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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
2章 ACT1

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第11話 なぜこうしているのかはよくわかりません

 エウフェミアは原生林をさまよっていた。

 無常感にとらわれていたのだ。

 レインが死に、拡散したソウルを吸収することで、エウフェミアはさらなる力を得た。

 だが、それがなんだというのか。

 いくら強くなろうが上には上がいるのだ。高遠夜霧のような存在がいる以上なんの意味もない。その存在を知ってしまった後では、どれほどの強さを得ようが虚しいだけだった。

 さまよいはじめてから何日が過ぎたのか、エウフェミアにもわかってはいなかった。

 特に空腹は覚えていない。もともと吸血鬼は不死身なので、食事を()る必要はないのかもしれなかった。

 途中、誰かを見かけた気もするが、血を吸いたいとは思わなかった。

 その者たちは怯えていたようだが、エウフェミアがただふらふらとしているだけなのだと気付き、恐る恐るどこかへ去っていった。

 そうして歩いていると、打ち壊された里に辿り着いた。

 半魔の里。

 エウフェミアが暮らしていた、(たちばな)(ゆう)()の襲撃により壊滅した故郷だった。

 知らず知らずのうちに足は、里へと向かっていたのだ。

 だが、戻ったところでここには何もない。大半は殺され、能力のある者と見目麗しい女は裕樹の奴隷として連れていかれていた。


 ――さて、どうしたものでしょうか。


 惨憺(さんたん)たる有様の里を目の当たりにして、エウフェミアは少しばかり正気を取り戻した。

 裕樹から解放された時には、里の復興を考えていた。里に戻れば、誰かが戻ってきているかもしれないと考えたのだ。

 あれからどれぐらい経ったのかはわからないが、この地に人の気配はなかった。誰かが戻ってきた形跡もなく、里はあの日のままだった。


「テオ姉ちゃんは、どうしてるでしょうか……」


 姉は襲撃時には里を出ていたので、裕樹の奴隷にはなっていないはずだ。

 だが、帰ってきた姉が里の惨状を見れば、裕樹への復讐を考えたかもしれない。その場合は返り討ちにあっていないことを祈るだけだ。もっとも姉もエウフェミアに劣らず美しいので、裕樹の犠牲になったとしても生きてはいるはずだった。

 ぼんやりとそんなことを考えていたエウフェミアだったが、我に返るとのろのろと動きだした。

 まずは里の見栄えを整えることにしたのだ。戻ってきた者がいたとしても、この惨状を見れば落胆してしまうだろうとエウフェミアは考えた。

 彼女が吸血鬼となったことで身に着けた能力の一つに、念動力がある。

 まずはそれで、瓦礫や崩れた建物を取り除いた。

 残っていた死体は丁重に葬り、簡単に直せる建物はまだ使える材料を組み合わせて修復する。

 一通りの作業を終えると、里はずいぶんとさっぱりとした様子になった。

 だが、このほうが崩れた建物や、血糊が残っているような状態に比べればましだろうと、エウフェミアは納得する。


「あとは、一族しか入れないような結界でも張っておけばいいでしょうか」


 エウフェミアは仲間たちを捜しにいくつもりになっていた。そうなればまたここには誰もいなくなる。貴重なものは奪われた後だが、無人の里にやってきた何者かがさらに荒らさないとも限らない。

 エウフェミアは結界を張るべく里の周囲を確認しはじめたが、すると何者かの気配を感じ取った。

 ここへやってくるようだ。

 エウフェミアは仲間かもしれないと少しばかり期待した。森の奥深くの集落までやってくる者など限られているからだ。

 しかし、楽観はできない。半魔は何かと狙われているからだ。

 エウフェミアは里の中ほどにある広場で待つことにした。

 やってきたのは女だった。

 血の気の失せた蒼白い肌。黒く長い髪に、赤い瞳。赤と黒を基調としたロングドレスを着た彼女が何者なのかをエウフェミアはすぐに悟った。

 吸血鬼だ。しかもレインの眷属だろう。


「こんなところにまで何の用?」

「わかんないの?」


 女は意外だと言わんばかりだった。


「ええ。わざわざ私に会いにきたということは、吸血鬼関連の事情でしょうか。でしたら、説明していただかないと皆目わかりませんね。何しろ、私が吸血鬼になってすぐにレイン様は亡くなられてしまいましたので」

「へえ、そう。じゃ簡単に説明するけど、要はオリジンブラッドの後を誰が継ぐのかって話よ。オリジンブラッドとなれるのは、レイン様から直接口付けをいただいた子のみなのよね」


 レインは吸血鬼の頂点に立つ存在、オリジンブラッドだった。エウフェミアは詳しくは知らなかったが、他にもレインが増やした眷属が何人もいるらしい。


「そうですか。私は興味がありませんから、勝手にお継ぎになればいいのではないですか?」

「それがね。そういうわけにもいかないの。オリジンブラッドとなれるのは一人だけなのよ」

「はあ。それで」

「死んでもらえないかしら?」

「いやですよ」

「だよねぇ。けどまあ、だからって見逃すわけにもいかないのよ。あんたが最後の一人なんだから。いやあ、全員倒してさ。やっとなれるって思ったのに、もう一人増えてると知った私の気持ちが想像できる?」

「それは、さぞ残念だったのでしょうね」

「だから死んでね」


 途端に女はエウフェミアの目前にあらわれた。瞬く間に距離を詰めてきたのだ。

 死ぬのはいやだと言ったエウフェミアだが、この時はどうでもよくなっていた。里を修復するのも仲間を捜すのも、なんとなくしなければと思った程度のことで、それほど熱意があるわけでもない。ここで死ぬならそれでもいいと思ったのだ。

 女が貫手をエウフェミアの胸に向けて繰り出す。

 吸血鬼は不死身に近いが、弱点は心臓だとされている。心臓を潰されてもすぐに死にはしないが、血を力の源泉としているので弱体化は避けられないのだ。

 エウフェミアは避けなかった。

 ただ、面倒だった。体を動かすのが億劫だったのだ。

 そろえた指先が服を貫き、胸の谷間に達する。


「え?」


 女はひどく驚いていた。

 エウフェミアは、一瞬遅れて理解した。女の貫手は、エウフェミアを傷つけはしなかったのだ。薄皮一枚破ることもできていなかった。

 女が警戒して飛び退く。


「なんなの、あんた!」

「さあ。なんなんでしょうね。けど、殺したいならさっさと殺せばいいのではないですか。抵抗しませんから」


 女は苛立った様子で、自らの手首に牙をつきたてた。

 手首から血があふれ出す。大量の血液は流れ落ちずに空中に留まり続け、細長い棒のような形状へと変化していった。

 それは、血で作りあげられた真っ赤な槍だ。

 女は槍を構え、エウフェミアの視界から消えた。

 同時に、エウフェミアの背中に衝撃が訪れた。

 エウフェミアはゆっくりと振り向いた。女は両手で持った槍を突き出し、エウフェミアの背中を貫こうとしていた。


「くそっ! どうなってんのよ!」


 再び女の姿が消えた。

 四方八方から斬撃が加えられるが、それはエウフェミアの服を切り裂いただけだった。

 目が慣れてくれば女の姿を捉えることができるようになってくる。女はエウフェミアの周囲を走り回り、次々に攻撃を繰り出していた。

 特に痛くはない。

 ただ鬱陶しいだけだったが、無駄なことを延々と続けられるのも苛ついてくる。なので、エウフェミアはつい手を出してしまった。

 蠅でも追い払うかのように、手の甲で女を打ったのだ。

 パン。

 そんな音がして、女の体が弾け飛んだ。

 下半身だけが転がり落ち、霧状になった血があたりを赤く染める。


「また掃除をしないと」


 ぼやいていると、様々な情報が脳裏に流れ込んできた。どうやら、レインの残した様々な物や権利が、エウフェミアに譲られたようだ。

 それにより、エウフェミアは自分がオリジンブラッドになってしまったことを悟った。最後の一人になってしまったのだ。

 オリジンブラッドになどなりたいわけではなかったが、仲間を捜すのに利用できるかもしれない。

 何か使えるものはないかと記憶を探ると、原生林の外れに別荘があることを思い出した。

 何もないここにいるよりはましだろうし、拠点として使えるかもしれない。エウフェミアは、別荘に向かうことにした。


  *****


 小さな丘の上にある別荘は、こぢんまりとした館だった。

 もちろん、エウフェミアの里にある建物と比べれば十分に贅を尽くしたものではあるだろうが、あまり華美な印象は受けない。

 堀があり城壁もあるので、砦として機能するのかもしれないが、それほど本腰を入れて防衛しようとしているようにも見えなかった。

 白亜の館とでも言えばいいのだろう。深窓の姫君でも住んでいそうな印象をエウフェミアは受けた。

 エウフェミアが跳ね橋の前に立つと、何をせずとも橋が下りてきて城門が開いた。館はエウフェミアを主人だと認めたようだ。

 城門を通り中に入る。


「あー! 待って! 待ってよぉ!」


 すると、少女の泣きそうな声が聞こえてきた。

 声のする方を見てみれば、馬が走っている。

 そして、その馬を追いかけている者がいた。ピンク色のワンピースを着た、あどけない雰囲気の少女だ。

 少女は頑張っているつもりらしいが、追いつく様子はまるでない。端から見れば走っているのかどうかも怪しいぐらいだった。

 馬は興奮してわけがわからなくなっているのだろう。中庭を無茶苦茶に走りまわっていて、そのうちにエウフェミアの方へとやってきた。


「止まりなさい」


 命令する。たちまち馬は大人しくなり、エウフェミアの前で待機姿勢を取った。

 吸血鬼には魅了能力もあるし、動物を支配する能力もある。この程度は造作もないことだった。


「はあっ……はあっ……もう! ほんとうにもう!」


 精根尽き果てたという様子の少女が、それでもぷりぷりと怒りながらエウフェミアの前にやってくる。


「あの、ありがとうございます! 本当にどうしようかと思ってて」


 エウフェミアが止めたとわかったのだろう。少女は礼を言ってきて、エウフェミアは知らず跪いていた。


「え? あの、すみません。どなたでしょうか」


 少女がエウフェミアの取った態度に狼狽している。


「エウフェミアというものです。なぜこうしているのかはよくわかりません」

「わからないんだ……」


 少女は唖然としていた。


「それはそうと、あなたも吸血鬼でしょう? 馬を操るぐらいできないのですか?」

「え? やっぱり私、吸血鬼なの? 棺桶で寝てたからもしかしたらとは思ってたんだけど」


 少女はレインの子供なのではないかと、エウフェミアは考えた。顔立ちは違うが、雰囲気が似ているように思ったのだ。


「あ、だったらこんな日中に出歩くのはまずいんじゃ!」

「大丈夫ですよ。今、なんともないのですし。ところで、その馬はどうしたんです?」

「あ、馬でお出かけしようと……うーん、動いてよ!」


 少女が手綱を引っ張っているが、馬は頑なに動こうとしなかった。エウフェミアの止まれという命令を守っているのだ。


「その少女の命令に従いなさい」


 すると馬は驚くほど素直に少女に従うようになった。


「何から何までありがとうございます」

「馬の世話をする者はいないのですか?」

「その、こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないんですが」

「信じますよ」

「私、つい最近までずっと寝てたみたいなんです。そして、目が覚めてみたらおうちには誰もいませんでした。でも、目が覚めるまでは誰かいたようなんですよ。馬の世話をしてた人もいたと思うんです」


 エウフェミアはこの館についての記憶をさぐり、納得した。

 この屋敷にいた者たちは、全てレインの眷属だ。レインが死んだことを悟り、跡目争いを始めて全滅したのだろう。


「それで、私には目的がありますし、旅に出ようと思ったんですが、馬もろくに扱えなくて……」

「手伝いましょうか?」


 エウフェミアは自然とそう口にしていた。どうも、この少女に崇敬の念を抱いているようだ。眷属どもが争い合いながらも、彼女に手出ししなかったのは同じような感情を有していたからだろう。


「いいんですか!?」

「はい。これと言ってすることもありませんし」


 とりあえずは仲間を捜して里を復興するのが目標だったが、何をおいてもというほどのことではない。それよりも、この少女を助けたいという思いの方が強かった。


「やった! ありがとうございます! ほんとのところ、どうしていいものか全然わかってなかったんです! 大人の人が手伝ってくれたらすごく助かります!」

「お名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」

「あ! そういや名前なかった! どうしよう!」


 いまさら気付いたようだが、誰もいなかったのならそれでも不便はなかったのだろう。


「話をする時に不便だよね。うーん、何か適当に……ミスト……フォグ……ドリズリー……じゃあリズリーで」


 少女は気候に関する古語から名前を選んだようだ。


「じゃあよろしくね!」


 リズリーと名乗った少女は、馬に乗ろうと四苦八苦しはじめた。どうやら乗り方もろくに知らないのに、馬で出かけるつもりだったらしい。


「馬でどこまで行くんです?」

「王都です! 出かけるならまずはそこに行けと伝言がありまして」


 エウフェミアはここから王都までの旅路を想像した。順調にいっても数日はかかるだろう。リズリーは馬に乗ったらそのまま出かけるつもりのようで、それは無謀としか言いようがない。


「わかりました。では、いったん館に戻り、必要な物を準備してから出かけることにしましょう」


 記憶によれば様々な物資が残されているはずだし、馬車もあったはずだ。


「あ! そうですね。やっぱり準備はいりますよね」


 リズリーが手を叩いて納得している。エウフェミアの前途は多難なようだった。

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