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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
4章 ACT1

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第3話 あ、もこもこさん、まだ成仏してなかったんだ

 篠崎綾香は、夜の闇の中に浮いていた。上空から王城を見下ろしているのだ。

 ギフトを封印している王を殺す。

 そう意気込んでやってはきたものの、どうするべきか。

 一番簡単なのは、真下に向けて最大威力の(ドラゴン)(ブレス)を放つことだろう。

 綾香はその威力を十分に認識していた。城を含む一帯を完全に消滅させることが可能であり、ここにいるはずの王も始末することができる。


『いいか! 絶対に反対だ! そもそも復讐の過程で無関係な人間に危害を加えること自体がおかしいのだ! 多少は許容するにしても、これはやりすぎだ! 被害が甚大になる!』

『そうだな。それは人間から逸脱した行為だ。我々の目的は人間の再現であることを忘れるな。復讐自体は人間的な行いだが、それは度が過ぎるというものだ』


 何を今さらと綾香は思う。すでに自分は人間からかけ離れた存在だ。人間であることにこだわる意義がわからない。


「そんなことするわけないでしょう」


 少し考えはしたが、綾香はブレスの使用を選択肢から外した。

 王がここにいるかどうかがわからないからだ。綾香はこの国の事情など知らないし、ましてや王のスケジュールなどわかるはずもない。

 それに、クラスメイトたちは王城の敷地内にいるらしい。まとめて消滅させていいのなら最初からそうしている。綾香は一人ずつ思い知らせながら殺すつもりなのだ。


「どうやって王様を探そうかと考えているだけなんだけど」

竜覚(ドラゴンセンス)の使用を推奨します』

「それでなにかわかるの?」

『微少なソウル体を周囲に散布することにより、周辺状況の認識が可能となります』

「そう。竜覚」


 唱える。綾香は何かが抜けていく感覚を覚えた。それが、ソウルとやらなのだろう。量は微々たるものなのか、特に支障は感じない。

 途端に全ての感覚器官にめまぐるしく情報が流れてきたが、それはすぐにおさまった。

 竜言語ユニットが、一旦情報を蓄積して解析しているのだ。


『何名かのクラスメイトを確認。マーキングを行いました。今後は、位置の捕捉が可能です。それと、先ほど戦った、白山(しらやま)梨央奈(りおな)が戻ってきています』


 梨央奈は空手を使う少女だ。全能力倍加の力を持っている。

 彼女は負け惜しみなのか、封印さえなければ負けないと言った。なので、綾香は封印を解きに王城まで来たのだ。


「約束しましたしね。封印を解いて再戦すると。王はどこかわかる?」

『王の寝室らしき場所と、王らしき人物を発見しました』


 綾香は王城へと降りていった。


  *****


 王の寝室は、最上階から突出した塔の先端にあった。

 普通なら、こんなわかりやすい場所に王の寝室を設けないはずだが、封印の力を信頼しているのだろう。空を飛ぶギフトで刺客がやってくることを想定していないのだ。

 綾香は、窓へと突撃した。

 ガラスの破片が舞い散る中、柔らかな絨毯の上に着地する。

 部屋の中を見てみれば、豪華な寝台の上では、裸の男女がからみあっていた。

 闖入者に驚き二人は固まっていたが、男はすぐに側にあった剣を掴んで寝台を降りた。


「なんだてめえ?」

「……そういえば、こちらに来てから名乗ったことがなかったですね。篠崎綾香と申します。ちょっとばかりギフトを無効化する封印とやらが邪魔になりましたので、解除しにやってきました」

「はあ……たまにいるんだよな。こういう馬鹿が。ギフトが使えなくても、格闘とかでどうにかなるとか思ってるような奴がよ」


 裸で剣を持っているだけだというのに、男はずいぶんと余裕を見せていた。


『ところで、股間がモザイクでよく見えないですけど?』

『ちょっとした配慮だ』


 視覚を操作されているらしい。確かにそんなものは見たくもないので、配慮はありがたかった。


「あなたが王様でよろしいのかしら?」

「ちげえよ」

「あら?」


 ユニットは王らしき人物を発見したと言っていた。ならば人違いの可能性がある。

 そんな一瞬の思考の隙を男は逃さなかった。男は、剣を持っていない左手を綾香へとむけたのだ。

 掌が輝き、火球が放たれた。

 燃えさかる炎の塊が眼前に迫る。

 だが、綾香は反応しなかった。反応する必要がなかったのだ。

 火球は、唐突に消え失せた。不可視の防壁、(ドラゴン)(スケイル)に防がれたのだ。


「ほう」


 男が感心していた。小手調べの攻撃だろうが、それでも防がれるとは思っていなかったのだろう。

 そして、男は踏み込んできた。

 突きだ。

 綾香の首をねらって、剣をまっすぐに突き込んできたのだ。

 綾香は無造作に、腕を振るった。

 竜牙(ドラゴンファング)

 それは近距離でもっとも力を発揮する竜魔法だった。

 綾香の手から放たれた見えない顎が男を銜え込む。

 上下から襲う無数の牙が男を穴だらけにし、その一撃で男は死んだ。


「今のは足止め程度のつもりだったのに。自信満々だったわりにはあっさりと死んだわね」

『類推するに、こちらの力だけを封じて、自分は魔法で一方的に攻撃するといったスタイルだろう』

『距離が近いほど封印が強くなるみたいな感じなら、近づけば近接戦闘で片が付くとでも思ってたんじゃない?』


 男にとって誤算だったのは、綾香の力が賢者たちのいうシステムとは無関係だったことだ。ギフトのランクを下げる能力だとしても、そもそも綾香の力はギフトではないのだから。


「そういえば、結局この人が王様なのか、ちゃんときいてなかったんだけど」

『王族ではあるのだろうな』

「ねえ。この人が王様で間違いない?」


 綾香は、寝台の上で震えている裸の女に聞いた。


「は、はい!」

「あなたも王族なのかしら? 王家の血を引いていて、封印の力が使えるのかという意味だけど」

「血、血は引いておりません、封印もできません! 他国より嫁いでまいりましたので」

「ではもう一つ質問。王が死んだなら封印の力はなくなったということでいい?」

「はい……ですが、その場合は、別の王族が務めを引き継ぐことになっております……」


 王が死に、封印が失われたことはすぐに気付かれるだろう。

 ならば、急がねばならない。封印が復活する前に、白山梨央奈と決着を付ける必要がある。

 綾香は窓から外へと飛び出した。

 マーキングしてある梨央奈の位置を探る。

 ここから下。大きな建物の中だ。そこが、クラスメイトたちが拠点としている場所なのだろう。

 綾香は、竜翼(ドラゴンウイング)を展開した。

 これも竜言語と呼ばれる特殊な魔法の力だ。実際に翼があるわけではないが、綾香は背にその力を感じ取っていた。

 見えない翼に力をこめる。一瞬で目前の景色が流れていく。

 建物の天井を突き破り、綾香は最短距離で梨央奈の前に降り立った。

 梨央奈はベッドに横たわっていた。隣には白衣を着た少女がいて、梨央奈に手をかざしている。


『治療中ということか』


 この世界特有の魔法なのか、能力なのか、梨央奈の傷は治りつつあるようだった。


「な……」


 梨央奈は呆然と綾香を見つめていた。こんなあらわれ方だ。面食らいもするだろう。

 綾香は梨央奈が落ち着きを取り戻すのを待った。

 わざわざ封印を解除したのは、梨央奈に全力を出させるためだ。このまま殺すのは簡単だが、それでは手間暇をかけた意味が無くなる。

 待っている間にあたりを見た。

白を基調とした清潔感のある簡素な部屋だ。状況からして病院なのだろう。

 梨央奈を治療している少女にも見覚えがあった。クラスメイトの御園明里だ。

 梨央奈は空手道着だし、明里は白衣。どうもそれぞれの役割に応じた格好をしているようだ。


「さあ、王様を殺して封印を解いたから戦いましょうよ」

「そ、そんな……」


 明里が呆然と立ちつくす。

 梨央奈は無言でベッドから降りると、肩を回し、足を伸ばす準備体操のようなことをして、調子を確認していた。


「やってやろうじゃねぇか!」

「封印は解けてます? またまた、本気が出せたらー、とか言われても困るんですけど?」

「自分の身体で確かめてみろよ!」


 爆発音と衝撃。

 綾香がそれを感じたとき、すでに前後不覚に陥っていた。

 何が起こったのかわからず、とまどう。身体を動かそうとすれば、妙に抵抗を感じた。


「何があって、どうなったのかしら?」

『瞬時に間合いを詰めてきた梨央奈に殴られ、街まで吹っ飛んできて、地面にめり込んでいる』

「ダメージは?」

竜鱗(ドラゴンスケイル)を貫通するには至っていない。が、吸収しきれずに、派手に吹っ飛んでしまったわけだ』


 身体を起こす。

 ずいぶんと地面を削ったようで、背後には土山ができていた。動きにくかったのは地面にめり込んでしまっているからだ。

 正面を見れば、王城からここまで、一直線に建物が破壊されている。

 そして、さらなる衝撃。

 今度は見えた。王城から飛んできた梨央奈の膝が、綾香の腹にめり込んでいる。

 ダメージを吸収しきれず、綾香はさらに吹き飛んだ。力を分散しようとした結果、派手に宙を舞っているのだ。

 視界が高速で回転している。姿勢制御もままならず、派手に地面に激突し、そこへさらなる追い打ちがかけられた。

 拳だ。

 真上からふってきた梨央奈が、綾香が接地すると同時に顔面に拳を突き落とす。

 一瞬、綾香の思考が途切れ、気付けば綾香は梨央奈にまたがられていた。マウントポジションだ。

 その状態から拳が打ち下ろされる。

 衝撃波が発生し、周囲の建物を根こそぎ吹き飛ばし、綾香の頭が地面にめり込んでいく。

 左右の連打。途切れることのない拳の雨が、綾香の顔面を乱れ打つ。


竜牙(ドラゴンファング)


 びちゃり、と音がして攻撃が止み、梨央奈の体勢が崩れた。

 梨央奈の右肘から先が消えたのだ。

 綾香は、崩れた梨央奈の身体を掴み、引っ張るようにして身体を入れ替えた。


「な、なにが」


 梨央奈の右肘は食いちぎられていた。

 竜の顎の咬合を、梨央奈は認識することができなかったのだ。


「確かにたいしたものだけど、底は知れたわね。それともまだ何かある?」

「く、くそっ!」


 梨央奈が左拳を突き上げてくる。


竜尾(ドラゴンテイル)


 見えない竜の尾が梨央奈の身体を締め付け、梨央奈の攻撃は不発に終わった。

 綾香は立ち上がり、梨央奈を見下ろした。


「そのまま、ゆっくりと絞め殺してあげる」


 竜尾に抵抗もできないなら、これ以上遊ぶことに意味はない。

 クラスメイトたちが手に入れた力がこの程度なら、始末するのにたいして苦労はしないだろう。

 綾香は、少しばかり落胆していた。


  *****


 王城は大騒ぎになっていた。

 謎の人物の襲撃により、王が殺され、王城と街が破壊されたのだ。

 だが、賢者候補たちにとって、それは些細なことだった。しょせんは異世界の国の、異世界の人間の事情だからだ。

 そんなことよりも、クラスメイトが立て続けに二人も殺されたことのほうがよほど重大だった。

 エロゲマスターの牛尾真也に続いて、ゴリラの白山梨央奈までが、篠崎綾香を名乗る少女に殺されたのだ。

 梨央奈は、近接戦闘では最強と目されていた。

 その梨央奈が後れを取るなら、並大抵の相手ではない。賢者のギフトを得たと増長していた賢者候補たちも、恐れを禁じえなかった。


「今さら知ったけど、ゴリラってクラス名としてどうなの!?」

「まあ、すごいパワーだってことなんだろうな」


 王暗殺事件の翌日。知千佳と夜霧は街を歩いていた。

 夜霧が何やら手伝えと言ったからで、それが街に出かけることだったからだ。

 死んだ梨央奈には悪いが、知千佳はそれほど関心を持っていなかった。もし本当に綾香が犯人なら、正当性はあると思ってしまったのだ。


 ――まあ、無関係の王様を殺すのはだめなんじゃ、とは思うけど……。


 王の死はしばらく伏せられるとのことだった。封印については応急的に第一王子が引き継いでいるらしいが、規模、範囲ともに王ほどではないとのことだ。

 外出は特に禁じられてはいないが、クラスメイトたちは及び腰だった。

 だが、夜霧は綾香の襲撃など気にしていないのだろう。予定どおり、街に行くことになった。


「で、手伝うって街をうろうろするだけなの?」

「狙われてるのを放置しとくのもどうかと思うしね。場当たり的に対処はできるけど、それじゃキリがない。だから、狙わせて、殺さずに、もしくは殺して犯人を特定する」

「どっちだよ!」

「まあ殺さないほうが、手がかりは多いかな」

「で、私がこなきゃならなかった理由は?」

「壇ノ浦さん、目がいいでしょ? 犯人を見つけられるかなって思って」

「んー、でも、遠くから狙われてるとして、私に見つけられるかな。魔法的なものだとすると、どっかに隠れてとか」


 夜霧はどこから、どんな手段で狙われようと確実に反撃する。それで相手は死ぬのだが、その場合相手がどこにいるのかまではわからないのだ。


「それはないと思う。それができるなら、王城内にいても攻撃してくるだろ。だから、目視できる範囲でやってると思うんだ。で、相手が目視なら、壇ノ浦さんなら見つけられるかな、と思って」


 二人で街を歩くなどというデートっぽいことをしているわりには、実に色気のない話だった。

 二人きりで街の中を歩くなど久しぶりだし、多少は楽しみにしていたのに、夜霧にはそんなことを意識している様子がまるでない。知千佳は、なんだか腹が立ってきていた。


「なんか機嫌悪い?」

「別に?」

「ならいいけど」

「いや、そこはもうちょっと聞いてみようよ!」

「聞いたら教えてくれるの?」

「教えなくもない。ご飯奢ってくれたら」

「奢るっていうけど、壇ノ浦さんも俺と同じぐらいお金持ってるだろ?」


 夜霧が首をかしげる。


「そういう問題じゃないんだけど」

「わかったよ。奢ればいいんだろ」

「うん! だったらさ! 昨日、おすすめのお店を聞いてきたんだけど!」


 夜霧の手を引っ張り、喜びいさんで知千佳はかけだした。

夜霧も仕方がないという様子で、歩調を合わせる。

 だが、進むごとに周囲の雰囲気が怪しくなってきた。

 もともと都会の喧騒にあふれている街だが、切羽詰まったような、剣呑な雰囲気なのだ。

 そして、その原因が目の前にあらわれる。瓦礫の山だ。

 篠崎綾香と白山梨央奈が戦った跡。二人の対決は、周囲の建物を根こそぎ吹き飛ばし、破壊したのだ。およそ、人の対決が巻き起こしたとは思えない、大惨事の現場だった。


「おのれ、篠崎綾香! 許すまじ!」


 お目当ての店は軒並み消し飛んでいた。


「かなりの被害が出たらしいね」


 夜霧もこの光景には面食らっているようだ。


「ま、まあ他にもお店はあったと思うし」


 懐からメモを取り出す。すると、夜霧はいきなり知千佳を抱き寄せた。


 ――は? なんなの、この脈絡のないハグは!


 だが、振り払いはしない。

 とまどっていると、何かが側を通り抜けていき、知千佳は振り向いた。

 後ろにいた通行人の頭が弾け、倒れた。


「はい?」

『狙撃、だな。小僧ではなく、お主を狙った』

「あ、もこもこさん、まだ成仏してなかったんだ」

『ずっとおるわい!』


 狙われたとかよりも、久しぶりのもこもこの登場が気になる知千佳だった。

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