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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT1

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第4話 待ってろ。今からそっちに行くから

「い、いやだ! 助けてくれ!」


 王都にある高層建築物の屋上。そこで黒ずくめの男が腹ばいの状態で喚いていた。

 男は狙撃手だった。スナイパーライフルを構え、スコープを覗いている。

 この世界の大半の者からすれば不思議な光景だろう。この世界にはもともとスナイパーライフルなどは存在しないし、それを専門に扱う者もいないからだ。

 男は暗殺ギルドの一員であり、ギルドから与えられたこの武器を扱えるように訓練を積んでいるのだった。


「ほら。さっさとしてくださいよ。痛いでしょ、死にそうなほど痛いでしょ?」


 小刻みに震える狙撃手の側には、赤いドレスを着て、赤い手袋を付けた少女が立っている。


「い、いやだ! 死にたくない! 死にたくないんだ!」

「そう。だから意味があるんですよ。あなたは、ターゲットを殺したくない。けれど、苦痛から逃れるために嫌々ターゲットを殺すしかない。と、まあ、今回は殺したくないって思いながら、殺そうとしたらどうなるのか? という実験ですね」


 男の身体には遠隔操作で苦痛を与えるための機械が埋め込まれている。苦痛を与える部位、強度は自由自在であり、その制御を少女が行っていた。


「そ、そんなの試すまでもないだろ! 結果はわかりきってる!」


 これまでは何も知らない者を狙撃手に仕立てあげてターゲットを狙っていた。

 だが、今回は少し違っている。暗殺ギルドでもそこそこの地位にある、今回の暗殺計画について詳細を知っている男を選んだのだ。


「ええ。でも、やってみないとわからない。結果を積み上げていかないと成功には辿り着けない。どっちみち、このままでは苦痛で死ぬと思いますから、どっちにしろ死ぬのなら、さっさと死んで苦痛から解放されたほうがいいんじゃありません?」


 ゆっくりと苦痛を増大させていく。もちろん殺すつもりはない。だが、苦痛を長引かせればそのうち限界はやってくるだろう。


「……お、お前だって、そのうち捨てられる! わかっているのか? 頭首が計画の立案をお前に全て丸投げしてる意味が!」

「ええ。わかっていますよ。殺そうとすれば死ぬ。では、その因果関係はどこまで及ぶのか? 人に依頼して殺させる場合は依頼者まで死ぬのか? ライフルの場合、引き金を引いた者が死にますけど、では、音声入力で動作するロボットがいて、殺せと命令した場合、死ぬのはロボットなのか命令者なのか? ターゲットを殺すつもりがなく罠をしかけた場合、たまたまターゲットが罠にひっかかった場合は? わからない以上はできるだけ安全策を取るものですよね」

「そ、それでいいのかよ、お前は!」

「マスターの命令ですから」


 闇の庭園の頭首である宮永良介は高遠夜霧暗殺計画に関与しない。そうやって自らを安全圏に置いているのだ。

 今のところ死ぬのは具体的な殺人行為の実行者のみなのでそこまでする必要はないのだろうが、何をするべきかはこの少女が考えて部下に実行させている。


「う、うわあああぁあ!」


 限界が来たのだろう。狙撃手は痛みに耐えかねて引き金に手をかけ、そして動かなくなった。

 ターゲットに反撃されたのだ。

 今回もだめだった。どのような精神状態だろうと殺そうとすれば殺されるのだ。

 だが少女は落胆していなかった。もともと期待はしておらず、これも実験の一部でしかない。

 屋上からターゲットを見る。普段は単独行動だったが、今日は少女を連れて街中を歩いていた。そのためかどこか楽しげな様子だ。

 距離にして三百メートル。裸眼で人の顔を確認するなどまず不可能だが、少女にはそれが可能だった。彼女は人の形をした機械であり、良介の能力で複製された存在だったからだ。

 少女は演算する。同じことをやっては意味がない。ターゲットを殺せる可能性を模索し、手を替え品を替えて実験を継続する。


「次は少女を狙ってください」


 機械の少女は、別のビルにいる狙撃手に無線で指示を出した。


  *****


 闇の庭園の首領である宮永良介は、花屋の二階にある自室で、ずらりと並べられたモニターを眺めていた。大型の事務机にマルチアームが取り付けられていて、椅子に座る良介を囲むようにモニターが展開しているのだ。

 場違いなそれらは、良介の能力で作られた複製品だった。

 良介の能力は模倣。元いた世界にある物の複製を、この世界で作りあげることができるのだ。

 そのモニター群には王都の風景が様々な角度から表示されている。それらは街の各所に取り付けられた監視カメラからの映像だ。

 その中の一つに、ターゲットである高遠夜霧が映っていた。

 ここ最近この少年は何をするでもなく街をうろついているのだが、今日は珍しいことに同伴者がいる。見目麗しい少女なので、デートということかもしれない。

 まだ若い二人には微妙な距離感があり、見る者が見ればそれを微笑ましいなどと感じるのかもしれないが、良介にはそれが、バケモノと、その危険性に気付かない愚かな存在としか思えなかった。

 良介は部下の試行錯誤を観察し続けていた。

 依頼書にあったようにまずは部下にやらせてみた。スナイパーライフルによる狙撃を試みたのだ。

 だが、それなりの訓練を積んだ部下は、ターゲットから遠く離れたビルの屋上で唐突に死んだ。腹ばいの姿勢でスコープを覗き、狙いを付けた途端に死んだのだ。

 その現象を目の当たりにしたときにはとまどったが、おかしな依頼の意図もそれでわかってきた。

 この距離からでもターゲットは狙われていることに気付いて反撃してくるのだ。

 この存在は確かに危険であり、暗殺できるならしておかねばならない。俄然興味を引き立てられたが、良介は部下にターゲットの調査を命じただけだった。

 殺せとは言わない。ただ調査しろと言っただけであり、おおまかなことを伝えて後は任せたのだ。

 そして、良介は、部下たちの行動を観察し続けた。

 狙いを付け、引き金を引こうとすれば死ぬ。

 狙いを付けただけでは死なない。

 ライフルに仕掛けを施し弾が出ないようにすれば、殺そうと考えて引き金を引いても死なない。

 狙いを外して撃っても死なない。

 仕掛けを施して、狙うつもりがなくても当たるようにしておけば、殺すつもりがなくても死ぬ。

 地雷は踏んでも爆発しない。仕掛けた者は死なず、地雷が壊れた。

 複数箇所からの同時攻撃でも同じことで、殺そうとした者は例外なく死んだ。

 魔法による攻撃の場合は、詠唱が必要な場合なら呪文の最後を言い切る寸前に死に、杖を使って意思で発動するタイプなら発動しようと考えた瞬間に死ぬらしい。

 ターゲットを直接狙わず、遠距離範囲魔法に巻き込もうとした場合でも死ぬ。それはターゲットのことを術者に知らせていなくてもだ。

 爆弾を仕掛けた一般人を近寄らせても、爆弾は不発となる。

 近くの建物を倒壊させても、ターゲットは危険を察知してその場を離れるし、逃げようがないタイミングを計っても、瓦礫の類は簡単にかわしてしまう。

 毒も効果はなかった。食事に混ぜても察知して回避するし、毒ガスを散布しても無効化された。

 最初こそは、殺意に反応するのかと良介は考えていたが、それはどうも違うように思えてくる。

 ただ純粋に、ターゲットが死ぬ可能性があるかどうかが問題であり、その切っ掛けとなる対象が死ぬなり、壊れるなりするのだ。

 遠隔攻撃への反撃は、ほぼ自動的な対応といってよさそうだった。

 近接攻撃は試していないが、結果は同じだろう。死体が残れば足が付く可能性が高まるので、それは控えるように伝えていた。

 ターゲットの危機感知能力の調査とともに、その即死能力を防ぐ方法についても並行して調査を行っていたが、そちらも芳しい結果は得られていない。

 この世界における伝説の武具を与えても防げなかったし、元の世界の防具でも同様だ。魔法で防御力を上げようと、即死耐性を上げようと、身代わりとなるアイテムを持たせようと無駄だった。

 ただ、死ぬ。

 外傷はなく、何が原因なのかもわからない。

 結局のところ、目処はまるでついていなかったが、それでも良介はのんきなものだった。ターゲットがとんでもないバケモノだとしても、その力は自分にまでは届かないと思っているからだ。

 ターゲットは反撃してくるものの、殺した相手がどこにいるのかまではわかっていない様子だ。

 大体の方角ぐらいはわかっているようだが、距離は十分に取っているのですぐに撤収することが可能であり、良介の存在を知られることもない。

 つまり、最悪の場合は、逃げおおせることが可能なのだ。

 もちろん、まったく不安がないと言えば嘘になる。しかし、その不安を良介は素直に認めることができなかった。

 なにせ、全てが退屈になり、刺激を求めて暗殺稼業などを始めたのだ。

 何をしても殺せない相手を殺す。

 こんな刺激的なことを諦めて、他の刺激を求めるなど逃げでしかない。

 誰が言わずとも自分がそう思ってしまうだろう。言い訳などしようがなく、良介にはそれを許すことができない。

 なので、良介はかすかな不安を好奇心で塗りつぶす。これこそが望んでいた刺激的な出来事であるのだと己を鼓舞する。


「さて。今はどうなってる?」


 ターゲットの移動にあわせて良介はモニターを切り替えていく。

 一部のモニターには常にターゲットが映り続けているが、これは小型のドローンによるものだ。

 気付かれぬように上空に位置し、ターゲットとともに動き続けている。

 二人は、謎の災害が起こった地域に向かっているようだった。

 焼け焦げた建物や、倒壊した建物が増えていく。

 瓦礫しかない、災害の中心部までやってきて二人は立ち止まった。

 ここにも監視カメラはあったのだが、この有様で機能しているはずもなく、今彼らを映しているのは上空のドローンだけとなっていた。


『次は少女を狙ってください』


 どこからともなく声が聞こえる。無線による通信だ。


「そういえば、そのケースはやってなかったな」


 これまでにもターゲットの周囲の人間もろとも攻撃しようとしたことはあったが、それはターゲットを巻き込むためだった。

 だが、ターゲットは狙わずに、近くの人間を攻撃した場合はどうなのか。その場合でも殺意を感知するのか。反撃することができるのか。そこに何か違いを見出すことができるかもしれない。

 どこかで待機していた部下が、ライフルを撃った。

 ターゲットが反応を示した。少女を抱き寄せてライフル弾から守ったのだ。

 良介は部下を映しているモニターを確認した。

 死んでいない。

 つまり、近くにいる人間を狙った攻撃を察知はできても、それへの反撃まではしなかったのだ。


「この路線で続けてみるのもいいか――ん?」


 狙撃手が映っているモニターを見た良介は目を疑った。いつのまにやら忍者が映っていたのだ。

 赤い装束を着た派手な姿の忍者が忍び寄り、狙撃手をあっさりと縛り上げた。


「馬鹿な!」


 慌てて良介は立ち上がった。

 忍者が偶然やってきたはずなどなく、ならば狙撃手の位置がばれたことになる。

 ではどうやって。

 いや、弾道からばれる可能性はもともとあったのだ。

 なので慌てるまでもない。部下から良介には繋がらない。部下は良介のことを何も知らないのだ。

 この場所も知らないし、良介の顔も名前も知りはしない。最悪の場合でも追えるのは計画を立案している機械少女までで、少女は機械故に絶対に口を割ったりはしない。

 良介は諦めることにした。ここで引き下がるのも口惜しいが、こうなっては仕方がない。これ以上続けて万が一にも良介の存在がバレてしまっては意味がないからだ。

 良介は落ち着いて椅子に座ろうとして、さらなる異常に気付いた。

 見られている。

 モニターの中のターゲットが、こちらをまっすぐに見つめていた。

 今ターゲットを映し出しているのは上空に浮いているドローンだけだ。つまり、ターゲットはドローンの存在を認識して見上げていることになる。


『待ってろ。今からそっちに行くから』


 ドローンが拾った音声がはっきりと聞こえ、そしてモニターが暗転した。

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