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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT1

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第6話 もこもこさん……とうとう電波を発信するようにまでなってしまって……

 先ほど飲んだ薬が今ごろ効いてきたのか、宮永良介は混乱することなく冷静さを保ち続けていた。

 今すぐにでも叫びだしたい心地ではあるが、ここで自棄になれば全てが終わる。一手でも間違えるわけにはいかないのだ。


 ――落ち着け。その気なら、いつでもできるはずなのに殺そうとしていない。なら、すぐに殺されることはないはずだ。


 今、殺されかけたような気もするが、それをしたのは夜霧ではない。良介はあたりを観察した。

 ここは通りのど真ん中だ。

 石畳の敷き詰められた道路には、大きな罅が入っている。良介の頭頂部がぶつかった跡だ。

 夜霧たちを除けばあたりに人はいなかった。つい先日も広範囲に甚大な被害をもたらした事件が起きている。その記憶からか、怪しい事態への対応は早かったのだろう。

 遠くでも騒ぎが起きていて、そちらには良介の乗っていた飛行機が墜落したようだ。

 目の前にいるのは二人。

 一人は、何度も見ていて見間違えることなどない人物、高遠夜霧だ。

 白いシャツにスラックスといった格好は学校の制服なのだろう。スマートフォンを片手に何やら話していて、今はそれほど良介へ注意は向けていないようだ。

 もう一人は、夜霧に同行していた少女だ。

 先ほどまでは年相応の少女らしい格好をしていたはずだが、いつの間にか全身を包み込むような黒いスーツを身に付けている。バトルスーツの類だろう。先ほど空中で良介を捕らえて、地面に叩きつけたのはこの少女のはずだった。

 怪我についてはもう問題ない。痛みがあったのも一瞬だけのことで、ほぼ回復は終えていた。身体にはいくつもの自動回復処置を施していて、この程度ならどうということもないのだ。

 そして、もう一体。人と呼ぶには憚られる存在が、夜霧たちの側に浮いていた。

 背後霊の類だろう。狩衣のような白い着物を着た、丸々と太った女だ。良介は、元の世界から複製した浄眼を宿している。霊的な存在を見ることも可能なのだ。


「って、いつのまにか平然とスマホで話してるんだけど!?」


 今さら夜霧の様子に気付いたのか、少女が言う。


「いや、二宮さんとかと連係とるのに必要だし」

「え、スマホってここでも使えるもんなの?」

『我が中継してやっておる。仮想基地局といったところか。スマホの電波を受信して、解析し、発信しておるのだ!』


 背後霊が自慢げにそう言っていて、それは良介にとっても驚きだった。

 この世界で、電子機器を操れるのは自分ぐらいのものだと思っていたからだ。


「もこもこさん……とうとう電波を発信するようにまでなってしまって……」


 少女が哀しい目で背後霊を見つめる。


『あほうか! こんなもの初歩の初歩だ! 人をおかしなもののように言うでないわ!』

「さてと。面倒だから、ここで話を進めようか。最近事件が起こったばかりだからか、みんなすぐに逃げ出したみたいだし」


 通話を終えた夜霧が良介を見る。


「ずっと俺を見てたのはあんただよね?」

「な、なんのことだ? あんたらなんなんだ! 空を飛んでたらいきなり攻撃されて。あんたらがやったのか!」


 良介は誤魔化すことにした。認めてしまえばその後の対応に困る。それは、夜霧を付け狙っていたことに直結するからだ。

 なのでここはわけがわからないという様子で押し通すしかない。すぐに殺す気がないのなら、人違いだったと言い張ることで見逃される可能性もあるからだ。


『ふむ。確かに、飛行機に乗っていただけで犯人扱いもできぬか。このタイミングで空に浮いていたのがむちゃくちゃ怪しいとしてもな』

「どうしたもんかな。とりあえず会えばどうにかなるかと思ったんだけど……」


 夜霧が少しばかり顔をしかめる。どうやらはっきりとした確証もなしにやってきたらしい。

 それならばまだチャンスはあった。こちらから手出ししなければ、殺されることはないのだ。

 ならば逃げることは可能なはずだった。

 殺そうと決意される前に、この場から一瞬で逃げ去ってしまえばいいのだ。


 ――そう、俺には精霊姫の力がある。


 精霊姫の魔力でならそれが可能なはずだった。頼るとつけ上がるので極力頼みたくはないのだが、背に腹は代えられない。

 そう考えて、良介は気付いた。良介がここまでされて、精霊姫が現れないのはおかしい。

 精霊姫は良介を溺愛している。良介が傷を負うような状況を看過するはずがないのだ。


『探しているのはこれか?』


 そう言うもこもこの右手には、女の首が掴まれていた。

 精霊姫、エリシュオン。美しかったはずのその姿は、無惨なものとなっていた。おかしな角度に首がまがり、力なく項垂れているのだ。

 精霊は霊体だ。人間と比較して語れる存在ではないのだが、それは明らかに無力化されている。


「なにしてんの?」


 少女に精霊姫は見えないのか、訝しげに聞いていた。


『うむ。怪しげな霊が襲ってきたので始末しておいた』

「あ、なんか守護霊っぽいことしたの初めて聞いたような」


 だが、すぐに少女はなんでもないかのような態度に戻った。


「……な、なぜ精霊姫が……全ての精霊を統べる、精霊の頂点に立つ存在だぞ……」


 あまりのことに、良介はそうつぶやいていた。


『ふふっ! 霊体同士の戦いで我に勝てる者などおるわけがなかろうが! 壇ノ浦は死後にも戦いの場を求めたのだ! 霊体闘争において我らにかなう者などおるものかよ!』

「うわぁ……なんかちょっと活躍できたからって、ドヤ顔してるよ、もこもこさん……」

『しかし、これが精霊姫ということなら、こちらはさしずめ精霊王とでもいうべき存在なのか?』


 もこもこが突き出した左手には、男の首が掴まれていた。

 神々しいまでの力を放射する優男だが、もこもこに締め上げられて動けなくなっていた。


「もこもこさん……なんかわかんないけど、あんまり変なもの拾ってこないで……」

『女を倒したらこっちも襲ってきたから返り討ちにしたのだ! こっちのほうがちょっとばかり強かったが、壇ノ浦に勝てるわけがなかろうが!』

「ああ……増長しちゃってるよ……ここぞとばかりに……」


 もこもこが両手に力を入れる。

 二体の精霊はぐしゃりと潰れ、霧散した。それが精霊にとっての死なのかはわからないが、少なくともこの場で良介に恩恵を与えることができなくなったのは間違いない。

 だが今、夜霧の注意は、もこもこへと向いていた。何かをするならばこのタイミングしかない。

 良介は複製可能なものを脳内で検索し、煙幕弾を生成する。このサイズなら複製は一瞬だ。

 即座にピンを抜き、目の前に放り投げる。効果は覿面で、すぐに通りは煙幕で埋めつくされた。

 投薬、魔力による強化、機械的強化。取り得る全ての手段を使い、己を最大限に強化する。

 全ての力を両足に込め、一息に跳躍しようとしたところで声が聞こえてきた。


「逃げれば殺す」


 良介は、その言葉に呪縛された。

 無理にでも逃げ出すのが正解だったのだろう。殺す気がないのなら、見逃す可能性もあったのだ。

だが、動けなかった。良介は、煙幕が晴れるまでの貴重な時間を、ただ浪費してしまったのだ。


「逃げなかったってことは、俺の力を知ってるってことだよね?」


 良介の態度は、それを雄弁に語っていた。もう何を言い繕ったところで無駄だろう。


「フェンリル!」


 良介はやけくそになった。

 神殺しの獣。その形態から、良介がフェンリルと名付けた四足獣。なぜか餌付けに成功してしまった、暴虐の化身。

 その巨体は音も無くあらわれて、唐突に倒れた。


「こういうのならどんどんやってくれよ。力の説明をしなくてすむから助かる」


 夜霧が平然と言う。


「冥都の女王、ヤマ! 助けろよ! どう見てもピンチだろ!」

「呼ばれぬ限り出てこぬのが道理でしょう? 勝手にあらわれて鬱陶しそうにされてはさすがの妾も傷付いてしまいますもの」


 良介の肩にそっと、白く美しい手が置かれる。

 振り向けばそこには、黒いドレスに身を包んだ絶世の美女が立っていた。

 良介が世界中を旅していた際に迷い込んだ地下都市、そこで出会った女だ。なぜか気に入られてしまってあれこれとつくそうとしてくるのだが、良介は適当にあしらっていた。


「頼む! 助けてくれ!」

「それは、妾の伴侶になるということですか?」


 良介は押し黙った。伴侶になれば、地下都市に閉じ込められ二度と出てはこられないだろう。ここを生き延びたとして、それではたしていいのか。

 それに夜霧が自分を殺すかどうかはまだわからないというのもある。


「……まあ、いいでしょう。命を盾に結婚を迫るなどあまりに無粋というもの」


 良介は胸をなで下ろした。これでヤマが夜霧を殺しても、冥都へ連れていかれることはない。

 こんなことならば、もっと早く夜霧を始末することを頼めばよかったとも思ったが、最初のうちは興味本位の遊びであり、なにがなんでも殺そうとまでは考えていなかったのだ。

 良介はヤマならば夜霧を殺せると思っていた。

 生と死を司る不死の女王。

 彼女には死と言える状態がない。死ぬことがないのだから、夜霧の反撃など恐れる必要はなく、それさえなければ夜霧はただの人間でしかないので、殺すことは容易い。


「は、ははっ! これで終わりだ! ヤマには、死という概念がない! 殺しようなどありは……」

「死ね」


 ヤマはその場に崩れ落ちた。

 黒い塊となり、その場に霧散し、あとには何も残らなかった。


「絶対に死なないとか、既に死んでるとか、死の概念がないとか、そんなことを言う奴は何人も見てきたけど、全員死んでるな」

「いや、あの、高遠くん。なんかすごそうな人だったし、もうちょっとこうなんていうか……」


 そう言う少女には驚きがない。恐ろしいことに、彼女はうんざりしているのだ。


「どうでもいいよ。こいつらがなんなのかとか知ったことじゃない」


 もう確実に敵対している状態だ。ヤマで駄目なら、どんな手段も通用するとは思えない。

 機械人形からの通信が脳裏に響く。こちらに向かってきているらしい。


 ――今さら無駄なんだよ!


 人間よりは多少強い程度の人形でどうにかなるとは思えない。

 だが、もう止める気にもなれなかった。

 やがて、赤いドレスに赤い手袋をした、人間にしか見えない人形が到着した。


「マスターから離れろ!」


 人形が手にしていたナイフを投擲する。

 そんな程度が通用するか。そう思う良介だが、その光景に違和感を覚えた。

 人形がナイフを投げた。それは、夜霧を前にしてありえる状況だとは思えなかったのだ。

 投げようとしたなら即座に死ぬ。それがルールだったはずだ。

 なのに、高遠夜霧は棒立ちで人形を見つめ、ナイフが到達しようとも何もせず、隣の少女が慌ててナイフを掴み取ったのだ。


「高遠くん!」


 少女は狼狽していた。良介もありえない光景に固まった。

 どういうことなのか。今、自動反撃は発動していなかったのではないか。


「ああ、ごめん。ちょっと驚いてた。槐、管理者コマンドモードに移行」


 そう言いながら、夜霧が人形に近づいていく。

 槐。それはこの人形が持つ本来のコードネームだ。

 それを何故か夜霧が知っていて、管理者コマンドなるものまで知っている。それがあることは良介も知ってはいたが、それは管理者権限を持つ者にしか使えないはずなのだ。


「停止しろ」


 夜霧が言うと、人形が力をなくして倒れていく。夜霧はそっと人形を抱き抱え、地面に横たえた。


「高遠くん、その、どうしたの?」

「入り組んだ話になるから、またあとで。じゃあ、知ってることを話してもらおうか」


 夜霧が良介を見つめる。

 良介にはもう逆らう気力など、一欠片も残ってはいなかった。


  *****


 鳳春人は、暗殺ギルド、闇の庭園(ダークガーデン)の本拠地である花屋の二階にやってきていた。

 夜霧についての資料を確認するためだ。

 暗殺ギルドへの依頼内容には、報告資料の作成も含まれている。探すとそれは簡単に見つかった。

 春人の能力ならわざわざこの場に来なくてもそれらの内容はわかりそうなものだが、春人がアクセスできるのは蓄積された過去のデータであり、直近の情報は取得できないのだ。

 春人はざっと資料を確認した。

 やはり、どんな攻撃も察知され、確実に迎撃されている。一見すると無敵としか思えない内容だ。


「けれど、本当に無敵なのかな?」


 まず考えるのは、高遠夜霧はこの世界へ召喚されてしまっているということだ。

 どんな攻撃にでも反撃するというのなら、この状況はおかしい。召喚しようとした者を殺していないし、異世界召喚に巻き込まれてしまっている。

 つまり、殺す気がなければ、強制的に移動させることは可能なのではないかと思い浮かぶ。

 次に、その能力について。

 なんでも殺せる能力と、殺意を感知する能力。この二つを併せ持つことで夜霧は無敵となっている。今までのところ、殺せなかった相手はいないし、全ての死の可能性を退けている。


「じゃあ、その能力を自分に向けたらどうなるのかな?」


 自分で自分に即死の能力を使ったならどうなるのか。その時、何が起こるのか。案外、あっさりと死んでしまうのではないか。


「その場合に必要なのは対象の誤認? 自殺を促す?」


 人質をとって脅すなどは愚の骨頂だ。即死の能力を使えば、障害はなんでも殺すことができる。

 なので、自殺をさせるなら、自らの意思でさせる必要があるはずだった。


「飄々とした風であまり感情を見せないタイプのようだけど、本当にそうかな?」


 夜霧は機械ではない。感情をあまり表に出しはしないが、その精神は一般的な高校生男子からそうかけ離れたものでもないはずだ。


「うん。この路線でちょっと考えてみようか」


 実験で大体のことはわかってきた。攻撃の規模や種類を変えても通用する可能性は低いだろう。

 ならば、別の方面からの手段を検討する必要がある。春人はそう考えていた。

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