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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
3章 ACT2

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第16話 これはこれで新しい壇ノ浦流ということで

 ニンジャのキャロル、サムライの諒子はまっとうに強かった。

 魔界一層にいるのは最弱の魔物らしいが、それでもただの野生動物ではない。

 全身から棘を生やしている猪や、甲羅を背負った巨大な熊、動き回る人の骸骨など、それらはただの人間では到底太刀打ちできない存在だ。

 だが、キャロルの放つ棒手裏剣はあっさりと猪を貫通するし、諒子の刀は熊を一振りで両断していた。しかもそれはもともと持っていた技術とのことで、ステータス面での向上はあるのだろうが、スキルの類は使っていないとのことだった。


「これでは私が来た意味はあまりなかったようですね」


 リックが感心したように言う。

 キャロルと諒子が戦っているのを残りの面々で見物しているところだった。何か問題があれば、リックが飛び出すとのことだったが、今のところ出番はありそうにない。二人は危なげなく魔物を減らし続けていた。


「というか、リックさんて王子様なんですよね? こんな所に来てていいんですか?」


 知千佳が隣にいるリックに小声で聞いた。

 リックはあだ名で、本名はリチャード。マニー王国の第三王子であることを知千佳は今さら知ったのだ。


「さすがに王が動くことはできませんが、王族は結構魔界に来るんですよ。逆に来ないほうが問題になりますね。なにせ、魔界を抑え込む力があるからこそ、我々は王族だなどと偉そうにしていられるわけなんですから」

「えーと、それもあるんですけど、剣聖、なんですよね?」


 塔で前代の剣聖が死亡した時、リックは剣聖を継いだのだ。自身は剣聖としての実力などまるでないと思っているようだが、あの場では他に候補者がいなかった。そのため甘んじてその立場を受け入れているのだろう。


「そして、壇ノ浦さんは聖王の騎士ですね」


 塔での試練を終了した時点で資格を得ており、知千佳と夜霧は聖王の騎士となっていた。

 この世界には大別すると、二つの脅威がある。

 侵略者(アグレッサー)と、封印されし神々だ。

 侵略者(アグレッサー)は世界の外からやってくる。あらわれる時期や出現場所、数や強さは不明だ。これに対応するのが賢者であり、基本的に賢者は侵略者(アグレッサー)以外の危機には無関心だった。

 対して封印されし神々は、封印場所や脅威のおおよそは把握されている。これに対応するのが聖王であり、その手足となって行動するのが剣聖や聖王の騎士だった。

 この魔界は封印の地であり、ここに封印されし魔神は魔物を生み出して地上に干渉しようとしている。剣聖や聖王の騎士がこの地を訪れるのは不思議なことではないのだ。


「その騎士ってやつ、辞退したいんですけどね……」

「あまり深く考えなくてもいいですよ。異邦の方であるお二人に強制することはありませんから。そうそう、聖剣ですが、教会で用意できるとのことですので、お時間がある時にでも」

「聖剣かぁ」


 持っていると聖王の騎士としての身分証明になるらしい。聖王の騎士には様々なメリットがあるのかもしれないが、デメリットも同じぐらいにありそうで、本当に受け取っていいものなのか、悩みどころだ。

 ただ、ゲーマーとしての知千佳は、聖剣という響きに少し興味を引かれる部分はあった。


「これまでの剣聖は塔を離れることができませんでした。ですが今後は違います。次代の剣聖として、この魔界の攻略を進める必要があると思っています。一応の確認なんですが、高遠さんによる攻略は可能だと思いますか?」


 夜霧が、塔の魔神を殺したことをリックは知っている。そこには知千佳には想像もできない複雑な思いがあるのかもしれないが、剣聖の矜恃などはひとまずおいて、すぐに処理ができるならそれにこしたことはないとも思っているのだろう。


「あー、どうなんだろ。相手が見えてなくても使えるはずだけど」

『おそらくは無理だろう。塔の魔神の場合は、命の危機を感じるほどの瘴気に反応して大元を断ったらしいからな。この地には人を害するほどの瘴気は満ちていないのだ。魔物とやらも、本体とは別の存在であろうしな』


 無理そうだと知千佳は伝えた。リックもそれほど期待はしていなかったようだった。


「歓談中のところを申し訳ないですが、壇ノ浦さんもそろそろいいですか?」

「あれ、秋野さんはいいんですか?」


 次は蒼空が戦う番だと思っていた知千佳は、のんきなものだった。


「はい。二宮さんとキャロルで楽勝のようですから、私が戦うまでもないかと」


 蒼空は戦闘に関して相当の自信があるようだった。


「私は戦いそのものは専門外なんです」


 そう言うのはチアガールの大谷柚衣だ。彼女の能力は、応援によって他者の能力を向上させるものらしい。

 知千佳は戦いの場に視線を戻した。キャロルと諒子が一体を残して魔物を倒してしまっている。

 残るのは骸骨(スケルトン)だけだが、これは知千佳の実力を見るためにあえて残したのだ。

 キャロルと諒子が戻ってきたところで、骸骨(スケルトン)も後を追うように動きだす。

 知千佳は、迎えうつべく骸骨(スケルトン)に向かって歩きだした。


「って、白骨死体だよね。これって武術的なの通用するのかな」

『人型なら、問題なかろう』

「いやいや、関節どうやってくっついてんの? とかあるじゃない。簡単に外れるとしたら、逆技とか通用しないしさ」


 剣と盾を持った戦士然とした骸骨。これも魔神が生み出した魔物ということだった。

 知千佳は敵を観た。

 関節部分は骨と骨が接触しておらず、浮いたようになっている。だが、それらは一つの身体として統合されているようだ。見えない筋肉や靱帯があると想定すればいいのだろう。実際、骸骨の重心はそのようになっている。つまり、人に準じる構造だ。

 そう判断した知千佳は、あっさりと距離を詰め、骸骨の膝を前蹴りで粉砕した。

 いわゆるヤクザキックだ。体重が一方の足にかかった瞬間を見定めて、踏み下ろすように蹴る。初手にそれを選択したのは、骸骨の足元が隙だらけだったからであり、足を蹴られた際の反応を確認したいがためだった。

 骸骨の意識が潰された部位に向くのがわかる。反応はやはり人間と変わらない。骸骨の体勢が崩れ、頭部に隙ができ、知千佳は次の一手を瞬時に選択した。


「重いやつ」

『任せよ』


 手に黒い刃物が出現する。形状は大型のククリナイフだ。

 知千佳はがら空きになった頭部にククリナイフを振り下ろす。

 頭蓋骨は、あっさりと砕け散り、骸骨の魔物は動かなくなった。

 これが、知千佳がこの世界で生き抜くための戦闘方法だった。バトルスーツの補助により、力と速度を増し、武器を自在に出現、変形させて敵を翻弄する。侵略者(アグレッサー)から入手した物質を研究して最適化した成果でもあった。


「塔ではその腕前を拝見する機会がありませんでしたが、さすがですね」

「なるほど。十分な実力だと思います」


 リックと蒼空は素直に感心していた。


「あ、でもこれって近づく必要すらないのかな。とにかく長いの」

『そうだな。というかこれ、便利すぎて修業には向かぬが……まあ、よいのか。これはこれで新しい壇ノ浦流ということで』


 知千佳が振り向きもせずに、背後に手を伸ばす。

 すると、軽く握るようにした掌から飛び出した何かが、新たにあらわれた一つ目鬼の頭部をあっさりと貫いていた。

 槍だ。

 長さ十メートルほどのそれは、たわむことなく真っ直ぐに、瞬時に狙いどおりの箇所を穿っていた。

 キャロルと諒子は、言葉もない様子だった。


  *****


 縦に横に斜めに。次々にあらわれる黒い線を夜霧はかいくぐっていた。

 それは死線であり、その線上にいれば確実に死ぬ。だが逆に、その線に触れさえしなければ絶対に死ぬことはない。

 夜霧が動いた一瞬後、それまでいた場所を毛むくじゃらの腕が通り過ぎていく。

 夜霧は器用なものだった。もともと身体能力は高いし、学習能力もある。運動神経が悪いように思われていたのは、怠け癖と、単に体力が不足していただけだった。

 異世界に来てからの経験で多少は鍛えられたのだろう。最小限の動きでかわしているためか、それほど疲れてもいない。

 今、夜霧は戦闘能力を試されているところであり、グループ2の面々に戦いの様子を見られているのだった。

 夜霧が戦っているのは、細身の類人猿のような魔物だ。大きさは人間ほどで、それだけならただの猿なのだが、それには腕が四本生えていた。

 そのため、回避し続けるのもそれなりに忙しいのだが、動きは単純だ。敵の動きを掴んだところで夜霧は逆襲に転じた。

 刀を、死線に沿って振ったのだ。その先には必ず敵がいて、結果カウンターが決まる。

 さすがに夜霧の技量では、強化されている刀をもってしても一撃で仕留めることはできなかった。だが、それでも知千佳にならった即席の剣術はそれなりの威力を発揮している。

 何度かそんなことを繰り返し、敵が消耗して動きを止めたところで、止めを刺した。


「それなりって感じだね」


 とは、鳳春人の評だ。夜霧自身は中々うまくやれたのではないかと思っているが、それなりには違いないだろう。


「それだけ動けるなら、俺の陣形に組み込んでも問題ないだろう」


 そう言うのは将軍(ジェネラル)の矢崎卓だ。将軍(ジェネラル)は単独でも強いが、仲間を利用することでより強大な力を発揮するとのことだった。

 牛尾真也は安堵の表情を見せていた。たいしたことはない、自分の立場が脅かされることはないと思ったのだろう。

 深井聖一は特に反応を見せなかった。相変わらず俯いたままで、力を使わない夜霧などどうでもいいのかもしれない。


「なんなんだ君は。動きを見る限りは素人もいいところなのに敵の攻撃は危なげなく避けるし、剣術もたいしたことはないのに確実に当てて、終始冷静で焦ることもなく止めを刺すって……」


 デイヴィッドは呆気に取られた様子だった。剣術をやっている者が見ればそのような評価なのだろう。


「蟲殺しの力は見なくてもいいの?」

「かまわないよ。蟲型の魔物がそう都合良くいるわけでもないだろうし」


 夜霧は仲間の元に戻り、春人に話しかけた。


「そもそも、ここでスキルはうまく使えないけどね。そのスキルのランクはいくつなんだい?」


 デイヴィッドが言うには、王の力によりこの地では強制的にスキルのランクが下がるとのことだった。

 地上と魔界一層ではランクが2下がり、二層で1下がる。三層までは力が届かないということだ。

 これは魔物でも人間でも関係はなく、全ての存在に適用され、ランクが0以下ならスキルは使えなくなるのだ。

 夜霧の装備、日本刀と学校の制服はクラスメイトの手によって強化されているが、これはランク4のスキルによって、ランク3の強化が施されているので、結果、ランク1相当となっている。


「スキル頼りの存在にとって、ランクが1でも下がるというのは深刻な問題なんだよ。だから、慎重で強力な魔物は二層まではやってこない。つまり三層以降の魔物は比べものにならないぐらい強くなるんだ。三層の探索があまり進んでいないのにはそんな理由もあるね」

「なるほど。ということはまずは三層まで行く必要がありますね。小手調べとしては十分なので一旦戻りましょうか」


 最初の探索はあくまで様子見であり、正午までには帰還することになっていた。


  *****


 知千佳たちも、様子見は十分ということになり、帰還することになった。

 時折遭遇する魔物は、キャロルと諒子が率先して対応しているため、残りのメンバーは特にすることはなかった。

 一層程度の魔物なら楽勝ということらしい。


「ところで、知千佳さんが使っているスキルのランクはいくつですか? 実際に使えていますので3以上なのはわかるのですが」


 リックが聞いてきた。


「え? ランク?」

「こんなことを聞いているのは、私がさらに封印の力を使用していいのかが気になったからなんです」


 封印の力は重ねて使うことで、ある程度は上乗せされるものらしい。この場は王の力でスキルランクが2下がっていて、リックも使うと、周辺のみではあるが更に2下げることができるとのことだった。


「あー、どうなんだろ。詳しく知らないんです。ていうかですね。だったら、王族の人が団体さんで動けば、魔物の力を完全に封印できるんじゃないですか?」

「それもある程度までは可能なんですが、その場合はお互いに封印しあうことになってしまいますので、一定以上は効果がないんですよ」


 知千佳は適当にごまかして話をそらした。


『ふむ。我もスキルランク関連については、考慮に入れておらなんだな。ということは、リックが力を使った場合、いきなりバトルスーツをパージして、素っ裸になるのが正解ということか?』

「それやったら、成仏させるからね」

『ほう、お主にそんなことができるとでも?』

「恥も外聞も忘れて高遠くんに頼むけど?」

『……あれだ、ほら、お主ももう少し祖先を敬う心をだな……』


 そんなことを喋っている間に、出入り口近くにまでやってきていた。

 だが、あともう少しで帰れるというこのタイミングは油断しがちだ。知千佳は念のため周囲を見回す。すると、何かが視野の端をかすめた。


「なに?」


 金色の何かが床から壁へ、天井へと移動していく。

 箱だった。一抱えほどもある箱に、蟲のような足が生えた直方体だ。

 キャロルが棒手裏剣を投げつける。それは命中し、箱はぼたりと天井から落ちてきた。

 魔物なのだろう。だが、その形状故にどこが弱点なのかははっきりしない。よろよろと立ち上がったので生きているようだった。


「ああ、これはヤラ・レッターという魔物ですね」


 珍しいものを見たとばかりにリックが言う。


「え? そのふざけた名前は誰がつけてるんですか?」

「ステータス解析の結果判明した分類名ですからね。地下の魔神がつけたのではないでしょうか」


 意図がよくわからない。

 知千佳が疑問に思っていると、ヤラ・レッターはふらふらと歩いて逃げ出そうとしていた。


「あ、逃げちゃいますよ?」

「放っておいてもいいですよ。たいした魔物じゃありませんから。それに――」


 ヤラ・レッターは洞窟の横穴へと消えた。

 たいしたことはないといっても魔物だ。人を襲うのだろうし、始末できる時に確実にするべきなのでは。

 少し迷っていると、魔物の消えた横穴から声が聞こえてきた。


「ヤラレター!」


 そして、派手な爆発音。

 知千佳が慌てて横穴を覗き込むと、そこにはばらばらになったヤラ・レッターの残骸が散乱していた。


「ヤラ・レッターは、倒されると周囲に迷惑がかからない所で派手に爆発し、なぜか金目の物を落とすんですよ」


 隣にやってきたリックが解説を続けた。


「こいつの存在意義がまるでわかんないんだけど!?」


 残骸の中には、一際輝きを放つ宝石が残されていた。

 地下にいる魔神とやらが何を考えているのかまるでわからない。知千佳は、言い知れぬ不気味さを感じていた。

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