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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
3章 ACT2

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第19話 人間って、太ってる奴はしばらく生きてられるんでしょ?

 夜の街をうろつく篠崎綾香は、宣戦布告のような真似をしたのはまずかったかと少しばかり後悔していた。

 彼らは有名だったので、適当にそこらで聞き込みをすれば簡単に入り浸っている店などは判明した。

 牛尾たちはそうやって見つけたのだが、一人目を殺して以来、クラスメイトたちは外出を控えるようになったのだ。

 街は無闇に広い。こうなってしまうと、そう簡単に見つけることはできなくなっていた。


『奴らの実力のほどは知れた。本拠地はわかっているのだから襲撃すればいいのではないか?』


 賢者候補と呼ばれる者たちがやってきて、試練として魔界攻略を行っており、彼らは王城で賓客として扱われている。

 その程度のことは街の噂でわかっていた。


「それだと、いつ襲撃があるのかと怯えさせる計画が台無しになるじゃない」

『いや。奴らの全貌が明らかになったわけではない。やはり慎重にいくべきだと思う』

『一人のところを狙って殺していく、謎の殺人鬼方式のほうがよかったんじゃない? そりゃ自分たちがターゲットだとわかっているなら、馬鹿みたいに出歩いたりはしないでしょ』

『今からでもこのような行為はやめるべきだと提案する』

「そうね」

『おお! 提案を受け入れてくれるのか?』

「やっぱり本拠地に行こうかしら。そして一人だけ殺して帰るっていうのはどう?」

『それが通用するのも一人目までじゃない? 本拠地がばれてるってわかったら、逃げて拠点を変更するでしょ』

『復讐するのは別にいいけど、もう全員殺しちゃったら? そこまで手間をかけなきゃいけないものなの?』

『何か簡単に奴らの居場所がわかる方法があればいいのだがな』

『匂いとかで追跡できないの?』

『嗅覚のリミッターを外すと認識の精度は上がるが、嗅覚の受容体そのものの数は変わらないからな。さほど意味はないだろう』

『魔法的な何かは?』

『そうだな。ソウルでの個体識別は可能だろうが、それには一度会ってソウルを記憶する必要がある』

『だったら、やっぱり本拠地に行くべきね。とりあえずは一通りクラスメイトを見て回ればいい。そうしたらいつでも捕捉可能ってことでしょ』


 やはり自分はおかしくなっているだけなのかもしれない。綾香はふとそんなことを考えた。

 自分と各ユニットの区別が曖昧になり、誰が喋っているのかよくわからなくなることがあるのだ。

 もしや、ユニットなどというのはただの妄想なのではないか。そんなことまで考えてしまう。

 だが、そんなぼんやりとした思考は、脳を揺さぶる強烈な刺激にかき消された。


『なんだ今のは!』

『頭部への衝撃。ドラゴンスケイルを貫通はしていないが、完全に吸収することができなかった』

『軽度の脳震盪が発生しています』


 視線が地面を転がる何かに吸い寄せられる。握りこぶし大の石ころ。それが綾香の頭部を直撃したのだ。


『馬鹿か! 人体シミュレーションなんか解除しろ!』

「やっぱり人間じゃないのよね」


 めまいが急速に解消され、あらためて綾香はそう思う。やはり今の状況は妄想などではないのだ。


『狙撃だ!』

『どこからだ!』

『北東仰角30度! まだくるぞ!』


 ユニットの指示するほうを見る。

 先ほどと同じような石ころが三つ飛来してきていた。

 綾香は一つ目をかわした。結果、石は背後にいた誰かを直撃し、その不運な誰かは血をまき散らしながら派手に吹っ飛んでいく。

 後の二つは狙いがそれていたのか、前方にいた通行人の頭部を派手に爆裂させる結果に終わった。


『狙撃ポイントを特定した』

「そう。じゃあ行こうかしら。ドラゴンウイング」


 竜言語を発して、竜の翼という浮遊の概念を顕現させる。

 綾香の身体はふわりと浮き上がり、瞬時に目的地へと到達した。

 高層建築物の屋上だ。そこに、白い道着を着た少女が立っていた。

 白山梨央奈。クラスメイトの一人、綾香が殺すべき相手の一人だ。

 梨央奈は呆気に取られていた。まさか、こんなにすぐ自分のもとまでやってくるとは思っていなかったのだろう。その足元には、狙撃用の石が大量にばらまかれていた。


「私が言うのもなんだけど、無関係の人間を巻き込んでいいのかしら?」

「はっ。お前をほっといたら枕を高くして寝られねーだろうが。一般人が巻き添えになろうとお前を殺せりゃそれでいいんだよ」

「なるほど。ずいぶんと自分勝手なご様子。そんなことだから、クラスメイトを囮にして逃げ出しても平気な顔をしてられるんでしょうね」


 もとより赦すつもりなどないが、やはり同情の余地は微塵もない。


「ま、もともとこんな遠距離からちまちまやるのは性に合ってねーんだよ。やっぱケリはこいつでつけねーとよ!」


 そう言って梨央奈が構えを取る。綾香は、彼女が空手をやっていることを思い出した。白い道着に黒帯の恰好は空手のものなのだ。


『実戦空手を標榜する類ね。こんなものキックボクシングの真似事でしかないわ』

「あら、バトルユニットさんはずいぶんと辛辣ですこと」

「おらぁ!」


 梨央奈が殴りかかってくる。

 綾香は避けなかった。

 上段、中段、下段。拳が、足刀が、肘が瞬く間に叩き付けられるが、綾香は微動だにせずそれを喰らい続けたのだ。

 先ほどは油断していたが、覚悟を決めてさえいればこんなものだった。


「くそっ!」


 埒があかないと思ったのか、梨央奈が一旦距離をとる。


「あなた、クラスの中だと強さはどれぐらいなのかしら?」

「格闘戦なら最強だっ!」


 梨央奈が叫ぶと同時に、全身を燃え上がるような光が覆った。


「あれは?」

『システム関連の能力? 見た感じパワーアップしてるのかな?』

「あんまり役に立たない情報ね。ドラゴンクロー」


 相手のパワーアップをただ待つのも面倒なので、綾香は蚊でも払いのけるように手を振るった。それは全てを引き裂く竜の爪を概念化した攻撃だ。

 綾香の五指から放たれた不可視の衝撃が、空間を断絶する。


「あ?」


 側を走り抜ける衝撃を感じ取ったのか、梨央奈が間抜けな声を発した。

 少し遅れて、屋上がずれた。

 梨央奈のすぐ側から屋上が斜めにずれ落ちていき、派手な音を立てて地面に激突する。

 そして、梨央奈の右腕がぽとりと落ちた。

 絶叫を上げ、うずくまる梨央奈のもとに、綾香は悠々と近づいていく。


「もちろん、直撃させることもできたんですけど、すぐには殺さないと決めてますからね。せいぜい怯えてくださいな」


 綾香は梨央奈の腹を蹴った。竜鱗(ドラゴンスケイル)で強化こそされてはいるが、それほど力を込めているわけではない。


「くそっ!」


 梨央奈がうずくまりながらも、拳を繰り出してくる。パワーアップは終えたのか、灼熱のオーラを纏った一撃だったがそれも綾香には通用しなかった。梨央奈の拳は、竜鱗(ドラゴンスケイル)を貫くことはできなかったのだ。


「これで格闘戦最強ってことなら、他の人たちもたいしたことはなさそうね」


 綾香は梨央奈の左腕を踏みつけ、右手を振りかぶった。


「さて。何か命乞いでもなさったらいかがかしら? もしかしたら、私の気が変わるかもしれませんよ?」


 もちろん、命乞いなど聞く気はない。ただどこまで醜く足掻いてくれるのかと期待しただけのことだ。


「ふ、封印さえ、封印さえなければお前なんか! ランク4さえ使えれば負けるわけがないんだ!」

「封印?」


 負け惜しみかと思ったが、梨央奈は本気でそう思っているようだった。


『システムで運用されているスキルにはランクがあるのですが、この地の封印はランクをダウンさせるものらしいですね。もっとも、竜言語魔法を基礎にしている我々に影響はありませんが』

「そういえばあなたの能力ってなんなのかしら? ランクが上がると何か違うの?」

「……」

「ドラゴンファング」

「ぐっ!」


 綾香は足で竜牙(ドラゴンファング)を発動した。見えない顎が、梨央奈の左腕に喰らいつく。

 ゆっくりと力を込めていくが噛みちぎるまではしない。これはあくまでも脅しだった。


「ご自慢のランク4がそんなに強いというなら教えてくださってもいいでしょう?」

「全能力倍化……ランク1で十倍、ランク2で百倍になる……ランク4なら一万倍だ……今はランク2になってる……」

「なるほど。確かに百倍と一万倍では全然違いますね。その封印って解く方法はあるのかしら?」

『竜の民から得た情報によると、王族が使用するスキルによるものとのことでした。なので使用者を始末すればいいでしょう』


 綾香は振りかぶった手を下ろし、梨央奈から離れた。


「あなたの負け惜しみは無駄ではなかったわ。では、封印なしでもう一度お手合わせいたしましょうか」

「お前、何を言って……」


 梨央奈は呆気に取られていた。助かったということがすぐには信じられないのだろう。


『いいのか?』

「ええ。一度会えば、ソウルとやらで位置を把握できるんでしょ?」


 ならば殺すのはいつでも可能だ。綾香は竜翼(ドラゴンウイング)を使用し、宙に浮かび上がった。

 あたりを見回す。

 すぐに目的地、王城は見つかった。王都の中心にある、一番大きな建物だ。

 綾香は、王城に向けて飛びはじめた。


  *****


 花川とリュートは酒場でチケットを購入し、魔界の入り口へと向かった。

 入り口は販売した売り場の近くに存在するものなので、特に迷うようなこともなくあっさりと到着する。

 入り口は、石造りの小屋だ。小さくはあるものの装飾に凝っており高級感のある建物だった。

 受付でチケットを渡して中に入る。

 そこには地下へと向かう螺旋階段があった。


「しかし、中は直径百四十キロとのことですが本当でござろうか? それではこの街をはみ出してしまうでござる。この街は魔界を抑えるためにあると聞いたような気がするのでござるが」


 階段を下りながら花川が訊く。

 王都も巨大な街ではあるが、それでも直径でいえば十キロほどだろう。とても魔界全体を覆う規模ではない。


「この地下にあって地下にないんだよ。魔界なんだから当然だろ。ただ地下にあるだけなら、そんなのただの地下迷宮だよ」

「しごくごもっとも。確かにそうでござるな」


 つまり、魔界とは異界であり、この街を通してしか魔界には至れないということだ。

 階段をしばらく下りると、岩肌が剥き出しになっている洞窟になっていた。

 洞窟ではあるがあたりは十分に明るい。洞窟上部に光る棒が点在しているためだ。


「ここが第一層ってわけか。僕もここに来たのは初めてなんだけど、さて、どうするかな。妹神様は最下層におられるってことなんだけど」

「えーと、一層の幅が十キロなので、中心までは七十キロほどあるってことなんでござるよね? で、層ごとの高さは一キロ。一層目の高さは誤差みたいなものだとしても、七層だと深さは六キロほど……ってこんなの辿り着けるわけがないと思うのですが!」


 しかも内部は迷路のようになっている。直線距離で考える以上の距離を踏破しなければならないだろう。


「来ればどうにかなるかな、と思ってたんだよ。ま、でも行くしかないよね」

「え、いやちょっと! まさか普通に歩いていくというのでござるか!」

「行くに決まってるだろ。嫌なら置いていくけど?」


 リュートはすたすたと歩き出した。


「いや、そもそも、拙者は無理矢理連れ回されてたと思うのでござるが……」


 もしかするとここで逃げ出せば、わざわざ魔界の外までは追ってこないかもしれない。

 そうは思うものの、後々面倒なことになるかもしれないと思うと二の足を踏んでしまう。結局、花川はリュートの後をついていくことにした。


「うぅ……ここって魔物とかいるんですよね? 襲われたりとかは……」

「安いチケットだからこのあたりにはあまりいないんじゃない?」


 魔物はいくらでも湧いてくるがその分布には偏りがある。魔物がたくさんいるエリアは人気になるので、調整のためにチケットは高額に設定されているのだ。


「魔物っていうのが、ここの魔神様の眷属なんですよね? それが資源みたいに扱われてるのは抵抗ないでござるか?」

「別に? 人間に倒せる程度の奴なんて、絞りかすっていうか、落ちた髪の毛みたいなもんだからね。それがどうなろうとどうでもいいよ」

「拙者は落ちた毛でもそれなりには……」

「何の話だよ!」

「だって、ここの魔神様は女性なのでしょうが!」

「なんだよ、言い方が悪かったのか? 垢とかフケっていえばいいのかよ?」

「ふふふっ! 排泄物へのフェティシズムはメジャーなほうだということをリュート殿は理解しておられないようですな!」

「おまえホント、キモいな……」


 リュートはほとほと呆れているようだった。


「ところで、道はわかっておられるので?」

「適当に進んでるだけだけど?」

「ちょっ! こんなもの適当に進んでいたら、いつまで経っても辿り着けないではないですか! それに拙者、ろくな準備もしておらんのですが!」


 この調子では、魔物の妨害がなかったとしても中心部に辿り着くまでには何日もかかることだろう。ちょっと中を覗いてみるぐらいの気分だった花川はろくなものを持ってきていなかった。


「んー、まあ人間って、太ってる奴はしばらく生きてられるんでしょ?」

「おおう! 食い物がないという前提でござるよ!?」


 そんなことを喋りながら進んでいると、向こうから何かがやってくるのが見えた。

 人影だ。少なくとも不定形の化け物ということはない。


「探索者の方ですかね?」

「人間っぽいからそうだろう――」


 だがリュートは言いかけて固まった。


「え? どうしたので?」


 人影が近づいてくる。

 女だった。角や翼が生えているわけでもない普通の人の姿。

 印象的なのはその長い黒髪だ。長く艶やかなその髪は、足元にまで達している。

 豊満な身体に、薄布を巻き付けただけの姿は扇情的にも思えるが、それを言い表すならば神々しいというほうがより相応しいのだろう。


「マナ様……どうしてここに……」


 リュートが絞り出すようにして声を出す。


「お兄様の匂いがしましたので、いても立ってもいられずここまで来てしまいました!」

「見た感じクール系かと思いきや、結構軽いですな!」

「ば、馬鹿かお前! 言葉に気を付けろ!」


 固まっていたリュートが我を取り戻した。


「リュートちゃんだけ? まあそんなことだろうとは思ったけど」


 マナと呼ばれた女性があたりを見回して言う。


「リュート殿。あの、もしかして、この方が……」

「そうだよ。僕たちが会いに来た妹神様だよ」

「は? いやいやいや、最下層に封印されてるって話でしたよね?」

「僕もそう思っていたんだけど……」


 リュートも信じられないという様子だった。


「封印もなにも、この中ならどこにでも行けるし、出ようと思えばいつでも外に出られるけど?」

「はい?」


 魔神マナは、全ての前提を覆すようなことをあっさりと言い放った。

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