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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT1

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第5話 だったら私が付いてきた意味ってあんまりないような

 いつにない険しい顔で、夜霧が空を見上げている。

 夜霧に抱きしめられたままの知千佳は、若干の恐怖を覚えた。

 それは予感だ。このまま世界が終わってしまうのではないかという漠然とした、本能的な危機感。


「ホラーかよ!」


 だが知千佳は叫んだ。形のない不安を、冗談めかして塗りつぶす。


「なにが?」


 すぐに夜霧は、いつもの表情を取り戻した。


「都市伝説みたいな口ぶりだったじゃん」

「ああ、電話かかってくるようなやつの話か」

「で、毎度のことだけど、いつまで抱きしめてんの?」


 周囲にあまり人はいなかったのだが、少々騒ぎにはなりつつある。

 嫌ではないのだが、ずっとこうされているのも気恥ずかしいものがあった。


「いや、まだ襲ってくるかもしれないし」

「あいつが犯人なの?」


 夜霧の見ている先を知千佳も見た。

 上空に滞空していた何かが墜落してくる。夜霧がやったのだろう。

 それは、いくつものプロペラを搭載した小さな機械だった。


『ドローンじゃな』

「ドローンって! なんでそんなもんがこっちにあるわけ?」

『たいして不思議でもなかろうが。我らと同じように元の世界の物品がこちらにくることもあろう』

「あれを使ってこっちを見てる奴がいた」

「なに? いつもの殺気ってやつ?」


 ならば、どこにいようと夜霧の能力で殺せるはずだった。


「殺気ってわけでもないけど、あーいうので見られてるのはなんかわかるんだよ。ただなんとなくぐらいの感覚だから、街中だと特定まではできなかったけど」


 街中には監視カメラがいたる所にしかけられていて、夜霧は複数の視線を感じていたらしい。だが、戦闘で壊滅したこの一帯にカメラはない。そのため上空からの監視に気づけたとのことだった。


「で、どうすんの? 壊しちゃったら意味ないような」

『ふははははっ! 何者かはわからぬが油断しておったな! 電子戦で我にかなうはずもなかろうが! 大丈夫、電波の発信源は押さえたわ!』


 もこもこは自慢げにふんぞり返っていた。


「ああ……普段から電波ゆんゆん受信し続けてるからこんな残念な感じに……」

『あほうか。なにゆえ、普段から電波ゆんゆん受信しておらねばならんのだ! 今回は小僧に言われてやってみたまでのこと! フォックスハンティングというやつじゃな』

「なるほどねぇ……って、だったら私が付いてきた意味ってあんまりないような……」


 攻撃元の目視が目的のようなことを言っていたが、狙撃だとするならどこかの屋上で腹ばいになっている相手を目視で探し出すのは困難だろう。


『なに。我はお主からそう離れるわけにもいかぬからな。我の電波発信源特定技術を用いるなら、結局はお主と共に行動するしかなかったとも言える』

「騙すつもりはなかったんだけどさ。壇ノ浦さんに監視カメラがあるかもしれないって言うと、きょろきょろするかと思ってさ」

「あー、するね。それは確実に」


 あまり挙動不審だと敵に気付かれる恐れがあったのだろう。そう思えば納得するしかなかった。


「まあ、いいんだけどさ。で、どうすんの。見てた相手をやっつけられるの?」

「できるけど、ただ見てただけの相手だった場合、それで殺すってのもなぁ」


 夜霧が頭をかく。

 ドローンで監視していた相手と、狙撃手にはなんらかの関連はありそうだ。

 だが、確実ではない。冤罪で殺すのは夜霧の本意ではないのだろう。


「だから、行くって言ったんだよ。直接話を聞いてそれで判断してみよう」


 夜霧たちは、もこもこの案内に従って歩きはじめた。


  *****


 宮永良介は戦慄していた。

 これが、夜霧に対する実験を始める前であれば、事は単純であっただろう。

 自分に勝てる者などいるわけがないと高をくくり、あっさりと殺されていたはずだ。

 だが良介は、夜霧を理解してしまっていた。

 もちろん、まだその全貌を暴いたとは言いがたい。しかし、あのバケモノに勝つ方法など、まだ何も思いついていないのだ。

 相対すれば死ぬ。存在を悟られただけでも危ういだろう。


「あれはどうなんだ。もう見つかったってことなのか!? いや、もしそうならとっくに殺されているはずだ。ならば、まだ猶予はある。そういうことのはずだ」


 そう思いたい。だが、ドローンが壊れたならそれは夜霧がやったはずで、こちらの存在にも気付いているはずなのだ。

 いくら考えても何が事実なのかがさっぱりわからず、思考だけが空転する。


「くそっ。落ち着け!」


 頭の中で、必要なものを検索し、掌に錠剤を生み出す。精神安定剤だ。

 これこそが良介の持つ複製の力だった。元の世界にあるものを作り出すことができる。サイズに制限こそあるが、生き物でないならどのようなものでも作製が可能だった。

 良介は薬を一気に飲み下した。即座に効くものではないが、気休めにはなったのだろう。良介は多少の落ち着きを取り戻した。


「あいつは、待ってろ、と言った。つまりここを特定して、来るということか」


 ならばこの街を離れればいい。奴らはこの街で、賢者候補としての使命がある。街の外へまでは追ってこないはずだ。

 組織や人材。資材に装備。この街に根付く物は多いが、惜しんでいる場合ではない。命あっての物種だ。それらは時間さえかければいくらでも取り戻すことはできる。


「奴らは、どこだ?」


 良介はモニターを見た。

 見ずにはいられなかった。何もわからずに追い詰められる恐怖に耐えられなかったのだ。

 モニターは夜霧たちを映し出していた。

 彼らは、焼け野原となった一帯を抜け、再び監視カメラのある街中へと移動しているのだ。

 そして、監視カメラは一つ、また一つと通信を途絶えさせていた。

 モニターにNO SIGNALと表示されていく。カメラが切り替わっても、すぐに同じ現象が発生し、それは夜霧がこちらへ近づいていることを示していた。

 戦うのは論外だ。逃げるしかないがどのように逃げるべきか。のんびりと考えている時間もない。

 逃走方法は大きく分けて二つ。静かに慎重に逃げるか、大胆に一気に逃げ出すか。

 良介は後者を選んだ。

 良介の位置が捕捉されているなら、慎重に逃げようが見つかる可能性は高い。

 ならば、賭けに出るしかなかった。たとえ脱出の過程で見つかろうとも、一瞬で街の外へと逃げ出せる手段をとるべきだ。

 良介はベランダに出た。荷物は持たない。できるだけ身軽なほうがいい。

 梯子を登り、屋上へ。そこにある倉庫へ入ると、中には小型の飛行機が格納されていた。

 小型の垂直離着陸機だ。万が一のことを考えて用意していた逃走手段。

 乗り込んで始動させると、天井のハッチが開いていく。

 開ききったところで、飛行機が上昇を始め、倉庫の外へと出る。

 後は水平飛行に移ればいい。一度高機動状態になれば、国境を越えることすら一瞬のことだろう。


「隼円斬!」


 そんな声が聞こえてきたと思ったのも束の間、飛行機が揺れ体勢が崩れた。

 飛行機の片翼が斬り裂かれている。良介は、飛行は無理だと判断し、即座に緊急脱出を試みた。

 真下で爆発が起こり、座席ごと射出される。キャノピーを突き破り、宙に吹き飛ばされながらも良介は見た。

 サムライだ。

 日本刀を片手に持ち、スマートフォンでなにやら話している侍装束の女が、屋上に立っている。

 パラシュートが開き、落下速度が落ちたところで良介は焦った。

このままのんびりと落ち続けるのは、目立ちすぎる。今、この瞬間も夜霧はこちらへ向かってきているのだ。

 良介はハーネスを外し飛び降りることにした。人間の限界以上の力は身に付けている。この程度の高さを落ちたところでさほどの問題もない。

 だが。


「壇ノ浦流、飯綱落とし!」


 落ちかけたところで、そんなことを言う何かに掴まれた。

 反撃しようとしたところで、喉と股間を同時に潰され、激痛に目がくらむ。

 理解不能だった。

 良介は、金にあかせて手に入れたいくつものアイテムを身に付けている。幾重にも張り巡らされた防御結界が貫かれるなど想定していなかったのだ。

 激痛に反り返ったところに、さらなる衝撃が襲いかかった。

 頭頂部から地面に激突したのだ。

 ただの人間なら死んでいただろう。生きていられたのは、限界を超えるために行った様々なドーピングと、装備のおかげだった。


「いや……死ぬ勢いじゃなかったか? 今の?」


 前後不覚になっているところにそんな声が聞こえてくる。

 聞き覚えのある、このタイミングで絶対に聞きたくない声だった。


「だって、もこもこさんが、行けって言うから!」

「まあ、死んでないみたいだしいいか」


 絶望と共に良介は顔を上げた。

 高遠夜霧が、そこに立っていた。

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