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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
2章 ACT2

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第17話 むっちゃラスボス感出してるんだけど

 もこもこに周辺の偵察を頼み、知千佳たちは闘技場の観客席に移動した。


「まず私の名だが、テオディジアという」


 テオディジアは薄汚れた外套を纏っていた。銀色の長髪と褐色の肌が特徴的な美しい女で、歴戦の勇士といった雰囲気を醸し出している。


「俺は高遠夜霧で、こっちは壇ノ浦知千佳。王都に向かってる途中だったんだけど、この辺に来たら聖王の騎士の試練とやらに巻き込まれた」

「巻き込まれたのかなぁ。結構こっちから首つっこんでった気もするんだけど……」


 ここに来るきっかけとなったのはドラゴンの少女、アティラの提案だが、断ることもできたはずだと知千佳は思った。


「で、具体的には何を助けてもらいたいの? 試練とは関係ない話だよね?」


 試練についてならお互い参加者同士で競い合う相手だ。一時的な協力関係になることはあっても、助けを求めることはないはずだった。


「お二方は異邦の者だな。我々のような者を、口さがない者どもは半魔と呼んでいるが、それは知っているか?」

「いや、この世界のことについては(うと)いんだ。常識的なことでも説明してもらえると助かるな」

「世間的には蔑称ということになっているが、我々は氏族ごとに細分化されていてな。総称としては半魔と呼んでくれて構わない。特徴は銀色の髪と褐色の肌。それに膨大な魔力だ」

「テオディジアさんもその魔力で、すごい魔法を使えたりするんですか? さっきも剣から黒いの飛ばしてましたよね?」

「先ほどのは剣術だが?」

「どこが!?」


 あまりにも知千佳の知る剣術とかけ離れていて、戸惑うばかりだった。もこもこの意見も聞いてみたいところだ。


「それに私には魔術の才能がない。もっとも氏族の大半がそうなので、宝の持ち腐れだな。ただ、宝には違いないわけで、これを欲する者たちがいる。魔力を使って何かやらかそうという者どもには、どうも我々は使い勝手がいいようなのだ」

「つまり、その何かやらかそうってのが、剣聖?」


 一瞬、夜霧が何を言っているのか知千佳にはわからなかった。

 だが、助けてほしいというのが、試練についてではないなら、テオディジアはそれ以外の用がこの塔にあるということだ。先ほどの話からするとテオディジアの一族は何かと狙われがちらしい。夜霧は、剣聖が半魔を攫って何かしていると推測したのだろう。


「そうだ。ここに同胞が幽閉されている。私は行方不明になった妹、エウフェミアを捜しているのだ」


 どこかで聞いたような名前だと夜霧は思ったが、どこで聞いたのかは思い出せなかった。


「その言い方だと、仲間はここにいるみたいだけど、妹さんかどうかはわからない?」

「ああ。同胞がどこにいるのかはなんとなくわかるんだ。ここよりも下、おそらくは地下だ。ただ、さすがに誰がいるのかまではわからない」

「助けてくれってのは、仲間を救う手伝いをしろってこと?」

「その通りだ。変装が解けてしまったので、もう塔内では自由に行動できないだろう。私が捕らえられるのも時間の問題で、このままでは同胞と同じ憂き目に遭う。だが、高遠殿のお力添えがあれば……」


 言っているうちにあまりに身勝手な物言いだと思ったのか、テオディジアの言葉尻は弱くなっていった。


「まず変装が解けてること自体は大丈夫じゃないかな。塔の中はもう監視されてないと思う」


 ここに来るまでにいろいろ壊しすぎたのか、塔の監視機能は失われているようだった。


「その変装ってもう一度できないんですか?」


 知千佳が訊いた。それができるなら問題は解決すると思ったのだ。


「術は仲間にかけてもらったので無理だ。術の維持には私の魔力が使われていたのだが」

「じゃあ仕方がないか。けど、半魔だから捕まえるって言ってきたら一緒に文句を言ってあげるよ」

「その、それは助けていただけるということだろうか?」


 夜霧が同行を前提に話をしたからだろう。テオディジアが戸惑っていた。


「うん。別にいいよね? 塔を出るのはちょっと遅くなるかもしれないけど」


 夜霧が知千佳に訊いた。そのあたり、勝手には決めないということらしい。


「まあ、悪い人でもなさそうだしね。けど、高遠くんってこういう時もっとめんどくさがるかと思ってたよ」

「なんでだよ。助けてくれって言われたら普通は助けるよ」


 夜霧が少しばかり拗ねたように言った。


「ああっ! 確かに、何か頼まれて断ってるところは見たことない! ていうか、だいたいの奴はいきなり襲いかかってきてるから、話し合う余地もないんだけど!」


 そもそも夜霧は、この世界に来て真っ先に知千佳を助けている。やる気がなくて、何でもめんどくさがるようなイメージがあるが、思い返してみればそんな事実はほとんどなかったのだ。


「その、助けを求めておいて今さら言うのもなんだが、私への協力は剣聖への敵対行為になるぞ?」


 テオディジアが戸惑いながら訊いてきた。

 本来の彼女の計画は、参加者にまぎれて塔内を探索し、仲間をみつけてこっそりと逃げ出すことだったのだろう。

 だがそれは、変装が解けた時点でほぼ失敗している。後はもう破れかぶれで突撃するしかないが、それは確実に剣聖と敵対する道だ。


「多分、敵対ってことならもうしてる気がするな。塔を壊しすぎてるし」

「塔の弁償しろって言われたらどうしようとか気が気じゃなかったけどね」


 途中からは知千佳もやけくそになっていた。だから、剣聖から友好的に話を聞くというのは、もうほとんど不可能になっているのだ。


「そ、それに何のメリットもないだろう! 私を助けても得られるものなど何もない! 剣聖を敵に回すことがどれほどのリスクなのか、本当にわかっているのか!」


 ここまであっさりと協力を得られるとは思っていなかったのだろう。テオディジアにとって剣聖とは圧倒的な脅威であり、これほど簡単に敵対を決意する者がいるなど、考えもしていなかったのだ。


「まあ別にメリットはないけど、本気で困ってるみたいだし」

「そうなんだよね。私を助けたのも別にメリットがあるからじゃ……って、おっぱいか!」


 知千佳はテオディジアの胸を凝視した。外套で隠れているが、よく見れば結構大きかった。


「胸? ああ! 私の体一つで協力を得られるというなら安いものだ。好きにするといい」

「そのありがちな展開はやめてくれないかな! てことで、別に体とか求めてませんから! ね!」

「うん。俺も好みはあるし」


 一応夜霧の口から否定の言葉は引き出せたが、夜霧は据え膳は食う方針らしいし、知千佳は気が気ではなかった。


「それはともかくとして、テオディジアさんの言い分だけを鵜呑みにもできない。状況を見てどうするかは考えるけど、それでいいかな」


 テオディジアの仲間が極悪人で、剣聖側にやむにやまれぬ事情がある可能性もあるだろう。テオディジアの話だけで、剣聖を悪だと断定もできない。


「打つ手がなくなって、お願いしている立場だ。どうなろうと文句などない」

「じゃあ、一応の目標はテオディジアさんの仲間を助けて塔を出ること。まずは地下を目指すけど、妨害する人がいたらまずは話し合うってことで」


 知千佳もたまに忘れてしまいそうになるが、なにも夜霧は手当たり次第に殺しているわけではない。基本的には防衛行動を取っているだけで、その防衛行動で必ず相手が死んでしまうだけのことなのだ。


「うん、結局話し合いにならない光景しか思い浮かばないけどね!」


 テオディジアは剣聖への対抗策を夜霧に求めているのだろう。

 そして、それはおそらく可能だ。剣聖だろうがなんだろうが、相手が攻撃の意思を示した瞬間、夜霧は殺してしまう。剣聖がこの世界にとってどれほど重要であろうと、夜霧にはまるで関係がないのだ。


「剣聖が話わかる人だといいよね……」


 知千佳は最初から諦め気味だった。


  *****


 話し合いが終わり、三人は闘技場を出た。階段を下りると、すぐに一階の扉に辿り着いた。

 一階の部屋に入る前に、テオディジアは外套のフードを深くかぶり髪と顔を隠した。気休めではあるが、それをしないよりはましだろう。

 十五時直前だった。これで一応制限時間内に到着できたことになる。

 扉を開けて中に入ると、そこは見覚えのある場所だった。円形の巨大なホールで、中心部にエレベーターの入り口が存在している。

 そこには十数人の人影があり、円陣のような形をとっていた。何やら遠巻きに見ているようだ。


「あ、リックさんとライニールさんもいるね。クリアできたんだ」


 塔の上部で同行していた二人だ。雰囲気からすると途中で合流したらしい。屋上で魔法をぶちかましていた少女、フレデリカも一緒にいるので、三人で協力してやってきたのだろう。

 ライニールは上等そうな鎧を着ていた。星結晶による召喚で手に入れたらしいが、その姿を見た知千佳は不安そうな顔になっていた。どれだけ星結晶を消費してしまったのかと考えてしまったのだろう。

 誰も夜霧たちが入ってきたのに気付いていないらしく、一心に円陣の中央を見続けているので、夜霧たちも円陣に加わり、中を見た。

 剣聖が上段回し蹴りを繰り出していた。


「だから剣は!?」


 蹴り飛ばされているのは黒衣の剣士だった。

 森の広場で夜霧たちに文句をつけてきた男だ。


『うむ。我の知り合いの剣術家にも上段回し蹴りを得意とする者がおったな』

「剣を使おうよ? 剣聖だよね?」

『まあ、使うまでもない、ということもあるだろう』

「あの、これ何なんですか?」


 知千佳がリックに訊いた。


「壇ノ浦さん! 無事だったんですね」

「ええ、むちゃくちゃ無事でした。それでこれは?」

「黒い彼が剣聖に戦いを挑んだのですよ」


 黒い剣士は動かなくなっていた。おそらくは気絶しているだけだろうが、ここからではよくわからない。


「これも試練なんですか?」

「勝てれば聖王の騎士どころか、一足飛びに剣聖になれるということですので、試練といえばそうなんですが、この結果を見れば続く者はいないでしょうね」

「さて。お前らはどうする?」


 剣聖があたりをぐるりと見回して言う。軽くあしらった程度ということか、まるで疲れは見せていない。

 続けて戦いを挑もうとする者はあらわれなかった。


「さて。余興は終わりだな。十五時になった。十七人が合格ということか」


 やってきた夜霧たちを見て剣聖は言った。

 夜霧はあたりにいる人間を数えた。倒れている黒衣の剣士も数には入っているらしい。


「これでお前たちは聖王の騎士だ。その義務と権利についての説明は人形どもにさせよう」


 すると、外壁にある一室から魔導人形たちがあらわれた。

 説明にやってきたのかと思えば、様子がおかしい。魔導人形たちは血相を変えて、こちらに駆けてきているのだ。

 剣聖が(いぶか)しげにしていると、黒いドレスを着た魔導人形たちが慌てた様子で報告する。


「剣聖様! 塔が沈黙しました! 状況が把握できません!」

「剣聖様! 目視確認によれば、結界に異常が発生しています! 第一結界の維持が困難です!」

「剣聖様! 第二結界の外周部にゆらぎが生じています! それにより、眷属の境界突破予測時間に変動が――」


 そこで、轟音とともに塔が揺れた。

 それは立っているのが難しいほどの振動で、夜霧は思わずしゃがみ込んだ。


「な、何!?」


 知千佳も唐突な揺れに慌てているが、バランスはうまくとっているようだ。

 急に周囲が明るくなったので、夜霧は天井を見上げた。

 太陽と青空が見えている。

 塔の上部が綺麗さっぱりとなくなっていた。


「ふむ。塔を消し飛ばせば結界が消えるかと思ったのだが、そう単純なものでもないのか」


 朗々と響く、周囲を威圧するような声だった。

 その声がどこから発せられているのか。その場にいた全員が、すぐに理解した。それの発する圧倒的な瘴気を無視することなど、できるはずもないからだ。

 それは空から、塔の中にいる者たちを睥睨(へいげい)していた。

 それは、黒く、美しく、禍々(まがまが)しかった。

 六対の翼を持つ、人の姿をした何かだった。


「三日後って聞いてたんだがな。まあいい。お前ら、聖王の騎士としての初仕事だ。あれを倒すぞ。倒せなきゃ、人類は終わりだ」


 剣聖が不敵に笑う。


「よし。今のうちに地下への道を探そう」


 夜霧はそう決断した。今なら剣聖も半魔に関わっている場合ではないだろう。


「ちょっと待って!? あれほっといていいの! むっちゃラスボス感出してるんだけど!」

「関係ないと思うけど。あれを下手に倒すと、剣聖の興味がこっちに向くかもしれないし、だったら戦ってもらっといた方が都合がいい」

「えー!?」


 知千佳は納得がいかないようだったが、夜霧は無視してあたりを見回した。

 円形のホールだ。目立つのは巨大なエレベーターの入り口だが、外壁にもいくつか扉がある。そのうちのどれかは地下につながっているのだろう。


「私も賛成だ。あんなものに関わっている場合ではない」


 テオディジアが頷く。

 夜霧たちは、手近な扉へと駆けだした。

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