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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
2章 ACT2

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第16話 お前は喧嘩を売る相手を間違えた

 全員がいっせいに夜霧たちを見ていた。

 部屋の中にいたのは五人。

 先ほどから戦いを繰り広げていたのが全身白尽くめの兎少女と銀髪褐色の女で、それを壁際で観戦していたのが白いジャケットの男、軍服のようなしっかりとした服を着た女、ドレス風のワンピースを着た幼い少女の三人だ。

 全員が全員、誰かがやってくるとは思ってもいなかったという様子で、戦っていた二人も動きを止めて夜霧たちを見つめている。


「どうやって入ってきた?」

「今、このドアを開けて入ってくるのが見えなかった?」


 男が信じられないという様子で確認してきたが、夜霧は馬鹿馬鹿しいと思いながらも直前の行動を説明した。


「ああ。そういうことか。俺も間抜けだな。塔の強度を考慮にいれてなかった。つまり、お前らは俺の作ったドアを通らずに、なんらかの手段で壁を壊して迂回したということか」


 だが、すぐに男は勝手に納得していた。

 そう言われれば夜霧には心当たりがあった。

 この部屋への通路には扉があったのだが、それはこれまでに通過してきた扉とは様式が異なっていたのだ。

 もちろん、どんな扉であろうと関係はなく殺して通るだけだ。扉とは出入りを制限するもので、殺せば機能しなくなるのが夜霧にとっての常識だった。


「ま、なんだっていいんだけど。さっきも言ったように通してほしいんだ。今戦いは中断してるみたいだし丁度いいよね」


 そう言って夜霧はずかずかと部屋の中ほどまで歩く。知千佳はその後をぴったりとついてきていた。


「おいおいおい。止まれよ、なあ」


 呆れたように男が言い、夜霧は素直に立ち止まった。


「なんだよ? あんたらは、この人と戦ってるんだろ? だったら通ってもいいと思うんだけど。邪魔はしないよ。ここでぐだぐだやってる方が邪魔になると思うし」

「いや。お前らにも付き合ってもらおうか。俺たちはここでポイントを溜めてるんだ。俺の弟子たちはポイントが溜まってなくてな。三人ずつなら丁度いいだろ」


 そういうことかと夜霧は納得した。結局全員がここを通るなら、ここで待ち伏せしていればいいということなのだろう。


「ああ、戦うだけ無駄だよ。二人合わせても六ポイントしか持ってないから」

「だったら戦わなきゃ駄目だろ!」


 なぜか男に心配されてしまった。


「つーかホントかよ、おい! こいつらのポイントはどうなってる!」


 男が観客席にいる魔導人形に呼びかける。


「あのですね。人のポイントは教えられませんヨ」

「教えてあげていいよ。俺たちは気にしないから」

「まア、本人の許可があるナらいいですのでお知らセしますけど、九十八番、ゴポポポポポ」

「ポ?」


 魔導人形は調子の外れた声で、叫びはじめた。


「ポポポアアアポポポポポポアパパパパパパパ」


 そして声は唐突に途切れた。魔導人形は目と口を大きく開いたまま、倒れてしまったのだ。


「らしいよ? なんかおかしくなったけど、五ポイントとは言ってただろ?」

「結局わかんねーよ! おいどうしたんだ!?」


 男が呼びかけるも、魔導人形は二度と答えなかった。


「俺らは別に聖王の騎士とか興味なくてさ、なんとなくついてきたら巻き込まれた感じなんだよ。だから、ポイントを集めるつもりは最初からないんだ。通してくれないかな」


 夜霧は男と、銀髪の女に話しかけた。


「あのな、確かにここを通るぐらい簡単だ。試練だか何だか知らねーが、封じられてる扉を力ずくで壊すぐらい俺にならできる。なんなら床を突き破ったっていい。一階に行く手段なら五万とあるんだよ。だけどな、これはポイントを集めるっていうゲームで、俺はそのルールに則って楽しんでるんだ。横紙破りは許さねーよ」

「君は?」


 夜霧はあらためて、銀髪の女に聞いた。


「私はお前たちがどうしようと構わない。すでにポイントは集めているので戦う理由もない」


 邪魔が入って気分を害しているかと思えば、女の方はそうでもないようだった。劣勢にあったようだから、仕切りなおせると内心喜んでいるのかもしれない。


「じゃあどうしたらいいんだよ」


 面倒なことになったと夜霧は思った。戦いは中断しているから通ることはできるし、ポイントを求めて戦うつもりもない。なのに、男はそれでも通すつもりはなさそうなのだ。穏便にすませられる状況ではないらしい。


「でもま、考えようによっては丁度いいだろ。三対三になっただけだ」

「ポイントないって言ってるのに?」

「それはもうどうでもいいな。何かおかしくなってきてるようだし、このゲームも潮時ってことだろ。この勝負が終わったら先に進むことにするよ」


 そう言って男は、側にいる女二人に促した。


「そっちの兎が白。大きい方が、ゲラルダ。ちっこい方がエマだ。全員俺の弟子でな。ここに来たのは修行も兼ねてる。こいつらに勝てたなら、ここは通してやるしなんだったら弟子にしてやってもいいぜ」


 軍服を着た少女、ゲラルダとドレス風のワンピースを着た少女、エマが前に出てきて、兎の白の隣に並んだ。

 いつの間にか銀髪の女が夜霧たちの隣にきていた。なので男の思惑通り三対三で向かい合うような形になっている。


「高遠くんの交渉力に多大な疑問があるんだけど! 何この状況!?」

「まああれだよ。自信満々で人の話とか聞かないタイプだよね、あいつ」

「それ、あの人見た瞬間からだいたいわかってたよ!? あ、その、すみません、何かおかしなことになっちゃって」


 知千佳は夜霧に文句を言って、そのまま銀髪の女に話しかけた。


「いや。どちらかといえば災難なのはお前たちの方だろう。後から来た二人が、兎と同等以上なら勝ち目はほとんどないと言っていい。それに勝ったところであの男が素直に通すかはわからんしな」

「そうそう。白が一番弱いからな。頑丈にはしてあるけど戦いは素人だ。だけど、エマは剣術に長けてるし、ゲラルダは魔法が専門だ」


 銀髪の女の疑問に答えるように、男が言う。


「実のところ通す通さないってのはあんまり気にしてないんだよな。白はおいとくとして、俺が直々に鍛えた弟子たちだ。こいつらが本気を出したら、それこそ一瞬で終わっちまう」

「なんでおいとかれるんですかぁ。白だって強いですよぉ」

「お前はまず、腕をくっつけろ。あと、剣を使うと絶望的なぐらい弱いってわかったから、今回は使わなくていい」

「師匠。今の発言はどのような意味でしょうか? 本気を出すなと言っているように聞こえたのですが?」


 軍服の女、ゲラルダが聞いた。


「手を抜けとは言わないけどさ、全力全開だと消し炭も残んないだろ。空気読んでそれなりに戦えってことだよ。ああ、外套の人は変装が解けたら美人になったし、殺さなくていいや。そっちの娘は日本人だよな。日本人の美少女ってのも久しぶりだしそっちもキープで」

「先生の悪い癖が出ているです……じゃあ、この男の子だけ殺すのです? 私的には結構好みなのです」


 小柄な少女、エマが不満げに言った。


「イケメンは死ねって常々俺は思ってる」

「了解いたしました。ただ、女の方も無事ですむとは思わないでいただきたい」

「嫉妬かよ。まあ生きてさえいりゃどうにでもなるし、そこは任せるよ」


 それで話は終わったつもりなのか、男はゆったりと壁に背を預けて腕を組んだ。余程自信があるのか、高みの見物といった様子だ。


「高遠くん、どうするの?」


 突然の状況に、知千佳が困惑している。


「どうするって、ここまでと一緒だよ」


 あるいは殺すなという命令があったなら、結果は違うものになったのかもしれない。だが、殺意を向けられた夜霧がすることは一つだけだ。


「死ね」


 三人の女が膝から崩れ落ちる。

 そのまま前のめりに倒れ、そして動かなくなった。


「じゃあ通ってもいいよね。そういう約束だし」


 銀髪の女は何が起こったのかまだわかっていないようで、臨戦態勢に入ったばかりだった。何かの作戦かと思ったのか、油断なく倒れた女たちを注視している。

 男は目を見開き、口をぽかんと開けていた。その光景は予想外の、ありえないものだったのだろう。思考が空白になっているかのようだった。

 夜霧はすたすたと歩きだした。知千佳は呆れながらも、いつものことだと思ったのか即座についてくる。

 出口に辿り着き、夜霧は扉を蹴った。扉はあっさりと開いた。

 扉を蹴る派手な音で、目が覚めたのだろう。壁にもたれかかっていた男が、動きだすのがわかった。

 真っ黒な殺意が周囲を埋め尽くす。ここまであからさまな、純度の高い殺気を見たのは夜霧も久しぶりだった。


「嘘吐き」


 夜霧は男に向けて力を放った。


  *****


 ゲラルダは昌樹を殺そうとやってきた女だった。

 昌樹は魔王を殺し、そのまま魔王城に居座っていたので、魔王だと思われていたのだ。

 その時期の昌樹は暇だった。魔王を倒すべく勇者気取りの馬鹿でもやってこないかと待ち構えていたのだ。

 そこにやってきたのがゲラルダだ。

 適当にあしらった後に、魔王ではないことを告げると、昌樹の強さに感服したのか弟子にしてくれと言いだした。

 昌樹は、弟子を育てるのも悪くはないと考えた。自分が何と戦おうと勝つことは自明で退屈なだけだ。だが、それなりの強さの弟子を鍛えて戦わせるのは面白そうだと思ったのだ。

 やってみると退屈しのぎにはなったので、弟子を増やすことにした。世界中を回り天賦の才を持つ者を探した。そうして見つけたのがエマだ。まだ幼いが、すでにゲラルダを超える逸材だった。

 ただ、才能がありすぎるのもつまらない。そこで今度はもっと弱そうな者を鍛えようと思った。そして選んだのが最弱の種族である兎人の中でも最も弱そうな女、白だった。

 昌樹の暇つぶしは充実しはじめていた。それぞれに個性があって教え甲斐があったし、弟子の成長を見守るのは娯楽としてはほどほどに刺激があったのだ。

 だが、その三人は倒れていた。

 それが何を意味しているのか、昌樹はすぐには理解できなかった。

 何の冗談かと思ったのだ。

 いくら本気を出さないにしても舐めすぎだろう。そう苦笑しようとして、彼女らが先ほどからぴくりとも動いていないことに気付いた。

 義眼の力を発動し、三人の状態を確認する。

 死んでいた。

 あまりにもあっけなく、何が起こったのか理解できなかった。

 扉を蹴る音に気付き、昌樹は正気を取り戻した。

 こいつらがやった。そうとしか思えない。

 手塩にかけた弟子たちを殺され、激情で目の前が赤くなる。そして、時間が停止した。

 昌樹がコマンドモードと呼んでいる状態だ。時間が停止している中を自由に動けるような能力ではないが、高速思考状態になり余裕を持って次の手を考えることができる。


『モナド! 状況を説明しろ!』

『おぉっ! お前が俺を呼ぶなんざ久しぶりじゃねーか!』


 モナドは昌樹が創造能力で二番目に作り上げた、情報解析ツールだ。全知とまではいかないが、この世界のかなりの情報にアクセスし、最適解を導き出すことができる。

 ただし、作ったはいいが適当に戦っても苦戦することがなかったので、ほとんど使用していないアイテムだった。


『挨拶はいい! どうなっているのか聞いている!』

『ふむ……ああ、ご愁傷様だな。お前の弟子は死んだ。やったのはそこの男、高遠夜霧だ。お前と同じ日本人だ。賢者に召喚されているな』

『女神による転生じゃないのか』

『ああ、なのでお前が女神から奪った、女神系統の管理能力は通用しない』

『こいつは何者だ! 何をやった!』

『何者かはわかんねーよ。やったのは本人が説明するところによれば、即死能力らしいな』


 モナドはこの世界に来てからの夜霧の発言記録を参照し、情報を引き出した。


『ふざけるな! 俺がそんな手抜かりをすると思ってんのかよ! 即死対策は万全だった!』

『知るかよ、そんなこと』

『くそっ! まあいい! むかつくが弟子はまた集めりゃいいんだ。とにかくこいつは殺す!』


 即死能力だかなんだか知らないが、このコマンドモードで次の手を発動すれば、それは即座に効力を発揮する。相手を即死させられるのは昌樹も同じだった。


『おいおいおい。勝てれば通してやるって話じゃなかったのかよ? ずいぶんと器が小せぇなぁ!』

『ちょっと待て! お前さっきからどうしたんだ? 何かおかしいぞ』


 確かに作った当時から口の悪い存在ではあった。だが、こんな無駄口は利かなかったはずだ。


『ああ、なんか勘違いしてるよな、お前。俺の人格はお前が作ったものじゃないんだぜ? お前が全知を望んだから、それに近い存在である俺様がたまたま組み込まれちまったってだけでな。これでお役御免かと思うと、つい口が滑ったとこういうわけだな』

『は? お前は何を言って……』

『お前は喧嘩を売る相手を間違えたんだよ。異世界チートお気楽生活をやってりゃそれで幸せに暮らせたのに馬鹿だよなぁ!』

『だから何を言っている! こんなもん、次の瞬間に焼き尽くしちまえば終わりだろうが! なんだったら塔ごと全て消滅させてやってもいい!』

『ぎゃはははははっ! だからよぉ、次の瞬間なんざ来ないんだよ! 永遠にな! もう、すでに! 高遠夜霧は能力を発動しようとしていまーす! 何をしたってまにあいませーん! あははははははっ! 信じないんだったらそれでもいいぜぇ? やりたいようにやりゃいいじゃねぇかよ』

『た、対策は! お前はそのための存在だろうが! 未来を予知して、その未来をねじ曲げるためにあるんだろうがよ!』

『未来も何も、取れる行動がないんだからどうしようもねえだろうが? ああ! 一つだけあるぜ?』

『言え!』

『ずっとこのままでいりゃいい! さすがに永遠に引き延ばすってのは無理だが、お前の主観時間で三年ぐらいはいけるだろうな!』


 絶望が忍び寄る。ゆっくりとではあるが、昌樹は現状を理解しはじめていた。


『嘘だろ……ちょっと待ってくれよ! なんで俺が死ななきゃならねーんだよ!』

『そりゃ人はいつか死ぬからな』

『俺は、俺だけは違うはずだろ! 神すら殺した! その権能を簒奪した! そう、俺は言わば神だ! 不死のはずだろうが! こんなところで死ぬはずがない!』

『おいおいおい、お前がその不死のはずの神を殺したんだろうがよぉ。自分のやったことは棚上げか? はっきり言ってやろう。高遠夜霧は人智を超えた存在だ。お前ごときでどうにかなるもんじゃねぇ。高遠夜霧が力を使ったなら、それが何者だろうが確実に死ぬんだよ! ま、別にいいんだぜ? 俺の言うことなんざ信じる必要はまるでねぇ。さっさとコマンドを選んでコマンドモードを解除しろよ。案外さっくり殺れるかもしんねーしなぁ!』


 馬鹿馬鹿しいと切って捨てることはできなかった。

 昌樹は、自分が完璧な存在だと信じ込んでいたからだ。その自分が作り出した存在が、自分の死を告げている。

 死の宣告を無視するならば、それは自分が完璧ではないということで、それは己の存在すら揺るがす事態だ。

 昌樹は、苦悩した。

 時間だけはいくらでもあった。

 だが、まともな思考ができなくなるまでに、そう長い時間はかからなかった。


  *****


 どさり、と音を立てて男が倒れた。

 夜霧が力を使ったのだろう。知千佳は今さらその是非を問うことはない。夜霧が殺したのなら、この男には殺意があったのだ。


「あれ? この人こんなんだったっけ? 顔が違うような」


 倒れた男を見た知千佳は首をかしげた。

 もう少しかっこいい顔をしていたような気がしていたのに、ずいぶんと老け込んで見えたのだ。


「さあ。どんな顔だったか覚えてないよ」


 たいして興味もないのだろう。一瞥もせずに夜霧は先に進もうとする。


「ちょ、ちょっと待ってくれないか!」


 すると、銀髪の女が慌てて駆け寄ってきた。


「これはあなたがやったのか?」


 そして倒れた男を指差す。


「そうだよ」

「ならば、ぶしつけなお願いで申し訳ないが、どうか私を助けてくれないか!」


 銀髪の女が深々と頭を下げた。


「え、どうしよう?」


 さっさと先に行こうとしていた夜霧が戸惑っていた。低姿勢に出られるのには弱いらしい。困った顔で知千佳を見つめた。


「私にふらないでよ……まぁ、事情ぐらいは聞いてあげても」


 さっさとこの塔を出たくはあるものの、無視するのも寝覚めが悪いと思う知千佳だった。

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