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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
3章 ACT2

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第18話 私、整理整頓が好きな几帳面な性格をしているのですよ

「はい、確かに拙者が花川ですし、賢者様のことはよく覚えておりますです。では拙者はこれにて失礼つかまつるでござる!」


 他に誰もいない酒場にやってきて、花川を見つけて話しかけているのだ。ごまかしたところでたいした意味はない。

 なので、とりあえず受け答えはして、たまたまやってきた賢者が、たまたま見かけた花川に話しかけたという可能性に賭けてみた。


「あら、どちらに行かれるんです?」


 だが賭けには敗れたようだった。やはり、花川が目的でわざわざここまでやってきたのだ。


「えーとですね。拙者たちはその、魔界について調べておってですね。ほら、店がこんな状態ですから、別の店で話でも聞かせていただこうかと――」

「ああ。でしたら私が教えて差し上げましょう。そこらで聞ける程度のことでしたら回答可能かと思われますし」


 そう言ってシオンは客のいない店内にすたすたと歩いていき、適当なテーブルに座った。花川が逃げ出すなどとは思ってもいないのだろう。


「この隙にダッシュで逃げられるのでは――」

「馬鹿。やめときなよ」


 店外に出て人混みに紛れればあるいは。そう花川は思ったが、リュートは楽観していなかった。


「ああいったタイプの機嫌を損ねるとろくなことにはならないよ。とりあえず席につくしかないね」


 そう言うリュートの表情はどこか強ばっている。


「その……もしかして、勝てなかったりするでござるか?」

「そうだね」

「えぇー? 魔神の眷属とかいって偉そうにしてるのに、あんな女一人に勝てないのでござるかぁ?」

「なんで、こんな場面でもいちいち煽ってくるんだよ……僕は自分を過大評価はしてないよ。存在の格が違いすぎてどうにもならないんだ」

「なんですと!? で、では拙者が、口八丁で、魔神の眷属リュート殿VS賢者シオン様を演出して、その間に逃げ出すという計画が台無しではないでござるか!」

「お前な……なにしれっと巻き込もうとしてるんだよ。僕は全然関係ないだろう?」

「その、情がわいてきたりはしないでござるか? 『くそっ! ドジっちまったぜ! お前なんかをかばってこのざまかよ……生きろよ……』みたいなのないでござるか!?」

「あのね。僕の目標は、妹神様を復活させて、主様の仇を討つことなんだ。余計なことに関わってる暇なんてないんだよ」

「ううぅ……し、しかし、賢者様が会いにきたというだけですから、そう悲観的になるほどのことでもないのかもしれんでござるな……」


 だが花川は、シオンがたいした意味もなくバスの運転手を殺したことを覚えている。

 つまり、何が逆鱗に触れるのかまるでわからない。シオンとは会話をするだけでも危険なのだ。

 なので、シオンをこれ以上待たせるのは得策ではない。花川は、しぶしぶシオンのいるテーブルについた。

 おそるおそるシオンを見つめる。微笑んではいるが、本心など何もわからない。

 どうしたらいいものかと考えていると、リュートが花川の隣に座った。


「勘違いするなよ。仲間だと思われてたら、逃げようとしても攻撃される可能性があると思っただけだから」

「これはツンデレというやつですか! 今ならちんちんなくても全然おっけぇでござるよ!」


 花川は目を輝かせて、リュートを見た。


「余計なこと言うようなら、ホントに一人で行くけど?」

「マジすみません。もうホントありがとうございます」


 ここで一人にされても困るので、花川は素で感謝した。


「その、拙者のひとりよがりで、勝手な思い込みでしたらいけませんので確認するのですけども、もしかして、拙者に会いにこられたとか?」


 シオンが待っているようなので、花川から話しかけた。


「そうですよ。花川さんに会いにきたのは、高遠夜霧さんという方についてお聞きしたかったからです」


 そう言われて、花川は即座に夜霧について話しはじめた。

 目撃した能力、本人から聞いた話、塔で起こったであろう出来事。包み隠さず知り得る全てを一気に吐き出したのだ。


「なるほど。殺意を感知するというのは初耳ですね」

「ねえ。高遠夜霧をどうするつもりなの?」


 リュートが聞いた。

 高遠夜霧は彼にとってもターゲットだ。賢者の動向は気になるところだろう。


「さて。どうするかは悩みどころなんですよ。さっさと始末してしまったほうが後腐れがなくていいとも思いますし、いろいろと利用できそうでもありますし」

「あんたは何もしなくていいよ。高遠夜霧は僕がやる」

「ちょっ! リュート殿! 賢者様になんてことを!」

「そう言われましてもね。高遠さんに殺されてしまった魔神の手下ごときに何ができるとも思えないのですけど」


 シオンは煽るわけでもなく、ただ純粋に疑問に思ったという態度だった。


「なんだと!」


 リュートが立ち上がった。


「あ、あああ、図らずも、眷属VS賢者が実現しようとしているのですが、こんなところでやられても拙者が巻き込まれるだけなのですが! なので穏便に! 穏便にいくのでござる!」

「ああ。そんな無駄なことはしませんよ」


 だが、シオンにはやる気がないようだ。花川は胸をなで下ろそうとして、そこで固まった。

 シオンの右手が花川に向けられていたのだ。


「え、あの、これは?」

「話は一通り聞きましたし、もう花川さんに用はないかな、と」

「その、理解しかねるのですが、用はなくとも殺す必要はないですよね? ほら、拙者は、賢者候補ですし」

「でも単独行動でしたし、賢者になる気はありませんよね? 私、整理整頓が好きな几帳面な性格をしているのですよ。いらない物が残っていることにストレスを感じるんですよね」


 シオンがにこりと微笑む。


「ははぁ。不要な物はさっさと始末するに限ると。断捨離というやつですかな……って!」


 シオンの右手が輝く。

 花川は死んだと思い目を閉じた。

 べちゃり。

 だが、訪れたのは灼熱の業火でも、身を引き裂くような激痛でもない。

 それは、ぬるりとしている生温かいものだった。

 花川は恐る恐る目を開いた。全身が、生クリームだらけになっていた。


「いきなりなんなんだ、お前は!」


 リュートが怒りをあらわにしている。どうやら、リュートが花川を守ったようだった。


「なるほど面白いですね。花川さんぐらいなら、適当な熱線で焼き尽くしてしまえばいいと思ったのですが、まさか、生クリームなんてものに変換されてしまうとは。ですが、まあ、そうとわかっていれば――」

「ちょ、ちょっと待ってくださらんか! 魔界! そう、魔界について教えてくださるって話でしたよね!」

「ああ! すっかり忘れていました!」


 シオンはきょとんとした顔になっていた。本当に忘れていたらしい。


「それで、何を聞きたいのでしょうか?」

「あー、それはですね、魔界の入り口はどこなのかとか、そんな程度のことなのですが」


 もっと話を引き延ばすべきなのかもしれないが、命の危機にさらされたばかりの花川にそれほどの余裕はない。こうやって話を続けるだけで精一杯だった。


「この街の中でしたら入り口は頻繁に見かけると思いますよ。酒場でチケットを購入して行ってみてください」

「なんですと?」


 チケット。思ってもみなかった単語の登場に花川は戸惑った。


「魔界は入界制限されているのですよ。酒場が窓口となって、入界チケットを販売していますから適当なものを購入してみてくださいな」


 魔界には多数の入り口があり、それぞれに特色があるらしい。チケットの値段も様々とのことだった。

 それで話は終わったということか、シオンは立ち上がった。


「あ、その、やぶ蛇かもしれませんが、拙者のことはもういいので?」


 聞かなくてもいいことをあえて聞いてしまうのは、花川の性なのかもしれない。


「そうですね。魔界のことをわざわざ教えておいて殺してしまっては、教えた甲斐がありませんしね」


 そう言ってシオンは立ち去った。

 殺そうとするのも気まぐれなら、殺さないのも気まぐれらしい。

 リュートが椅子にどさりと腰を下ろす。その顔には少しも余裕がなく、冷や汗が止まらないという様子だった。


「くそっ! あいつなんなんだよ! 無茶苦茶すぎるし、何を考えてるのかまるでわからないじゃないか!」

「うぅ……拙者のような者が生クリームまみれになって、いったい何が楽しいというのでござるか……誰得でござるよ……」


 どうでもいいことで花川は嘆いていた。


  *****


 魔界の攻略は、賢者候補のグループでシフトを組み、一日中行われていた。

 攻略班は日中に進行し、周囲の魔物を駆逐する。夜間は防衛班が、魔界内部に作り上げた拠点を確保しつづけるという担当だ。

 知千佳は攻略班であるグループ1で魔物との戦闘に従事。

 夜霧はほとんどの時間を屋敷でぼんやりとすごしていた。たまに蟲退治が必要な場合に参加を要請されるぐらいだ。

 攻略班が地上に戻った後は自由時間で、各自は好き勝手なことをやっている。

 なので、夜霧たちは夜になると、状況を把握するため集まることにしていた。場所は、クラスメイトと集合する前に確保していたホテルの一室だ。

 集まっているのは夜霧、知千佳、諒子、キャロルの四人であり、夜霧の能力を知っている者たちなのだが、怪しげな噂を立てられたりもしているようだった。


「高遠くんってさ、昼間なにしてるわけ?」

「んー? 特にすることもないから、ゲームしたり本を読んだり」

「うう……この釈然としない感じはなんなんだろ……私は魔物を斬ったり潰したりと殺伐としたことをしてるのに……」


 知千佳は最前線で戦っているのに、夜霧がだらだらしているのは実に納得がいかなかった。


「いえ、高遠くんには何もしてもらわないのが一番なんですよ、ええ! このままずっとこの調子で、何もしないをしてるって感じで頑張ってください!」

「二宮さんもそんなプーさんみたいなことを推奨しないでよ。今からこんなんじゃ社会に出たらどうすんの?」

「はははっ! もう強制的に社会に出てるようなもんじゃないのー?」


 キャロルが言うように、知千佳たちはもうこの異世界の社会に放り出されてしまっている。日本で大人の庇護下にあった時のように、のんきにはしていられない状況だ。


「私が面倒をみますよ! 高遠くんには一切何もさせてはいけないんです! 私が衣食住全てを用意して、何もしなくていいように全ての環境を整えます!」

「二宮さん、なに言っちゃってんの!?」

「それじゃ、ヒモだよね。さすがにそれは却下で」


 夜霧も、諒子の勢いには若干引き気味であり、知千佳は少しだけ安心した。夜霧なら、何もしなくていいなら楽だ、などと言いかねないと思っていたのだ。


「で、魔界攻略のほうはどう?」

「今は五層の端までいったから、明日は六層からかな」


 賢者候補たちにとって魔界攻略はそれほど難しいものではなかった。

 基本的には、中心に向かい内側へと進んでいくだけだったのだ。

 棟方の透視能力などで道筋を把握し、最短経路で階層の端にまで移動。

 まずはそこに持ち込んだ材料で、拠点を作り上げる。掘っ立て小屋レベルのものでも、素人が簡単に作れるものではないが、そこは便利な能力を持った賢者候補たちだ。大工(カーペンター)クラスを持つ者が、建築スキルであっと言う間に作り上げる。

 そして、彼らの躍進を支えるのが、運送屋(トランスポーター)クラスだった。このクラスには建物のドアとドアを直結し、空間転移を可能とするドアツードアというスキルがあったのだ。

 この二つのクラスがあれば、次の階層への出入り口を探す必要はなくなる。

 階層の端から、作り上げた建物を強化して落とせばいいだけなのだ。初めての階層へ転移する際にリスクはあるが、馬鹿正直に出入り口を探していては、いつまで経っても次の階層へと進むことなどできはしない。

 もっとも、この手法で階層間の移動を短縮できるとはいえ、魔物がうようよとしていることには変わりない。下層へ行くほどに魔物は強力になっており、攻略速度は鈍化しつつあった。


「七層に魔神がいるんだとしたらもうすぐだけど、こんな簡単なものなのか?」

「うーん、でも当初言われてた期限の一ヶ月ってそろそろだから、ギリギリかもねー」


 夜霧は疑っているが、キャロルは楽観的なようだった。


「失敗してもシオンって奴が俺たちの前に出てくるならそれはそれでいいんだけど」


 あらわれるとすれば、期限に達した時だろう。夜霧はそう考えているようだ。


「どうかなー。失敗したら魔力を絞り出す家畜にするとか言ってたけど、そんな面倒なことするかなー」


 キャロルはそう言うが、期限を過ぎても放置するというのは楽観視しすぎだろうと知千佳は思う。


「あと、エロゲの人が死んだ件は?」

「はい。牛尾さんが殺されたのは事実のようです。棟方さんと矢立さんの証言は曖昧なものだったのですが、同じ酒場にいた客の証言からまず間違いないかと。そして、棟方さんたちは、篠崎さんが犯人だと言っていました。復讐のために一人ずつ殺していくと宣言したとも」


 諒子が報告する。

 牛尾の死は、クラスメイトの中で深刻に受け止められていた。彼らの中で死者が出たのはこれが初めてだったのだ。


「え? けど、篠崎さん死んでたよね?」


 篠崎綾香はバスに残された四人のうちの一人だ。

 ドラゴンの攻撃を最初に喰らったのは彼女で、胸には大穴が開いていた。

 知千佳は死亡確認を行ったわけではないが、あれで生きていられるとはとても思えない。


「死んでたね」


 夜霧はバス内に倒れていた二人を、席に座らせている。知千佳よりも確信を持って言っているだろう。

 だとするとどういうことなのか。

 考えてはみたが、知千佳にはさっぱりわからなかった。

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