持ちになる。


「その子がなんでこの世界にいるわけ? あの良介って人がなんかしたの? 詳しく聞いてなかったんだけど」

「あいつは、元の世界に存在する物を複製することができたらしい。自分の役に立つ物を検索して、知らない物でも複製できるってことだった」

「物?」

「うん。生き物の複製はできないって言ってたね。だからこの槐はロボットだ。全部停止させて、厳重に保管してあったんだけどな。異世界で複製されるなんて思ってもみなかったよ」

「ロボットって……こんなに人間そっくりに作れるものなの!?」


 さきほど抱えていた知千佳だが、ロボットとはまるで思わなかった。


「作れるんだよ。民間に流れてる技術って氷山の一角ってやつでね。世間一般では想像もできないようなものが、研究所や軍隊では実用化されてたりする」

「はー。そうなんだ……けど、その友達そっくりのロボットってなんなわけ?」

「俺には何人か殺したくない人間がいるんだよ。槐はその内の一人なんだ。だから、槐の姿をしたロボットに俺を襲わせる。実にわかりやすい計画だろ?」


 知千佳は、夜霧が槐に対して即死の力を使っていなかったことを思い出した。普段なら、攻撃されれば自動的に反撃しているはずだ。


「え? まずいじゃんそれ! 殺意に勝手に反応するもんだとばかり思ってたんだけど」

「殺意に自動的に反応してたらさ、殺したくない相手が洗脳されて襲いかかってきた、なんて場合に対応できないだろ」

「じゃあ……さっきのを誰かがどっかで見てたら」

「気付かれたかもしれないな」

「無茶苦茶まずくない!?」


 夜霧の強みは殺意感知による自動反撃にある。それを封じることができるなら、殺す方法などいくらでもあるだろう。


「ま、大丈夫だよ。前はね、それで死んでも仕方がないってどこか考えてたんだけど、今は優先順位が違うから」


 心配する知千佳を前に、夜霧は余裕の笑みを見せる。

 本当に、大丈夫だと思っているようだった。ならば知千佳としては信じるしかない。


「でさ。槐をどうしたらいいと思う?」

「どうしたらって……ああっ。どうしたらいいんだろう!」

そこらに捨てるわけにもいかないし、持ち運ぶのも、保管し続けるのも不安が残る。

『仕方がないな。壇ノ浦流死体処理術を伝授してやろう! 人間を模したものなら通用する部分もあろうからな』

「怖いよ! なにやってんの、うちの家!」


 すぐには良い案が思いつかず、槐のロボットはとりあえずこの部屋に置いておくことになった。

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